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29話 蠢く者達
しおりを挟む「レティシア! あれはどういう事だ!」
豪華な部屋、収穫祭でヴァルターが控室として使っていたよりももう1段上の部屋にレティシアとロンメルはいた。
この豪華な部屋はレティシアの私室で、ロンメルが押しかけて来た所だった。
「あれとは一体なんでしょうか? ロンメル様」
「何を白々しく言っているんだ! 収穫祭の時、どう考えても兄上とそういう仲であることを見せつけるようにしていたではないか! 僕という王子がいるのにだ!」
ロンメルは声を荒げてレティシアに詰め寄る。
レティシアは夜の為、薄い服しか着ていない。
スタイルを見せつけるような服をロンメルに見せつけながら話す。
「落ち着いてください。ロンメル様。わたくしはロンメル様ただ一筋ですわ」
「……信じられん」
「何をおっしゃいます。わたくしの全てを知っているのは貴方だけですのよ? ロンメル様?」
ロンメルはレティシアの妖艶な姿にクラりとしながらも、頭を振ってその邪念を追い払う。
「ではなぜ収穫祭であのような真似をしていたのだ。答えよ」
「簡単ですわ。わたくしが主催した収穫祭です。その収穫祭に、王子であるヴァルター様をお呼びした。そのエスコートはわたくし以外の誰に務まりまして?」
「他にも生徒会メンバーはいるだろう」
「皆婚約者がいますわ」
「では、教師の中でも爵位持ちはいるはずだ」
「そんな者達の爵位は低く、高くても子爵ですわ。ヴァルター様ほど高貴なお方には釣り合いません」
「自分なら釣り合うと?」
「はい。わたくし以上に素晴らしい女はこの国、いえ、世界中どこを見てもいないと思いますわ」
「……そうかもしれないが」
ロンメルはまだ何か言おうとするけれど、レティシアがそれをさせなかった。
彼女はロンメルに抱きつき、唇で唇を塞ぐ。
たっぷり長い時間塞ぐと、お互いに息をする為に離れる。
「ロンメル様。罰を与えになるのであればあちらで……」
ロンメルはレティシアの視線を見ると、その先には大きな天蓋のついた寝台が置かれていた。
「今夜は寝かさずに取り調べをしてやる」
「畏まりました。是非とも心ゆくまでお調べ下さい」
ロンメルは鼻息を荒くして寝台へ向かい、レティシアは心の中で彼の事を嘲笑いながら彼にもたれ掛かる。
「お前は素晴らしい女だな」
「当然ですわ」
ロンメルにそう言われ、レティシアはある女のことを思い浮かべる。
自分よりも爵位が下で、見た目も劣るあの女。
彼女がロンメルを奪ってやったのに、大した表情を変えなかったあの女。
それどころかいつの間にか彼女が欲しかったあのヴァルターの隣までいて……。
(信じられない。わたくしが手に入れられないものを、あの女が手に入れられるなど……。絶対に信じてやるものか。わたくしが必ず取り返す。ヴァルター様の隣はわたくしの場所なのだから)
彼女は想いを燃やし、目の前の男を処理するかのように扱った。
そうして、電気が消され、部屋の中には月明かりが2人を映し出していた。
******
時刻は深夜。草木も眠る様な静かな時間。
その部屋では月明かりだけが2つの影を映していた。
1つはイスに座る影。もう1つはその影に跪く影だ。
「失敗したようだな」
「申し訳ありません」
「理由は」
「カスミの感情を読み違えました」
「読み違えた?」
「はい。カスミには心の思うままに行動するようになる毒を盛ったのですが、カスミがヴァルターを殺す所か守るとは……」
「真か?」
「はい。確かに確認しました」
「……なぜそんなまわりくどい毒を使ったのだ」
「あれは数時間で効果が消えます、更に体に吸収されて証拠も残りません。それに、カスミが直ぐに殺していれば、それで解決するかと思ったのです」
「それもそうか……」
イスに座る影は少し悩み、跪く影はそれをじっと待つ。
「奴の大事な物を奪え」
「よろしいのですか? 気付かれるかもしれません」
「確かに、もう何年も潜り込ませてはいるが、そろそろ他の奴らの動きが怪しくなってきた」
「気付かれた……と?」
「まだ大丈夫だろうが……。怪しまれている位はあるかもしれん。フレイアリーズの様に……」
「では、私もそちらの対処を?」
「いや、よい。さっさと決着を付けよ。フレイアリーズの道具も使えているのだろう?」
「はい。姿を変える魔道具やカップに毒を注げる魔道具。暗殺する為だけの道具も山のようにありました。あれがあれば確かに国王の懐刀として力を振るうのも当然かもしれません」
「それを直ぐに使いこなしたお前もお前だ。期待しているぞ」
「はい。必ずや奪って見せます。奪われる苦しみを何度でも味わわせてやります」
「そうせよ。お前も奪われた側なのだからな」
「はい」
月が雲に隠れ、一時地上全てが雲に覆われる。
次に雲が消え月がその場を照らした時、影は一つしか存在しなかった。
その影はゆっくりと立ち上がると、ぽつりと呟く。
「それにしてもしぶとい……。一体何年耐えるのだ……。私の時代はすぐそこなのに……」
彼はそれだけ残すと部屋を出て行った。
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