上 下
90 / 203
第1章 聖女は出会う

90話 ドン・キホーテの鎧

しおりを挟む
「私もですか?」
「そうだ。君のあの防御魔法はケルベロスを倒すには必須だ。最初はこの作戦は無理かと思ったが、君の力があれば行ける。だから一緒に来てくれ」
「分かりました。私が役に立てるのであれば行きます」
「クロエ。流石に危険すぎる。隊長、最初に防御魔法をかけて後はここで守るのでもいいのではないか? そんな危険にクロエをおく必要は」
「ある。ケルベロスとの戦いがどれ程長引くか分からんのだ。それどころか、ケルベロスに辿り着くのにすら手間取るかもしれない。その時に急にあの防御魔法が無くなれば死ぬ可能性すらある」
「それは……そうだが……」
「フリッツさん。心配してくださってありがとうございます。でも私は行きます。私が皆を助けられるのなら。助けたい」
「クロエ……」

 フリッツさんの心配そうな視線に私は笑って返す。

「分かった。だが、彼女は安全な場所に居させてくれ」
「当然だ。今回の作戦の肝だ。最も安全な中央に居てもらう」
「それならいい」
「ちょっと待たんか」
「「「?」」」

 今後ろでドン・キホーテさんの声がしたような。と思い振り返ると、そこには今まで見たこともないような鎧を纏ったドン・キホーテさんがいた。その鎧は真紅に染まっていて、返り血を浴びて来たかのようだ。細部にはかなり趣向が凝らされているらしいが、古く、修理もされていないのか傷が目立つ。

「その鎧は……」
「何、昔友人に託された物。儂の物ではない。だから気にするな。それよりもその作戦。儂もついて行こう」
「しかし貴方は傷が」

 隊長がそう言った時に彼は両肩をぐるぐる回したり、ぴょんぴょんと跳ねて無事をアピールし出した。

「儂が隠しておった傷薬を使った。本当は使いたくなかったが、この状況になれば使わざるを得ん。それなら問題はないだろう?」
「それならばいいのですが……」
「儂も昔は腕をならしたもんだ。期待していいぞ」
「分かりました。お願いしましょう」
「ドン・キホーテさん……」
「師匠……」
「お前達も儂を心配してくれるのはいいが、歳寄り扱いし過ぎるのは良くないぞ。それに、フリッツの剣の師匠でもある。実力は問題あるまい?」

 その言葉に私たちは何も言い返せなかった。それほどに今の状況は悪い。

 こうしてBランク冒険者が集まり行くことに決まった。

 そこに行く途中、私はドン・キホーテさんが軽く体をならしてくると言ってどこかに行ったのをいいことに、フリッツさんに分からないことを聞く。

「フリッツさん」
「なんだ?」
「ドン・キホーテさんの着ている鎧って凄いんですか?」
「俺にも分からん」
「あれは帝国近衛師団の鎧だ」
「帝国の?」

 私たちの疑問に答えてくれるのは隊長だった。流石隊長、物知りだ。

「ああ、人間勢力で最大最強の国家と呼ばれる中で、最強の軍隊と呼ばれるのが帝国近衛師団。その力は一人一人がAランク冒険者以上と言われ、戦場に出て敗北したことがないとまで言われる部隊だ」
「そんなに凄いんですか」
「その部隊が出て来たという噂が広まっただけで、反乱が収まったこともあると言われるほどの部隊だ。噂だけなら聞いたことはないか?」
「俺は……ないな」
「私も……ないですね」

 孤児院とか院にはそういった外の情報はほとんど入ってこなかったからなぁ。

「この村だったらそうそう出会うこともないから当然か」
「ドン・キホーテさんはそんな凄い人と知り合いだったんですね」
「師匠の素性は俺も教えて貰ってないからな。昔は一体どこでなにをやっていたのやら」
「ふむ……」

 それから集まった時にはドン・キホーテさんもいた。

 隊長が作戦を説明し、その同意を得る。他にいい意見も反対もないようだ。

「後どれくらいで魔物の攻撃は本格化するんだ?」
「それはケルベロスにでも聞いてくれ、斥候が言うにもうそろそろ来るんじゃないかという話だったが」
「そりゃそうか」
「答えてくれる人がいたら良かったんだがな」
「求め過ぎだ。ここにこれだけのメンバーがいる。それだけでいい」

 そう言って全員が軽く笑う。良かった。雰囲気は重いがそれでもどうしようもない程ではない。

「それまでにここにいるメンバーには休んで英気を充分に養って貰いたい。この後の戦いはどうなるか分からん」
「「「了解」」」

 そこにいた全員は別れてテントに入っていく。そして攻撃が本格化した時に備える。

「皆流石だな」
「そうなんですか?」

 フリッツさんがカルラさんの家に向かう途中にそう言い出した。

「ああ、本来この数の敵に囲まれているとなれば逃げる逃げない、作戦に反対して自分たちだけは生き残ろうとする連中もいる」
「え?」

 この状況でそんな?

「あるんだよ。だけど彼らは流石Bランク冒険者達に騎士だ。ここで文句を言っても何も始まらないことを知っている。そして空気が悪くなれば更に生存率は下がるだろう」
「全然知らなかったです」
「まぁ、これだけ大規模にならないと起きないことはあるからな」
「フリッツさんは経験があるんですか?」
「ああ、Cランクに上がる時にはそこそこの規模でやるからな。そこで揉めるやつもいたりして大変だったぞ。マジで」
「それは……面倒ですね」
「ああ、そういう訳だ。よし、家に着いた。後は休んで英気を養うぞ。クロエは魔力を回復しておけよ?」
「はい、分かりました」

 私は以前寝た部屋で寝かせてもらう。とても落ち着く香りがした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...