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18話 動くな
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「それにしても人が多いな……」
「はぐれぬ様に一緒にいることを気を付けましょう」
「だな。うわっとと、お嬢さん? 大丈夫かい?」
パステルさんは人ごみの中で令嬢にぶつかってしまったらしい。
相手の令嬢はパステルという騎士に手を取って貰って頬に朱を染めていた。
「え……ええ、とても素敵な方……。こちらで一緒にお茶でもいかがですか?」
「え? オレと? 嬉しいなぁ」
私は少しだけ冷たい目で彼を見つめる。
「本当ですか? でしたら是非!」
「あ……はは。でも、ごめんね。今はお仕事中だから。また今度ね」
「……そうですか。残念です」
彼女とはそう言って別れてしまった。
「よろしいのですか? 私の方で調べておいてもいいのですが?」
「流石にそれは出来ないよ」
そう言いながら軽く笑っている。
「ではまずは正門の方から行きますか? そちらの方が人が少ない可能性もありますので調べておく価値はあるかと」
「ああ、この学園に君はいたのだろう? その時から使えそうだった道の話を聞かせて欲しいかな」
「畏まりました。といっても、学園にいた時は書類仕事と授業だけでほとんどそう言った事は調べて居ないのですが……」
良くも悪くも生徒会の仕事に全振りしていたとしか言えないような気がしている。
それほどにずっとやっていたように思う。
「それでもいいよ。少なくとも、行っていないオレ達よりはマシだからね」
「畏まりました」
私はそれから正門に回り、順に見ていこうと提案した。
そして、それは受け入れられ、正門に向かう。
「これは……」
「酷いな……」
正門に近付いただけで分かる。
正門はいつの間にかほとんど閉め切られ、狭い間から入ってこようとする人同士で詰まっていた。
正門は全開にすれば20人は並んで入れるけれど、今は2人入れるかどうかという所。
その狭い所だけで入場と退場を同時にやっているので酷い状態だ。
検査もしているようでしておらず、平民の人なら誰でも入る事が出来るようだった。
「安全という概念をお持ちではないのでしょうか」
「どうやらそうらしい。危険でない所を探すことの方が必要と見た」
「そのようですね」
私たちはそれからどうやって逃げるべきか。
どのルートを通るのが一番人目につかないか。
ということを重点的に調べ始めた。
そして、私がなんとなくこのルートは、ということを予め学園にいた時に考えていたルートを精査し、より精度の高い逃走ルートを決めていく。
「こんなものでしょうか?」
「そうだな。これくらい調べていれば問題ないだろう」
人混みがかなり多かったので少し時間はかかったけれど、何とか調べ終わることが出来た。
であれば後は帰るだけだ。
でも、出来ればその前に殺す為の武器なども手に入れておきたいとは思うのだけれど……。
しかし、パステルや騎士たちがこれだけいる中では目立つ真似は出来ない。
大人しく帰る方がいいだろう。
信頼は順調に積み上げられているはずだ。
ここで無茶をする必要はない。
「それでは戻りますか」
「いやいや。せっかくの収穫祭だ。ちょっと休んでいこう」
「ヴァルター様はお仕事をなさっておられるのにですか?」
「まぁまぁ。考えてもくれ。今回俺達は一緒になって逃走ルートは探していたけれど、怪しい奴については調べていない。だから、ベンチで休みながら怪しそうな奴がいないか調べてくれ」
「……なるほど」
確かに、怪しい人物を全て見つけることは不可能だけれど、ある程度目星をつけておくことは出来る。
幸い、私はフードだし誰であるかバレることは中々ないだろう。
「だから、そこのベンチで座って見ていてくれ」
「パステル様はどうなさるのですか?」
「オレはちょっと用事があるのさ。頼んだよ。他の者達はそれぞれ2人一組でゆっくりするといいよ」
「はぁ……」
そう言われてしまったら仕方ない。
私はベンチに座る。
そのベンチは中々見つけにくい木の陰にあったので、他の人は誰も座っていないようだった。
他の騎士の人達は、思い思いの場所に向かっている。
私はベンチに座り、1人ぽつりと呟く。
「怪しい人……ね」
「動くな」
「!?」
私は背中に何か冷たい物が押し当てられているのが分かった。この感触はナイフだろうか。
今まで全く気配を感じられなかったのに、今になってそこに何かがいると分かる。
声は中性的で男か女か分からない。
「さて、ちょっとお話をしようか……。おっとしゃべるなよ。首だけで返事をしろ」
「……(こくり)」
私は言われた通りに首を縦に振った。
「いい子だ。大分消すのに時間がかかっているようだが……。お前、本当に出来るのか?」
「……」
奴は何を知っているのだろうか。
何も分からない時は、黙るに限る。
「だんまりかい。まぁ、別にお前がやらない方が私としてはありがたいんだがな?」
「……?」
個人的に何かある……のか?
彼? 彼女? は更に続けて言う。
「第一、あの王子はお前の仇だろ? 侯爵の息子だってあそこで死んでおけばお前に取ってやりやすくなったはずなのに……。もしかして惚れたか?」
「……」
奴は何を言っているんだろうか。私が人と恋をするなんてことあるはずがない。
「っち。今日、どこかのタイミングで消しにかかる。邪魔だけはするなよ」
「……」
「伝えたぞ。あの侯爵の息子も消せていれば楽だったのに……」
「!」
私は思い切って振り向く。
たったいま私の後ろにいたのがあの事件の……。
しかし、そこには誰もいなかった。
すぐそこにいたはずなのに、誰もいない。
まるで幻だったかのように。
「はぐれぬ様に一緒にいることを気を付けましょう」
「だな。うわっとと、お嬢さん? 大丈夫かい?」
パステルさんは人ごみの中で令嬢にぶつかってしまったらしい。
相手の令嬢はパステルという騎士に手を取って貰って頬に朱を染めていた。
「え……ええ、とても素敵な方……。こちらで一緒にお茶でもいかがですか?」
「え? オレと? 嬉しいなぁ」
私は少しだけ冷たい目で彼を見つめる。
「本当ですか? でしたら是非!」
「あ……はは。でも、ごめんね。今はお仕事中だから。また今度ね」
「……そうですか。残念です」
彼女とはそう言って別れてしまった。
「よろしいのですか? 私の方で調べておいてもいいのですが?」
「流石にそれは出来ないよ」
そう言いながら軽く笑っている。
「ではまずは正門の方から行きますか? そちらの方が人が少ない可能性もありますので調べておく価値はあるかと」
「ああ、この学園に君はいたのだろう? その時から使えそうだった道の話を聞かせて欲しいかな」
「畏まりました。といっても、学園にいた時は書類仕事と授業だけでほとんどそう言った事は調べて居ないのですが……」
良くも悪くも生徒会の仕事に全振りしていたとしか言えないような気がしている。
それほどにずっとやっていたように思う。
「それでもいいよ。少なくとも、行っていないオレ達よりはマシだからね」
「畏まりました」
私はそれから正門に回り、順に見ていこうと提案した。
そして、それは受け入れられ、正門に向かう。
「これは……」
「酷いな……」
正門に近付いただけで分かる。
正門はいつの間にかほとんど閉め切られ、狭い間から入ってこようとする人同士で詰まっていた。
正門は全開にすれば20人は並んで入れるけれど、今は2人入れるかどうかという所。
その狭い所だけで入場と退場を同時にやっているので酷い状態だ。
検査もしているようでしておらず、平民の人なら誰でも入る事が出来るようだった。
「安全という概念をお持ちではないのでしょうか」
「どうやらそうらしい。危険でない所を探すことの方が必要と見た」
「そのようですね」
私たちはそれからどうやって逃げるべきか。
どのルートを通るのが一番人目につかないか。
ということを重点的に調べ始めた。
そして、私がなんとなくこのルートは、ということを予め学園にいた時に考えていたルートを精査し、より精度の高い逃走ルートを決めていく。
「こんなものでしょうか?」
「そうだな。これくらい調べていれば問題ないだろう」
人混みがかなり多かったので少し時間はかかったけれど、何とか調べ終わることが出来た。
であれば後は帰るだけだ。
でも、出来ればその前に殺す為の武器なども手に入れておきたいとは思うのだけれど……。
しかし、パステルや騎士たちがこれだけいる中では目立つ真似は出来ない。
大人しく帰る方がいいだろう。
信頼は順調に積み上げられているはずだ。
ここで無茶をする必要はない。
「それでは戻りますか」
「いやいや。せっかくの収穫祭だ。ちょっと休んでいこう」
「ヴァルター様はお仕事をなさっておられるのにですか?」
「まぁまぁ。考えてもくれ。今回俺達は一緒になって逃走ルートは探していたけれど、怪しい奴については調べていない。だから、ベンチで休みながら怪しそうな奴がいないか調べてくれ」
「……なるほど」
確かに、怪しい人物を全て見つけることは不可能だけれど、ある程度目星をつけておくことは出来る。
幸い、私はフードだし誰であるかバレることは中々ないだろう。
「だから、そこのベンチで座って見ていてくれ」
「パステル様はどうなさるのですか?」
「オレはちょっと用事があるのさ。頼んだよ。他の者達はそれぞれ2人一組でゆっくりするといいよ」
「はぁ……」
そう言われてしまったら仕方ない。
私はベンチに座る。
そのベンチは中々見つけにくい木の陰にあったので、他の人は誰も座っていないようだった。
他の騎士の人達は、思い思いの場所に向かっている。
私はベンチに座り、1人ぽつりと呟く。
「怪しい人……ね」
「動くな」
「!?」
私は背中に何か冷たい物が押し当てられているのが分かった。この感触はナイフだろうか。
今まで全く気配を感じられなかったのに、今になってそこに何かがいると分かる。
声は中性的で男か女か分からない。
「さて、ちょっとお話をしようか……。おっとしゃべるなよ。首だけで返事をしろ」
「……(こくり)」
私は言われた通りに首を縦に振った。
「いい子だ。大分消すのに時間がかかっているようだが……。お前、本当に出来るのか?」
「……」
奴は何を知っているのだろうか。
何も分からない時は、黙るに限る。
「だんまりかい。まぁ、別にお前がやらない方が私としてはありがたいんだがな?」
「……?」
個人的に何かある……のか?
彼? 彼女? は更に続けて言う。
「第一、あの王子はお前の仇だろ? 侯爵の息子だってあそこで死んでおけばお前に取ってやりやすくなったはずなのに……。もしかして惚れたか?」
「……」
奴は何を言っているんだろうか。私が人と恋をするなんてことあるはずがない。
「っち。今日、どこかのタイミングで消しにかかる。邪魔だけはするなよ」
「……」
「伝えたぞ。あの侯爵の息子も消せていれば楽だったのに……」
「!」
私は思い切って振り向く。
たったいま私の後ろにいたのがあの事件の……。
しかし、そこには誰もいなかった。
すぐそこにいたはずなのに、誰もいない。
まるで幻だったかのように。
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