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第1章 聖女は出会う
90話 ドン・キホーテの鎧
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「私もですか?」
「そうだ。君のあの防御魔法はケルベロスを倒すには必須だ。最初はこの作戦は無理かと思ったが、君の力があれば行ける。だから一緒に来てくれ」
「分かりました。私が役に立てるのであれば行きます」
「クロエ。流石に危険すぎる。隊長、最初に防御魔法をかけて後はここで守るのでもいいのではないか? そんな危険にクロエをおく必要は」
「ある。ケルベロスとの戦いがどれ程長引くか分からんのだ。それどころか、ケルベロスに辿り着くのにすら手間取るかもしれない。その時に急にあの防御魔法が無くなれば死ぬ可能性すらある」
「それは……そうだが……」
「フリッツさん。心配してくださってありがとうございます。でも私は行きます。私が皆を助けられるのなら。助けたい」
「クロエ……」
フリッツさんの心配そうな視線に私は笑って返す。
「分かった。だが、彼女は安全な場所に居させてくれ」
「当然だ。今回の作戦の肝だ。最も安全な中央に居てもらう」
「それならいい」
「ちょっと待たんか」
「「「?」」」
今後ろでドン・キホーテさんの声がしたような。と思い振り返ると、そこには今まで見たこともないような鎧を纏ったドン・キホーテさんがいた。その鎧は真紅に染まっていて、返り血を浴びて来たかのようだ。細部にはかなり趣向が凝らされているらしいが、古く、修理もされていないのか傷が目立つ。
「その鎧は……」
「何、昔友人に託された物。儂の物ではない。だから気にするな。それよりもその作戦。儂もついて行こう」
「しかし貴方は傷が」
隊長がそう言った時に彼は両肩をぐるぐる回したり、ぴょんぴょんと跳ねて無事をアピールし出した。
「儂が隠しておった傷薬を使った。本当は使いたくなかったが、この状況になれば使わざるを得ん。それなら問題はないだろう?」
「それならばいいのですが……」
「儂も昔は腕をならしたもんだ。期待していいぞ」
「分かりました。お願いしましょう」
「ドン・キホーテさん……」
「師匠……」
「お前達も儂を心配してくれるのはいいが、歳寄り扱いし過ぎるのは良くないぞ。それに、フリッツの剣の師匠でもある。実力は問題あるまい?」
その言葉に私たちは何も言い返せなかった。それほどに今の状況は悪い。
こうしてBランク冒険者が集まり行くことに決まった。
そこに行く途中、私はドン・キホーテさんが軽く体をならしてくると言ってどこかに行ったのをいいことに、フリッツさんに分からないことを聞く。
「フリッツさん」
「なんだ?」
「ドン・キホーテさんの着ている鎧って凄いんですか?」
「俺にも分からん」
「あれは帝国近衛師団の鎧だ」
「帝国の?」
私たちの疑問に答えてくれるのは隊長だった。流石隊長、物知りだ。
「ああ、人間勢力で最大最強の国家と呼ばれる中で、最強の軍隊と呼ばれるのが帝国近衛師団。その力は一人一人がAランク冒険者以上と言われ、戦場に出て敗北したことがないとまで言われる部隊だ」
「そんなに凄いんですか」
「その部隊が出て来たという噂が広まっただけで、反乱が収まったこともあると言われるほどの部隊だ。噂だけなら聞いたことはないか?」
「俺は……ないな」
「私も……ないですね」
孤児院とか院にはそういった外の情報はほとんど入ってこなかったからなぁ。
「この村だったらそうそう出会うこともないから当然か」
「ドン・キホーテさんはそんな凄い人と知り合いだったんですね」
「師匠の素性は俺も教えて貰ってないからな。昔は一体どこでなにをやっていたのやら」
「ふむ……」
それから集まった時にはドン・キホーテさんもいた。
隊長が作戦を説明し、その同意を得る。他にいい意見も反対もないようだ。
「後どれくらいで魔物の攻撃は本格化するんだ?」
「それはケルベロスにでも聞いてくれ、斥候が言うにもうそろそろ来るんじゃないかという話だったが」
「そりゃそうか」
「答えてくれる人がいたら良かったんだがな」
「求め過ぎだ。ここにこれだけのメンバーがいる。それだけでいい」
そう言って全員が軽く笑う。良かった。雰囲気は重いがそれでもどうしようもない程ではない。
「それまでにここにいるメンバーには休んで英気を充分に養って貰いたい。この後の戦いはどうなるか分からん」
「「「了解」」」
そこにいた全員は別れてテントに入っていく。そして攻撃が本格化した時に備える。
「皆流石だな」
「そうなんですか?」
フリッツさんがカルラさんの家に向かう途中にそう言い出した。
「ああ、本来この数の敵に囲まれているとなれば逃げる逃げない、作戦に反対して自分たちだけは生き残ろうとする連中もいる」
「え?」
この状況でそんな?
「あるんだよ。だけど彼らは流石Bランク冒険者達に騎士だ。ここで文句を言っても何も始まらないことを知っている。そして空気が悪くなれば更に生存率は下がるだろう」
「全然知らなかったです」
「まぁ、これだけ大規模にならないと起きないことはあるからな」
「フリッツさんは経験があるんですか?」
「ああ、Cランクに上がる時にはそこそこの規模でやるからな。そこで揉めるやつもいたりして大変だったぞ。マジで」
「それは……面倒ですね」
「ああ、そういう訳だ。よし、家に着いた。後は休んで英気を養うぞ。クロエは魔力を回復しておけよ?」
「はい、分かりました」
私は以前寝た部屋で寝かせてもらう。とても落ち着く香りがした。
「そうだ。君のあの防御魔法はケルベロスを倒すには必須だ。最初はこの作戦は無理かと思ったが、君の力があれば行ける。だから一緒に来てくれ」
「分かりました。私が役に立てるのであれば行きます」
「クロエ。流石に危険すぎる。隊長、最初に防御魔法をかけて後はここで守るのでもいいのではないか? そんな危険にクロエをおく必要は」
「ある。ケルベロスとの戦いがどれ程長引くか分からんのだ。それどころか、ケルベロスに辿り着くのにすら手間取るかもしれない。その時に急にあの防御魔法が無くなれば死ぬ可能性すらある」
「それは……そうだが……」
「フリッツさん。心配してくださってありがとうございます。でも私は行きます。私が皆を助けられるのなら。助けたい」
「クロエ……」
フリッツさんの心配そうな視線に私は笑って返す。
「分かった。だが、彼女は安全な場所に居させてくれ」
「当然だ。今回の作戦の肝だ。最も安全な中央に居てもらう」
「それならいい」
「ちょっと待たんか」
「「「?」」」
今後ろでドン・キホーテさんの声がしたような。と思い振り返ると、そこには今まで見たこともないような鎧を纏ったドン・キホーテさんがいた。その鎧は真紅に染まっていて、返り血を浴びて来たかのようだ。細部にはかなり趣向が凝らされているらしいが、古く、修理もされていないのか傷が目立つ。
「その鎧は……」
「何、昔友人に託された物。儂の物ではない。だから気にするな。それよりもその作戦。儂もついて行こう」
「しかし貴方は傷が」
隊長がそう言った時に彼は両肩をぐるぐる回したり、ぴょんぴょんと跳ねて無事をアピールし出した。
「儂が隠しておった傷薬を使った。本当は使いたくなかったが、この状況になれば使わざるを得ん。それなら問題はないだろう?」
「それならばいいのですが……」
「儂も昔は腕をならしたもんだ。期待していいぞ」
「分かりました。お願いしましょう」
「ドン・キホーテさん……」
「師匠……」
「お前達も儂を心配してくれるのはいいが、歳寄り扱いし過ぎるのは良くないぞ。それに、フリッツの剣の師匠でもある。実力は問題あるまい?」
その言葉に私たちは何も言い返せなかった。それほどに今の状況は悪い。
こうしてBランク冒険者が集まり行くことに決まった。
そこに行く途中、私はドン・キホーテさんが軽く体をならしてくると言ってどこかに行ったのをいいことに、フリッツさんに分からないことを聞く。
「フリッツさん」
「なんだ?」
「ドン・キホーテさんの着ている鎧って凄いんですか?」
「俺にも分からん」
「あれは帝国近衛師団の鎧だ」
「帝国の?」
私たちの疑問に答えてくれるのは隊長だった。流石隊長、物知りだ。
「ああ、人間勢力で最大最強の国家と呼ばれる中で、最強の軍隊と呼ばれるのが帝国近衛師団。その力は一人一人がAランク冒険者以上と言われ、戦場に出て敗北したことがないとまで言われる部隊だ」
「そんなに凄いんですか」
「その部隊が出て来たという噂が広まっただけで、反乱が収まったこともあると言われるほどの部隊だ。噂だけなら聞いたことはないか?」
「俺は……ないな」
「私も……ないですね」
孤児院とか院にはそういった外の情報はほとんど入ってこなかったからなぁ。
「この村だったらそうそう出会うこともないから当然か」
「ドン・キホーテさんはそんな凄い人と知り合いだったんですね」
「師匠の素性は俺も教えて貰ってないからな。昔は一体どこでなにをやっていたのやら」
「ふむ……」
それから集まった時にはドン・キホーテさんもいた。
隊長が作戦を説明し、その同意を得る。他にいい意見も反対もないようだ。
「後どれくらいで魔物の攻撃は本格化するんだ?」
「それはケルベロスにでも聞いてくれ、斥候が言うにもうそろそろ来るんじゃないかという話だったが」
「そりゃそうか」
「答えてくれる人がいたら良かったんだがな」
「求め過ぎだ。ここにこれだけのメンバーがいる。それだけでいい」
そう言って全員が軽く笑う。良かった。雰囲気は重いがそれでもどうしようもない程ではない。
「それまでにここにいるメンバーには休んで英気を充分に養って貰いたい。この後の戦いはどうなるか分からん」
「「「了解」」」
そこにいた全員は別れてテントに入っていく。そして攻撃が本格化した時に備える。
「皆流石だな」
「そうなんですか?」
フリッツさんがカルラさんの家に向かう途中にそう言い出した。
「ああ、本来この数の敵に囲まれているとなれば逃げる逃げない、作戦に反対して自分たちだけは生き残ろうとする連中もいる」
「え?」
この状況でそんな?
「あるんだよ。だけど彼らは流石Bランク冒険者達に騎士だ。ここで文句を言っても何も始まらないことを知っている。そして空気が悪くなれば更に生存率は下がるだろう」
「全然知らなかったです」
「まぁ、これだけ大規模にならないと起きないことはあるからな」
「フリッツさんは経験があるんですか?」
「ああ、Cランクに上がる時にはそこそこの規模でやるからな。そこで揉めるやつもいたりして大変だったぞ。マジで」
「それは……面倒ですね」
「ああ、そういう訳だ。よし、家に着いた。後は休んで英気を養うぞ。クロエは魔力を回復しておけよ?」
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