32 / 203
第1章 聖女は出会う
32話 酒場
しおりを挟む
ドンドンドン、ドンドンドン
「クロエ、いるのか? クロエ」
「はい!」
私は部屋のドアが叩かれる音で叩き起こされる。
「クロエ、入ってもいいか?」
「大丈夫です!」
それだけ言うと彼がドアを開けて入ってくる。
「着替えはまだか? あんまり遅いと飯屋も閉まるぞ?」
「すいません。久しぶりのベッドが気持ちよくて」
「確かにその気持ちは分かる。家のベッドも結構硬いのがな。ここみたいに柔らかい物が入っていればいいんだが」
「い、いえ! そんなことが言いたい訳じゃないんです」
「分かってるよ。そろそろ飯に行きたいんだがいいか?」
「はい、着替えたら直ぐに行きます」
「部屋で待ってる」
「はい」
彼はそう言って部屋からさっさと出ていく。
「これ以上待たせるわけにはいかないよね」
私はさっさと今までのシスターの服と聖印を脱いで先生に貰ったものを身にまとう。
「サイズがピッタリなのは嬉しいのか悲しいのか」
特に胸部とかがピッタリのサイズで悔しい。サラとかディーナとかはどうやってあんなに大きくなったんだろうか。
「今はいいや。早くいかないと」
私は荷物を確認して部屋を出る。そしてフリッツさんの部屋をノックした。
「開いてるぞ」
「失礼します。お待たせしました。もういけます」
「お、そうか。それじゃあ行くか」
「はい」
私とフリッツさんは行きつけの飯に行くことになった。
宿を出て暫く歩くとフリッツさんが指を指す。
「あそこが行きつけの店だな」
「結構混んでますね」
その店は外にもテーブルが置いてあって、そこで酒盛りをしている連中が多くいる。彼らの格好を見ると冒険者をしているようで、あんまり近づくとまた絡まれそうだ。
「安くて旨いとなったら行かない人間はいないからな」
「ですね」
フリッツさんは躊躇うことなく店の中に入っていく。中は外の喧騒を倍にしたくらいの様相を呈していた。店の中は机や椅子が所狭しと並んでいて、その上にも料理やエールが所狭しと並んでいる。客層は外にいた連中と大差ないが皆楽しそうに飲んで食べて歌っていた。
私は少し気圧されてしまう。
「凄い場所ですね」
「この雰囲気は嫌いか? もっと落ち着いた店もあるが」
「いえ、そんなことないです。こういうのも嫌いじゃないです」
「そうか、それは良かった」
このごちゃごちゃ感はどことなく院の食事を思い出させた。多くの人が集まる院は食事も大所帯だ。だからという訳ではないがいつもこれくらいにはうるさかった記憶がある。
私たちは適当な空いている端の方の席に座る。
「丁度空いてて良かったな。注文は俺が決めていいか?」
「はい、お願いします」
「注文いいか!」
「ちょっと待っててね!」
フリッツさんが言うとウェイトレスの女の子がそう叫び返す。彼女の手には料理が何個も載った大きなお盆を両手に持っている。あれでは来れないのも仕方ない。それから少しして彼女がこちらに来た。
「お待たせ! 何にする?」
「俺と彼女にオーク肉のシチューとパンそれからエールをそれぞれくれ」
「はいよ!」
彼女はそう言ってさっさとキッチンへと戻って行く。
「シチューが美味しいんですか?」
「ああ、食べてみればわかる。舌がとろけるぞ」
「それは楽しみですね!」
周囲の音や、匂い、喧騒などを背後に料理を待つ。今日は特に祭りなどではないはずだ。なのにどんちゃん騒ぎはそれはそれで面白い。
「楽しそうだな」
「ええ、だって。私はこうして人が幸せそうにしているのが好きなんです。自分の知り合いで無くても友達で無くても。皆が笑っていられるのって素敵だと思いませんか?」
「それは……そうだな」
「だからこうやって見ておくのがとっても好きなんです」
私は店の中をもう一度見回す。すると、料理をもってこちらに向かってくるウェイトレスがいた。
「そんなに見つめなくてもすぐに出すよ! はい! お待ち!」
彼女はそう言って両手に持ったお盆を私とフリッツさんの前に置く。
「何かあったらいってね!」
そう言って直ぐにキッチンへと戻って行った。
「それじゃあ食べるか」
「はい」
私は席に座り直し、目の前の料理を見る。料理は中央に野菜やオークの肉がゴロゴロ入ったシチューが置かれている。アツアツなのは立ち上る湯気からでも見てわかった。そしてその隣には大きな黒パンが置いてある。触ってみるとほんのりと温かくわざわざ温めてくれたことがわかる。そしてもう一個の大きなジョッキにはエールが並々と注がれていて、これだけ飲んだら酔ってしまうかもしれない。
「それじゃあ食べるか」
「はい」
そのシチューは舌がとろけるかと思った。
「クロエ、いるのか? クロエ」
「はい!」
私は部屋のドアが叩かれる音で叩き起こされる。
「クロエ、入ってもいいか?」
「大丈夫です!」
それだけ言うと彼がドアを開けて入ってくる。
「着替えはまだか? あんまり遅いと飯屋も閉まるぞ?」
「すいません。久しぶりのベッドが気持ちよくて」
「確かにその気持ちは分かる。家のベッドも結構硬いのがな。ここみたいに柔らかい物が入っていればいいんだが」
「い、いえ! そんなことが言いたい訳じゃないんです」
「分かってるよ。そろそろ飯に行きたいんだがいいか?」
「はい、着替えたら直ぐに行きます」
「部屋で待ってる」
「はい」
彼はそう言って部屋からさっさと出ていく。
「これ以上待たせるわけにはいかないよね」
私はさっさと今までのシスターの服と聖印を脱いで先生に貰ったものを身にまとう。
「サイズがピッタリなのは嬉しいのか悲しいのか」
特に胸部とかがピッタリのサイズで悔しい。サラとかディーナとかはどうやってあんなに大きくなったんだろうか。
「今はいいや。早くいかないと」
私は荷物を確認して部屋を出る。そしてフリッツさんの部屋をノックした。
「開いてるぞ」
「失礼します。お待たせしました。もういけます」
「お、そうか。それじゃあ行くか」
「はい」
私とフリッツさんは行きつけの飯に行くことになった。
宿を出て暫く歩くとフリッツさんが指を指す。
「あそこが行きつけの店だな」
「結構混んでますね」
その店は外にもテーブルが置いてあって、そこで酒盛りをしている連中が多くいる。彼らの格好を見ると冒険者をしているようで、あんまり近づくとまた絡まれそうだ。
「安くて旨いとなったら行かない人間はいないからな」
「ですね」
フリッツさんは躊躇うことなく店の中に入っていく。中は外の喧騒を倍にしたくらいの様相を呈していた。店の中は机や椅子が所狭しと並んでいて、その上にも料理やエールが所狭しと並んでいる。客層は外にいた連中と大差ないが皆楽しそうに飲んで食べて歌っていた。
私は少し気圧されてしまう。
「凄い場所ですね」
「この雰囲気は嫌いか? もっと落ち着いた店もあるが」
「いえ、そんなことないです。こういうのも嫌いじゃないです」
「そうか、それは良かった」
このごちゃごちゃ感はどことなく院の食事を思い出させた。多くの人が集まる院は食事も大所帯だ。だからという訳ではないがいつもこれくらいにはうるさかった記憶がある。
私たちは適当な空いている端の方の席に座る。
「丁度空いてて良かったな。注文は俺が決めていいか?」
「はい、お願いします」
「注文いいか!」
「ちょっと待っててね!」
フリッツさんが言うとウェイトレスの女の子がそう叫び返す。彼女の手には料理が何個も載った大きなお盆を両手に持っている。あれでは来れないのも仕方ない。それから少しして彼女がこちらに来た。
「お待たせ! 何にする?」
「俺と彼女にオーク肉のシチューとパンそれからエールをそれぞれくれ」
「はいよ!」
彼女はそう言ってさっさとキッチンへと戻って行く。
「シチューが美味しいんですか?」
「ああ、食べてみればわかる。舌がとろけるぞ」
「それは楽しみですね!」
周囲の音や、匂い、喧騒などを背後に料理を待つ。今日は特に祭りなどではないはずだ。なのにどんちゃん騒ぎはそれはそれで面白い。
「楽しそうだな」
「ええ、だって。私はこうして人が幸せそうにしているのが好きなんです。自分の知り合いで無くても友達で無くても。皆が笑っていられるのって素敵だと思いませんか?」
「それは……そうだな」
「だからこうやって見ておくのがとっても好きなんです」
私は店の中をもう一度見回す。すると、料理をもってこちらに向かってくるウェイトレスがいた。
「そんなに見つめなくてもすぐに出すよ! はい! お待ち!」
彼女はそう言って両手に持ったお盆を私とフリッツさんの前に置く。
「何かあったらいってね!」
そう言って直ぐにキッチンへと戻って行った。
「それじゃあ食べるか」
「はい」
私は席に座り直し、目の前の料理を見る。料理は中央に野菜やオークの肉がゴロゴロ入ったシチューが置かれている。アツアツなのは立ち上る湯気からでも見てわかった。そしてその隣には大きな黒パンが置いてある。触ってみるとほんのりと温かくわざわざ温めてくれたことがわかる。そしてもう一個の大きなジョッキにはエールが並々と注がれていて、これだけ飲んだら酔ってしまうかもしれない。
「それじゃあ食べるか」
「はい」
そのシチューは舌がとろけるかと思った。
1
お気に入りに追加
1,622
あなたにおすすめの小説
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる