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第2章 聖女は決別する

143話 原因……?

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「お、もういいのか?」
「フリッツさん」
「フリッツ」

 フリッツさんはラケルスさん達3人が目を覚ました時に、偵察といってアイスジェイルの外側や、他の場所を見に行っていた。

「問題はありませんでしたか?」
「ああ、アイスゴーレムだったか? あれがかなりゴブリンを倒してくれていてな。問題なかった。ただ厄介なものを見つけた」
「厄介な物?」
「ああ、ゴブリンエンペラーだが……。死骸が2つほど落ちていた。一応、マジックバッグに入れておいたんだが……これだ」

 そう言ってフリッツさんはマジックバッグからゴブリンエンペラーの死骸の一部を取り出す。損傷は酷く、かなりボロボロになってはいるが、それでもあの時見たゴブリンエンペラーだとわかる。

「後2体もいたんですか? そんなことってあるんでしょうか……」

 ゴブリンキングが一体発生するだけでも稀だと言われている。なのにその上位種のエンペラーが3体。何か異常事態が起こっているとしか思えない。

「普通は無い。しかし、それを可能にするかもしれないものがある」
「可能にするもの?」
「これだ」
「?」
「……」

 私とキリルさんはフリッツさんの手元を覗き込む。

 そこにあったのは、私がランドに持たされた魔力片だった。

「これは……」

 それも、私が持っていたのは一個だったけど、フリッツさんの手の中には軽く見ても10個以上はある。それも、ランドに貰ったような石みたいな物だったり、ひし形の綺麗な形をしていたりと凄い量。ただ、どれも禍々しい黒色をしていて、前の私は良くこんなものをお守りだと思ったと思う。

 今見るとどう見てもかなり危険な代物にしか見えない。

「そう、お前が持っていたのと同じ魔力片だ」
「魔力片?」

 キリルさんが聞いてくる。

 そうか、こういった物は魔族には無いのか。それに、私も知らなかったから、あんまり常識ではないのかもしれない。

「これは魔力片といって魔物を引き付ける代物だ。これを持っているだけで魔物が寄ってくる」
「これが……?」
「ああ、それで、これがこの一帯にかなりの数存在していた。ゴブリンエンペラーが3体もいた理由はそれだと思う」
「魔力片については詳しくないんですが、そんなことってあるんですか?」
「ハッキリ言って無いと思う。魔力片は元々魔物の体内で作られるんだが、確率は相当低いはずだ。多くの冒険者が存在しているが、魔力片の存在を知らない者も多い。それなのに、これだけ多くの魔力片があるということは……」
「あるということは?」

 フリッツさんが黙って魔力片を見ている。そこまで溜めずに早く話してほしい。

「何でだろうな」
「ですよねー」
「どうしてこんなにも魔力片があるのかは分からん。そこはクロエの先生にでも聞いた方がいいんじゃないのか?」
「わかりました」
「ああ」
「……」

 私はふと気になってキリルさんの方を見る。

 彼はじっとフリッツさんの持っている魔力片を凝視していた。

「キリルさんは何かご存じなんですか?」
「いや……俺達の間でもこれに似た物の存在は知っている。ただ、こっちの角がちゃんとある物については見たことがない。それに、魔力の流れがおかしいような……」
「魔力の流れ?」
「ああ、そうか、お前達は見れないんだったか」
「はい」
「見えないな」
「これは魔力があれば見れるようになる。訓練は必要だが」
「そのうちでいいので教えていただけますか?」
「構わん」

 良かった。今回のことで私は弱いことが分かったから強くないと誰も守れない。私がそう祈ったとしても、さっきみたいにキリルさんが都合よく助けてくれるわけじゃない。だから、少しでも強くなりたい。

「羨ましい。俺は使えないからな」
「何を言っている。お前もそれなりに使えるだろう」
「え? そうなのか?」

 フリッツさんが驚いた顔をしている。

「ああ、といってもそこまで多くはないが……。しかし、多少は使えるようにはなるだろう」
「俺にも教えてくれるか?」
「ああ、その代わり条件がある」
「なんだ?」
「何でしょう?」
「俺も一緒に旅に連れて行って欲しい」

 そう言ってキリルさんは頭を下げてくる。

「以前に聞いたと思うんですけど、どうして一緒に行きたがるんでしょうか?」

 彼ほどの実力があれば一人旅をすることは簡単で出来るような気がする。

「お前達の事を知りたいからだ」
「私たちのことを」
「知りたいから?」

 フリッツさんと向き合って首を傾げる。

 キリルさんはそれを肯定するように首を縦に振った。

「そうだ、俺達魔族の間でもお前達人間は生涯の敵、見かけたら殺す。そうしなければ殺されると言われて育ってきた。やられる前にやれ。と」
「それは……」
「俺達も一緒だな」
「そうだろう。それで、本当にそうなのか? それを調べるために、俺はここに来た。はい……仲間には危険だ。古参の連中にもやめるべき、無意味だと言われたが、そんなことは来てみなければ分からない。結果は……。言わなくても良いだろう」
「……」
「……」
「どうしたんだ?」

 キリルさんは私たちをスッと目を細めてみる。その目は鋭く、冷たいと思わせるが、彼の話を聞いていたり、行動を見る内に違うんじゃないかと思い始めた。

 彼はそういった勘違いされそうな行動をするが、人一倍他人のことを思いやっているというか、心配してくれているんじゃないのかと思う。うん。きっとそうだと思う。じゃなかったら、人間の私達を助けてなんてくれないだろうから。

 そしてキリルさんが、私たちにいい感情を持ってくれたようで、本当にうれしい。

「キリルさんが何時もよりしゃべってくれて嬉しいので」

 私は本心を言う。

「……」

 キリルさんは黙って下を俯いた。

 私には、その顔は少し赤く染まっているように見えた。そして私たちの言葉でもっと色が濃くなる。

「これからよろしくお願いしますね?」
「きっと楽しくなる。頼むぞ?」
「……ああ」

 キリルさんの返事は小さかったけど、確かに聞えた。
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