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6章
123話 魔法を教えてみよう
しおりを挟む僕は子供たちの為に魔法を使う。
「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作』」
今回は氷の板を作る。
最近はあんまり作っていなかったので作れるのかは少し不安だったけれど、問題なく作ることができた。
とりあえずは七色の板を作り、50センチメートル間隔で並べる。
今回の演目はどうしようか。
そう考えていると、サシャが僕の氷の板の上に立った。
「サシャ?」
「いつもエミリオ様ばかりに任せることはできません。これくらいはやらせて下さい」
「危ないよ」
「大丈夫です」
彼女はそう言って、氷の板の上で踊り始める。
「すごい……」
「まだまだこんなものではありませんよ。エミリオ様! 氷の板をここら辺一体で動かして下さい!」
「わ、わかった」
僕はサシャに言われるままに板を動かす。
彼女は僕の動きを見切っているかのようにして、氷の板の上で踊っている。
細さは5センチメートルもないはずなのに、すごい……。
僕も思わず見とれてしまう。
「エミリオ様! もっと速くしてください!」
「ほんとに!?」
「はい!」
僕は氷の板の速度を倍速にしていく。
正直、目で追っていくのもちょっと大変なくらいだ。
でも、サシャはそんな速さを感じさせないように、優雅に踊り続けた。
少ししてからサシャは降りて来て、子供たちに挨拶をする。
しばしの沈黙が流れて。
「すごいすごい!」
「おねえちゃんいまのなにー!?」
「かっこよかった! すごいすごい!」
「たのしかったよー!」
子供たちは無邪気に喜び、サシャも子供たちに笑顔で応える。
「たまにはこれくらいやって行きませんと。私もそれなりにできるんですから」
「ありがとう。サシャ」
「いえいえ、エミリオ様の魔法があればこそですよ」
サシャは僕の元に来ると、笑顔でそう笑ってくれる。
最近の思いつめたような表情は消えていて、少し明るくなったようだ。
良かった。
これが元のサシャだと思う。
「さて、後はロベルト様にもやって頂かないと行けませんよね」
「何!? 俺も何かやるのか!?」
「ええ、そうですね……はーい!子供たち。ロベルトお兄様がこれからびっくりな事をして下さいますよ!」
「わー! ほんと!?」
「本当です! さぁ! いらっしゃい!」
サシャがそう言って子供たちを皆連れていく。
僕がそれをのんびりと見ていると、1人の男の子が近付いて来た。
「君は……」
「ボクはアンディ。まほう……おしえて」
彼は以前ここで食事をした時にそう言っていた子で、未だにその気持ちは変わっていないらしい。
「わかったよ」
僕は教えると言ったからには応えないと。
そう思って、僕は彼を連れて近くの木陰に座り込んだ。
「まずアンディ。君は魔法についてどこまで知っている?」
「……きせきがおこせる?」
「それは……あんまり正しくはないかな。でも、確かにすごいことは起こせるよ。いい?」
「うん」
僕はそれからアンディに魔法にとって大事な魔力をひっぱりだす感覚や、大事な3つのことを教える。
想像、構築、放出等だ。
アンディは一生懸命話を聞いて試していたけれど、中々上手く行く様子がない。
「むむむ……」
「アンディ。慌てないで」
一度彼を落ち着かせるために彼の行動を止める。
ただ、彼は彼でやりたいことがあるようだった。
彼は灰色の瞳を僕に向けてきて、必死で訴えかけてくる。
「でも、ボクもつかえるようになりたい。いんちょうせんせーのちからになりたい」
「院長先生のため?」
「そう。せんせいはボクたちのことをいつもかんがえてくれる。だから、ボクもはやくおとなになって、おかねをいっぱいかせぎたい」
「それで、院長先生に返すってこと?」
「そう。ディオンにいちゃんみたいに」
「ディオンさんもそういう理由で来てるんだ」
「うん。いつもごはんとかふくとかもってきてくれる」
「そっか。いい人なんだね」
「うん。しかもあそんでくれる。いいにいちゃん。だから、ボクもちからになりたい」
「そっか。なら、もうちょっと頑張ってみようか」
「うん!」
彼の熱に押されて魔法の使い方を教える。
才能があるのかどうかはわからないけれど、できる限りは付き添ってあげたいと思う。
でも、彼が本当に危ないことにならないようにだけは気をつけないと。
「つどいてうるおい、みずとなれ『水生成』」
アンディはそう言って右手を突き出して魔法を唱える。
でも、彼の手からはなにも出ずに、ただの沈黙が流れた。
「むぅ……どうして……」
「すぐにできるものじゃないからだよ。焦らないで。ゆっくりやっていこう」
「でも、エミリオにいはすぐにできたんでしょ?」
「そうだけど……。たまたまだよ。僕に教えてくれた人がとっても魔法を教えるのが上手だっただけ。だからなんだ。アンディも、ちゃんと練習していたらきっとできるようになるから」
「ほんとう?」
「……うん。ほんとう。だから、ゆっくりとやっていこう」
「じゃあ、エミリオにいのまほうみせて」
「いいよ。集いて潤い、水となれ『水生成』」
僕は右手を誰もいないところに出して、水を出す。
「おお~」
「はい。こうやって行けばいいんだよ。わかった?」
「わかった!」
アンディはそう言って、僕の想像を思いだすように何度も何度もやっている。
そうしていると、遂に彼の手から水がちょろちょろと出始めたではないか。
「すごいよアンディ! すごい!」
「ほんとう!? これ、できてる!? できてる!」
「うん。できているよ。だから、一回魔法を止めよう?」
「わかった!」
彼はそう言って頷くけれど、手から水はこぼれ続けている。
「あれ……?」
「ああ、やっぱりこうなったんだ。止めるのはまずはね!」
自分の時にも水が止まらなくなったことがあった。
その時の事を思い出しながら、アンディの魔法を止めることに成功する。
「良かったね。これでひとまずは魔法を使えるようになったね」
「うん! ありがとう! エミリオにい!」
「うん。でも、今日はもうダメだよ。かなり練習したんだからね」
「えー! でももっとやりたい!」
もっとと我がままを言う彼に、僕はそれを止めさせる。
言うことを聞かないまるで、言うことを聞かない弟子に教えるように……だ。
「ダメ。いい? 魔法は最初の間は結構勝手に魔力を使ってしまっているものなんだ。だから、やり過ぎは良くないよ。特に子供の時はね」
「エミリオにいもこどもじゃないの?」
「僕は……どうだろう」
「でしょ? ならいいじゃん!」
「だーめ。言うことを聞かないとこれ以上の魔法の使用を禁止するよ。体調を考えるのも……」
そこまでアンディに言おうとして、僕は、今の彼の状況が自分自身に重なって思えた。
僕も師匠やクレアさんが止めるのを聞かずに、治療を何度か続けた。
でも、師匠は今の僕の様に心配をしてくれたのではないか。
そんな風に思ったのだ。
「エミリオにい?」
「ううん。何でもないよ。うん。なんでもない。でも、アンディ。ほんとうに今日はもう休もう。休むことも、すっごく大事だから」
「……わかった」
アンディはそれでもやりたいと思っていただろうけれど。
なんとか僕の言うことを聞いてくれた。
それからは僕達も兄さんやサシャ達の方に向かう。
サシャは投げナイフで、兄さんの頭の上においたリンマを射貫いていた。
「サシャ。それ……大丈夫?」
「はい。私の腕なら当たりませんよっと」
「ひぃ」
ロベルト兄さんはちょっとビビっているけれど、確かに頭の上にあるリンマの実にだけ当てていた。
流石サシャだ。
「エミリオ様の勉強はもういいのですか?」
「ううん。僕も……ちょっとは魔法とかから離れて、ゆっくりと遊ぶのもいいのかなって。だから、一緒に混ぜてくれる?」
「もちろん。ですよ。ね? ロベルト様!」
ヒュン!
サシャがそう聞きながら兄さんの頬を掠めるようにしてナイフを投げる。
「いいが! そろそろこれはやめないか!?」
「そうですね。では、一緒に遊びましょうか」
それから僕達は一緒に体を動かして遊び、子供たちのお昼寝時間まで走り回った。
「みんな寝てるね」
疲れ切った子供たちは、孤児院の部屋の中ですやすやと眠っている。
僕とサシャは部屋の隙間から見て、笑い合った。
すると、サシャがいたずらっぽく言って来る。
「エミリオ様は寝ないのですか? ロベルト様のように」
「ううん。僕はちょっとだけやりたいことがあってね。サシャ。あれ……出してくれる?」
「あれ……ああ、あれ……ですね?」
僕は、サシャに出してもらった物を受け取り、外に出た。
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