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6章
126話 水の解析
しおりを挟むロベルト兄さん達と一緒に孤児院に通い始めて数日。
僕達は大分孤児院に馴染んでいた。
広場では兄さんが走り回り、それを子供たちが追いかけている。
「待てー!」
「ははは! 追いついてみせろ!」
「おいついたら……ずっとそばにいてね」
「……大きくなったら考えてやろう!」
兄さんはジェシカの問いに、そうやって先延ばしにすることによって答えをハッキリさせない。
という技術を身に着けていた。
腰には水筒を下げ、時々飲んでいる気合の入れようだ。
「流石兄さん。僕も僕で頑張らないと」
自分の魔法の勉強もだけれど、アンディにしっかりと魔法の基礎を教える。
ということもしっかりとやっていた。
そのお陰か、少しずつだけれど、安定するようになってきている。
「つどいてうるおい、みずとなれ『水生成』」
アンディは魔法を唱えて、右手から水を出す。
その水の量は地面を少し濡らし、小さな水たまりを作る。
「うん。いいね。大分出来るようになったよ」
「エミリオにいのおかげ。ボクもこれでまほうつかいのなかまいり」
「そうだね。でも、勘違いしちゃだめだよ」
「かんちがい?」
「自分は何でもできると思って、いざ……大事な時にやろうとして失敗する。そんなことがあるから、そうならないように、ちゃんとどんな時でもできるようにやろうね」
「えーつぎのまほうおぼえたい」
「だーめ。ちゃんと……何回も練習して、しっかりできるようになってから。これは絶対だよ」
「えー」
「えーじゃないの。じゃないと、きっと……後悔することになるよ」
僕は最初に人に魔法を使った時の事を思い出す。
できると思っていた。
でも、失敗した。
あの時の魔法をかけてしまった人は心配ない。
助けてもらったのだから気にするな。
そう言ってくれたけれど、それでも、僕は失敗する訳にはいかない。
「……わかった。ボクももっと練習する」
「うん。それがいいよ。後、今日はもう魔法の練習は終わりね」
「なんで?」
「今日は魔法を使い過ぎだよ。だからほら。みんなと一緒に遊んできて」
「わかった!」
アンディはそう言って走って他の子達の方に向かった。
それから僕は1人で魔法の練習を始める。
本当はみんなと一緒に子供の面倒をみようと思っていたんだけれど、休むように言われているとサシャが他の人を説得し、僕は1人木陰で魔法の勉強をすることになったのだ。
「どうしたらできるようになるかな……」
自分の部屋に戻ってからも魔導書を読み直し、既に2周はしている。
でも、中々魔法が発動できなかった。
「想像することはあっているし……、呪文も間違っていないし……魔力もちゃんとできていると思う。なんでかなぁ……」
僕は1人魔法が使えない理由を悶々と考える。
でも、その理由が見つからない。
普通の時であれば、教えてくれる人に聞けるのに……。
「うーん」
そんなどうして上手くいかないのか。
1人考えていると、サシャが話しかけてきた。
「エミリオ様」
「サシャ。どうしたの?」
「何かお困りのような顔をしていらっしゃったので。できることがあればな……と」
「うん……」
少し迷ったけれど、1人で考えているだけでは解決しないかもしれない。
そう思って、サシャに相談した。
「それが、この前買った魔導書の魔法が中々習得できなくって……。それでどうしたらいいのかな……って」
「……一度使ってもらってもよろしいですか?」
「うん。分かった」
僕は想像する。
まずは周囲にある水分を全て把握する。
さっきアンディが落とした水や、兄さんが腰から下げている水筒。
それらの水分をしっかりと想像して、魔法のイメージを固める。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ水の解析」
僕は想像通りに魔法を発動させる。
「……」
「……」
しかし、僕の想像通りに魔法は発動しなかった。
「どうしてなんだろう……」
「エミリオ様。その魔法は索敵用の魔法なんですよね?」
「一応魔導書にはそう書いてあったけど……」
「エミリオ様。目を閉じてみてください」
「うん」
僕はサシャの言葉に従って目を閉じる。
「エミリオ様。今、私がどんな格好をしているか分かりますか?」
「え? サシャの格好? えぇ……分からない。普通に立っているだけじゃないの?」
「いえ、違います。目を開けてください」
僕は目を開けると、サシャは優雅にスカートを持ち上げて、礼をしていた。
「エミリオ様。恐らくですが、エミリオ様は見たままを察知しようとしていませんか?」
「見たままを……察知?」
「そうです。探知系ということは、自分が知らない敵の存在を知ること。であれば、今見えているそこの水やロベルト様の水筒ではなく、エミリオ様の周囲に存在する水を感知する。それをすることが必要になるのではないかと思います」
「なるほど……」
サシャの言っていることも物凄く納得させられた。
確かに、僕は今見えている物を捕らえようとしていた。
だけれど、探知魔法は周囲の存在を知る魔法。
なるほど、このことには考えが至らなかった。
「ちょっとやってみるね!」
「はい」
僕はさっきとは違った想像をする。
周囲にある水に意識を集中するのではなく、周囲……僕の半径5m位の距離を対象にして、水分全てを知ろうとするのだ。
範囲の指定は終わった。
後は、残りをやっていくだけ……。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ水の解析」
魔力も十分な量を注ぎ込み、魔法を発動させた。
「!」
次の瞬間、僕の頭の中には、周囲5mの水分の情報が流れ込んできた。
まずは自分。
僕の体に流れる血流等、僕の体内に存在している水分と呼べそうな……いや、液体全てが分かる。
次はすぐ近くに拡がっている水である液体。
それから、ちょっと離れたところにいるサシャの体に流れる液体。
「これが……索敵……っていうことかな……」
体にどんな風に血が流れているのか、どれだけの量が存在しているのか。
そう言った情報が頭にこれでもかと流れ混んで来る。
「く……」
僕はそれらの情報を整理仕切れずに、思わず呻く。
「エミリオ様!?」
サシャがすぐに駆け寄って来てくれるけれど、僕は痛む頭を抑える。
それと同時に、すぐに魔法を切った。
「大丈……夫……。もう……魔法は切ったから」
「しかし……そんなすぐに頭が痛くなる様なものなのですか?」
「うん……。多分だけど……いきなり範囲を拡げすぎたんだと思う」
「大丈夫ですか? しっかりと休まないといけませんよ?」
「ありがとうサシャ。でも、この感覚は忘れたくないんだ」
だから、僕はもっと範囲を狭めて魔法を使う。
周囲ではなく、すぐ近くの水たまりだけにする。
いっそのこと、僕自身も対象の外にするのだ。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ水の解析」
僕の頭の中には水の情報がこれでもかと入ってくる。
どうやって作り出されたのか。
どれだけの間そこにいたのか。
そういった情報が入ってきて、何とかそれを整理していく。
「……」
「エミリオ様?」
「………………」
「え、エミリオ様? どうされました? 流石に不安になるのですが!?」
「この魔法すごいかもしれない」
「そうなのですか?」
「うん。もうちょっと使ってみる」
僕はそう言って何度か魔法を発動させる。
ただし、今度の範囲は自分の指定する方向5m位だ。
上、右、左、足元下の方に向けていく。
「む……」
足元に範囲を向けていると、そこには子供たちが言っていたように、確かに地下水脈が流れているのが感じられた。
でも、それだけではない。
何か……全く別の生き物の存在も感じられる。
「ねぇサシャ」
「なんでしょう?」
「地下に流れている水の音って……聞こえる?」
「エミリオ様。流石にそれは……」
「じゃあ……地下にいる生き物の音って聞こえる?」
「エミリオ様?」
彼女は僕が何を言っているのか、理解していないようだった。
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