112 / 203
第2章 聖女は決別する
112話 ファティマ商会再び
しおりを挟む
ファティマ商会に向かうと、そこはいつものようにいや、いつも以上に大盛況だった。
「この中に入っていくのは……少しあれか?」
「そうですね……。ここまで多いとは……」
「……」
ファティマ商会の場所は混みに混んでいた。正直こんなに何を買いに来ているのだろう。不安になる感じだった。
その列の長さもかなりのもので、もしもここに並んだ場合には日が暮れてしまうだろう事は明白だ。
「これは、残念だが……」
「そうですね……」
悲しいけど仕方ない。私たちは帰ろうとした時に、声をかけられる。
「待ってください!」
「?」
その近辺にいた人はほとんど振り返っただろう。それくらい大きい声だった。そして、私たちもそれに釣られて振り返ると、そこには昨日話した人が必死の顔で私たちの方に走ってきていた。
「クロエさんと! フリッツさんですよね!?」
「は、はい。そうですが……」
「良かった……はぁはぁ。レント様がお待ちです。ですので来ていただけますか?」
「え、ええ。でもいいんでしょうか?」
「いいとは?」
「あちらに一杯並んでいらっしゃるので……」
その人はあの長蛇の列を待って話している人の1人だったのだ。それなのに、私達についてきてもいいのだろうか。
「それは構いません。最優先でお通ししろと言われていますので」
「助かる」
「ありがとうございます」
「あ、俺達以外にもう1人いるがいいか?」
フリッツさんがそう言ってキリルさんを見る。
その人も同様にキリルさんを見るがその表情は明るい。
「お連れ様と言うことなら大丈夫でしょう。是非こちらへ」
そういう彼について私たちは商会の中に入っていく。その商会の中は以前よりも多くの荷物が積まれていて、歩くのにも苦労する。実際、フリッツさんもキリルさんもかなり大変そうだった。
そんな通路を何とか抜けて、店の人について行くとそこは以前案内された部屋だった。
「それでは私はこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
「助かった」
「いえいえ」
そう言って彼は帰ってしまう。
そして、フリッツさんがドアをノックする。
「はい」
「フリッツだ。入ってもいいか?」
「フリッツさん!? どうぞどうぞ! 入ってください!」
「失礼する」
「失礼します」
「……」
私たち3人で中に入ると、少しやつれたような感じのレント君がいた。その後ろには当然のようにバルドさんもいる。彼はリッター村での戦いの後に、急いでここに戻ってきた一人の内の1人らしい。
「お2人とも! よくぞご無事で!」
「ああ、バルドさんや他の人にかなり助けられた」
「はい。本当にありがとうございました」
私とフリッツさんは彼らにお礼をいう。そして、レント君に促されるままイスに座った。
「そんなことはありません。ケルベロスはあそこで倒せるなら倒したかった。そうしなければこの街にも影響が出ていましたからね。本当に助かったのはこちらも同じなんです。それに、俗っぽい事を言うと、大人のケルベロスの素材が手に入るというのもとても助かる。牙、爪、皮、魔石。捨てるところがないですからね」
「あ、そのことでお話が」
「? 何でしょうか?」
「えっと、あのケルベロスを倒しに行った時のメンバーと参加した残りの人達で素材を分けるというお話になっていたんですけど、知っていますか?」
「ええ、バルドから聞いています。10で割って残った1を他の冒険者が受け取る手はずだと」
「その私とフリッツさんの分なんですが、ファティマ商会で買い取って頂けないかと、そして、出てきた分の金額はリッター村の復興等に当てて頂きたいんです」
「いいのですか?」
「はい。実はあんまり長居できませんので、査定が終わるのを待っている事は出来ないんです」
「そういう事でしたら構いませんが……それでは余りにも……」
「はい?」
レント君はそう言って腕を組んで何か考えている。
「それでは一時金として金貨100枚お渡しします。それでどうでしょうか?」
私とフリッツさんはお互いに顔を見合わせて考えるけど、フリッツさんも同じような事を考えているようだった。
「いらない」
「いりません」
レント君は驚いた表情を浮かべている。
「俺達はそこまで金は必要ない。いる時に適当な魔物を狩って金にする」
「はい。その魔物のお肉を調理してもいいですし、リッター村の為に使ってくれませんか」
「そんな、バルドもお2人がいてくれたお陰で勝てたと言っていますし……」
「そうです。お2人がいなければきっと私は死んでいたでしょう。ですから、どうか受け取って頂けませんか?」
「うーん。本当にそこまで困っている訳じゃないからなぁ」
「そうですよね」
正しくはないが語弊があるかもしれない。フリッツさんもそこまで持っていない気がする。でも、私と一緒で大金は持ちたくないのかもしれない。それに、リッター村がどうなるのか分からない。そちらに資金を回しておく方がいいような気がする。
「そうだな、じゃあ金貨1枚くれないか?」
「たったそれだけですか?」
「俺達からしたらそれだけで十分だ」
「そうですね。以前大金を持った時はちょっと怖かったんですよね」
「ああ、だから、そこそこにしておきたい」
フリッツさんもそう言うことにしておいて、カルラさん達の無事を祈っているのだと思う。
「分かりました。ではそういうことに致します。……因みになんですが、護衛とかに興味はありませんか? 我が商会ではかなりいい条件で専属護衛を募集しているんですが」
「そういうのは」
「大丈夫です」
私とフリッツさんでお断りをする。護衛も悪くはないんだろうけど、というか条件としては凄くいいんだろう。だけど、旅をすると決めたからにはちゃんとどこかに行きたい。
「そうですか……残念です」
レント君が悲しそうにしているのが申し訳ないような気がする。
「助けて貰ったのに悪い」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。このお願いも僕の我がままなので、気にしないでください」
「ぼっちゃま、あの事をお願いはしなくていいのですか?」
「あの事?」
あの事とは何だろうか。何かあるのかもしれない。
「この中に入っていくのは……少しあれか?」
「そうですね……。ここまで多いとは……」
「……」
ファティマ商会の場所は混みに混んでいた。正直こんなに何を買いに来ているのだろう。不安になる感じだった。
その列の長さもかなりのもので、もしもここに並んだ場合には日が暮れてしまうだろう事は明白だ。
「これは、残念だが……」
「そうですね……」
悲しいけど仕方ない。私たちは帰ろうとした時に、声をかけられる。
「待ってください!」
「?」
その近辺にいた人はほとんど振り返っただろう。それくらい大きい声だった。そして、私たちもそれに釣られて振り返ると、そこには昨日話した人が必死の顔で私たちの方に走ってきていた。
「クロエさんと! フリッツさんですよね!?」
「は、はい。そうですが……」
「良かった……はぁはぁ。レント様がお待ちです。ですので来ていただけますか?」
「え、ええ。でもいいんでしょうか?」
「いいとは?」
「あちらに一杯並んでいらっしゃるので……」
その人はあの長蛇の列を待って話している人の1人だったのだ。それなのに、私達についてきてもいいのだろうか。
「それは構いません。最優先でお通ししろと言われていますので」
「助かる」
「ありがとうございます」
「あ、俺達以外にもう1人いるがいいか?」
フリッツさんがそう言ってキリルさんを見る。
その人も同様にキリルさんを見るがその表情は明るい。
「お連れ様と言うことなら大丈夫でしょう。是非こちらへ」
そういう彼について私たちは商会の中に入っていく。その商会の中は以前よりも多くの荷物が積まれていて、歩くのにも苦労する。実際、フリッツさんもキリルさんもかなり大変そうだった。
そんな通路を何とか抜けて、店の人について行くとそこは以前案内された部屋だった。
「それでは私はこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
「助かった」
「いえいえ」
そう言って彼は帰ってしまう。
そして、フリッツさんがドアをノックする。
「はい」
「フリッツだ。入ってもいいか?」
「フリッツさん!? どうぞどうぞ! 入ってください!」
「失礼する」
「失礼します」
「……」
私たち3人で中に入ると、少しやつれたような感じのレント君がいた。その後ろには当然のようにバルドさんもいる。彼はリッター村での戦いの後に、急いでここに戻ってきた一人の内の1人らしい。
「お2人とも! よくぞご無事で!」
「ああ、バルドさんや他の人にかなり助けられた」
「はい。本当にありがとうございました」
私とフリッツさんは彼らにお礼をいう。そして、レント君に促されるままイスに座った。
「そんなことはありません。ケルベロスはあそこで倒せるなら倒したかった。そうしなければこの街にも影響が出ていましたからね。本当に助かったのはこちらも同じなんです。それに、俗っぽい事を言うと、大人のケルベロスの素材が手に入るというのもとても助かる。牙、爪、皮、魔石。捨てるところがないですからね」
「あ、そのことでお話が」
「? 何でしょうか?」
「えっと、あのケルベロスを倒しに行った時のメンバーと参加した残りの人達で素材を分けるというお話になっていたんですけど、知っていますか?」
「ええ、バルドから聞いています。10で割って残った1を他の冒険者が受け取る手はずだと」
「その私とフリッツさんの分なんですが、ファティマ商会で買い取って頂けないかと、そして、出てきた分の金額はリッター村の復興等に当てて頂きたいんです」
「いいのですか?」
「はい。実はあんまり長居できませんので、査定が終わるのを待っている事は出来ないんです」
「そういう事でしたら構いませんが……それでは余りにも……」
「はい?」
レント君はそう言って腕を組んで何か考えている。
「それでは一時金として金貨100枚お渡しします。それでどうでしょうか?」
私とフリッツさんはお互いに顔を見合わせて考えるけど、フリッツさんも同じような事を考えているようだった。
「いらない」
「いりません」
レント君は驚いた表情を浮かべている。
「俺達はそこまで金は必要ない。いる時に適当な魔物を狩って金にする」
「はい。その魔物のお肉を調理してもいいですし、リッター村の為に使ってくれませんか」
「そんな、バルドもお2人がいてくれたお陰で勝てたと言っていますし……」
「そうです。お2人がいなければきっと私は死んでいたでしょう。ですから、どうか受け取って頂けませんか?」
「うーん。本当にそこまで困っている訳じゃないからなぁ」
「そうですよね」
正しくはないが語弊があるかもしれない。フリッツさんもそこまで持っていない気がする。でも、私と一緒で大金は持ちたくないのかもしれない。それに、リッター村がどうなるのか分からない。そちらに資金を回しておく方がいいような気がする。
「そうだな、じゃあ金貨1枚くれないか?」
「たったそれだけですか?」
「俺達からしたらそれだけで十分だ」
「そうですね。以前大金を持った時はちょっと怖かったんですよね」
「ああ、だから、そこそこにしておきたい」
フリッツさんもそう言うことにしておいて、カルラさん達の無事を祈っているのだと思う。
「分かりました。ではそういうことに致します。……因みになんですが、護衛とかに興味はありませんか? 我が商会ではかなりいい条件で専属護衛を募集しているんですが」
「そういうのは」
「大丈夫です」
私とフリッツさんでお断りをする。護衛も悪くはないんだろうけど、というか条件としては凄くいいんだろう。だけど、旅をすると決めたからにはちゃんとどこかに行きたい。
「そうですか……残念です」
レント君が悲しそうにしているのが申し訳ないような気がする。
「助けて貰ったのに悪い」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ。このお願いも僕の我がままなので、気にしないでください」
「ぼっちゃま、あの事をお願いはしなくていいのですか?」
「あの事?」
あの事とは何だろうか。何かあるのかもしれない。
0
お気に入りに追加
1,620
あなたにおすすめの小説
「サボってるだろう?」と追い出された最強の龍脈衆~救ってくれた幼馴染と一緒に実力主義の帝国へ行き、実力が認められて龍騎士に~
土偶の友
ファンタジー
龍を狩る者、龍脈衆のセレットは危険な龍が湧く場所――龍脈で毎日何十体と龍を狩り、国と城の安全を守っていた。
しかし「サボっているのだろう?」と彼は私利私欲のために龍脈を利用したい者達に無実の罪を着せられて追放されてしまう。
絶望に暮れて追放されている時に助けてくれたのは幼馴染のアイシャだった。「私と一緒に帝国に亡命しない?」彼女に助けられ請われる形で実力主義の帝国に行く。
今まで人前に晒されていなかったセレットの力が人の目に見られ、その実力が評価される。何十人と集まり、連携を深め、時間をかけて倒す龍を一撃で切り裂いていくセレットの実力は規格外だった。
亡命初日に上級騎士、そして、彼のために作られた龍騎士という称号も得て人々から頼りにされていく。
その一方でセレットを追放した前の国は、龍脈から龍が溢れて大事件に。首謀者たちはその責任を取らされて落ちぶれていくのだった。
これはいいように使われていた最強の龍脈衆が、最高最強の龍騎士になる物語。
小説家になろう様でも投稿しています。
めでたく婚約破棄で教会を追放されたので、神聖魔法に続いて魔法学校で錬金魔法も極めます。……やっぱりバカ王子は要らない? 返品はお断りします!
向原 行人
ファンタジー
教会の代表ともいえる聖女ソフィア――つまり私は、第五王子から婚約破棄を言い渡され、教会から追放されてしまった。
話を聞くと、侍祭のシャルロットの事が好きになったからだとか。
シャルロット……よくやってくれたわ!
貴女は知らないかもしれないけれど、その王子は、一言で表すと……バカよ。
これで、王子や教会から解放されて、私は自由! 慰謝料として沢山お金を貰ったし、魔法学校で錬金魔法でも勉強しようかな。
聖女として神聖魔法を極めたし、錬金魔法もいけるでしょ!
……え? 王族になれると思ったから王子にアプローチしたけど、思っていた以上にバカだから無理? ふふっ、今更返品は出来ませーん!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜
Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。
しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。
彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る
はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。
そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。
幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。
だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。
はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。
彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。
いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる