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第1章 聖女は出会う
18話 査定(仮)
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「と、お待たせしました。というかそちらのお嬢さんは初めましてですね。私はギルと申します。このリッター村で唯一のギルド員として働いています。といっても大抵は裏の畑で土いじりをしているだけなんですけどね」
「あ、私はクロエと申します。今はしがない旅のシスターとしてやっています」
シスターとしてやっていくことは色々とフリッツさんと話した結果、それがいいとのことになってこうやって自己紹介するときは使っている。旅のシスターとして歩き回って知見を深めている、という設定だ。この森にいたのも道に迷ってしまったということにしてあった。
「ほう、シスターのクロエさんですか。その服は修道院の物ですか?」
「は、はい。修道院にいる時に貰ったものです」
嘘は言っていない。院は修道院でもあるからだ。それにこの服はそこで貰ったものだし。
「……そうですか、あの危険な森で大変だったでしょう。ゆっくりしていかれるのがいいと思いますよ」
彼はそう言って笑いかけてくれる。想像していた通りの優しい笑い方だった。
「ありがとうございます」
「いえ、それでは査定に移らせて貰ってもいいですか?」
「ああ、これらだな」
フリッツさんが持っていた物を全てカウンターの上に置く。その量はかなりのものでよく一人で持っていられたなと思う。
「それでは査定をさせて頂きますね」
「よろしく頼む」
それからギルさんはケルベロスの素材を持ち上げて見回したり、手触りなどを確かめて良し悪しを見ているようだ。
かなりの量があったので終わったのは30分程してからだったが、早いのか遅いのかは分からない。勇者パーティで素材に関することはほとんど触らせてもらえなかったからだ。
「ふぅ。終わりました」
「それで、どうですか?」
「専門家という訳ではないので絶対にという訳ではありませんが、金貨300枚は堅いと思います。解体も綺麗にされていて、傷もほとんどありません。魔石にも傷はついていませんし。もしかすればもっと上がるかもしれませんよ?」
「それなら街まで行って売った方がいいよな?」
「そうですね。ただ、物凄く目立つので気を付けてくださいね。下手をするとそれを取られる可能性もあるので注意が必要です」
「分かった。それと、もしここで売る場合は金貨300枚になるのか?」
フリッツさんが聞くとギルさんは肩を竦めて言葉を返した。
「まさか、そんな訳ないでしょう? ここにはそんな量の金貨はありません。ダラスまで手紙を送って人を呼びます。そしてその人に高い料金を払って買取をして貰うことになるので、なかなか厳しいですよ」
「買取をしてもらう人を呼ぶのに金がかかるのか?」
「ええ、それだけの物を買い取るんです。それをこの辺境に呼ぶのであれば、それ相応の代金が必要になりますよ。査定をする人だけではなく護衛等も必要ですからね」
「なるほど……」
「それなら多少安く買いたたかれても商人の方にお願いをするか。多少目立ってもいいならギルドに行くかですね。街で目立ちたくないのなら最悪裏の人間に売るということも考えられますが、ギルド以上に違った人間に目をつけられる可能性はあります」
「その3つしかないのか?」
「それは仕方ありません。ギルドで秘密裏に売ることも出来るかもしれませんが、必ず目をつけられます。勿論悪い意味ではないですけど、そんな人をCランクにはしておけんとなるでしょうね」
「分かった。ありがとう」
「ありがとうございました」
「いえいえ、村の近くでこんな魔物が出るとは。恐ろしいですね。気を付けてください」
私たちは立ち上がってギルド会館を出ることにした。そして出てすぐにフリッツさんが話しかけてくる。
「一度戻ってこれを置いてきていいか?」
「はい、勿論です」
私たちは一度戻って家にそれを置いて再度村の案内をしてもらう。そんな時にフリッツさんがぽつりと漏らす。
「しかしあの素材を好きに売り払えないとは厄介だな」
「そうですね。フリッツさんは目立ちたくないって事ですよね?」
「ああ、ちょっと事情があって目立ちたくないんだ」
「でしたら変装をしてどこかの商館に持ち込んで見てはいかがですか?」
「変装?」
「はい、とっても似合うと思うんです」
「に、似合う?」
「はい!」
私はその時確信に満ちた眼差しで彼を見ていたと思う。
「あ、私はクロエと申します。今はしがない旅のシスターとしてやっています」
シスターとしてやっていくことは色々とフリッツさんと話した結果、それがいいとのことになってこうやって自己紹介するときは使っている。旅のシスターとして歩き回って知見を深めている、という設定だ。この森にいたのも道に迷ってしまったということにしてあった。
「ほう、シスターのクロエさんですか。その服は修道院の物ですか?」
「は、はい。修道院にいる時に貰ったものです」
嘘は言っていない。院は修道院でもあるからだ。それにこの服はそこで貰ったものだし。
「……そうですか、あの危険な森で大変だったでしょう。ゆっくりしていかれるのがいいと思いますよ」
彼はそう言って笑いかけてくれる。想像していた通りの優しい笑い方だった。
「ありがとうございます」
「いえ、それでは査定に移らせて貰ってもいいですか?」
「ああ、これらだな」
フリッツさんが持っていた物を全てカウンターの上に置く。その量はかなりのものでよく一人で持っていられたなと思う。
「それでは査定をさせて頂きますね」
「よろしく頼む」
それからギルさんはケルベロスの素材を持ち上げて見回したり、手触りなどを確かめて良し悪しを見ているようだ。
かなりの量があったので終わったのは30分程してからだったが、早いのか遅いのかは分からない。勇者パーティで素材に関することはほとんど触らせてもらえなかったからだ。
「ふぅ。終わりました」
「それで、どうですか?」
「専門家という訳ではないので絶対にという訳ではありませんが、金貨300枚は堅いと思います。解体も綺麗にされていて、傷もほとんどありません。魔石にも傷はついていませんし。もしかすればもっと上がるかもしれませんよ?」
「それなら街まで行って売った方がいいよな?」
「そうですね。ただ、物凄く目立つので気を付けてくださいね。下手をするとそれを取られる可能性もあるので注意が必要です」
「分かった。それと、もしここで売る場合は金貨300枚になるのか?」
フリッツさんが聞くとギルさんは肩を竦めて言葉を返した。
「まさか、そんな訳ないでしょう? ここにはそんな量の金貨はありません。ダラスまで手紙を送って人を呼びます。そしてその人に高い料金を払って買取をして貰うことになるので、なかなか厳しいですよ」
「買取をしてもらう人を呼ぶのに金がかかるのか?」
「ええ、それだけの物を買い取るんです。それをこの辺境に呼ぶのであれば、それ相応の代金が必要になりますよ。査定をする人だけではなく護衛等も必要ですからね」
「なるほど……」
「それなら多少安く買いたたかれても商人の方にお願いをするか。多少目立ってもいいならギルドに行くかですね。街で目立ちたくないのなら最悪裏の人間に売るということも考えられますが、ギルド以上に違った人間に目をつけられる可能性はあります」
「その3つしかないのか?」
「それは仕方ありません。ギルドで秘密裏に売ることも出来るかもしれませんが、必ず目をつけられます。勿論悪い意味ではないですけど、そんな人をCランクにはしておけんとなるでしょうね」
「分かった。ありがとう」
「ありがとうございました」
「いえいえ、村の近くでこんな魔物が出るとは。恐ろしいですね。気を付けてください」
私たちは立ち上がってギルド会館を出ることにした。そして出てすぐにフリッツさんが話しかけてくる。
「一度戻ってこれを置いてきていいか?」
「はい、勿論です」
私たちは一度戻って家にそれを置いて再度村の案内をしてもらう。そんな時にフリッツさんがぽつりと漏らす。
「しかしあの素材を好きに売り払えないとは厄介だな」
「そうですね。フリッツさんは目立ちたくないって事ですよね?」
「ああ、ちょっと事情があって目立ちたくないんだ」
「でしたら変装をしてどこかの商館に持ち込んで見てはいかがですか?」
「変装?」
「はい、とっても似合うと思うんです」
「に、似合う?」
「はい!」
私はその時確信に満ちた眼差しで彼を見ていたと思う。
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