143 / 203
第2章 聖女は決別する
143話 原因……?
しおりを挟む「お、もういいのか?」
「フリッツさん」
「フリッツ」
フリッツさんはラケルスさん達3人が目を覚ました時に、偵察といってアイスジェイルの外側や、他の場所を見に行っていた。
「問題はありませんでしたか?」
「ああ、アイスゴーレムだったか? あれがかなりゴブリンを倒してくれていてな。問題なかった。ただ厄介なものを見つけた」
「厄介な物?」
「ああ、ゴブリンエンペラーだが……。死骸が2つほど落ちていた。一応、マジックバッグに入れておいたんだが……これだ」
そう言ってフリッツさんはマジックバッグからゴブリンエンペラーの死骸の一部を取り出す。損傷は酷く、かなりボロボロになってはいるが、それでもあの時見たゴブリンエンペラーだとわかる。
「後2体もいたんですか? そんなことってあるんでしょうか……」
ゴブリンキングが一体発生するだけでも稀だと言われている。なのにその上位種のエンペラーが3体。何か異常事態が起こっているとしか思えない。
「普通は無い。しかし、それを可能にするかもしれないものがある」
「可能にするもの?」
「これだ」
「?」
「……」
私とキリルさんはフリッツさんの手元を覗き込む。
そこにあったのは、私がランドに持たされた魔力片だった。
「これは……」
それも、私が持っていたのは一個だったけど、フリッツさんの手の中には軽く見ても10個以上はある。それも、ランドに貰ったような石みたいな物だったり、ひし形の綺麗な形をしていたりと凄い量。ただ、どれも禍々しい黒色をしていて、前の私は良くこんなものをお守りだと思ったと思う。
今見るとどう見てもかなり危険な代物にしか見えない。
「そう、お前が持っていたのと同じ魔力片だ」
「魔力片?」
キリルさんが聞いてくる。
そうか、こういった物は魔族には無いのか。それに、私も知らなかったから、あんまり常識ではないのかもしれない。
「これは魔力片といって魔物を引き付ける代物だ。これを持っているだけで魔物が寄ってくる」
「これが……?」
「ああ、それで、これがこの一帯にかなりの数存在していた。ゴブリンエンペラーが3体もいた理由はそれだと思う」
「魔力片については詳しくないんですが、そんなことってあるんですか?」
「ハッキリ言って無いと思う。魔力片は元々魔物の体内で作られるんだが、確率は相当低いはずだ。多くの冒険者が存在しているが、魔力片の存在を知らない者も多い。それなのに、これだけ多くの魔力片があるということは……」
「あるということは?」
フリッツさんが黙って魔力片を見ている。そこまで溜めずに早く話してほしい。
「何でだろうな」
「ですよねー」
「どうしてこんなにも魔力片があるのかは分からん。そこはクロエの先生にでも聞いた方がいいんじゃないのか?」
「わかりました」
「ああ」
「……」
私はふと気になってキリルさんの方を見る。
彼はじっとフリッツさんの持っている魔力片を凝視していた。
「キリルさんは何かご存じなんですか?」
「いや……俺達の間でもこれに似た物の存在は知っている。ただ、こっちの角がちゃんとある物については見たことがない。それに、魔力の流れがおかしいような……」
「魔力の流れ?」
「ああ、そうか、お前達は見れないんだったか」
「はい」
「見えないな」
「これは魔力があれば見れるようになる。訓練は必要だが」
「そのうちでいいので教えていただけますか?」
「構わん」
良かった。今回のことで私は弱いことが分かったから強くないと誰も守れない。私がそう祈ったとしても、さっきみたいにキリルさんが都合よく助けてくれるわけじゃない。だから、少しでも強くなりたい。
「羨ましい。俺は使えないからな」
「何を言っている。お前もそれなりに使えるだろう」
「え? そうなのか?」
フリッツさんが驚いた顔をしている。
「ああ、といってもそこまで多くはないが……。しかし、多少は使えるようにはなるだろう」
「俺にも教えてくれるか?」
「ああ、その代わり条件がある」
「なんだ?」
「何でしょう?」
「俺も一緒に旅に連れて行って欲しい」
そう言ってキリルさんは頭を下げてくる。
「以前に聞いたと思うんですけど、どうして一緒に行きたがるんでしょうか?」
彼ほどの実力があれば一人旅をすることは簡単で出来るような気がする。
「お前達の事を知りたいからだ」
「私たちのことを」
「知りたいから?」
フリッツさんと向き合って首を傾げる。
キリルさんはそれを肯定するように首を縦に振った。
「そうだ、俺達魔族の間でもお前達人間は生涯の敵、見かけたら殺す。そうしなければ殺されると言われて育ってきた。やられる前にやれ。と」
「それは……」
「俺達も一緒だな」
「そうだろう。それで、本当にそうなのか? それを調べるために、俺はここに来た。はい……仲間には危険だ。古参の連中にもやめるべき、無意味だと言われたが、そんなことは来てみなければ分からない。結果は……。言わなくても良いだろう」
「……」
「……」
「どうしたんだ?」
キリルさんは私たちをスッと目を細めてみる。その目は鋭く、冷たいと思わせるが、彼の話を聞いていたり、行動を見る内に違うんじゃないかと思い始めた。
彼はそういった勘違いされそうな行動をするが、人一倍他人のことを思いやっているというか、心配してくれているんじゃないのかと思う。うん。きっとそうだと思う。じゃなかったら、人間の私達を助けてなんてくれないだろうから。
そしてキリルさんが、私たちにいい感情を持ってくれたようで、本当にうれしい。
「キリルさんが何時もよりしゃべってくれて嬉しいので」
私は本心を言う。
「……」
キリルさんは黙って下を俯いた。
私には、その顔は少し赤く染まっているように見えた。そして私たちの言葉でもっと色が濃くなる。
「これからよろしくお願いしますね?」
「きっと楽しくなる。頼むぞ?」
「……ああ」
キリルさんの返事は小さかったけど、確かに聞えた。
0
お気に入りに追加
1,622
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる