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第1章 聖女は出会う
22話 一方勇者はその頃①
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その頃の勇者パーティでは。
「だあああああ、何でまともに飯一つ作れねえんだよ! あのクロエですら簡単に作ってたんだぞ!? 何で誰一人作れねえんだよ!」
「仕方ないじゃない! 私は魔法学院にずっといたんだから料理を勉強する暇なんて無かったのよ! それに比べてディーナはどうしてなの!? 貴方、冒険者だったんでしょう!?」
「私は今まで作ったことは無かったから仕方ないじゃない。言えばペットがいえ、元パーティメンバーが作ってくれてたんだから、それに他の男連中はどうなのよ?」
「俺は戦場で剣を振るってくることしか無かった。それを今更包丁に持ち換えろと言われて出来るか」
「俺もそう言ったことはあんまり……」
5人はクロエを置いてから更に先に進んでいた。それも魔族の村が近くにあったり、巡回の兵士がいるという所まで来ていたのだ。それなのに彼らの士気は最悪に近いものとなっていた。
その原因は食事だ。今まではクロエが皆の事を考えて色々と作っていたが、今残っているメンバーでそのことに気を使うことの出来る者はいなかった。
しかもクロエが居なくなった影響はそれだけには留まらなかった。今まではクロエが持っていた荷物の運搬を誰もがやりたがらなかったのだ。当然と言えば当然であるが。勇者は俺が持つわけねえだろと言い、魔法使いのサラと付与術師のディーナは力を理由に拒絶。剣士のルーカスもいざという時に剣を抜けないから首を振り、盗賊のハブルールは偵察に行くのにそんな重い物は持っていけないとなる。
クロエから取り上げたマジックバックに多少は入れられたが、それでもまだ半分以上の物が残っていた。それを全員で分けているのもまた空気を悪くしていた。それぞれもマジックバックを持っていたが、そのどれもに自分の物を限界まで仕舞っていたため、そこに入れることもできない。
「クロエを呼び戻すべきだ」
最初にそう行ったのはルーカスだった。
「あ? 何で今更あんな奴」
「そうよ。別にいなくてもいいわよ」
「賛成、帰ってきてもまた邪魔になるだけよ」
それに反対するのは勇者、魔法使い、付与術師の3人だ。
「だが現状どうする? 荷物を持つことにも困った有様、更にはまともに料理を作れるものが誰もいないとは。このままでは食料が無くなった時どうするのだ? 干し肉等の保存食も少なくなってきた。いずれどこかで魔物を狩り食べねばならん」
「それは……そうだけどよ」
「そうは言ってもね……」
「多分無理よ……」
その言葉にルーカスは眉を顰める。
「なぜだ」
「あいつには魔力片を持たせた」
「なんだと!? 魔力片とはあの魔物を呼び寄せるあれのことか!」
「そうだよ」
「何ということを……というよりお前ら全員知っていたのか?」
ルーカスは他の4人を見回した。
「お、俺は知らなかった!」
そう言ったのはハブルールだけだったが、他の3人は知っているようだった。
「だとしてもなぜそんなことを」
「奴が生きていると面倒なことになる。あれでも聖女だ。それを追放したとなれば俺達の評判は落ちる。だが、旅の途中に死んでしまえばそれは聖女の勇敢な死だ。そうだろう?」
「そうよ、魔王を倒すための戦いで死ねたんならいいじゃない」
「あいつだって天国で自分の名前が歴史書に刻まれて喜ぶはずよ」
「本気で言ってるのかお前ら……」
ルーカスは頭を抱える。基本、剣で敵を叩き切る事にしか興味がなく、食事も干し肉で気にしない彼だが、今のパーティの状況がまずいことくらいは理解できる。
「問題ねえって。戻ったら料理人でも雇えばいいんだからよ」
「ではそれまでどうする? 俺は適当な肉を焼いただけでも構わん。お前達はそれでもいいのか」
「絶対いやよ! ちゃんと処理して美味しくしてよ!」
「私も無理! 美味しくない料理何て食べられないわよ!」
「これでどうやって魔族側の偵察なんて出来ると思う?」
「じゃあ聞くが、あれ以上足手まといがいて良かったと思ってるのかよ。あの時お前は追い出すことに何も言わなかったよな?」
「確かにそうだが」
「だったらうだうだ文句を言うんじゃねえ。俺が魔王を倒すそれは変わらねえんだ。わかったらついてこい」
「分かった……」
そのことに満足した勇者はサラとディーナを連れていつものテントの中に帰っていく。そして見張りをしているルーカスとハブルールの所にナニかをしている声が聞こえてくる。
その声を聞き、ルーカスは思う。
(やはりクロエを追い出したのは間違っていたのかもしれん。戦闘では役に立たなかったのは事実だが、それでも奴がいればこんなことにはなっていなかった)
今更、彼女が居なくなった事に後悔し始める者が現れていた。そしてこれからも。
「だあああああ、何でまともに飯一つ作れねえんだよ! あのクロエですら簡単に作ってたんだぞ!? 何で誰一人作れねえんだよ!」
「仕方ないじゃない! 私は魔法学院にずっといたんだから料理を勉強する暇なんて無かったのよ! それに比べてディーナはどうしてなの!? 貴方、冒険者だったんでしょう!?」
「私は今まで作ったことは無かったから仕方ないじゃない。言えばペットがいえ、元パーティメンバーが作ってくれてたんだから、それに他の男連中はどうなのよ?」
「俺は戦場で剣を振るってくることしか無かった。それを今更包丁に持ち換えろと言われて出来るか」
「俺もそう言ったことはあんまり……」
5人はクロエを置いてから更に先に進んでいた。それも魔族の村が近くにあったり、巡回の兵士がいるという所まで来ていたのだ。それなのに彼らの士気は最悪に近いものとなっていた。
その原因は食事だ。今まではクロエが皆の事を考えて色々と作っていたが、今残っているメンバーでそのことに気を使うことの出来る者はいなかった。
しかもクロエが居なくなった影響はそれだけには留まらなかった。今まではクロエが持っていた荷物の運搬を誰もがやりたがらなかったのだ。当然と言えば当然であるが。勇者は俺が持つわけねえだろと言い、魔法使いのサラと付与術師のディーナは力を理由に拒絶。剣士のルーカスもいざという時に剣を抜けないから首を振り、盗賊のハブルールは偵察に行くのにそんな重い物は持っていけないとなる。
クロエから取り上げたマジックバックに多少は入れられたが、それでもまだ半分以上の物が残っていた。それを全員で分けているのもまた空気を悪くしていた。それぞれもマジックバックを持っていたが、そのどれもに自分の物を限界まで仕舞っていたため、そこに入れることもできない。
「クロエを呼び戻すべきだ」
最初にそう行ったのはルーカスだった。
「あ? 何で今更あんな奴」
「そうよ。別にいなくてもいいわよ」
「賛成、帰ってきてもまた邪魔になるだけよ」
それに反対するのは勇者、魔法使い、付与術師の3人だ。
「だが現状どうする? 荷物を持つことにも困った有様、更にはまともに料理を作れるものが誰もいないとは。このままでは食料が無くなった時どうするのだ? 干し肉等の保存食も少なくなってきた。いずれどこかで魔物を狩り食べねばならん」
「それは……そうだけどよ」
「そうは言ってもね……」
「多分無理よ……」
その言葉にルーカスは眉を顰める。
「なぜだ」
「あいつには魔力片を持たせた」
「なんだと!? 魔力片とはあの魔物を呼び寄せるあれのことか!」
「そうだよ」
「何ということを……というよりお前ら全員知っていたのか?」
ルーカスは他の4人を見回した。
「お、俺は知らなかった!」
そう言ったのはハブルールだけだったが、他の3人は知っているようだった。
「だとしてもなぜそんなことを」
「奴が生きていると面倒なことになる。あれでも聖女だ。それを追放したとなれば俺達の評判は落ちる。だが、旅の途中に死んでしまえばそれは聖女の勇敢な死だ。そうだろう?」
「そうよ、魔王を倒すための戦いで死ねたんならいいじゃない」
「あいつだって天国で自分の名前が歴史書に刻まれて喜ぶはずよ」
「本気で言ってるのかお前ら……」
ルーカスは頭を抱える。基本、剣で敵を叩き切る事にしか興味がなく、食事も干し肉で気にしない彼だが、今のパーティの状況がまずいことくらいは理解できる。
「問題ねえって。戻ったら料理人でも雇えばいいんだからよ」
「ではそれまでどうする? 俺は適当な肉を焼いただけでも構わん。お前達はそれでもいいのか」
「絶対いやよ! ちゃんと処理して美味しくしてよ!」
「私も無理! 美味しくない料理何て食べられないわよ!」
「これでどうやって魔族側の偵察なんて出来ると思う?」
「じゃあ聞くが、あれ以上足手まといがいて良かったと思ってるのかよ。あの時お前は追い出すことに何も言わなかったよな?」
「確かにそうだが」
「だったらうだうだ文句を言うんじゃねえ。俺が魔王を倒すそれは変わらねえんだ。わかったらついてこい」
「分かった……」
そのことに満足した勇者はサラとディーナを連れていつものテントの中に帰っていく。そして見張りをしているルーカスとハブルールの所にナニかをしている声が聞こえてくる。
その声を聞き、ルーカスは思う。
(やはりクロエを追い出したのは間違っていたのかもしれん。戦闘では役に立たなかったのは事実だが、それでも奴がいればこんなことにはなっていなかった)
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