防御魔法しか使えない聖女はいらないと勇者パーティーを追放されました~そんな私は優しい人と出会って今は幸せです

土偶の友

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第1章 聖女は出会う

58話 銅像は

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 前田さんのデッキは、意外を通り越して異常だった。

「どうなってるんですかそのデッキ!!」
「がははははは! 見ての通りだよシトラス氏!!」

 高速で練り上げられたスペルカードがまた放たれる。
 そう、だ。
 
 今度は高速回転する二対についの車輪がぎゃりぎゃりと音を立てて俺に向かって登ってくる。
 これまた厄介な【地獄輪じごくりん】だ。防御無視の上に、高速で地を走り標的に向かう追尾機能つき。
 空に逃げるか、直前回避をエフェクトが消えるまで何度も続けるしかない。

「練習だって言ってるんだから、手加減っ! してくれても……いいんじゃっ! ないですか!?」

 小石を弾きながら目前に迫る棘の生えた幅だけで1mはある巨大な木造の車輪を、恐怖を押し殺しギリギリのタイミングでステップして避ける。
 すぐに迫る次の車輪も同じ要領で避ける。
 一度回避した車輪が、ドリフトしながら方向転換、すぐに襲いかかってきた。
 あぁめんどくせぇ!
 
「男なら黙って本気じゃい!」

 でかい声で叫んでいるが、多分その間に次のスペルカードの詠唱をしている。
 詠唱のエフェクトを消す【サイレントマジック】を使っているのだろう。いつ詠唱しているのか準備の見極めが出来ず、攻めづらい。
 かと言って距離を開けると、ゆっくり詠唱したそれなりの大技を撃ち込まれる。

 この人は駆け引きが上手い。

 スペルカードだらけのデッキを使いこなすなんて、とても見た目からじゃあ想像が出来ない。
 それでもシングルランクは800位台だそうだから、面白い話だ。

「はいはい! じゃあ行きますよ!」

 わざわざ実戦形式でやっているのは俺のわがままだ。緊張感というのは時にアイディアの源泉となり得る。だからこそのバトルモード、だからこその前田さんだ。
 文句を言う前に手を動かそう。
 俺はブラフのアクションを入れる。さっき見せたショットカードと同じ動きを見せると、案の定それを防ぐ素振りを見せてくれた。

 よっしゃ、ココだ。

 大げさな手の振りの最後に、こっそり指をデコピンのように弾くアクションを差し込む。
 彼の想像していた出の遅いショットカードのエフェクトの代わりに、【光弾:小】が発射された。
 数発着弾。
 一瞬怯んだようなタイムラグがあったが、前田さんはすぐに笑い出した。

「まさか【光弾:小】か!? そんな使い方をするとはなぁ!!」

 いちいち声がでかいが、慣れてき……たぁ!?
 ボッ、と急加速し、彼のアバターが突進してきた。

 それは予想外!

 俺は反射的に手札のカードを切って飛び込んでくる前田さんに当てるが、【猪突爆進】の勢いは全く減衰すること無く俺はクリーンにぶちかましを決められた。
 どかん、と大きな音を立てて体が宙を舞う。

 多様なスペルカードで俺を翻弄したかと思ったら、急にショットカードで意表を突いてきた。
 シンプルだが、それゆえに引っかかりやすい「だろうテク」だ。
 相手の手札が見えないのに、プレイヤーは「スペルカードだらけだから、そういうデッキだろう」と都合良く解釈してしまう。誰でも陥り易いが、もう少ししっかり考えていれば騙され無かったはずだ。
 
 見た目の筋肉とは裏腹に、詠唱と同時進行で動き回るアクションセンスもあり、フェイントも使ってくる。
 四天王上位の中でも頭脳派と言ったところか。使う言葉や声の出し方も俺への牽制や直情的だと思わせるブラフになっているのがにくい。

 たぬき親父め。

「もう終わりかな? がはははは。負けを認めい!」

 快活に笑う前田さんに、自分では不敵だと思っている笑みで俺は返した。

「まさか」

 俺は倒れていた地面から跳ね上がると、すかさず攻撃に転じる。
 一気に肉薄し、手札のバレットカードを3枚連続で切る。
 
「ぬぉっ!?」

 どんなにブラフを駆使しても、一度近寄ってしまえばスペルカードじゃあ無理だろう。
 俺から離れようとフェイントで攻撃アクションをするように見せかける前田さん。
 別にブラフかどうかなんて関係ない。彼のアクションをよく観察する。
 「全部予測して、全部避けられれば、負けはない」のだから。

「近いなら……こうだッ!」

 当然、近寄られた場所から反撃する為のカードも入っているだろう。
 普通に組んだら、そうなる。

 だから普通は駄目なんだよ。分かってるなら、対処出来るんだってば。

 前田さんが解き放った爆炎が辺りを包む。
 俺は多少はダメージはもらいながらも、致命傷にならない程度に効果範囲から離れる。
 すると炎の中から「やったか?」という声が聞こえた。

 あーあ、それ一番言っちゃダメなやつじゃん。

 燃え盛るエフェクトが消えた。
 それに合わせて、俺は彼の後ろから溜めたショットカードを撃ち込んだ。
 驚愕の表情を浮かべた前田さん。
 にぃ、と彼の口角が上がった。

「鍛えられた筋肉は!! 全てを覆ぇぇーーす!!!」

 そう言って爆散した前田さんを、俺は敬礼で見送った。
 覆してねーじゃん、とは思っても口にはしないぞ。







「お疲れさまでした。そして今日もよろしくお願いします」
「こんばんは。よろしくお願いします」

 ペコリと青いゆるふわヘアを揺らしながらお辞儀した彼女に合わせて俺も頭を下げた。
 本日初のミューミューとの挨拶だ。

「前田さんもお疲れさまです。どうでしたか?」
「これは玻璃猫様! 私ごときの名前も覚えていてくださるとは!」

 前田さんも、感無量と言った口調でミューミューに憧れの視線を向けた。やはりこの人もしっかり玻璃猫組のメンバーだ。

「いやいや、シトラス氏は強いですな! 判断が正確で早い! 私の『暗唱スペル』デッキも無残に散りました!」

 そしてやっぱり「がはは」と笑う。キャラ付けなのか元からこうなのか判断に困る人だ。

「そうですか。暗唱スペルデッキはネタデッキと言われてましたが、今の試合を観る限りそうでもなさそうですね」

 さすがミューミュー。別け隔てなく可能性への探究心を持っている。
 ちょうど俺も同じ意見を言おうとしていたところだ。

「確かにそれは収穫。前田さん、後でデッキレシピ教えてもらって良いですか?」
「本当は企業秘密と言いたいが、とっくに出回ってるので構わないですぞ!」

 ありがたい。他者との交流の大切さはここ数日で身に染みた。
 俺は当たり前が出来ていなかった。段々とやっていこう。

「シトラスさんの研究は進みましたか?」
「いやー、それが……」

 俺の今回の研究テーマは【光弾:小】は実戦級か否か、だ。
 とりあえず一人の時や手が空いたときはこれを扱ったデッキを組んでひたすら回している。
 【光弾:小】こそ無数に上位互換があるカードだ。これがもし隠されたステータスを持つなら、俺の「全てのカードに何らかの役割がある説」は補強される。
 しかし、今のところ目立った成果は無かった。

「そうですか……私も考えてみてはいるんですけど、そもそも効果がシンプル過ぎるんですよね」
「だよなぁ」

 それ故に、何かが隠れていて欲しいという気持ちが捨てきれない。
 しかしこのカードばっかりに時間をかけるのも非現実的だ。ミューミューが来たなら、次はペア戦の練習、そしてランク上げに行こう。
 いつまでも研究に没頭出来るほどの時間は無い。

 俺はミューミューと今日の方針を打ち合わせる。
 その横で孤狼丸と前田さんが雑談に興じていた。雑談にしちゃ声がでかい。

「がはははは! 玻璃猫様に呼び捨てで名前を呼ばれてしまったぞ!」
「羨ましいぃぃ!」

 前田さん、それは卑怯だろう。
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