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第2章 聖女は決別する
109話 乱暴者
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着替え終わると、私は外に出て行く。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
「俺も泊まっていいだろうか?」
「?」
そう言って来たのはキリルさんだった。まさかキリルさんまで? でも子供の世話を出来るような気はあんまりしないんだけど……。
「ダメだ。お前は俺から借りた金で泊まったんだろうが。それを無駄にするような事は許せないぞ」
「どうしてもか?」
さっきまでクールな感じだったのに、少し眉を下げただけで可哀そうな感じがしてきている。何だか許してしまいそうになる。
しかし、フリッツさんは甘くは無かった。
「そんな顔をされてもダメだ。第一、クロエと一緒に泊まったとしても部屋は別だぞ?」
「そうなのか?」
「当然じゃないですか?」
「そうか、分かった」
「それではお姉様! 料理も素晴らしい物を用意して待っていますね!」
「あ、用意してくださるんですか? どこかに食べに行こうかと思っていたんですが」
「……」
「?」
フェリさんは動きを止めて何かぼそぼそと言っている。
私は不思議に思って彼女の側に行くと、彼女は「お姉さまと食事デート、お姉さまと食事デート、お姉さ……」とずっと呟いている。
「フェリさん」
「はい!」
「今夜は料理を作って貰っていいでしょうか?」
「そんな……」
「よろしくお願いしますね?」
「はい、お願いしてきます……」
「それでは少しだけ出てきますね」
「はい。いってらっしゃいませ」
そうして、私たちは孤児院を一度後にする。
その途中に珍しく、キリルさんが話しかけてきた。
「好かれているのだな」
「へ? 何がですか?」
唐突な感じだったので、私もフリッツさんも何が何だか分からずに思わず足が止まってしまった。
「今日一日、お前についていて思ったことがある。こんなにも好かれる者が乱暴な者なんだろうかと」
「え……っと。私って乱暴なことってしましたっけ?」
彼と出会ってからの事を思い出してもそんな事をした記憶はハッキリ言ってない。というか自分の人生において暴力を振るった事なんてないような気さえする。
自分が孤児院にいたころの事を思い出したらあるかもしれないけど、もしかしてその時の知り合いだろうか?
「もしかして、実は昔に会ったことあります? なんだかそんな気がしてきました」
そう言えば孤児院にも彼のようなクールというか、口数の少ない子はいた気がする。たしか少し年上だったはずだ。そうだ、そうに違いない。
「いや、会ったことはなかったはずだ」
どうやら勘違いだったらしい。
「そうですか……」
「じゃあなんで乱暴なんて思ったんだ?」
ちょっと凹んでいる私を余所に、フリッツさんが聞いてくれる。
「風の噂で」
「風の……」
「噂……?」
私とフリッツさんは顔を見合わせる。そんなことがあっただろうかというものだ。
「あ」
そして、フリッツさんが何かを思い出したかのように手を叩く。
「思い出しましたか?」
「そういえば以前、チンピラをボコっただろう? あの時とか、あの、誰だったか、頭を丸めて更生したアイツの時の噂が広がったとか……」
「あー……って、それどっちもやったのはフリッツさんじゃないですか!? 何で私まで!?」
「あの時の迫力とか、吐いた言葉を思い出すなら仕方ないような気もするぞ」
「……。そういわれると確かに」
確かカスやろうとか色々言っていた気がする。
「……その話だったかもしれない」
「やっぱりそうだ。きっと広まっているに違いない」
「ええー。そんな……」
実際にやってないのにそんな風に広がるなんてどう考えてもおかしくはないだろうか……。
「まぁ、そんな噂もあるかもしれないが、クロエは優しいいいやつだよ」
ポン、とフリッツさんが私の頭に手を乗せてくる。
「フリッツさん……」
「だから、乱暴なんてことは絶対にない。分かったか?」
「ああ、少し考えを改める必要があるみたいだ」
「そうするといい」
私たちは荷物を取りに宿まで帰る。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
「俺も泊まっていいだろうか?」
「?」
そう言って来たのはキリルさんだった。まさかキリルさんまで? でも子供の世話を出来るような気はあんまりしないんだけど……。
「ダメだ。お前は俺から借りた金で泊まったんだろうが。それを無駄にするような事は許せないぞ」
「どうしてもか?」
さっきまでクールな感じだったのに、少し眉を下げただけで可哀そうな感じがしてきている。何だか許してしまいそうになる。
しかし、フリッツさんは甘くは無かった。
「そんな顔をされてもダメだ。第一、クロエと一緒に泊まったとしても部屋は別だぞ?」
「そうなのか?」
「当然じゃないですか?」
「そうか、分かった」
「それではお姉様! 料理も素晴らしい物を用意して待っていますね!」
「あ、用意してくださるんですか? どこかに食べに行こうかと思っていたんですが」
「……」
「?」
フェリさんは動きを止めて何かぼそぼそと言っている。
私は不思議に思って彼女の側に行くと、彼女は「お姉さまと食事デート、お姉さまと食事デート、お姉さ……」とずっと呟いている。
「フェリさん」
「はい!」
「今夜は料理を作って貰っていいでしょうか?」
「そんな……」
「よろしくお願いしますね?」
「はい、お願いしてきます……」
「それでは少しだけ出てきますね」
「はい。いってらっしゃいませ」
そうして、私たちは孤児院を一度後にする。
その途中に珍しく、キリルさんが話しかけてきた。
「好かれているのだな」
「へ? 何がですか?」
唐突な感じだったので、私もフリッツさんも何が何だか分からずに思わず足が止まってしまった。
「今日一日、お前についていて思ったことがある。こんなにも好かれる者が乱暴な者なんだろうかと」
「え……っと。私って乱暴なことってしましたっけ?」
彼と出会ってからの事を思い出してもそんな事をした記憶はハッキリ言ってない。というか自分の人生において暴力を振るった事なんてないような気さえする。
自分が孤児院にいたころの事を思い出したらあるかもしれないけど、もしかしてその時の知り合いだろうか?
「もしかして、実は昔に会ったことあります? なんだかそんな気がしてきました」
そう言えば孤児院にも彼のようなクールというか、口数の少ない子はいた気がする。たしか少し年上だったはずだ。そうだ、そうに違いない。
「いや、会ったことはなかったはずだ」
どうやら勘違いだったらしい。
「そうですか……」
「じゃあなんで乱暴なんて思ったんだ?」
ちょっと凹んでいる私を余所に、フリッツさんが聞いてくれる。
「風の噂で」
「風の……」
「噂……?」
私とフリッツさんは顔を見合わせる。そんなことがあっただろうかというものだ。
「あ」
そして、フリッツさんが何かを思い出したかのように手を叩く。
「思い出しましたか?」
「そういえば以前、チンピラをボコっただろう? あの時とか、あの、誰だったか、頭を丸めて更生したアイツの時の噂が広がったとか……」
「あー……って、それどっちもやったのはフリッツさんじゃないですか!? 何で私まで!?」
「あの時の迫力とか、吐いた言葉を思い出すなら仕方ないような気もするぞ」
「……。そういわれると確かに」
確かカスやろうとか色々言っていた気がする。
「……その話だったかもしれない」
「やっぱりそうだ。きっと広まっているに違いない」
「ええー。そんな……」
実際にやってないのにそんな風に広がるなんてどう考えてもおかしくはないだろうか……。
「まぁ、そんな噂もあるかもしれないが、クロエは優しいいいやつだよ」
ポン、とフリッツさんが私の頭に手を乗せてくる。
「フリッツさん……」
「だから、乱暴なんてことは絶対にない。分かったか?」
「ああ、少し考えを改める必要があるみたいだ」
「そうするといい」
私たちは荷物を取りに宿まで帰る。
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