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第2章 聖女は決別する

141話 感謝する

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 それから暫くして、ラケルスさんが目を覚ます。

「う……ん。ここは?」
「あ、目を覚まされたんですね。良かった。鎧を脱がせられなかったので困っていたんです。怪我はないですか?」
「ん? 怪我……特にないようだ」
「そうなんですね。良かった」

 ラケルスさんは全身を触ったり、体を動かして動くかを試していた。その結果何でもないようで無事だったのは本当に良かった。

「それで、ここは?」

 周囲はキリルさんのアイスジェイルによって氷に覆われている。ラケルスさんがそう言うのもおかしいことではなかった。

「ああ、すいません。ここはキリルさんが魔法で作ってくれた場所なんです」
「これほどの規模でか、すさまじいな。ゴブリンたちはどうしたんだ? 逃げたのか?」
「ゴブリンはキリルさんがそのまま殲滅してくれました」
「は? 殲滅? 俺が倒れた時にはまだまだいたよな?」
「はい、キリルさんが……かなり無理をしてくださったのでなんとか」
「そうか……。礼が言いたい。どこにいるのだ?」
「あそこですが、今は行かないでください。ちょっと見られたくない状態になっているので」
「見られたくない状態?」

 ラケルスさんが首を傾げる。

「はい、その、魔法の反動といいますか、そういった感じなので色々と大変らしく……」
「そうか……。そんなことに……。すまん。俺達の想定よりも多かったうえにお前達も逃がせなかった。しかもお前達を残した状態で倒れるなど……」
「そんなことはありません! 私こそ、ほとんどお役に立てず……」
「いやいや」
「いえいえ」
「ラケルス、飯はいるか?」

 そうして話していると、フリッツさんが食事を持って来た。彼が持っている器からは温かい湯気が立ち上っている。

 そうだった、ラケルスさん達が目を覚ました時用に作っておいたんだった。

「いいのか?」
「ああ、そっちのパーティーの鎧を外せなくて治療もできん。だから飯を作るくらいしかやることが無かったんだ」
「鎧は基本的に中からしか取れんようになっている。だから気にするな」
「なんて面倒な作りに……」
「それが俺達のこだわりだからな。それと、飯をくれ」
「ああ」

 ラケルスさんは器を受け取り鎧の隙間からスプーンで掬って飲んでいる。結構熱いはずだが飲む速度はかなり速い。

「ふぅ、美味かった」
「お代わりもありますよ?」
「いいのか? 他の奴の分も……」
「あれを見てみろ」
「ん?」

 フリッツさんが指す先にはかなりの大なべが置いてある。その大なべからは湯気が出ているのが少し離れたここからでも見て取れた。

「あれは?」
「グリー魔道具店の鍋だ。まさか大きさも変わるようになっているとはな。驚いた」
「本当に、これだけの調理器具を譲って頂けたのが驚きです。という訳で、あれだけ大きな鍋に一杯作ったので、是非沢山食べてください」
「……助かる」

 フリッツさんが器にスープを入れて帰ってくる。

「このスープは美味いな……。心が温まる」
「ありがとうございます」
「やはりクロエか」
「はい、料理はほぼ全てやっていますね。フリッツさんも言えば手伝ってくれるんですが、それでも作るには自分で全部やりたいというか……」
「こだわりがあるのはいいことだ。俺達もそうやってAランクパーティーになったような物だしな」
「はい、あの突撃? でいいんですかね? すごかったです。体に当たるだけでゴブリンが吹き飛んでいくなんて信じられません」
「ああ、あれのお陰で俺達はAランクになったといってもいいからな。ただ、あれが出来るのはダンテがいるからだ。俺とメルクは補助に過ぎない」
「そうなんですか?」
「アイツが先頭を走ってくれるから俺達はついて行ける。そう思ってるんだ。と、そんな話はどうでもいいか」
「いえ、そんなことは……」

 そうして静寂が支配する。どちらからも特に口を開かず、ラケルスさんがスープを飲む音だけが聞こえてくる。

 フリッツさんは鍋を掻きまわしているし、他の人は未だに寝ているからだ。

「感謝する」
「はい?」

 唐突に言われて理解が追いつかなかった。

「これほどの規模の魔物の群れに連れてきてしまったからな。何と言うか……何も言わないのは変な気がしてな」
「気にしないでください。私たちもあのままだったら死んでたんですから。皆助かって良かったです」
「そうだな。君は優しい。そういう所にダンテは惹かれたのかもしれない」
「はい?」
「そうか、無自覚か。それもそれでいい。ただ、何かあった時は手紙でも何でも必ず連絡をくれ。駆けつけるから、そして、力になる。頼ってくれていい」
「いいんですか? 他のお2人に聞かなくて」
「構わんさ。恐らく、2人ともそう思ってる」

 ラケルスさんはそう言ってスープを飲み始めた。

 そして、彼の言っていたように、後の2人も同じように言ってくれた。
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