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第1章 聖女は出会う
52話 お掃除
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次の日、私とフリッツさんは掃除の依頼に来ていた。そこは家で、その中に依頼主の人がいるらしい。詳しいことはその人に聞いて欲しいと言うことだった。
「フリッツさんまで来なくてよかったんですよ? これはFランクの仕事ですし、服も汚れちゃいます」
「俺クラスになると汚れは躱せるから問題ない。それに初心に帰ることも大事だからな」
「躱せるって凄いですね。信じられないです」
「そこはなれだ。行こうか」
「はい」
私は扉をノックする。
暫くして扉が開かれた。
ガチャ。
中から出てきたのは魔族かと思うほどに日焼けをした老婆で、腰もかなり曲がっているのにドアノブを握る力はしっかりしている。ただし、その表情はこちらを睨んでいるようで、あまり歓迎されていないのが分かった。
「どちら様かね?」
見た目通りにしわがれた声をしている。
「えっと、掃除の依頼を受けて来た者なんですけど」
「ああ、あの依頼でやっと来たのか。全く。これだから冒険者ギルドは」
「あ、その、それで何をすればいいんですか? 詳しいことは来てから聞いて欲しいと言われて来たんですが」
「歩きながら説明するよ。ちょっと待っておくれ」
彼女はそう言って家の中に戻って行った。
そして扉の向こうに居ても分かるような大声で叫んだ。
「掃除の依頼の冒険者が来たから行ってくるわ! 家のことは任せたよ!」
その声が聞こえたかと思うと扉が開き、彼女が出てくる。
「さ、行こうかね。伝言は終わったからね」
「は、はい」
「それで依頼についてだがね。街中にある銅像を掃除してもらう。それは聞いているね?」
「はい。何体かは聞いてないですけど、それを何とかすると」
「それにはアタシもついていくよ。それで水魔法で水は出してやる。だから気張って掃除しな。いいね?」
「はい。分かりました」
「そっちのあんちゃんは?」
「ん? ああ。分かった」
「いちいち言われずとも返事をしな。これだから最近の若いもんは」
老婆はぶつぶつ言いながら文句を言っている。
「それまずはどこから行くんですか」
「最初は直ぐ近くの銅像だよ」
彼女に言われてついていくと5分と経たずに到着した。そこには観光している最中にあったあの銅像だった。
場所自体はそこまで目立つ場所でもないし、人もほとんどいないので問題ないだろう。
「ほれ、キリキリ掃除をしな! 道具は持って来たんだろう!?」
「あ、いえ。こっちで貸してもらえると聞いてきたんですけど」
「全く、冒険者ギルドめ、分かったよ、ほら」
彼女が懐から小さな袋を出すとその中から掃除道具を出してくれる。まさかあの袋がマジックバッグだったとは。
「これでいいだろう。さっさとやりな」
しかも道具はちゃんと2人分ある。
「それじゃあ俺はこれで」
フリッツさんがモップを持った。
ということは私は雑巾で下の方かな。
「それじゃあ行くよ。アクアスプラッシュ」
彼女が魔法を行使すると銅像は水でドンドン濡れていく。そしてある程度銅像の全身が濡れた所で彼女は魔法を止める。
「さぁ、これでいいだろう。キリキリやりな」
「はい」
「任せろ」
フリッツさんは銅像の台座に乗ってモップでゴシゴシと銅像の顔を洗い始める。
「この不幸者が! なんちゅう洗い方をしとるんじゃ! もっと大事にやらんか!」
「別に銅像だしいいんじゃないのか?」
「うるさいやめんか」
フリッツさんも困惑していたが依頼人の言うことと割り切ってやめる。
「そのモップは首から下をやるんじゃ。そうでなければ認めんからな!」
「私は気を付ける事はありますか?」
「気を付けて丁寧にやれば何も言わん」
彼女の言葉は信頼出来なかったがやるしかなかった。
それから、私達は何度もそうじゃないわい! こう! こうじゃ! とお叱りを受けながら掃除を続けた。
******
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「フリッツさんまで来なくてよかったんですよ? これはFランクの仕事ですし、服も汚れちゃいます」
「俺クラスになると汚れは躱せるから問題ない。それに初心に帰ることも大事だからな」
「躱せるって凄いですね。信じられないです」
「そこはなれだ。行こうか」
「はい」
私は扉をノックする。
暫くして扉が開かれた。
ガチャ。
中から出てきたのは魔族かと思うほどに日焼けをした老婆で、腰もかなり曲がっているのにドアノブを握る力はしっかりしている。ただし、その表情はこちらを睨んでいるようで、あまり歓迎されていないのが分かった。
「どちら様かね?」
見た目通りにしわがれた声をしている。
「えっと、掃除の依頼を受けて来た者なんですけど」
「ああ、あの依頼でやっと来たのか。全く。これだから冒険者ギルドは」
「あ、その、それで何をすればいいんですか? 詳しいことは来てから聞いて欲しいと言われて来たんですが」
「歩きながら説明するよ。ちょっと待っておくれ」
彼女はそう言って家の中に戻って行った。
そして扉の向こうに居ても分かるような大声で叫んだ。
「掃除の依頼の冒険者が来たから行ってくるわ! 家のことは任せたよ!」
その声が聞こえたかと思うと扉が開き、彼女が出てくる。
「さ、行こうかね。伝言は終わったからね」
「は、はい」
「それで依頼についてだがね。街中にある銅像を掃除してもらう。それは聞いているね?」
「はい。何体かは聞いてないですけど、それを何とかすると」
「それにはアタシもついていくよ。それで水魔法で水は出してやる。だから気張って掃除しな。いいね?」
「はい。分かりました」
「そっちのあんちゃんは?」
「ん? ああ。分かった」
「いちいち言われずとも返事をしな。これだから最近の若いもんは」
老婆はぶつぶつ言いながら文句を言っている。
「それまずはどこから行くんですか」
「最初は直ぐ近くの銅像だよ」
彼女に言われてついていくと5分と経たずに到着した。そこには観光している最中にあったあの銅像だった。
場所自体はそこまで目立つ場所でもないし、人もほとんどいないので問題ないだろう。
「ほれ、キリキリ掃除をしな! 道具は持って来たんだろう!?」
「あ、いえ。こっちで貸してもらえると聞いてきたんですけど」
「全く、冒険者ギルドめ、分かったよ、ほら」
彼女が懐から小さな袋を出すとその中から掃除道具を出してくれる。まさかあの袋がマジックバッグだったとは。
「これでいいだろう。さっさとやりな」
しかも道具はちゃんと2人分ある。
「それじゃあ俺はこれで」
フリッツさんがモップを持った。
ということは私は雑巾で下の方かな。
「それじゃあ行くよ。アクアスプラッシュ」
彼女が魔法を行使すると銅像は水でドンドン濡れていく。そしてある程度銅像の全身が濡れた所で彼女は魔法を止める。
「さぁ、これでいいだろう。キリキリやりな」
「はい」
「任せろ」
フリッツさんは銅像の台座に乗ってモップでゴシゴシと銅像の顔を洗い始める。
「この不幸者が! なんちゅう洗い方をしとるんじゃ! もっと大事にやらんか!」
「別に銅像だしいいんじゃないのか?」
「うるさいやめんか」
フリッツさんも困惑していたが依頼人の言うことと割り切ってやめる。
「そのモップは首から下をやるんじゃ。そうでなければ認めんからな!」
「私は気を付ける事はありますか?」
「気を付けて丁寧にやれば何も言わん」
彼女の言葉は信頼出来なかったがやるしかなかった。
それから、私達は何度もそうじゃないわい! こう! こうじゃ! とお叱りを受けながら掃除を続けた。
******
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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