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第1章 聖女は出会う

32話 酒場

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 ドンドンドン、ドンドンドン

「クロエ、いるのか? クロエ」
「はい!」

 私は部屋のドアが叩かれる音で叩き起こされる。

「クロエ、入ってもいいか?」
「大丈夫です!」

 それだけ言うと彼がドアを開けて入ってくる。

「着替えはまだか? あんまり遅いと飯屋も閉まるぞ?」
「すいません。久しぶりのベッドが気持ちよくて」
「確かにその気持ちは分かる。家のベッドも結構硬いのがな。ここみたいに柔らかい物が入っていればいいんだが」
「い、いえ! そんなことが言いたい訳じゃないんです」
「分かってるよ。そろそろ飯に行きたいんだがいいか?」
「はい、着替えたら直ぐに行きます」
「部屋で待ってる」
「はい」

 彼はそう言って部屋からさっさと出ていく。

「これ以上待たせるわけにはいかないよね」

 私はさっさと今までのシスターの服と聖印を脱いで先生に貰ったものを身にまとう。

「サイズがピッタリなのは嬉しいのか悲しいのか」

 特に胸部とかがピッタリのサイズで悔しい。サラとかディーナとかはどうやってあんなに大きくなったんだろうか。

「今はいいや。早くいかないと」

 私は荷物を確認して部屋を出る。そしてフリッツさんの部屋をノックした。

「開いてるぞ」
「失礼します。お待たせしました。もういけます」
「お、そうか。それじゃあ行くか」
「はい」

 私とフリッツさんは行きつけの飯に行くことになった。

 宿を出て暫く歩くとフリッツさんが指を指す。

「あそこが行きつけの店だな」
「結構混んでますね」

 その店は外にもテーブルが置いてあって、そこで酒盛りをしている連中が多くいる。彼らの格好を見ると冒険者をしているようで、あんまり近づくとまた絡まれそうだ。

「安くて旨いとなったら行かない人間はいないからな」
「ですね」

 フリッツさんは躊躇うことなく店の中に入っていく。中は外の喧騒を倍にしたくらいの様相を呈していた。店の中は机や椅子が所狭しと並んでいて、その上にも料理やエールが所狭しと並んでいる。客層は外にいた連中と大差ないが皆楽しそうに飲んで食べて歌っていた。

 私は少し気圧されてしまう。

「凄い場所ですね」
「この雰囲気は嫌いか? もっと落ち着いた店もあるが」
「いえ、そんなことないです。こういうのも嫌いじゃないです」
「そうか、それは良かった」

 このごちゃごちゃ感はどことなく院の食事を思い出させた。多くの人が集まる院は食事も大所帯だ。だからという訳ではないがいつもこれくらいにはうるさかった記憶がある。

 私たちは適当な空いている端の方の席に座る。

「丁度空いてて良かったな。注文は俺が決めていいか?」
「はい、お願いします」
「注文いいか!」
「ちょっと待っててね!」

 フリッツさんが言うとウェイトレスの女の子がそう叫び返す。彼女の手には料理が何個も載った大きなお盆を両手に持っている。あれでは来れないのも仕方ない。それから少しして彼女がこちらに来た。

「お待たせ! 何にする?」
「俺と彼女にオーク肉のシチューとパンそれからエールをそれぞれくれ」
「はいよ!」

 彼女はそう言ってさっさとキッチンへと戻って行く。

「シチューが美味しいんですか?」
「ああ、食べてみればわかる。舌がとろけるぞ」
「それは楽しみですね!」

 周囲の音や、匂い、喧騒などを背後に料理を待つ。今日は特に祭りなどではないはずだ。なのにどんちゃん騒ぎはそれはそれで面白い。

「楽しそうだな」
「ええ、だって。私はこうして人が幸せそうにしているのが好きなんです。自分の知り合いで無くても友達で無くても。皆が笑っていられるのって素敵だと思いませんか?」
「それは……そうだな」
「だからこうやって見ておくのがとっても好きなんです」

 私は店の中をもう一度見回す。すると、料理をもってこちらに向かってくるウェイトレスがいた。

「そんなに見つめなくてもすぐに出すよ! はい! お待ち!」

 彼女はそう言って両手に持ったお盆を私とフリッツさんの前に置く。

「何かあったらいってね!」

 そう言って直ぐにキッチンへと戻って行った。

「それじゃあ食べるか」
「はい」

 私は席に座り直し、目の前の料理を見る。料理は中央に野菜やオークの肉がゴロゴロ入ったシチューが置かれている。アツアツなのは立ち上る湯気からでも見てわかった。そしてその隣には大きな黒パンが置いてある。触ってみるとほんのりと温かくわざわざ温めてくれたことがわかる。そしてもう一個の大きなジョッキにはエールが並々と注がれていて、これだけ飲んだら酔ってしまうかもしれない。

「それじゃあ食べるか」
「はい」

 そのシチューは舌がとろけるかと思った。

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