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第1章 聖女は出会う
8話 綺麗な髪
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「ありがとうございました」
暫くして、私は泉で顔を洗って彼にお礼をいう。
彼は私がいいというまで抱きしめていてくれた。上半身裸であったのにも関わらずだ。
「気にするな。そういう時は誰にだってある」
彼はそう言って優しく微笑んでくれる。彼は既に着替えて服を着ている。その服は冒険者が着るような服装で皮の鎧で守っていた。
そしてなぜか髪の色も茶色に変わっている。さっきまでは綺麗な真紅だったのにどうしたんだろうか。
「あの、一つ聞いていいですか?」
「どうした?」
「何で髪の毛の色を変えたんですか?」
「っ!? さっきの髪の色が分かったのか!?」
「え? はい。綺麗な真紅だったと思いますけど」
「……」
正直に話したら彼は黙ってしまった。何かまずいことだったんだろうか。暫く黙って考えていた彼であったけど、唐突に私の目を見て話し出す。
「これから君を村に連れていく。だけどさっき見たことは絶対に誰にも言わない。それだけは誓ってくれ。いいか?」
「え? 髪が赤かったことですか?」
「そうだ。それだけの事なんだ」
「分かりました。約束します」
人に言いたくない事の一つや二つあるだろうと思って了承する。しかもそれが命の恩人なのだ。その程度なら従わないはずがない。
彼は私の目をじっと見つめていたが、納得したのかそっと視線を逸らした。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
そう言って歩いだそうとした時、私のお腹がくぅ~となった。その音が鳴った瞬間顔から火が出たのかと思った。
彼は足を止めているし沈黙が場を支配する。
「そう言えばグリズリーベアの処理をしてなかった。今ここでやりたいんだがいいか?」
「は、はい」
「その間何もせずに待っててもらうのも悪い、これでも食べて待っててくれ」
「分かりました」
そう言って彼は私に袋に入った物を差し出した。そしてそそくさとグリズリーベアが倒れている方に歩いて行く。
「絶対聞かれてたよね……」
そう思っても聞かなかったことにしてくれた彼の優しさを無下にするわけにはいかないと、泉の近くの木にもたれかかるように座り込む。そして彼が渡してくれた袋を開けると、そこには袋一杯の豆が入っていた。それを少しずつつまんで口の中に入れていく。
「ふぅ、美味しかった。これだけ食べれば大丈夫かな」
そして袋の中身を半分ほど食べた所でお腹いっぱいになったので、彼の手伝いに行く。彼は既に皮を剥ぎ取り終わっていて、今は部位ごとに解体している所だった。
「あ、ありがとうございます。これ、とっても美味しかったです。手伝うことはないですか?」
「え? ああ、大丈夫、休んでいていい。それに全部食べても良かったんだぞ? そんなに量もあった訳じゃないし、グリズリーベアに追いかけられたから怖かっただろ? パーティにいた時ならいざ知らず、一人でなんて怖くない訳がないからな」
「え? あ、ああ。そう……ですね。でも、このまま何もしないのも悪い気しかしないので、出来れば手伝いたいなって……」
勇者パーティの事はもう思い出したくもないし仲間だとすら思っていないけど、あそこにいたことで培った癖や習慣というものは直ぐには変えがたい。解体なども私がナイフを持ってやっていたこともあってやらずにはいられなかった。
「そうか? 因みにどれ位出来るんだ?」
「大抵のことはできますよ! いまはちょっとナイフがないので貸していただければ出来ます」
「……分かった。じゃあこの予備のを貸してやるからそっちの方を任せた」
「はい。任せてください!」
こうして私たちは一緒に作業をしてグリズリーのベアを解体した。
暫くして、私は泉で顔を洗って彼にお礼をいう。
彼は私がいいというまで抱きしめていてくれた。上半身裸であったのにも関わらずだ。
「気にするな。そういう時は誰にだってある」
彼はそう言って優しく微笑んでくれる。彼は既に着替えて服を着ている。その服は冒険者が着るような服装で皮の鎧で守っていた。
そしてなぜか髪の色も茶色に変わっている。さっきまでは綺麗な真紅だったのにどうしたんだろうか。
「あの、一つ聞いていいですか?」
「どうした?」
「何で髪の毛の色を変えたんですか?」
「っ!? さっきの髪の色が分かったのか!?」
「え? はい。綺麗な真紅だったと思いますけど」
「……」
正直に話したら彼は黙ってしまった。何かまずいことだったんだろうか。暫く黙って考えていた彼であったけど、唐突に私の目を見て話し出す。
「これから君を村に連れていく。だけどさっき見たことは絶対に誰にも言わない。それだけは誓ってくれ。いいか?」
「え? 髪が赤かったことですか?」
「そうだ。それだけの事なんだ」
「分かりました。約束します」
人に言いたくない事の一つや二つあるだろうと思って了承する。しかもそれが命の恩人なのだ。その程度なら従わないはずがない。
彼は私の目をじっと見つめていたが、納得したのかそっと視線を逸らした。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
そう言って歩いだそうとした時、私のお腹がくぅ~となった。その音が鳴った瞬間顔から火が出たのかと思った。
彼は足を止めているし沈黙が場を支配する。
「そう言えばグリズリーベアの処理をしてなかった。今ここでやりたいんだがいいか?」
「は、はい」
「その間何もせずに待っててもらうのも悪い、これでも食べて待っててくれ」
「分かりました」
そう言って彼は私に袋に入った物を差し出した。そしてそそくさとグリズリーベアが倒れている方に歩いて行く。
「絶対聞かれてたよね……」
そう思っても聞かなかったことにしてくれた彼の優しさを無下にするわけにはいかないと、泉の近くの木にもたれかかるように座り込む。そして彼が渡してくれた袋を開けると、そこには袋一杯の豆が入っていた。それを少しずつつまんで口の中に入れていく。
「ふぅ、美味しかった。これだけ食べれば大丈夫かな」
そして袋の中身を半分ほど食べた所でお腹いっぱいになったので、彼の手伝いに行く。彼は既に皮を剥ぎ取り終わっていて、今は部位ごとに解体している所だった。
「あ、ありがとうございます。これ、とっても美味しかったです。手伝うことはないですか?」
「え? ああ、大丈夫、休んでいていい。それに全部食べても良かったんだぞ? そんなに量もあった訳じゃないし、グリズリーベアに追いかけられたから怖かっただろ? パーティにいた時ならいざ知らず、一人でなんて怖くない訳がないからな」
「え? あ、ああ。そう……ですね。でも、このまま何もしないのも悪い気しかしないので、出来れば手伝いたいなって……」
勇者パーティの事はもう思い出したくもないし仲間だとすら思っていないけど、あそこにいたことで培った癖や習慣というものは直ぐには変えがたい。解体なども私がナイフを持ってやっていたこともあってやらずにはいられなかった。
「そうか? 因みにどれ位出来るんだ?」
「大抵のことはできますよ! いまはちょっとナイフがないので貸していただければ出来ます」
「……分かった。じゃあこの予備のを貸してやるからそっちの方を任せた」
「はい。任せてください!」
こうして私たちは一緒に作業をしてグリズリーのベアを解体した。
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