上 下
116 / 203
第2章 聖女は決別する

116話 とある司祭の話

しおりを挟む
 クロエたちがダラスを出発するのと入れ替わるようにして、勇者パーティーとすれ違ったリッター村にいた冒険者がダラスへと帰ってきた。

 彼はそのまま一直線に教会へと戻って行く。そして、彼は誰に挨拶することもなく、顔パスで中へと入っていった。そして、とある部屋の前で止まりノックをする。

「どうぞ」
「失礼します」

 その部屋の中にいたのはクロエの先生、司祭だった。彼女は机に向かい何か書類を記入している。誰かが入ってきても、顔を上げることすらしない。

 部屋に入った彼は片膝をついて報告する。

「司祭様、ただいま戻りました。他のメンバーは武器の点検などを行なっています」
「うん。ご苦労様、それにしても悪いわね。魔物は得意じゃないでしょうに、危ない目に遭わせてしまったわ」
「聖女様のお力をこの身にお貸し頂けただけでも十分です。それだけで死んでも何も文句はありません」

 彼の表情は淡々としていて、それが真実であることを伝えている。

「あの子の防御魔法は凄いでしょう?」
「はい、あれほどの力を持っているのに追い出される理由が分かりません」
「それは勇者パーティーに聞いて欲しいわ。でもまだ偵察から帰ってこないし、どうなってるのかしら? 死んでいると面倒で嫌なのだけど……」
「帰りに遭遇致しました」
「本当?」

 その時、初めて司祭が驚いた顔をして冒険者を見た。

「はい、ただ、その際にハブルール様はおらず、4人でボロボロのお姿でした」
「そう、生きていたのなら良かったわ、彼らには魔王を倒してもらう役目があるから。でも、そんなにボロボロだったなら助けて来ても良かったんじゃないの?」
「最初は強引にでもついて行こうかと思ったのですが……。聖女様は死んだと言っていて少し高ぶってしまい……」

 そういう彼は少し申し訳なさそうな顔をしていた。

「全く……貴方達という人は……。まぁいいわ。そうね、そんなふざけた事を言っているのなら丁度いいわ。その話、広げておいて頂戴」
「よろしいのですか?」

 彼の表情が少し困り顔に変わる。しかし、司祭の表情は変わることがない。

「ええ、あの子が聖女だとバレるのが嫌だと思っているのなら、そのことは言わない方がいいわ。それと、勇者パーティーは無能だと言うことも関係各所に伝えておきましょう。やはり彼らでは荷が重すぎる」
「よろしいのですか?」
「勿論よ。それに、貴方としても実際にどうあれ、あの子の味方をしたいんでしょう? 仕事を抜きにしても」
「はい。我々が手伝った事とは言え、助けて頂いたことに代わりはありませんから」
「あの子はそんなことを気にするような子じゃ無いんだけどね。でも、助けてあげたいと思うならあの子を公的には死なせておきなさい。そうすれば、あそこに送らずに済む」

 彼女がそう言った途端。今まで困り顔だった彼の顔が驚きに変わる。

「決定されたのですか?」
「ええ、勇者パーティーらしい振舞いもしていないし、そもそもが弱い。あの程度の連中で勝てるほど魔王は甘くないわ。それに、あの子を連れていかれたくはないでしょう?」
「……はい」
「無事に偵察を終えて帰って来られていたのなら話は少し違ったんだけど、そういう状況でもなくなったようだからね」
「その役目は?」
「当然貴方達にお願いするわ。丁度いい所にいることだしね」
「それが目的だったのでは?」
「だとしても貴方達には言う必要はないわ。ただの駒である貴方達は黙って従えばいい」
「畏まりました」
「タイミングは私が指示します。それまでは勝手に行動しないこと。話は以上よ。他のメンバーにも伝えておいて」
「はい。失礼いたします」

 そう言ってその冒険者は部屋を出て行った。

 それを視界の端で確認した司祭は。

「はぁ、クロエ、貴方はちゃんと自分の人生を生きるのよ……」

 彼女はそう呟くと、一人で再び机に戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

処理中です...