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第2章 聖女は決別する

122話 砦へ

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 クロエ達は先ほどの会議から数時間。暫く進み冒険者達の砦を目指していた。

 その最中にも魔物達の攻撃に遭い、なかなか前に進めていない。

 長時間戦闘を繰り返しているからか、周囲を守る冒険者の士気もかなり低い。

「これは……大丈夫でしょうか」
「何とも言えないな。このまま進めばまずいのは分かっているが、それでも冒険者の砦はこの先にある。もうそろそろどこか違う道に入って行くはずだ」

 そう話していると、確かに少しずつ道をそれて行くような感じだった。

「こっちの方にあるんですか?」
「ああ、確か砦と言っても普段は魔族等の警戒にも使う場所らしいからな。それで今回は緊急事態ということでそこにいさせて貰っているんだろう」
「なるほど、結構大変な場所にあるんですね」
「そうだな、魔族に魔物、相手が多すぎて困る」
「……」

 私たちは話しながら進む。幸い。今のところ大きな怪我人も出ていないのが大きい。私の防御魔法が役に立っているからだと嬉しいな。

 そうして進んでいくと、前方の方で戦闘音が聞こえて来た。

 フリッツさんとどうするのかと話し合っていると、カルロさんが走って近づいてくる。

「カルロさん? どうしました?」
「フリッツ、クロエさん。少し厄介なことになっているかもしれん。力を貸してくれ」
「分かった。何をすればいい?」
「ついてこい」

 カルロさんはそう言ってすぐに踵を返す。そして、小走りをしながら理由について説明してくれる。

「砦が見えたんだが、そこでかなり大規模な戦闘が起きていることが分かった」
「何だって?」
「本当ですか?」
「ああ、それで、腕の立つ者を先に送って援護する。そうしなければこの隊商まで被害に遭うかもしれない」
「あの? キリルさんはいいのですか?」

 魔法で魔物をかなり倒していたからとても頼りになるんだけど……。

「かなりの混戦状態だ。魔法を放てば味方にも当たるかもしれない。それに、ここの護衛もそこまで引き抜くわけには行かないからな。俺達もファルは置いていく」
「分かりました」
「馬を借りている。それに乗って急ぐぞ」
「はい!」
「分かった」

 私たちは先頭に着くころには馬が3頭用意されていた。

その上にミーナさんとエミリーさんが乗っていて、開いている片方にカルロさんが乗った。

「早くしろ!」

 フリッツさんももう一つの方に乗って、私に手を差し出して来る。

「え? でも」
「いいから!」
「きゃっ」

 そう言ってフリッツさんに手を掴まれ、強引に彼の後ろに乗せられる。

「先に行くぞ!」
「ああ!」

 カルロさん達が行くのでフリッツさんもそれに返事をする。

「クロエ、しっかり捕まってろよ」
「え、は、はいぃぃぃ!」

 いきなり走り出したので振り落とされそうになったけど、何とかなった。それからはフリッツさんのがっしりした体に何とかしがみ付きながら振り落とされない様に耐えた。

 そして、前線に到着すると、かなり危険な状態だった。

「怪我をした者は下がれ! 邪魔なだけだ!」
「下がるったってどこにだ!」
「後ろは塞がれている! いいから倒せ!」
「門を! 門を開けてくれ!」
「出来るか! 中に魔物が一緒に入り込む!」
「ここで倒すしか無いんだ! いいから1体でも多くの魔物を倒せ!」

 冒険者たちの悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。

「かなり酷いな」
「フリッツさん。前線ぎりぎりまで行ったら止まって貰えますか?」
「? ああ、分かった」

 フリッツさんがギリギリの所まで近づいて行き、そこで足を止める。

「カルロさん! ミーナさん! エミリーさん! 少し時間が欲しいので守ってください!」

 私がそう叫ぶと、3人はすぐに頷いて馬から降りてくれる。

 そして、私達を守るように囲う。

「ありがとうございます」

 私はフリッツさんを支えにして馬の上に立つ。そして、見える範囲で戦っている人を見る。

「プロテクト×10! プロテクト×8! プロテクト×14!」

 そうやって出来る限りの人たちにプロテクトを張っていく。数えてはいないが100以上は張った気がする。それだけでもかなりの魔力が減っていき、頭がふらつく。でも、ここは何としても耐えなければ。

 ふらつく頭を何とか押さえてフリッツさんに寄りかかる。

「フリッツさん。後はお願いします」
「クロエ、よくやってくれた。少し休んでいてくれ」

 そう言われてもここで寝てしまえば防御魔法は消えてしまう。そうならない様に何とか意識だけは持ち続ける。

「カルロ! クロエは他の冒険者に防御魔法を張ってもう動けない。後は任せていいか!」
「ああ! そこまでされたのなら俺達が頑張らない訳には行かないからな!」
「クロエ! ありがとう! しっかり休んでよね!」
「クロエさん。無理はしないでくださいね」

 そう言って3人がどこかへ走り去っていくのを見送る。と言っても目はぼんやりしていて余り見えている訳ではない。手から伝わってくるフリッツさんの感触だけを頼りに、何とか魔法の維持に努める。

「なんだこの硬さは!」
「痛くない! 魔物の攻撃でも痛くないぞ!」
「分からんが今が好機だ! 全軍! すり潰せええええ!!!」

 そうして冒険者達の地響きが強くなるのが聞こえて来た。良かった。持ち直したみたいだ。途中からは凄い魔法のような音も聞こえてくる。

 それからはかなり一方的な様になったらしく、1時間もしない内に戦闘音は終わりを告げていた。

「クロエ、大丈夫か? クロエ?」
「はい……なんとか……」
「良かった。もう魔物はいないから解いても大丈夫だ」
「分かりました……」

 私は全ての防御魔法を解く。すると、ふっと体が軽くなったような、頭が少しすっきりしたように感じた。

 私はフリッツさんを支えにして何とか起き上がる。

「ありが……とう……ございます」
「おい、クロエ、そのまま安静にしていろ」
「でも、迷惑をかける訳には……あ」

 私は馬から滑り落ちそうになる。それを助けてくれたのはフリッツさんだった。お姫様抱っこをされているようだけど、未だに体は重たい。

「ほら、クロエ、ちゃんと休んでないとダメだろう?」
「でも……」
「でもじゃない。あれだけ魔法を使ったんだ。かなり辛いのだろう? 少しは休むんだ」
「……はい」

 そうして私は目を閉じた。
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