暗殺者の家系なのに殺せない私。無表情な王子を狙っていたらなぜか信頼されていくんですが?

土偶の友

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11話 フレイアリーズの暗殺方法

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 昼食を食べてから数時間が経った頃、屋敷の前で騒ぎが起きる。

「来られたようだぞ」

 私は気にしないようにしていたけれど、ヴァルターにそう言われてしまえば行かない訳にはいかない。

「畏まりました。私はどちらでお出迎えしましょうか」

 本来であれば隣の部屋でも、物置にでも姿を見られないようにしておくべきだけれど、一緒にいろ。
 ということを言われたのであれば侯爵様を出迎えに行くのか、ここで一緒に待つのか。

「一緒にいればいい」
「畏まりました」
「ただし席はそこのままでいい」
「はい」

 その言葉を聞いて私は彼が何を恐れているのかを察した。

 私は侯爵様がこの屋敷に来ている間に、何か他の部屋に細工をしないかということを心配しているのだと思った。
 侯爵様がいれば、それだけここに戦力を裂かなければいけなくなる。

 しかしそうなると私につけている監視の目も緩めなければいけない。
 それは出来ないので、侯爵様と一緒に守りつつも監視をしてしまおう。
 ということに違いない。

 私は出来る限り目立たないようにすることに決めた。



 暫くすると部屋に人々が入ってくる。

 前にいるのは黒の髪をオールバックにして、ぴしりと貴族の服を着こなしている男性。
 そして、金髪で紫の瞳をもち、皺ひとつない服をまとった同じくらいの年齢の女性だ。

 彼らの後ろには護衛の騎士や執事にメイドが付き従っている。

 ヴァルターが立ち上がり彼らを出迎えた。

「ようこそいらっしゃいました。バレンティア侯爵殿」
「こちらこそお忙しい所を来て申し訳ない。ヴァルター殿下」
「その様な事はありません。いつでもお越し下さい」

 いつもより少し明るい顔のヴァルターを見て、少し驚く。
 彼の側で仕事を始めて2週間以上が経つけれど、今まであの様な姿を見たことは一度として無かった。
 勿論、今ですらちょっと表情が動いている。
 という程度だけれど、確実に動いていると分かる。

 ヴァルターと侯爵は当たり障りのないことを話し、最近の近況等を話しあっている。
 私は彼らの会話から漏れ出る情報を一切聞き逃すまいと集中していた。

 そんなことをしていたらいつの間にか時間が来ていたのか、年配のメイドが来ていた。

「殿下。お食事の用意が完了しています」
「なるほど。では続きは食事をしながらでも」
「おお、丁度空腹に耐えかねていた所でしてな。ありがたい」
「腕によりをかけて作らせていますので、心行くまでご堪能下さい」

 皆が移動した所で、私に話しかけてくる人がいた。

「カスミ。俺達も移動するぞ」
「パステル様?」
「どうした。秘書で側にいろと言われただろうが」
「そうですが……。私が行ってもいいのでしょうか?」
「何が問題なの?」
「奴隷の私が一緒に行くのは……その……。よろしくないのかと。それに食事の所ではより不味い事もありましょう」
「フレイアリーズ家には一緒の食事中に毒物でも仕込む技でもあるっていうの?」

 パステルは冗談めかしてそう言ってくる。

「はい。ございます」

 私の返答は想像していなかったのか、少し驚いた様な顔をしているのが印象的だった。

「それは……本当?」
「はい。暗殺を出来る好機は一瞬たりとも見逃せませんので」
「でもそれを自分から言うってことはやらないっていうことじゃない?」
「……そのつもりですが、貴方がたにどう映るのかは分かっているつもりです」

 暗殺出来る者が側にいるだけでも恐ろしいだろう。

「そう言ってくれるだけでも少しは信用出来るよ。最近は君の仕事ぶりも凄いし、ヴァルターと本当に秘書としてもいいんじゃないのか。っていうことを話しているんだ」
「それは……ありがとうございます」
「うん。確かにフレイアリーズ家の暗殺の技術は心配ではあるけれど、首輪で傷つける事も出来ないからね。というか、毒を盛るのはそれに入るからね。分かっているよね?」
「はい。当然です」

 私は間髪入れずに答えると、彼は安心したように笑ってくれる。
 私が毒を盛ることが傷つけることになると認識しているのであれば、もしそんなことをしようとしたら激痛で動けなくなると安心しているのだろう。

 でも、私にはそんなものは関係ない。
 既に首輪の効力は失われているのだから。

「良かった。殿下はやっぱり君の事を疑っていてね。でも、俺はそんなことないって言ってたんだけど」
「仕方ありません。私はフレイアリーズ。その名前の意味を分からない程ではありませんから」
「……」

 真っ当な貴族なら近付きたくない存在。
 それがフレイアリーズ家だ。
 だから生徒会には入っていても、友人が出来る事は無かった。
 そんな生活になるからこそ、身内の存在は重たい。
 アキ……。

「辛いかもしれないけれど、きっとヴァルター様から認められて普通に生活出来るようになるから。それまでの辛抱だよ」
「はい。お心遣いありがとうございます」

 私は彼に頭を下げる。
 自分の事をそうやって信じてくれる。と言うのであれば、素直に受け取っておこうと思う。
 ヴァルターを殺す時に少しは反応がおくれるかもしれないから。

「それじゃあ行こうか。あ、因みにどうやって毒を入れるの? ちょっと知りたいんだけど」

 私たちは歩きながらその毒殺方法について話す。
 といっても大した事はない。

「物を落とした振りをしてしゃがみ込み、その時にテーブルの下からグラスに毒を入れるだけです」
「え? テーブルの下からってどうやって?」
「鋭い専用の器具を使います。ここにはないので出来ませんが、テーブルごとグラスを貫きその隙間から入れるのです」
「でも、それだと液体が零れるんじゃない?」
「毒物を入れると同時に引き抜く時に穴を塞ぐものを入れます。それを使えば造作もなく……」

 簡単に言っているけれど、テーブルの下からグラスを貫く技術と、対象をしっかりと狙う技術が必要になる中々に難易度が高い物ではある。

「それって、見分ける方法ってあるの?」
「大きな揺れがないのにグラスの中身が揺れたらお気をつけ下さい。と言っても、ワイングラス等でしたら余程の物でない限り大丈夫ですよ。問題は普通のグラスを使っている方ですね」
「普通のグラス?」
「はい。子供等です。彼らは騒がしくアルコールも飲みません。更に、日常的に動き回っていて、グラスが揺れても不自然ではないくらいには動くのです。先ほどの技術もその時に使われる事の方が多いので」
「それは……話して良かったの?」
「フレイアリーズは私と幾人かしか残っていないと聞きましたから。どうせなくなる技術です。構わないかと」
「……ありがとう。急ごうか」
「はい」

 私は彼に自分の知っている技術を伝える。
 これで少しでも信用してくれるのならば安い物。
 それどころか、特殊な道具が無ければ出来ないこの暗殺方法は今回はハッキリ言って使う事はない。
 であれば、この話をしてもなんら問題はない。
 そう思う。

 私は、彼に続いて食堂へと向かった。
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