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6章
130話 師匠が弟子で?
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「エミリオ、おれをお前の弟子にしてくれ」
「え……ええええええ!?」
「どうして驚く?」
「え……だって……それは……」
普通は驚くだろう。
「あの、師匠は……土属性の魔法を使うんですよね? 一から水属性を教える……ということになるんでしょうか?」
もしそうだとしたら、果てしない時間がかかりそうだけど……。
しかし、師匠は首をかしげている。
「いや? 確かにおれはメインで使うのは土属性だが、水や火も使えないことはない」
「そうなんですか!?」
「当然だ。おれは砦にいたこともあると言っていただろう。その時に色々な属性が使えるようになっている。ただ……基本は1つの属性を極めて伸ばすのが普通だ。エミリオの様に考えてもおかしなことではないがな」
「そうだったんですね……」
「ああ、あ、冒険者や、魔物を討伐する部隊の魔法使いは別だぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、そういった者達はどんな相手とでも戦えるように、柔軟性が必要になるからな。そういうこともあるだろう」
「はい」
「それで、いいから教えろ。おれが習い、それを他の者達に教える」
「分かりました。ただ、僕は指導することが初めてと言ってもいいです。だから、その時はよろしくお願いします」
「ああ、おれの方でも何とかやってみよう。クレア殿もそれでいいか?」
「……ええ。文句はありません」
クレアさんも少し悔しそうな顔をしていて、何かを考えているようだった。
それから僕は師匠に魔法を教える時間が始まった。
ただ、基本的には治療を優先して、夜の時間に少しずつやっていく。
「それで意識することは……」
「なるほど、最初は自分を対象から外してやっていくのがいいのか」
「はい。他にも……」
師匠は飲み込みが早く、あっという間に魔法を習得してしまった。
僕と師匠、そしてクレアさんは小さな部屋で、眠っているマーキュリーの患者さんを前にしていた。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ水の解析」
師匠は目を閉じていて、今は患者の肌に意識を集中させている。
そして、目を開けると魔法を発動させた。
「根源より現れし汝の礎よ、かの者を呼び戻し癒やせ『回復魔法』」
「おお!?」
師匠が魔法を発動させると、患者さんの肌はみるみる回復していく。
魔法が終わる頃には、元々この肌だったという事が分かるように戻っていた。
「さすが師匠です!」
「いや、エミリオの教え方が良かった。他の弟子に指導する時も使おうと思ったくらいだからな」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだ。これがあれば……もっと……もっと治療の技術が進むぞ」
「……はい」
師匠の目がマッドでサイコな感じになってしまっている。
僕は、教えてはいけない相手に魔法を教えてしまったかもしれないと思った。
(でも、師匠なら大丈夫だよね……)
師匠はそれからクレアさんの方に向き直り、話しかける。
「ではクレア殿。教えるべき回復術師達を集めてくれ。急ぎ指導を始める」
「はい。分かりました」
チリリン
「お呼びですか。クレア様」
彼女が鈴を鳴らすと、部屋にはディオンさんが入ってきた。
「ジェラルド様を集めておいた水属性の回復術師達のところへ、こちらで支援できることはできるだけこなしなさい。魔力ポーション等も飲んで構いません。できる限り早く習得させるように」
「かしこまりました。ではジェラルド様。こちらへ」
「ああ」
そう言って、師匠とディオンさんは部屋から出ていった。
「それでは僕はまた治療に戻ります。よろしいですか?」
僕は僕で早く治療していかなければならない。
クレアさんに向かって言ったけれど、彼女はじっとしていて動かない。
「クレアさん? どうかされましたか?」
僕は不安になって聞くと、彼女はバッとすごい勢いで頭を下げた。
「エミリオ様、お願いがございます」
「え? あの、頭をあげてください」
「いいえ、今はこれが必要になってくるんです。私に……魔法の制御の仕方を教えてください」
「クレアさん? どうしてそこまで……」
この街の領主であるはずなのに、僕に頭を下げてくる。
僕は分からずに彼女に聞く。
「先日……ジェラルド様が、あなたに頭を下げていましたね」
「うん……でも、あれは師匠だからであって」
「関係ないのです。自分がまだまだ未熟であったのなら、頭を下げて指導を乞うべきなのに……。【翡翠の真珠】だなんだと、プライドばかり高くなっていました。自分で治療できないなら他から呼んでくればいい。そして、任せてしまえばいい。私も……回復術師であるはずなのに……」
「クレアさん……」
「ですが、ジェラルド様のお陰で目が覚めました。私もいっぱしの回復術師です。どうかお教え願えませんか」
「……僕で大丈夫ですか?」
「私はあなたのように自分でマーキュリーの中毒性を倒せる様になりたい。問題はありません」
「分かりました。僕ができることをさせていただきます」
それから、師匠に教えたと思ったら、次からはクレアさんの指導が始まった。
「クレアさん! 動かしすぎです! もうちょっと抑えて下さい!」
「は、はい!」
「今度はほとんど動いていませんよ!?」
「仕方ないではないですか! 私は研究職なのですから!?」
「でもそれだと治療できませんよ!?」
「あぅ……頑張ります!」
それから数日。
僕はクレアさんに何回も指導を続けた。
それでも、クレアさんは自分で研究職というだけあって、あんまり……その……魔法の扱いが上手ではなかった。
でも、彼女はマーキュリーを治療できるようになりたい。
その想いは本気であったようで、僕の指導が終わってからも1人で練習を続けていた。
「クレアさん……目の下のクマがすごいですけど、ちゃんと休んでいますか?」
クレアさんは今、物凄く不健康そうな見た目になっていた。
髪の毛もどこかボサボサで、背中も丸まって見るからに元気がない。
「ええ、問題ありません。少し疲れているというのはありますが、魔法の技術は向上していますので、だから心配は無用ですよ」
「……分かりました」
彼女が本気で魔法技術を向上させようとしている。
その想いを受けて僕もできることはしたいと考えた。
なので、彼女に回復魔法をかけようと思う。
「あの。僕の魔法を受けてもらっていいですか?」
「え? 何を……食らうことになるんですか?」
クレアさんはちょっと引き気味だ。
あれ? でもそんなおかしいことだろうか? ……!
少し考えて彼女の思っている事が分かった。
「あ、違います! 攻撃魔法ではなくって、普通に回復魔法をかけようかな……と」
「ああ……そうですか。なるほど、練習するためにその魔力は使っていなかったので、お願いします」
「はい」
僕は彼女が元気になれるように、しっかりと集中して魔法を使う。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ『体力増強』」
彼女の体が緑色に光り、魔法が成功する。
「……これは……すごい。今なら10日徹夜しても行けるかもしれません」
「そんな元気にはなりません! しっかりと休んで下さい!」
「ええ……でも、ありがとうございます。あなたは……やはり特別なのですね。と、私もやってみせます」
「はい。これだけ頑張っているのです。絶対にできますよ」
「はい」
それからクレアさんの練習は続き、マーキュリーの治療ができるほどに技術が向上した。
「やった……やりました……」
「さすがです! これで3人体制で治療できるようになりましたね」
「それもこれも……あなたのお陰です。本当にありがとうございました」
「何っているんですか。まだ……マーキュリーの患者はたくさんいらっしゃるじゃないですか」
「……そうですね。分かりました」
これから一緒にできるだけやっていこう。
そう思っていた時に部屋がノックされた。
コンコン
「はい?」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは、ロベルト兄さんの方にいっていた、サシャだった。
「エミリオ様。至急、お願いしたいことがございます」
そう話すサシャの顔は、とても真剣なものだった。
「え……ええええええ!?」
「どうして驚く?」
「え……だって……それは……」
普通は驚くだろう。
「あの、師匠は……土属性の魔法を使うんですよね? 一から水属性を教える……ということになるんでしょうか?」
もしそうだとしたら、果てしない時間がかかりそうだけど……。
しかし、師匠は首をかしげている。
「いや? 確かにおれはメインで使うのは土属性だが、水や火も使えないことはない」
「そうなんですか!?」
「当然だ。おれは砦にいたこともあると言っていただろう。その時に色々な属性が使えるようになっている。ただ……基本は1つの属性を極めて伸ばすのが普通だ。エミリオの様に考えてもおかしなことではないがな」
「そうだったんですね……」
「ああ、あ、冒険者や、魔物を討伐する部隊の魔法使いは別だぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、そういった者達はどんな相手とでも戦えるように、柔軟性が必要になるからな。そういうこともあるだろう」
「はい」
「それで、いいから教えろ。おれが習い、それを他の者達に教える」
「分かりました。ただ、僕は指導することが初めてと言ってもいいです。だから、その時はよろしくお願いします」
「ああ、おれの方でも何とかやってみよう。クレア殿もそれでいいか?」
「……ええ。文句はありません」
クレアさんも少し悔しそうな顔をしていて、何かを考えているようだった。
それから僕は師匠に魔法を教える時間が始まった。
ただ、基本的には治療を優先して、夜の時間に少しずつやっていく。
「それで意識することは……」
「なるほど、最初は自分を対象から外してやっていくのがいいのか」
「はい。他にも……」
師匠は飲み込みが早く、あっという間に魔法を習得してしまった。
僕と師匠、そしてクレアさんは小さな部屋で、眠っているマーキュリーの患者さんを前にしていた。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ水の解析」
師匠は目を閉じていて、今は患者の肌に意識を集中させている。
そして、目を開けると魔法を発動させた。
「根源より現れし汝の礎よ、かの者を呼び戻し癒やせ『回復魔法』」
「おお!?」
師匠が魔法を発動させると、患者さんの肌はみるみる回復していく。
魔法が終わる頃には、元々この肌だったという事が分かるように戻っていた。
「さすが師匠です!」
「いや、エミリオの教え方が良かった。他の弟子に指導する時も使おうと思ったくらいだからな」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだ。これがあれば……もっと……もっと治療の技術が進むぞ」
「……はい」
師匠の目がマッドでサイコな感じになってしまっている。
僕は、教えてはいけない相手に魔法を教えてしまったかもしれないと思った。
(でも、師匠なら大丈夫だよね……)
師匠はそれからクレアさんの方に向き直り、話しかける。
「ではクレア殿。教えるべき回復術師達を集めてくれ。急ぎ指導を始める」
「はい。分かりました」
チリリン
「お呼びですか。クレア様」
彼女が鈴を鳴らすと、部屋にはディオンさんが入ってきた。
「ジェラルド様を集めておいた水属性の回復術師達のところへ、こちらで支援できることはできるだけこなしなさい。魔力ポーション等も飲んで構いません。できる限り早く習得させるように」
「かしこまりました。ではジェラルド様。こちらへ」
「ああ」
そう言って、師匠とディオンさんは部屋から出ていった。
「それでは僕はまた治療に戻ります。よろしいですか?」
僕は僕で早く治療していかなければならない。
クレアさんに向かって言ったけれど、彼女はじっとしていて動かない。
「クレアさん? どうかされましたか?」
僕は不安になって聞くと、彼女はバッとすごい勢いで頭を下げた。
「エミリオ様、お願いがございます」
「え? あの、頭をあげてください」
「いいえ、今はこれが必要になってくるんです。私に……魔法の制御の仕方を教えてください」
「クレアさん? どうしてそこまで……」
この街の領主であるはずなのに、僕に頭を下げてくる。
僕は分からずに彼女に聞く。
「先日……ジェラルド様が、あなたに頭を下げていましたね」
「うん……でも、あれは師匠だからであって」
「関係ないのです。自分がまだまだ未熟であったのなら、頭を下げて指導を乞うべきなのに……。【翡翠の真珠】だなんだと、プライドばかり高くなっていました。自分で治療できないなら他から呼んでくればいい。そして、任せてしまえばいい。私も……回復術師であるはずなのに……」
「クレアさん……」
「ですが、ジェラルド様のお陰で目が覚めました。私もいっぱしの回復術師です。どうかお教え願えませんか」
「……僕で大丈夫ですか?」
「私はあなたのように自分でマーキュリーの中毒性を倒せる様になりたい。問題はありません」
「分かりました。僕ができることをさせていただきます」
それから、師匠に教えたと思ったら、次からはクレアさんの指導が始まった。
「クレアさん! 動かしすぎです! もうちょっと抑えて下さい!」
「は、はい!」
「今度はほとんど動いていませんよ!?」
「仕方ないではないですか! 私は研究職なのですから!?」
「でもそれだと治療できませんよ!?」
「あぅ……頑張ります!」
それから数日。
僕はクレアさんに何回も指導を続けた。
それでも、クレアさんは自分で研究職というだけあって、あんまり……その……魔法の扱いが上手ではなかった。
でも、彼女はマーキュリーを治療できるようになりたい。
その想いは本気であったようで、僕の指導が終わってからも1人で練習を続けていた。
「クレアさん……目の下のクマがすごいですけど、ちゃんと休んでいますか?」
クレアさんは今、物凄く不健康そうな見た目になっていた。
髪の毛もどこかボサボサで、背中も丸まって見るからに元気がない。
「ええ、問題ありません。少し疲れているというのはありますが、魔法の技術は向上していますので、だから心配は無用ですよ」
「……分かりました」
彼女が本気で魔法技術を向上させようとしている。
その想いを受けて僕もできることはしたいと考えた。
なので、彼女に回復魔法をかけようと思う。
「あの。僕の魔法を受けてもらっていいですか?」
「え? 何を……食らうことになるんですか?」
クレアさんはちょっと引き気味だ。
あれ? でもそんなおかしいことだろうか? ……!
少し考えて彼女の思っている事が分かった。
「あ、違います! 攻撃魔法ではなくって、普通に回復魔法をかけようかな……と」
「ああ……そうですか。なるほど、練習するためにその魔力は使っていなかったので、お願いします」
「はい」
僕は彼女が元気になれるように、しっかりと集中して魔法を使う。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ『体力増強』」
彼女の体が緑色に光り、魔法が成功する。
「……これは……すごい。今なら10日徹夜しても行けるかもしれません」
「そんな元気にはなりません! しっかりと休んで下さい!」
「ええ……でも、ありがとうございます。あなたは……やはり特別なのですね。と、私もやってみせます」
「はい。これだけ頑張っているのです。絶対にできますよ」
「はい」
それからクレアさんの練習は続き、マーキュリーの治療ができるほどに技術が向上した。
「やった……やりました……」
「さすがです! これで3人体制で治療できるようになりましたね」
「それもこれも……あなたのお陰です。本当にありがとうございました」
「何っているんですか。まだ……マーキュリーの患者はたくさんいらっしゃるじゃないですか」
「……そうですね。分かりました」
これから一緒にできるだけやっていこう。
そう思っていた時に部屋がノックされた。
コンコン
「はい?」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは、ロベルト兄さんの方にいっていた、サシャだった。
「エミリオ様。至急、お願いしたいことがございます」
そう話すサシャの顔は、とても真剣なものだった。
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