上 下
145 / 203
第2章 聖女は決別する

145話 一体何が?

しおりを挟む

 私たちは隠れるようにして移動したが、ほとんどゴブリン達は居なかった。そのお陰でかなりの移動速度が出た。

 砦の人たちがいたと思う場所に来ると、既に戦闘が終わっていて撤退した後だった。多くのゴブリンの死体らしきものが黒焦げになってそこら中に散らばっている。

 ラケルスさんは疑問に思ったのか首を傾げている。

「撤退した? この状況でか?」
「被害が多かったから砦に帰ったのでは?」
「それにしては被害が少なすぎる……。この場にはゴブリンの死体しかない。ということは持って帰ったのだろう」

 そう言われてよくよく見てみると、確かに横たわっているのはゴブリンのような小さい死体ばかりで、人の死体はあるように思えない。

「それによく見てみろ、ちゃんとゴブリンの死体も燃やしてあるだろう? ゴブリンはそんなことはしないからな」
「なるほど」
「一度砦に戻ろう。そこできっと何かが分かるはずだ」
「はい」

 私たちはそれから数時間かけて砦に戻ると、砦からは大きく、楽し気な笑い声が聞えて来た。

「笑ってる?」
「ゴブリンエンペラーを倒したって事はまだ伝わっていないよな?」
「そのはずですが……」

 私たちは訳が分からなかった。なので、取りあえず砦に帰ることになった。

 私たちが近づくと、見張りの人がちらりとこちらを向く。

「帰ってきた! 帰ってきたぞ! Aランクパーティーのお帰りだ!」
「本当か!」

 見張りの一人が叫ぶと、後から後から多くの人がどやどやと物御台に集まり始めていた。

「おお! 本当だ! 開けろ開けろ! 全開にしてお迎えしろ!」
「全開にまでするんですか?」
「普通はやらんが……どうなっているんだ?」

 ラケルスさんも分からないらしい。

「Sランクパーティーでも来てくれたんですかね?」

 メルクさんが半分笑いながら言う。

「東を放置してか? それとも、もう終わらせたとかか?」
「幾らSランクと言っても無理ではないか? 王都のSランクはそこまで移動速度が速い訳ではあるまい?」
「取りあえず中に入りませんか?」

 相談している黒橡(くろつるばみ)の車輪の人たちに向かって言う。

「それもそうか、中に入ろう」

 私たちが中に入ると、そこには明るい顔をした冒険者の人々が楽しそうにしている。勿論戦闘をする可能性があるから装備は着ているし、酒も入っていない。

 ただ、ここにいる人皆は明るく、全てが成功するとしか思っていないようだった。

 それを不思議に思ったのは私だけではなく、フリッツさんや他の人も不思議に思ったらしい。すぐ近くの人を捕まえて聞いている。

 その時に、私は見覚えのある姿を見かけて、心臓が鷲掴みにされたような気持ちになった。

 その姿は、見間違えなどではなく、4人で私の方に近づいてくる。

「なぁ、どうしてそんなに明るいんだ? かなり危険な状態じゃ無かったのか?」
「安心してくれ! ついに来たんだ!」
「何がだ?」
「勇者パーティーが俺達を助けに来てくれたんだ!」

 勇者パーティーがすぐ目の前に来ている。

 そして、ランドはにやぁっと笑ったと思うと、私に声をかけてくる。

「よう、クロエ。会いたかったぜぇ」
「……」

 私は口を開けなかった。襲われても助けてもくれないで、あんな場所で追放して、証拠隠滅に殺そうとまでした人。それなのに、どうして今更そんな顔をしているのか。どうして私に何のためらいもなく笑顔を向けてくるのか。来ないで、来ないで……。

 私は世界で最も会いたくなかった勇者パーティーと再会することになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...