上 下
85 / 203
第1章 聖女は出会う

85話 お願いします

しおりを挟む
 カルラさんは立ち上がって私に近づいて来た。

「クロエさん」
「はい」
「あの子を守って上げて頂戴。いえ、お願いします」
「はい? え? どうしたんですか?」

 カルラさんは立ち上がり私に縋りついてくる。

「貴方がどういった理由であの子といるのかは私は知らない。それでも、一緒にいてくれているということは悪くは思っていないはず。だから、あの子の事をお願い」
「私に出来ることだったら全力でやらせていただきます」
「そう……。あの子はああ見えて色々と抱え込んでしまうの。私が好きにしてもいいって言ってもここに残ろうとする。旅が好きで色んな場所に行くのが好きなのに、あの子はずっと私の側に居てくれる。とっても優しい子」
「はい、知っています」

 カルラさんは純粋にフリッツさんを思っているようだった。その顔は私を見ているが、見ているのはフリッツさんな気がした。

「そう、もうそんなに仲良くなっていたのね。あの子それなりにいい顔をしているでしょう?」
「え? ま、まぁ。はい。そうだと思います」
「ふふ、あの子はあれで色々あってガードが固いから、あんまり人に心情を言わないし、心を許さない子なのよ。それどころか人によっては全く笑わなくなるし」
「そうなんですか?」

 割と笑ってるイメージが強いから衝撃の事実だ。

「ええ、それはあの子が貴方に心を許しているからだと思うわ。ありがとう」
「私の方こそ彼に助けていただいたので」
「そうね。お互いのことを思う気持ちは大切よ。私が言いたかったのはそれだけ」
「ありがとうございます。フリッツさんの違った一面を知れてよかったです」
「ならあの子を守ってあげて、女の子に言うのも間違ってるかもしれないけど」
「私に出来る限りはさせてもらいます」
「気を付けてね。話は以上よ」
「分かりました。ケルベロスをちょっと倒しに行ってきますね」
「ええ」

 私はそう言って扉を出て、外にいるフリッツさんに合流した。

「何の話をしてたんだ?」
「それは簡単ですよ?」
「?」
「ケルベロスをサッサと倒して、皆無事に帰って来ようってお話ですよ」
「なんだ、それだったら俺がいても良かったじゃないか」
「ダメですよ。これは女のお話なんです」
「はは、仕方ないな。それを言われたら引き下がるしかない」

 やっぱりフリッツさんはよく笑う人だ。この笑顔も私は守りたい。そう思った。

「それではドン・キホーテさんのお見舞いに行きましょう」
「そうだな。ちょっと茶化しに行かないと」
「もう、喧嘩を売ってはダメですよ?」
「そんなことはしないよ」

 私とフリッツさんはドン・キホーテさんの家へと向かう。


 その光景を見つめる者がいた。

「あの子をお願いします。聖女様……」

 その声は誰にも届くことはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...