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6章

138話 病の種類

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「師匠……? クレアさん?」

 僕の前に、師匠とクレアさんが立っている。

「お前は休んでいるといい。俺とクレア殿で治療をしておこう。それなら、お前が回復するのは早くなるだろう?」
「師匠とクレアさんが? でも、マーキュリーの患者がまだいるのでは……」
「それはかなり片付いている。肌の方はもうほとんど全員終わっているし、中毒性も、後はクレア殿1人で面倒をみきれる。ちゃんと治療は進んでいるぞ」
「そんなことが……」
「ああ、だから気にするな」

 師匠は優しく言ってくれる。

「ただ、お前の肌にはありえない程の数のそれがいる」
「……はい」
「だから、おれたちが今の内に減らしておくんだ。それならば……問題ないだろう?」
「……はい。ありがとうございます。でも、クレアさんは仕事が……」

 ディオンさんは屋敷を出ていかないといけない。
 大事な片腕を失ったのに、こうして行くなんてダメなんじゃ……。

「それは心配ありません。なんの為にディオンがここにいると?」
「え?」

 僕はディオンさんの方を見ると、彼は笑っていた。

「この部屋は今、国王陛下がいる想定で厳重に守られています。相応の人しか入れませんよ。そして、出て行ったら二度と戻ってこれない。これは、わたくしが出て行くまでは有効らしいので」
「ディオンさん……」
「そう言う訳だ。わかったな?」
「はい。ありがとうございます」
「では早速やっていく。エミリオ。今は休み、しっかりと体を休ませろ。体調が戻り次第、合流して治療に入る」
「はい!」

 僕は師匠の言葉に従い、しっかりと休むことを決意する。
 それから僕は眠りについた。

******

***ジェラルド視点***

「寝たか……」
「ええ」

 おれはクレアと示し合わせてこれからのことを話す。

「まずはおれ達がエミリオの治療をしていく。クレア殿はエミリオに『体力増強ライフブースト』をかけておいてくれ」
「はい」
「おれが入る。ただ、もしも乾きそうになったら軽くってくれ」
「かしこまりました」

 クレアの返事を待って魔法を準備しようとすると、サシャが聞いてくる。

「あの……塗る……とはどういう事ですか?」
「お前は肌の治療を知らないか」
「はい」
「まず、普通の治療は体内に入って治療する。それは分かるな?」
「はい」
「だが、体内にいては肌にいる敵を倒すことはできない。だから、外側……肌に特殊な溶液を塗り、それの中にサングレを注入して入るのだ」
「その……溶液がないといけないのですか?」
「サングレが移動するには液体の中でないといけないんだ。そうじゃないと、サングレ自体が形を保てないし、移動速度自体が遅くなる」
「なるほど」
「だからそれを使ってやるんだ」
「わざわざありがとうございます」
「気にするな。それではやっていくぞ」

 おれは集中し、魔法を唱える。

「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ『水の解析ウォーターアナライズ』」

 エミリオの体を調べ、少ない場所をクレアに指示していく。

「少ないところを潰していく。いいか?」
「いいですが……多い所からやっていく方がいいのでは?」
「そういう場所はエミリオが起きてからの方がいいだろう。エミリオは……必ず自分で治療したがるからな」
「よく弟子の事を知っていらっしゃるのですね」
「当然だ。これでも師匠だぞ」
「そうですか。よい関係ですね」

 それから、おれはエミリオの治療を始めた。

******

 師匠に休めと言われてから数日。

 僕はじっくりと休み、体力を回復させた。
 それから、師匠と協力して僕自身の治療を始める。

「氷雪の剣と成りて敵を抉れ、その血を持って我が誉とする『氷雪剣生成クリエイトアイスソード』そこだね」

 僕は隠れていた病を魔法で見つけ出し、そこだけを狙って攻撃を繰り返していく。

「キィィィィィ!!!」

 病は特に反撃することもなく、僕の攻撃を受けて消されていく。

 すぐ近くでは、師匠も病を消していた。

「これは……反撃はして来ないんでしょうか?」
「そのようだな。今までも反撃された事はなかった。おそらく、何としてでも姿を隠すことによって生き延びる事を選択しているのだろう」
「でも、それだと厳しくないでしょうか?」
「そうか? お前が『水の解析ウォーターアナライズ』を使えるようになるまでは誰も見つけることができなかった。そう考えていけば、かなり有用ではあると思うがな」
「確かに、それはそうですね」

 今回たまたま魔法を見つけることができたけれど、普通だったらできなかっただろう。

「そういう訳だ。個人的に気になるのは、形が違う……ということだな」
「形が違う……ですか?」
「そうだ。バジリスクの時のことを覚えているか?」
「あの……体内にいた真っ黒いトカゲの毒のことですか?」
「そうだ。普通、毒や病はどんな場所にいても、1種類につき1つだ。だが……」
「僕の病は……2種類……」
「……これは、なにか別の理由があるかもしれない」
「別に理由……ですか?」
「……」

 師匠はそれっきり黙り、1人で黙々と病を倒し続ける。
 敵は数が多いが、抵抗してこない。
 なので、時間こそかかったけれど、何事もなく倒し切ることができた。

「やっと……これで……僕は……病から……解放された……。ということでしょうか?」

 正直実感が湧かない。
 ただただ調べて敵を潰していただけだからだ。

 本当に……これで治療できたのだろうか?
 でも、そうだとしたら……嬉しい。

 そこに師匠が、重たい口調で声を出す。

「エミリオ。一度ついてきて欲しい場所がある」
「ついてきて欲しい場所?」
「ああ、くれば分かる」
「分かりました」

 師匠は重たくそう言うと、元の体に戻っていく。

 僕もそれに続く。

「それで、どこに行くのですか?」
「お前の体内だ」
「僕の?」
「そうだ。行くぞ」

 師匠はそう言って、さっさと僕の中に入っていく。
 なので、僕も後を追った。

「どこに行くのですか?」
「こっちだ」

 師匠は最小限にしかしゃべらない。

「師匠。どこに向かっているのですか? こっちは……脳?」
「エミリオ。一つだけ約束してくれ」
「なんでしょうか?」
「これから何を見ても、決して戦ってはならない。いいな?」
「え? し、師匠? 僕の体に何が……」

 僕がそう言うと師匠はゆっくりと速度を落としていく。
 そして、その先には、脳の……かなり重要な部分が存在していた。

 本来であれば、近付くことすら決して許してはくれなかった場所。
 何かあったら決して取り返しがつかない。
 そう言われている場所だ。

 師匠はそんな危険な場所を何も言わずに進んでいく。
 そして、かなり開けた場所に出る。

「ここは……」

 なぜここに? という事を思う。
 この場所は普通の人間サイズだと、広さにして半径20ⅿ四方の円……という感じだろうか。

 脳にこんな広い場所があるなんてちょっと驚きだ。

 師匠は、そんな中で、とある一点を見つめる。

「師匠?」
「エミリオ。見ておけ。全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ『水の解析ウォーターアナライズ』」

 師匠がそう言って魔法を使うと、脳の周辺が小刻みに揺れる。

「なに……」
「……」

 師匠は黙ったままただ一点を見つめ続けた。

 そして、小刻みは次第に大きくなり、それは現れた。

「ゴアアアアアアアアア!!!」
「ドラゴン……」

 僕の脳には、全身真っ青の美しい竜が存在していた。
 脳の一部に擬態ぎたいしていたそれは、翼を拡げれば10ⅿくらいにはなるだろうか。
 四肢はスラリと伸びているけれど、その体はとても力強く感じる。

 物語の存在だと思っていたような……英雄が戦う様な存在の竜が、そこにはいた。

「師匠! あれが……あれがもしかして病の!」
「帰るぞ」
「師匠!?」
「いいから。帰ったら説明する」
「そんな! すぐそこにいるのに! どうして! どうしてなんですか!」
「いいから戻れ! 帰ったら説明すると言っただろうが!」
「! はい……」

 僕は師匠のあまりの剣幕けんまくに頷くことしかできなかった。

「ゴアアアアアアアアアアア!!!」

 僕達に向かってえる竜を尻目に、僕達は元に戻った。

「……」
「……」

 元の世界に戻り、僕は師匠の言葉を待つ。
 部屋には僕と師匠の2人だけになっていて、部屋を静寂せいじゃくが包んでいた。

 その間に、僕は考えていた。
 あのままあいつを……なんとしてでもいいから倒せれば、僕はもう……悩まなくてもいい。
 これからは……ロベルト兄さんやリーナと一緒に遊べるはずなんだ。

 でも、師匠はそれを許してくれない。

 師匠は、そんな事を考えている僕に向かってゆっくりと口を開いた。

「エミリオ。一つ、言わなければならないことがある」
「……なんでしょう」
「エミリオ。落ち着いて聞いて欲しい」
「…………はい」
「エミリオ。おれは……あいつを……先ほど見た竜を……倒せないと思っている」
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