防御魔法しか使えない聖女はいらないと勇者パーティーを追放されました~そんな私は優しい人と出会って今は幸せです

土偶の友

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第1章 聖女は出会う

99話 もっと食べた方がいい

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「おい! クロエさんはどこにいる!」
「さっきまでどこかの家に運ばれていったと聞いたぞ!」
「あっちで目撃情報があった!」
「探せ! 彼女がどこに入るかは後でいい! まずは確保だ!」
「そうだ! 彼女を落とす前に見つけろ!」
「紐で縛ってもいい! まずはひっとらえろ!」
「ひぇぇ~」

 私は家の外で行なわれる言葉を聞きながら冷汗をかいていた。

 私は目が覚めてから動けるようになるまで2日もかかってしまっていた。だけど、その間に他の冒険者。一緒にケルベロスに挑んだ9人の人達だ。彼らが私の事を話したりして、他の冒険者と一緒になって私の事を探しているらしい。それなりに魔法を頑張って張ったつもりだけど……。それでも彼らに攻撃が通ってしまい動けなくなってしまった。もしかしたらその事を怒っているのかもしれない。

「どうしよう……」

 このまま外に出て行っても確実にバレるだろう。一度夜に行こうかと相談してみたが、その時間は斥候の人達が交代で見張っているらしい。これでは旅に出るに出られない。

 コンコン。

 一人悶々と部屋の中で考えていると、部屋がノックされる。ここでノックをするのはカルラさんかフリッツさんしかいないから問題はないと思う。

「どうぞ」
「入るぞ」

 そう言って入ってきたのはフリッツさんだった。その背には人が入れるような大きな籠を背負っている。

「どうしたんですか?」
「これに入れ。それで行くぞ」
「はい?」

 彼は何をいっているのだろうか?

「これに入れてお前を隠して連れていく。だから入れ」
「いやいや、流石にバレますって。ダメですって。冒険者を舐めてますって」

 門を出る時に必ず調べられる気がする。

「大丈夫だ。これでばあさん家に行って、そこから買い付けってことでダラスまで向かう。いつもの買い付けだし、村の住人だ。流石にそれには邪魔は出来ない」
「ほんとですか……?」

 あれだけ元気に走り回っている彼らであれば、何だかんだ見つけられそうな気も……。

「ばあさんが大丈夫っていうんだから大丈夫だ」
「それでは……分かりました」

 物凄く不本意だけど籠に入ることにした。取りあえず荷物などは全て鞄の中に入れる。

「ヨイショっと。上から野菜を入れるぞ」
「はい。きゃっ! ちょっと多すぎません!?」
「これくらい入れないとバレちまうからな」
「もう……それじゃあ行ってくださって大丈夫です」
「ああ、行くぞ」

 彼は私が入った籠をヒョイと持ち上げて背負われたのが感覚で分かる。

「お前、もう少し食わないとダメだぞ。軽すぎる」
「そ、そうですか?」
「ああ、しっかりと食わないといけないからな。料理を作る時は大盛で頼むぞ」
「そっちが本命じゃないですか」
「それは料理が作られてからのお楽しみだ」
「やっぱり作らないといけないんじゃないですか」
「おっと、これから外に出るから静かにしておけよ?」
「あ、カルラさんに挨拶を」
「母さんならもう師匠の所に行ってるよ。いつもの行動に変に思われないように今しかいけない」
「わかりました……」
「ほとぼりが冷めたら一度戻ってくればいい」
「そうですね。分かりました」

 フリッツさんはドアを開けて外に出る。そこはある意味戦場だった。

「クロエさんはどこだ!」
「クロエさんを探せ!」
「フリッツ殿! クロエさんを知りませんか!」
「だから何度知らないと言えばいいんだ、もう何度も答えただろう!?」

 フリッツさんが怒っている相手は孤児院の優し気な人だったはずだ。あの人がここまで変わるの何てそんなに……。

「それは……すまんかった。だが、我々も彼女に礼を言いたいのだ。このままどこかに行かれてしまってはな……」

 あれ? 私の想像と違う? もしかして怒られない?

「その気持ちは彼女にきっと伝わっている。だから気にしなくてもいいと思う。むしろ、こんなに探し回ったら彼女が怖がってしまうんじゃないのか?」
「それは……そうかもしれんが、他の所が血眼で探し回っているのだ。我々も遅れる訳にはいかんのだ」
「そうか、頑張ってくれ」
「ああ、それでは……その背中の籠は何かな?」
「これか? 今から食材のばあさんの所に持っていくんだよ。ほら」
「!?」

 そう言ってフリッツさんが籠を揺らして、中を冒険者の人にみせるようにしたため、めちゃくちゃ驚く。危うく声が出るところだった。

「野菜とかを持って来いって言われててな。少し前に戦って怪我したばかりなのに困る」
「そうだったのですか。これは失礼しました。それでは私はクロエ殿の捜索に戻るのでこれで」
「ああ、頑張ってくれ」
「失礼」

 そう言って彼はどこかに行ってしまった。

「ほっ」

 私が安心したその時、新たな刺客が現れる。

「おや、フリッツ殿。今日はクロエ殿とご一緒ではないのですかな?」

 そこに来たのは声からして隊長だった。もしかして彼も私を狙っているのだろうか。さっきは感謝と言ってくれていたが、彼の場合は違うかもしれない。

「最近はどこに行ったのか分からなくってね。隊長こそご存じないですか?」
「残念ながら感謝の言葉を言えないままでしてね。お会いして是非ともお礼を言いたかったのですが、我々の命を救って下さってありがとうと」
「……」
「それは、会えた時に言えるといいですね」
「はい、もし彼女にお会いした時は是非ともお伝えください。あの時ケルベロスに向かっていった者達は皆同じ思いだと」

 私は、フリッツさんにしか聞こえないような小声で一つだけ聞いて欲しい事を聞いた。

「私は、申し訳なく思っています」
「何をですか?」
「あの時、貴方がたにお願いした事はケルベロス1体の討伐に魔物も50~100程度だった。それが蓋を開けて見れば倍以上の数だった。それなのに、こんなにも危険な依頼にさせたのにどうしてそんな風に思えるのでしょうか」

 これは、私の心から出た本当の気持ちだ。私が彼らを巻き込み、そして傷つけそうになった。それなのに、何で私に対して、クロエという女性に対してそんな風に思えるのか、私は不思議でならなかった。

 しかし、隊長はさも当然のように言う。

「私が話を受けると決めた時よりも圧倒的にいい条件だったからです」
「え?」
「ん?」

 私は慌てて口を押さえる。声が少し漏れてしまっていた。

「どういうことだ?」

 フリッツさんが何とかフォローしてくれる。

「それは私が最初にこの依頼を受けた時、ケルベロスの群れを我々だけで守り切れ。それくらいの勢いで言われていたからですよ」
「そうだったのか?」
「ええ、我々は最悪10人と貴方がただけでここに来る心づもりでしたから」
「そんな……」
「それほど、私に依頼してきた人やその上の方には恩を感じているのです。その方々が頼むと言われれば我々は断る言葉を持っていません」
「そうか……」
「勿論。その考えは我々だけで、他の方々がどうだったのかは正直分からない。ですが、ここに来ると決めたにはそれ相応の理由があるので気に病む必要はありません。これで良いですかな?」
「ああ、満足した」
「それではこれで、そうそう、これからどちらに向かうんですかな?」
「ああ、食材のばあさんの所に行く」
「だとすると、こっちの道は人が多くてあまりよくないでしょう。そちらの道から行くことをおすすめします」
「感謝する」
「ええ、ありがとうございました。お元気で」

 隊長が最後、去り際に何を言っていたのか私には聞こえなかった。フリッツさんになら聞こえていたのだろうか。

 フリッツさんは何も言わずに歩き出した。
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