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第2章 聖女は決別する
112話 ファティマ商会再び
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ファティマ商会に向かうと、そこはいつものようにいや、いつも以上に大盛況だった。
「この中に入っていくのは……少しあれか?」
「そうですね……。ここまで多いとは……」
「……」
ファティマ商会の場所は混みに混んでいた。正直こんなに何を買いに来ているのだろう。不安になる感じだった。
その列の長さもかなりのもので、もしもここに並んだ場合には日が暮れてしまうだろう事は明白だ。
「これは、残念だが……」
「そうですね……」
悲しいけど仕方ない。私たちは帰ろうとした時に、声をかけられる。
「待ってください!」
「?」
その近辺にいた人はほとんど振り返っただろう。それくらい大きい声だった。そして、私たちもそれに釣られて振り返ると、そこには昨日話した人が必死の顔で私たちの方に走ってきていた。
「クロエさんと! フリッツさんですよね!?」
「は、はい。そうですが……」
「良かった……はぁはぁ。レント様がお待ちです。ですので来ていただけますか?」
「え、ええ。でもいいんでしょうか?」
「いいとは?」
「あちらに一杯並んでいらっしゃるので……」
その人はあの長蛇の列を待って話している人の1人だったのだ。それなのに、私達についてきてもいいのだろうか。
「それは構いません。最優先でお通ししろと言われていますので」
「助かる」
「ありがとうございます」
「あ、俺達以外にもう1人いるがいいか?」
フリッツさんがそう言ってキリルさんを見る。
その人も同様にキリルさんを見るがその表情は明るい。
「お連れ様と言うことなら大丈夫でしょう。是非こちらへ」
そういう彼について私たちは商会の中に入っていく。その商会の中は以前よりも多くの荷物が積まれていて、歩くのにも苦労する。実際、フリッツさんもキリルさんもかなり大変そうだった。
そんな通路を何とか抜けて、店の人について行くとそこは以前案内された部屋だった。
「それでは私はこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
「助かった」
「いえいえ」
そう言って彼は帰ってしまう。
そして、フリッツさんがドアをノックする。
「はい」
「フリッツだ。入ってもいいか?」
「フリッツさん!? どうぞどうぞ! 入ってください!」
「失礼する」
「失礼します」
「……」
私たち3人で中に入ると、少しやつれたような感じのレント君がいた。その後ろには当然のようにバルドさんもいる。彼はリッター村での戦いの後に、急いでここに戻ってきた一人の内の1人らしい。
「お2人とも! よくぞご無事で!」
「ああ、バルドさんや他の人にかなり助けられた」
「はい。本当にありがとうございました」
私とフリッツさんは彼らにお礼をいう。そして、レント君に促されるままイスに座った。
「そんなことはありません。ケルベロスはあそこで倒せるなら倒したかった。そうしなければこの街にも影響が出ていましたからね。本当に助かったのはこちらも同じなんです。それに、俗っぽい事を言うと、大人のケルベロスの素材が手に入るというのもとても助かる。牙、爪、皮、魔石。捨てるところがないですからね」
「あ、そのことでお話が」
「? 何でしょうか?」
「えっと、あのケルベロスを倒しに行った時のメンバーと参加した残りの人達で素材を分けるというお話になっていたんですけど、知っていますか?」
「ええ、バルドから聞いています。10で割って残った1を他の冒険者が受け取る手はずだと」
「その私とフリッツさんの分なんですが、ファティマ商会で買い取って頂けないかと、そして、出てきた分の金額はリッター村の復興等に当てて頂きたいんです」
「いいのですか?」
「はい。実はあんまり長居できませんので、査定が終わるのを待っている事は出来ないんです」
「そういう事でしたら構いませんが……それでは余りにも……」
「はい?」
レント君はそう言って腕を組んで何か考えている。
「それでは一時金として金貨100枚お渡しします。それでどうでしょうか?」
私とフリッツさんはお互いに顔を見合わせて考えるけど、フリッツさんも同じような事を考えているようだった。
「いらない」
「いりません」
レント君は驚いた表情を浮かべている。
「俺達はそこまで金は必要ない。いる時に適当な魔物を狩って金にする」
「はい。その魔物のお肉を調理してもいいですし、リッター村の為に使ってくれませんか」
「そんな、バルドもお2人がいてくれたお陰で勝てたと言っていますし……」
「そうです。お2人がいなければきっと私は死んでいたでしょう。ですから、どうか受け取って頂けませんか?」
「うーん。本当にそこまで困っている訳じゃないからなぁ」
「そうですよね」
正しくはないが語弊があるかもしれない。フリッツさんもそこまで持っていない気がする。でも、私と一緒で大金は持ちたくないのかもしれない。それに、リッター村がどうなるのか分からない。そちらに資金を回しておく方がいいような気がする。
「そうだな、じゃあ金貨1枚くれないか?」
「たったそれだけですか?」
「俺達からしたらそれだけで十分だ」
「そうですね。以前大金を持った時はちょっと怖かったんですよね」
「ああ、だから、そこそこにしておきたい」
フリッツさんもそう言うことにしておいて、カルラさん達の無事を祈っているのだと思う。
「分かりました。ではそういうことに致します。……因みになんですが、護衛とかに興味はありませんか? 我が商会ではかなりいい条件で専属護衛を募集しているんですが」
「そういうのは」
「大丈夫です」
私とフリッツさんでお断りをする。護衛も悪くはないんだろうけど、というか条件としては凄くいいんだろう。だけど、旅をすると決めたからにはちゃんとどこかに行きたい。
「そうですか……残念です」
レント君が悲しそうにしているのが申し訳ないような気がする。
「助けて貰ったのに悪い」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。このお願いも僕の我がままなので、気にしないでください」
「ぼっちゃま、あの事をお願いはしなくていいのですか?」
「あの事?」
あの事とは何だろうか。何かあるのかもしれない。
「この中に入っていくのは……少しあれか?」
「そうですね……。ここまで多いとは……」
「……」
ファティマ商会の場所は混みに混んでいた。正直こんなに何を買いに来ているのだろう。不安になる感じだった。
その列の長さもかなりのもので、もしもここに並んだ場合には日が暮れてしまうだろう事は明白だ。
「これは、残念だが……」
「そうですね……」
悲しいけど仕方ない。私たちは帰ろうとした時に、声をかけられる。
「待ってください!」
「?」
その近辺にいた人はほとんど振り返っただろう。それくらい大きい声だった。そして、私たちもそれに釣られて振り返ると、そこには昨日話した人が必死の顔で私たちの方に走ってきていた。
「クロエさんと! フリッツさんですよね!?」
「は、はい。そうですが……」
「良かった……はぁはぁ。レント様がお待ちです。ですので来ていただけますか?」
「え、ええ。でもいいんでしょうか?」
「いいとは?」
「あちらに一杯並んでいらっしゃるので……」
その人はあの長蛇の列を待って話している人の1人だったのだ。それなのに、私達についてきてもいいのだろうか。
「それは構いません。最優先でお通ししろと言われていますので」
「助かる」
「ありがとうございます」
「あ、俺達以外にもう1人いるがいいか?」
フリッツさんがそう言ってキリルさんを見る。
その人も同様にキリルさんを見るがその表情は明るい。
「お連れ様と言うことなら大丈夫でしょう。是非こちらへ」
そういう彼について私たちは商会の中に入っていく。その商会の中は以前よりも多くの荷物が積まれていて、歩くのにも苦労する。実際、フリッツさんもキリルさんもかなり大変そうだった。
そんな通路を何とか抜けて、店の人について行くとそこは以前案内された部屋だった。
「それでは私はこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
「助かった」
「いえいえ」
そう言って彼は帰ってしまう。
そして、フリッツさんがドアをノックする。
「はい」
「フリッツだ。入ってもいいか?」
「フリッツさん!? どうぞどうぞ! 入ってください!」
「失礼する」
「失礼します」
「……」
私たち3人で中に入ると、少しやつれたような感じのレント君がいた。その後ろには当然のようにバルドさんもいる。彼はリッター村での戦いの後に、急いでここに戻ってきた一人の内の1人らしい。
「お2人とも! よくぞご無事で!」
「ああ、バルドさんや他の人にかなり助けられた」
「はい。本当にありがとうございました」
私とフリッツさんは彼らにお礼をいう。そして、レント君に促されるままイスに座った。
「そんなことはありません。ケルベロスはあそこで倒せるなら倒したかった。そうしなければこの街にも影響が出ていましたからね。本当に助かったのはこちらも同じなんです。それに、俗っぽい事を言うと、大人のケルベロスの素材が手に入るというのもとても助かる。牙、爪、皮、魔石。捨てるところがないですからね」
「あ、そのことでお話が」
「? 何でしょうか?」
「えっと、あのケルベロスを倒しに行った時のメンバーと参加した残りの人達で素材を分けるというお話になっていたんですけど、知っていますか?」
「ええ、バルドから聞いています。10で割って残った1を他の冒険者が受け取る手はずだと」
「その私とフリッツさんの分なんですが、ファティマ商会で買い取って頂けないかと、そして、出てきた分の金額はリッター村の復興等に当てて頂きたいんです」
「いいのですか?」
「はい。実はあんまり長居できませんので、査定が終わるのを待っている事は出来ないんです」
「そういう事でしたら構いませんが……それでは余りにも……」
「はい?」
レント君はそう言って腕を組んで何か考えている。
「それでは一時金として金貨100枚お渡しします。それでどうでしょうか?」
私とフリッツさんはお互いに顔を見合わせて考えるけど、フリッツさんも同じような事を考えているようだった。
「いらない」
「いりません」
レント君は驚いた表情を浮かべている。
「俺達はそこまで金は必要ない。いる時に適当な魔物を狩って金にする」
「はい。その魔物のお肉を調理してもいいですし、リッター村の為に使ってくれませんか」
「そんな、バルドもお2人がいてくれたお陰で勝てたと言っていますし……」
「そうです。お2人がいなければきっと私は死んでいたでしょう。ですから、どうか受け取って頂けませんか?」
「うーん。本当にそこまで困っている訳じゃないからなぁ」
「そうですよね」
正しくはないが語弊があるかもしれない。フリッツさんもそこまで持っていない気がする。でも、私と一緒で大金は持ちたくないのかもしれない。それに、リッター村がどうなるのか分からない。そちらに資金を回しておく方がいいような気がする。
「そうだな、じゃあ金貨1枚くれないか?」
「たったそれだけですか?」
「俺達からしたらそれだけで十分だ」
「そうですね。以前大金を持った時はちょっと怖かったんですよね」
「ああ、だから、そこそこにしておきたい」
フリッツさんもそう言うことにしておいて、カルラさん達の無事を祈っているのだと思う。
「分かりました。ではそういうことに致します。……因みになんですが、護衛とかに興味はありませんか? 我が商会ではかなりいい条件で専属護衛を募集しているんですが」
「そういうのは」
「大丈夫です」
私とフリッツさんでお断りをする。護衛も悪くはないんだろうけど、というか条件としては凄くいいんだろう。だけど、旅をすると決めたからにはちゃんとどこかに行きたい。
「そうですか……残念です」
レント君が悲しそうにしているのが申し訳ないような気がする。
「助けて貰ったのに悪い」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。このお願いも僕の我がままなので、気にしないでください」
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あの事とは何だろうか。何かあるのかもしれない。
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