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第1章 聖女は出会う
75話 ギルドマスター
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「そんな! 嘘でしょう!」
私たちは冒険者ギルドに来ていた。そして依頼を受付嬢に話すと信じられないと言ったように驚かれる。
「こんなことで嘘などつかない。早く依頼を出してくれ」
「そこまでの依頼は私には……」
「だったら出来る人を呼んでくれ。早く!」
「はい!」
彼女は直ぐに走り去ってしまう。
ギルさんはその姿を見て嘆息するが、さっきまでの威圧感は消えていた。彼とこちらで会ってから見たことのない表情を見続けている気がする。
「直ぐに来てくれるでしょう。ここの人はギルドマスターもサブギルドマスターもどちらも優秀ですから」
「そうなんですか?」
「ええ、ここは魔族との最前線といってもいいですからね。優秀で無ければ即座に他の場所に飛ばされるんですよ」
「それはそれで……」
怖い。しかし、ここに住む人としてはそれくらいの人がいなければ住むに住めないだろう。ただでさえ魔物は恐ろしいのに、魔族までいるのだ。注意しないわけにはいかない。
暫くすると、中から髪が真っ白になっている壮年の男性が出てきた。彼の風体は威圧感がにじみ出ていて、今すぐにでも殴りかかってきそうな。そんな迫力すら感じる。
その男は後ろにさっきの受付嬢を連れていて、その人が私たちを指さしている。彼は私たちの方に近づいてきた。
「待たせたな。ここで出来る話じゃない。こっちに来てもらおう」
「はい」
私たちは彼の後を追いかける。その言葉は強制力が込められていた。言うことを聞かなければ力ずくで連れていくと言っているようだ。
私たちはたった今彼らが来た通路を通っていく。そして、一つの部屋に通された。
中に入って促されるままに席に着く。
「それでは詳しいことを話してもらおうか」
「それではここは私が」
「お前は……ギルか?」
「大分前に一度お会いしただけなんですが、よく覚えていらっしゃいますね」
「部下に誘ったのだからな。それくらいは覚えている」
「……それでは話をします。一刻の猶予もありませんので」
ギルさんは近くにケルベロスとその集団が迫っていること、村は既に包囲されていて逃げ出せないこと、今すぐにでも依頼を出してほしいこと等をお願いしていた。
もちろん。私たちがケルベロスを倒したといったことは伏せてくれた。私たちが来たのは、あくまでもリッター村から出てきた冒険者ということだからだ。
「ケルベロスがそこまで……」
彼は腕を組んで何か考えている。
「ギルドマスター。お願いします。どうか協力して頂けないでしょうか?」
「したいのはやまやまだ。だが、それをするだけの戦力が足りん」
「戦力が? ここはダラスでしょう? なぜ足りなくなるというのですか」
「お前達がここに来る数日前。他の場所でも魔族や強力な魔物の動きが活発になっている。そこにそれなりの数の冒険者を派遣したのだ。だから戦力が足りていない。依頼を出してもいいが、ほとんど集まることはないと思え」
「そんな……」
「お金ならあります! だから何とか出来ませんか!」
私は必死で訴えかける。そんなに長くいた訳ではないけれど、フリッツさんに案内してもらい、優しくしてもらって、とてもいい場所だと思った。
だから、そんな場所だから、私は無くなって欲しくない。その思いは人一倍あるつもりだ。
「お前は?」
「Fランク冒険者です」
「なら引っ込んでいろ。力もないのに出しゃばるな」
「そんな!」
そう言うとギルドマスターは私を睨みつける。その目はまるで射殺すくらいの迫力があった。
「酷いことなど何もない。いいか? 力の無いものが行って何ができる? 力の無いものはただ頼り、祈るだけ。それで傷つくのは誰だと思う? 力を持った者達だ。お前達が力をつけないばかりに力を持つものが傷つき、時には倒れる。おかしいとは思わんか?」
「私だって……戦えます」
「ならせめてCランクになってから出直してこい。今回の相手はそれくらいの実力がいる相手だ」
その言葉に私は頭に血が上るのが分かった。
「私は!」
「俺なら文句はないか!」
私が聖女だと言おうとした所で、フリッツさんが遮った。いや、遮ってくれた。この時は邪魔をされたとしか思えなかったけれど、後から考えたらきっと助けてくれたのだと思う。
「お前は?」
「俺はCランク冒険者のフリッツ。これなら文句はないだろう?」
「ふん。お前が一人来たところでどうなる? その勇ましい想いは立派だが、相手はAランクの魔物。一体どうやって勝つと言うのだ」
「この街で依頼を出して戦力を集める」
「構わん依頼は自由だ。許可しよう。しかし、俺達ギルドがそれ以上の事をしないと理解しろ。いいな?」
「分かった」
「分かりました」
「そん……」
私は文句を言おうとしたが、フリッツさんに手で口を塞がれた。
ギルドマスターはその様子に気にした風もなく、さっさと部屋を出て行ってしまった。
私はフリッツさんの手を振り払い詰め寄る。
「何で邪魔するんですか! これだけの危機なのに! どうして!」
「ギルドマスターはそんな理由で止めたりしない。現に依頼を止めるようなことはしなかっただろ?」
「それが何の関係があるっていうんですか!」
「関係あるんですよ。彼はここのギルドマスター。先ほど、優秀だと言いましたよね?」
「言いました」
「その彼が、救いにいけない。そう言っているんです。彼は私情でそんなことをいう人間ではない。貴方は知らないので無理はないかもしれませんが」
「だから、ギルドは今本当に手一杯なんだ。依頼ボードに残っている依頼の数が多いも、ギルド内にいる冒険者が少なかったのはその為だろう」
「そんな……」
「だが諦める時ではありません」
「今日1日何とか集めてみましょう。ケルベロスを相手に出来る様な人は多くありませんが、頼めば何人かはきっと来てくれるはずです」
「分かりました」
「やろう」
私たちはその部屋を使って作戦会議を始める。といっても直ぐに決まったが。
「そんな! 嘘でしょう!」
私たちは冒険者ギルドに来ていた。そして依頼を受付嬢に話すと信じられないと言ったように驚かれる。
「こんなことで嘘などつかない。早く依頼を出してくれ」
「そこまでの依頼は私には……」
「だったら出来る人を呼んでくれ。早く!」
「はい!」
彼女は直ぐに走り去ってしまう。
ギルさんはその姿を見て嘆息するが、さっきまでの威圧感は消えていた。彼とこちらで会ってから見たことのない表情を見続けている気がする。
「直ぐに来てくれるでしょう。ここの人はギルドマスターもサブギルドマスターもどちらも優秀ですから」
「そうなんですか?」
「ええ、ここは魔族との最前線といってもいいですからね。優秀で無ければ即座に他の場所に飛ばされるんですよ」
「それはそれで……」
怖い。しかし、ここに住む人としてはそれくらいの人がいなければ住むに住めないだろう。ただでさえ魔物は恐ろしいのに、魔族までいるのだ。注意しないわけにはいかない。
暫くすると、中から髪が真っ白になっている壮年の男性が出てきた。彼の風体は威圧感がにじみ出ていて、今すぐにでも殴りかかってきそうな。そんな迫力すら感じる。
その男は後ろにさっきの受付嬢を連れていて、その人が私たちを指さしている。彼は私たちの方に近づいてきた。
「待たせたな。ここで出来る話じゃない。こっちに来てもらおう」
「はい」
私たちは彼の後を追いかける。その言葉は強制力が込められていた。言うことを聞かなければ力ずくで連れていくと言っているようだ。
私たちはたった今彼らが来た通路を通っていく。そして、一つの部屋に通された。
中に入って促されるままに席に着く。
「それでは詳しいことを話してもらおうか」
「それではここは私が」
「お前は……ギルか?」
「大分前に一度お会いしただけなんですが、よく覚えていらっしゃいますね」
「部下に誘ったのだからな。それくらいは覚えている」
「……それでは話をします。一刻の猶予もありませんので」
ギルさんは近くにケルベロスとその集団が迫っていること、村は既に包囲されていて逃げ出せないこと、今すぐにでも依頼を出してほしいこと等をお願いしていた。
もちろん。私たちがケルベロスを倒したといったことは伏せてくれた。私たちが来たのは、あくまでもリッター村から出てきた冒険者ということだからだ。
「ケルベロスがそこまで……」
彼は腕を組んで何か考えている。
「ギルドマスター。お願いします。どうか協力して頂けないでしょうか?」
「したいのはやまやまだ。だが、それをするだけの戦力が足りん」
「戦力が? ここはダラスでしょう? なぜ足りなくなるというのですか」
「お前達がここに来る数日前。他の場所でも魔族や強力な魔物の動きが活発になっている。そこにそれなりの数の冒険者を派遣したのだ。だから戦力が足りていない。依頼を出してもいいが、ほとんど集まることはないと思え」
「そんな……」
「お金ならあります! だから何とか出来ませんか!」
私は必死で訴えかける。そんなに長くいた訳ではないけれど、フリッツさんに案内してもらい、優しくしてもらって、とてもいい場所だと思った。
だから、そんな場所だから、私は無くなって欲しくない。その思いは人一倍あるつもりだ。
「お前は?」
「Fランク冒険者です」
「なら引っ込んでいろ。力もないのに出しゃばるな」
「そんな!」
そう言うとギルドマスターは私を睨みつける。その目はまるで射殺すくらいの迫力があった。
「酷いことなど何もない。いいか? 力の無いものが行って何ができる? 力の無いものはただ頼り、祈るだけ。それで傷つくのは誰だと思う? 力を持った者達だ。お前達が力をつけないばかりに力を持つものが傷つき、時には倒れる。おかしいとは思わんか?」
「私だって……戦えます」
「ならせめてCランクになってから出直してこい。今回の相手はそれくらいの実力がいる相手だ」
その言葉に私は頭に血が上るのが分かった。
「私は!」
「俺なら文句はないか!」
私が聖女だと言おうとした所で、フリッツさんが遮った。いや、遮ってくれた。この時は邪魔をされたとしか思えなかったけれど、後から考えたらきっと助けてくれたのだと思う。
「お前は?」
「俺はCランク冒険者のフリッツ。これなら文句はないだろう?」
「ふん。お前が一人来たところでどうなる? その勇ましい想いは立派だが、相手はAランクの魔物。一体どうやって勝つと言うのだ」
「この街で依頼を出して戦力を集める」
「構わん依頼は自由だ。許可しよう。しかし、俺達ギルドがそれ以上の事をしないと理解しろ。いいな?」
「分かった」
「分かりました」
「そん……」
私は文句を言おうとしたが、フリッツさんに手で口を塞がれた。
ギルドマスターはその様子に気にした風もなく、さっさと部屋を出て行ってしまった。
私はフリッツさんの手を振り払い詰め寄る。
「何で邪魔するんですか! これだけの危機なのに! どうして!」
「ギルドマスターはそんな理由で止めたりしない。現に依頼を止めるようなことはしなかっただろ?」
「それが何の関係があるっていうんですか!」
「関係あるんですよ。彼はここのギルドマスター。先ほど、優秀だと言いましたよね?」
「言いました」
「その彼が、救いにいけない。そう言っているんです。彼は私情でそんなことをいう人間ではない。貴方は知らないので無理はないかもしれませんが」
「だから、ギルドは今本当に手一杯なんだ。依頼ボードに残っている依頼の数が多いも、ギルド内にいる冒険者が少なかったのはその為だろう」
「そんな……」
「だが諦める時ではありません」
「今日1日何とか集めてみましょう。ケルベロスを相手に出来る様な人は多くありませんが、頼めば何人かはきっと来てくれるはずです」
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