141 / 203
第2章 聖女は決別する
141話 感謝する
しおりを挟む
それから暫くして、ラケルスさんが目を覚ます。
「う……ん。ここは?」
「あ、目を覚まされたんですね。良かった。鎧を脱がせられなかったので困っていたんです。怪我はないですか?」
「ん? 怪我……特にないようだ」
「そうなんですね。良かった」
ラケルスさんは全身を触ったり、体を動かして動くかを試していた。その結果何でもないようで無事だったのは本当に良かった。
「それで、ここは?」
周囲はキリルさんのアイスジェイルによって氷に覆われている。ラケルスさんがそう言うのもおかしいことではなかった。
「ああ、すいません。ここはキリルさんが魔法で作ってくれた場所なんです」
「これほどの規模でか、すさまじいな。ゴブリンたちはどうしたんだ? 逃げたのか?」
「ゴブリンはキリルさんがそのまま殲滅してくれました」
「は? 殲滅? 俺が倒れた時にはまだまだいたよな?」
「はい、キリルさんが……かなり無理をしてくださったのでなんとか」
「そうか……。礼が言いたい。どこにいるのだ?」
「あそこですが、今は行かないでください。ちょっと見られたくない状態になっているので」
「見られたくない状態?」
ラケルスさんが首を傾げる。
「はい、その、魔法の反動といいますか、そういった感じなので色々と大変らしく……」
「そうか……。そんなことに……。すまん。俺達の想定よりも多かったうえにお前達も逃がせなかった。しかもお前達を残した状態で倒れるなど……」
「そんなことはありません! 私こそ、ほとんどお役に立てず……」
「いやいや」
「いえいえ」
「ラケルス、飯はいるか?」
そうして話していると、フリッツさんが食事を持って来た。彼が持っている器からは温かい湯気が立ち上っている。
そうだった、ラケルスさん達が目を覚ました時用に作っておいたんだった。
「いいのか?」
「ああ、そっちのパーティーの鎧を外せなくて治療もできん。だから飯を作るくらいしかやることが無かったんだ」
「鎧は基本的に中からしか取れんようになっている。だから気にするな」
「なんて面倒な作りに……」
「それが俺達のこだわりだからな。それと、飯をくれ」
「ああ」
ラケルスさんは器を受け取り鎧の隙間からスプーンで掬って飲んでいる。結構熱いはずだが飲む速度はかなり速い。
「ふぅ、美味かった」
「お代わりもありますよ?」
「いいのか? 他の奴の分も……」
「あれを見てみろ」
「ん?」
フリッツさんが指す先にはかなりの大なべが置いてある。その大なべからは湯気が出ているのが少し離れたここからでも見て取れた。
「あれは?」
「グリー魔道具店の鍋だ。まさか大きさも変わるようになっているとはな。驚いた」
「本当に、これだけの調理器具を譲って頂けたのが驚きです。という訳で、あれだけ大きな鍋に一杯作ったので、是非沢山食べてください」
「……助かる」
フリッツさんが器にスープを入れて帰ってくる。
「このスープは美味いな……。心が温まる」
「ありがとうございます」
「やはりクロエか」
「はい、料理はほぼ全てやっていますね。フリッツさんも言えば手伝ってくれるんですが、それでも作るには自分で全部やりたいというか……」
「こだわりがあるのはいいことだ。俺達もそうやってAランクパーティーになったような物だしな」
「はい、あの突撃? でいいんですかね? すごかったです。体に当たるだけでゴブリンが吹き飛んでいくなんて信じられません」
「ああ、あれのお陰で俺達はAランクになったといってもいいからな。ただ、あれが出来るのはダンテがいるからだ。俺とメルクは補助に過ぎない」
「そうなんですか?」
「アイツが先頭を走ってくれるから俺達はついて行ける。そう思ってるんだ。と、そんな話はどうでもいいか」
「いえ、そんなことは……」
そうして静寂が支配する。どちらからも特に口を開かず、ラケルスさんがスープを飲む音だけが聞こえてくる。
フリッツさんは鍋を掻きまわしているし、他の人は未だに寝ているからだ。
「感謝する」
「はい?」
唐突に言われて理解が追いつかなかった。
「これほどの規模の魔物の群れに連れてきてしまったからな。何と言うか……何も言わないのは変な気がしてな」
「気にしないでください。私たちもあのままだったら死んでたんですから。皆助かって良かったです」
「そうだな。君は優しい。そういう所にダンテは惹かれたのかもしれない」
「はい?」
「そうか、無自覚か。それもそれでいい。ただ、何かあった時は手紙でも何でも必ず連絡をくれ。駆けつけるから、そして、力になる。頼ってくれていい」
「いいんですか? 他のお2人に聞かなくて」
「構わんさ。恐らく、2人ともそう思ってる」
ラケルスさんはそう言ってスープを飲み始めた。
そして、彼の言っていたように、後の2人も同じように言ってくれた。
「う……ん。ここは?」
「あ、目を覚まされたんですね。良かった。鎧を脱がせられなかったので困っていたんです。怪我はないですか?」
「ん? 怪我……特にないようだ」
「そうなんですね。良かった」
ラケルスさんは全身を触ったり、体を動かして動くかを試していた。その結果何でもないようで無事だったのは本当に良かった。
「それで、ここは?」
周囲はキリルさんのアイスジェイルによって氷に覆われている。ラケルスさんがそう言うのもおかしいことではなかった。
「ああ、すいません。ここはキリルさんが魔法で作ってくれた場所なんです」
「これほどの規模でか、すさまじいな。ゴブリンたちはどうしたんだ? 逃げたのか?」
「ゴブリンはキリルさんがそのまま殲滅してくれました」
「は? 殲滅? 俺が倒れた時にはまだまだいたよな?」
「はい、キリルさんが……かなり無理をしてくださったのでなんとか」
「そうか……。礼が言いたい。どこにいるのだ?」
「あそこですが、今は行かないでください。ちょっと見られたくない状態になっているので」
「見られたくない状態?」
ラケルスさんが首を傾げる。
「はい、その、魔法の反動といいますか、そういった感じなので色々と大変らしく……」
「そうか……。そんなことに……。すまん。俺達の想定よりも多かったうえにお前達も逃がせなかった。しかもお前達を残した状態で倒れるなど……」
「そんなことはありません! 私こそ、ほとんどお役に立てず……」
「いやいや」
「いえいえ」
「ラケルス、飯はいるか?」
そうして話していると、フリッツさんが食事を持って来た。彼が持っている器からは温かい湯気が立ち上っている。
そうだった、ラケルスさん達が目を覚ました時用に作っておいたんだった。
「いいのか?」
「ああ、そっちのパーティーの鎧を外せなくて治療もできん。だから飯を作るくらいしかやることが無かったんだ」
「鎧は基本的に中からしか取れんようになっている。だから気にするな」
「なんて面倒な作りに……」
「それが俺達のこだわりだからな。それと、飯をくれ」
「ああ」
ラケルスさんは器を受け取り鎧の隙間からスプーンで掬って飲んでいる。結構熱いはずだが飲む速度はかなり速い。
「ふぅ、美味かった」
「お代わりもありますよ?」
「いいのか? 他の奴の分も……」
「あれを見てみろ」
「ん?」
フリッツさんが指す先にはかなりの大なべが置いてある。その大なべからは湯気が出ているのが少し離れたここからでも見て取れた。
「あれは?」
「グリー魔道具店の鍋だ。まさか大きさも変わるようになっているとはな。驚いた」
「本当に、これだけの調理器具を譲って頂けたのが驚きです。という訳で、あれだけ大きな鍋に一杯作ったので、是非沢山食べてください」
「……助かる」
フリッツさんが器にスープを入れて帰ってくる。
「このスープは美味いな……。心が温まる」
「ありがとうございます」
「やはりクロエか」
「はい、料理はほぼ全てやっていますね。フリッツさんも言えば手伝ってくれるんですが、それでも作るには自分で全部やりたいというか……」
「こだわりがあるのはいいことだ。俺達もそうやってAランクパーティーになったような物だしな」
「はい、あの突撃? でいいんですかね? すごかったです。体に当たるだけでゴブリンが吹き飛んでいくなんて信じられません」
「ああ、あれのお陰で俺達はAランクになったといってもいいからな。ただ、あれが出来るのはダンテがいるからだ。俺とメルクは補助に過ぎない」
「そうなんですか?」
「アイツが先頭を走ってくれるから俺達はついて行ける。そう思ってるんだ。と、そんな話はどうでもいいか」
「いえ、そんなことは……」
そうして静寂が支配する。どちらからも特に口を開かず、ラケルスさんがスープを飲む音だけが聞こえてくる。
フリッツさんは鍋を掻きまわしているし、他の人は未だに寝ているからだ。
「感謝する」
「はい?」
唐突に言われて理解が追いつかなかった。
「これほどの規模の魔物の群れに連れてきてしまったからな。何と言うか……何も言わないのは変な気がしてな」
「気にしないでください。私たちもあのままだったら死んでたんですから。皆助かって良かったです」
「そうだな。君は優しい。そういう所にダンテは惹かれたのかもしれない」
「はい?」
「そうか、無自覚か。それもそれでいい。ただ、何かあった時は手紙でも何でも必ず連絡をくれ。駆けつけるから、そして、力になる。頼ってくれていい」
「いいんですか? 他のお2人に聞かなくて」
「構わんさ。恐らく、2人ともそう思ってる」
ラケルスさんはそう言ってスープを飲み始めた。
そして、彼の言っていたように、後の2人も同じように言ってくれた。
0
お気に入りに追加
1,622
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる