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第2章 聖女は決別する

120話 ルート変更

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 次の日も特に問題は無かった。だけど、昨日よりは明らかに襲撃の回数は増えていたし、その質も明らかに上がっていたみたいだ。私がいる所には来なかったけど、場所によっては被害も出ていた。

 そして、夜の見張り番をフリッツさんとキリルさんとしている時の話だった。

「このままだと危険かもしれない」

 そうぽつりとキリルさんが呟いた。

「危険? 十分に追い払えているんじゃないのか?」

 そう言うのはフリッツさんだ。

「街を出てまだ2日。それなのに既に被害が出始めている。次の町までそれなりに時間がかかるのだろう?」
「確か、10日以上はかかるはずだ」
「その間に、魔物の群れを通っていく。全方位から来られる可能性があるのなら、一度ここで引く可能性を考えた方がいいかもしれない」
「ここまで来たのにか?」

 フリッツさんは不服なようだけど、キリルさんの表情はピクリとも変わらない。

「この隊商が全滅したとしてもか? それでお前達や強い者数名ならば生き残れるかもしれない。しかし、それは望まないんだろう?」
「……そうだな」
「私も……それは嫌です」

 何の為の護衛なのか。そう聞かれても答えようが無い。

「そういうことだ。恐らく、カルロ達もそのことについて考えていて、話し合っているはずだ」
「そうなのか?」
「十中八九」
「なるほど。なら一度引き返すのか?」
「それか……。もしかしたら違うことになるかもしれない」
「違うことですか?」
「ああ、これだけの戦力がいる。冒険者の集まっている所とやらに半強制的に徴用されるかもしれない。というよりも、俺だったら確実にする」
「それは……」
「勝手に商人が雇った冒険者を使うのはまずくないのか?」
「まずいがそんな悠長な事を言っている場合では無いかもしれない。このまま被害がおき続ければ、そんなことを言っている余裕は無くなる」

 そう言われて現状を考えるとかなりまずいのかもしれない。この一帯の優秀な冒険者Aランクパーティーも使っておいて倒しきれていない。そのせいでこんな大規模な隊商を組んでも突破することが出来ない。うん。かなりまずい状況なのではないだろうか?

「まずいのなら王都に応援を要請したりしないんですかね?」
「そこまでは知らない。応援は頼んでいるのか、いないのか。但し、東の方でも同じような事が起きていると聞いた。もしかすると、そちらの方で足止めを食らっているのかもしれない」
「なるほど」
「だとするとかなりまずいな」
「だから危険だと言ったんだ」

 キリルさんはそう言って3人で囲む火をじっと見つめている。その瞳はどこか遠くを見つめていた。

 そして次の日、キリルさんが言った事が正しくなる。攻めてくる魔物の数は質も量も圧倒的に増えてきていた。

 隊商の足は完全に止まり、囲まれながらの戦闘でかなり無理が出始めている。カルロさん達『蒼穹の息吹』は私たちとは反対側の最も敵が多くいる所に向かっていた。

 周囲にはただのゴブリンだけでなく、ゴブリンナイトやゴブリンメイジ、森の中からはゴブリンアーチャーが矢を放ってくる。

 フリッツさんはその矢を切り落としながら私に向かって吠える。

「クロエ! 俺へのプロテクトはいい! 他の動きの鈍い奴らにかけてやれ!」
「そんな! それだとフリッツさんが!」
「いいから! 俺はこの程度じゃやられない!」
「っ! 分かりました!」

 私はすぐ近くで戦っているフリッツさんから離れて一番近くの馬車に足をかけて登る。そして、そこから周囲を見回し、動きが悪そうな人や、怪我をしているのかどこかしらを押さえている人に向かって防御魔法をかけた。

「プロテクト×10!」

 それなりに強くかけたけど、まだまだ自分の魔力は大丈夫。このまま半日は余裕で維持できるだろう。

「うわあああああ!!!」

 ガイン!

「あれ? 痛くない?」
「何人かに防御魔法をかけました! それでも、無理はしないでください!」
「ありがとう! 助かった!」

 その人は私にお礼をしながらゴブリンの首元を切り裂いた。

 それから、30分は戦闘が続く。戦闘が終わっても上級者の人たちは気を緩めずに周囲を警戒している。私も警戒している時に、さっき助けた人が走って来た。

「あ、あの!」
「はい?」

 その相手はまだまだ駆け出しなのか、安物の鎧をつけた冒険者だった。茶髪の髪は短く切られ動きやすそう。そんな髪の下にある顔は若く、幼さを感じさせる男の子といっていい感じの人だった。さっき危ないと思いつつも防御魔法をかけておいたおかげで助かった一人だ。フリッツさんの選択には感謝しなければ。

「さっきは助けて頂いてありがとうございました!」
「いえいえ、無事だったのなら良かったです」
「そんな……、あのお名前を伺ってもいいですか?」
「私ですか?」
「はい!」
「私はクロエと言います」
「クロエさん……。覚えました。それでは失礼します!」
「気をつけてくださいね」

 私がそういうのに彼は笑顔を返して来てそのまま元の人たちの所に走り去っていく。

「意外とかわいらしい方もいるんですね」
「そうだな、ああいうのもいるから色んな所に目を向けなければならない」

 側に来ていたフリッツさんと話していると、少し遠い所からカルロさんの声が聞こえる。

「急いでここを動くぞ! そしてそこで今後のことについて話さなければいけないことがある!」
「何でしょうか?」
「分からん。だが、このままだと他の魔物も寄ってきてしまう。だから、今の内に移動するんだと思う」
「なるほど。分かりました」

 そして、少し進んだ先で、私たちは見張りを残して集められていた。

 それを見るのはカルロさんとこの隊商のリーダーを務める人だ。その人が代表して話すらしい。

「皆のもの、本来この隊商はダラスを発ち、北の街ベルニアスを目指しているのは言うまでもない。しかし、今の状況を鑑みてそうも言っていられなくなった。このまま進めばこの隊商は確実に全滅してしまう」
「そんな」
「どうして」
「何の為に高い金を払って隊商を組んだと思っているんだ!」

 周囲の人たちもかなり不安らしい。ただこのままの流れで行くと、キリルさんの言っていた様になるかもしれない。

「そこで、我々は北の冒険者の拠点に合流し、そこで冒険者だけを貸し、魔物の掃討が終わり次第元の道に戻らせて貰おうと思う」
「勝手な!」
「そうだ! せめて事前の相談位あっても!」
「そんな事をしていたら魔物の群れに飲まれてしまう。さっきの襲撃を見て居なかった者などいないだろう? もしもこれ以上進めばあれ以上の魔物が出てくるのだ。それを皆無事に守り切れると思うのか?」
「だとしてもそれをやるのが冒険者だろうが!」
「やるべきこととそれが出来るかは違う。それくらい分かるだろう?」
「……そうだが」
「そう言う訳で一度冒険者の砦に行く。反対意見のある者もいるだろう。もしここでこの隊商を抜けたいというのなら構わない。街へ戻る冒険者を幾人かつけよう」

 そうして、私達はそのまま砦に行くことになった。そのうちの何人かはダラスへと引き返す。
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