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第1章 聖女は出会う

31話 火花

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 フリッツさんに案内されて宿に着く頃には外は夕暮れになっていた。

 建物は4階建てで赤煉瓦を使って作られている。外装はきちんと手入れがされており、とてもきれいだ。フリッツさんは意外に綺麗好きなのかもしれない。

 建物の中に入ると先生が1階にある椅子に座って待っていた。そして私が入ったことに気が付くと駆け寄ってくる。

「クロエ、一体何処に行ってたの? フロントで聞いても来てないって聞いて驚いちゃった」
「それが宿の名前を『秋海の小波停』だと間違えてそっちに行こうとしちゃいまして。それで変な道を教えられてしまったんです」

 先生は頭を抱えている。

「クロエ、そこは貴方が行くような店じゃないわよ」
「どんなお店なんですか?」
「貴方がもう少し大人になったら教えてあげるわ。それと、これが言ってた物よ」

 先生はポーチから修道服を出してくる。私はそれを受け取り拡げてみる。よく見ないと分からないが、確かに違いがあって分かる人が見れば分かるだろう。

「それとこれ」
「はい」

 先生から受け取った聖印も確かに違う。

「それじゃあ私はこれで。と、その前に、フリッツ君だったかしら?」
「そうだが」
「この子を泣かせたら承知しないわよ」
「そんなことはしない」

 二人の間で火花が散ったような気がする。

 な、なんでそんなバチバチやり合っているのだろうか。ちょっと不安になってくる。と、思っていたが直ぐに先生が視線を外す。

「わかればいいのよ。じゃあね」
「あ、ありがとうございました」

 先生は手を軽く振ってそのまま宿を出ていく。

「それでクロエ。あの人は誰なんだ?」
「そういえば説明してませんでしたね……」

 ここに来るまでこの街の観光名所とかそう言ったことを聞いていたから全然話していなかった。

「それはですね……」

 ざっと昔に院で教えて貰った先生だと言うことを話しておいた。彼になら私が聖女だと話しても問題はないように思うが、それでも言えない。というよりも聖女という肩書ではなく、クロエという私を見て欲しいと思ってしまったからだ。

「そうだったんだな。道理でクロエを大切に思っているはずだ」
「分かりますか?」
「ああ、釘を刺された気分だ」
「私の尊敬する人ですからね。当然です」
「そうだな。それでどうする? 俺はクロエの料理を食べたい気持ちでいっぱいだが、流石にここで調理するのは出来ないか」
「そこまでして食べたいんですか」
「ああ、食べたい、食べたいが流石にここまで来て頼むのはな。俺の行きつけの店があるんだがそこでいいか?」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ直ぐに行くか? まだちょっと早いし休んでから行くか」
「そうですね。ちょっと着替えたいですし、一度部屋に行ってもいいですか?」
「勿論。こっちだ」

 そうして案内されたのは2階の角っ子から2部屋だった。

「どっちがいい?」
「どちらでも大丈夫です」
「ならこっちを貰おうかな」

 彼はそう言って私を中側にしてくれた。こちらの方が温かいからだろう。

「それじゃあ着替えが終わって用事が済んだら来てくれ、部屋の鍵は開けてあるから」
「分かりました」

 私はフリッツさんと別れて部屋に入って取りあえずベッドに飛び込んだ。

「ふぅ~。久しぶりのベッドっていいなぁ。地面には慣れたけど、やっぱりあるとなしじゃ全然違う」

 私はベッドで横になりながら部屋の中を改めて見回す。私がいるベッドは部屋に入ってから右奥にあって反対の左奥には簡素な木製の椅子と机が、その上に燭台と水差しが置いてあった。入り口の正面には木製の窓が作られている。

 それだけしかない簡素な部屋だが泊まるには充分で、体を休めることが出来るだろう。

 私は軽く目を閉じ、そのまま眠ってしまった。
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