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第2章 聖女は決別する

106話 教会で

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 宿を取った私たちは、教会に来ていた。

 そして、先生の元へと向かう。

「先生!」

 受付の人に呼び出してもらうと、丁度いるということだった。なので呼んでもらい5分もかからずに来てくれた。

「クロエ!」

 私は先生に抱きつき、先生もそんな私を抱きしめてくれた。

「先生、ありがとうございました。先生のお陰でリッター村を守る事が出来ました」
「何言ってるのよクロエ、貴方がいたから守れたのよ。多少の報告は聞いているけど、そんな事はいいわ、貴方が無事だったのならそれでいいのよ」
「はい。皆さんがとてもよくしてくださったお陰なんです」
「それは貴方がちゃんとしているからよ。その証拠に、貴方がしっかりしているから集まった人達もしっかりしていそうだしね」
「そうだといいんですが……」
「クロエ、自信を持ちなさい。何度も言わせないで、貴方が一番だったから……その、なれたのよ」

 何でそんなに言い淀むんだろうと思って先生の視線を追うと、その先にはフリッツさんが所在なさげに、キリルさんがじーっと私たちの事を見つめていた。

「あの……。その……。ちょっと席を外して頂けます?」
「ああ、適当にいるからな」
「……」
「おい、行くぞ」

 フリッツさんはそう言ってどこかに行ってくれたが、キリルさんはそのままだった。

 しかしそこはフリッツさんが彼のコートの襟首を掴み、引きずって行く。

 キリルさんはその姿のままでもじっとこちらを見ていたけど、どうしてそこまで見てくるんだろうか。

「それにしてもクロエ、良かったわ。貴方が無事で。折角助かったはずだったのに」
「いえ、護衛につけて貰った冒険者の方々がとても強くって」
「あの人たちが? あの人達は……悪くはないけど、魔物相手だとそこまで強くはないわよ」
「そうなんですか?」
「ええ、こんなことになると思って連れてきた人達じゃないわ。でもいいのよ。皆無事だったって聞いているし、本当に貴方は私の自慢の子よ?」
「ありがとうございます」
「それにしてもあのキリッとした新しいイケメンはいつの間に仲間になったの?」

 先生の雰囲気がさっきと変わって、新しいおもちゃを見つけたようなものになった。

「それが……。なぜか一緒についてきたいと言って来まして……」
「ついてきたいって言ったから連れてきたの? 大丈夫なの?」

 先生の顔が結構曇っている。流石にまずかった様な気がしないでもないけど、それでも仕方ない。

「ええ、ちょっと事情がありまして」
「数日ここで待っていてくれれば解決出来るかもしれないけど、どうする?」
「解決ですか?」
「ええ、その為の人も到着するかもしれないから」
「よくわからないんですけど、どうなるんですか?」
「それは秘密よ。大人の方法だからね」
「大人の方法……」

 なんだろう。大人の方法って。でも解決してくれるんならやってもらった方がいいような気も……。ってダメだダメだ、あんまりここにいると追っての人が来るかもしれないから長居はしたくない……。

「明日か明後日には旅に出たいので、多分大丈夫だと思います」

 先を急ぎたいので今回はやめておくことにした。

「そう、もし何かあったら言いなさい」
「はい」
「それじゃあご飯でも一緒に食べに行く? って言いたい所なんだけど、今日は予定があるのよね……」
「いえ、先生の顔が見られただけで満足です。明日か明後日にはここを出るんですけど、空いている時間はありますか?」
「ごめんなさい。少し忙しいことになりそうで……」

 先生は俯いて申し訳なさそうにしている。

「顔を上げてください! またどこかであった時に一杯お話を考えておきますから。その時にご飯を一緒に行きましょう」
「ええ、そうね。クロエ、本当に必要な事があったら言うのよ?」
「はい、今は大丈夫……。あの、やっぱり1ついいでしょうか?」
「なに?」
「修道服をもう数枚頂けないでしょうか?」
「そんなことならお安い御用よ。少し待っていて」
「はい」

 勇者像の依頼をしている時に思っていたのだ。服は大事に使っているが、それなりに傷だらけになる。前の聖女用の者はかなり質のいいものを使われていたらしく、そこまで傷や汚れは目立たなかった。

 だけど、今着ている修道服は違う。意外とずっと着ていると傷が目立ち始めたのだ。流石にこのままでは良くないと思い、今回こうして頼んだ。

「勿論よ。5枚あればいい?」
「そんなにもいいんですか?」
「ええ、ここはそれなりに大きい教会だから予備はあるわ。取ってくるから少し待っていて」
「はい」

 先生は取りに行ってくれて、帰ってきた時には本当に5枚も持って来てくれていた。

「着れないと思ったらちゃんと捨てなさい。それと、私があげた指輪は持ってる?」
「はい。ここに」

 私はマジックバックから指輪を取り出す。

「それを教会で見せれば予備位簡単にくれるわ。気軽に使いなさい」
「そうなんですか? 分かりました」
「それと、ケルベロスの時の依頼料はちゃんと払ったのよね?」
「はい。勿論です」
「倒したケルベロスの代金は貰ったのかしら?」
「それが……。色々ありまして貰っていないというか、村のためにとか他の人の為に渡して来たと言いますか……」

 そう、実は貰うべきなのでは? と思わないでもないが、その査定が出るまでに時間がかかり、その為にはあの村に残らなければならないか、彼らと一緒にここまで来ることになっていただろう。だから、カルラさんに書き置きを残してきた。今の財布を考えるとちょっと間違っている様な気がするが、あの時は一刻も早く出なければいけないと思っていたのだから仕方ない。

「全く、貴方って子は。そんなにお金を持つのが怖いのかしら?」
「そういう訳ではないんですが……」
「今はあんまり手持ちがないのよね。これくらいなら多少は安心でしょう? 持っていきなさい」

 先生が差し出して来たのは金貨1枚だった。

「こんなにいいんですか?」
「いいわよ。でも、ちゃんと食べるのよ。じゃないと大きくなれないんだから」
「もう十分大人ですよ」
「私から見たらまだまだおこちゃまよ。さ、もう行きなさい」
「はい。先生。お元気で」
「ええ、こうして会えたんですもの。また会えるわ」
「はい」

 こうして私たちは別れて、次の場所を目指す。
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