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6章

115話 ヴェネルレイク観光

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 翌日。
 僕とサシャはロベルト兄さんと一緒に街に出てきていた。

 空は晴れていて、冬だけれど寒くない。
 バルトラン家の辺りだとすごく寒かったからちょっと驚きだ。

 そんなことを思っていると、兄さんが話しかけてくる。

「エミリオ。早速行こうか」
「うん。どこに行くの?」
「まずは本屋だな」
「本屋? どうして?」
「どうしてって……お前、本が好きだったろう? 行きたくないのか?」
「そ、そんなことないけど……」

 僕が本を好きということを兄さんが覚えていてくれてすごく嬉しい。

「よし。では早速行くぞ。サシャもいいな?」
「はい。本当は馬車で行って頂きたい所ですが……。今は冬なんですよ? エミリオ様に何かあったらどうされるのですか? 夜になったら冷えるのですよ?」

 サシャがじとっとした目で兄さんを見つめている。

 兄さんは笑ってサシャの心配ごとを消す。

「気にしなくても気温に関しては問題ない。大通りは治安は兵士が常に巡回していて治安が最もいい。それに、この街の大通り等は気温をある程度一定に保つ魔道具が置かれている。広い範囲では無理かもしれないけど、余程遠くにいかない限りは問題ないさ。それに、馬車から見るより、治安のいいこういう所を歩いた方が楽しいからな」
「……そうであればいいのですが」

 サシャはどことなく疑いの視線を送っている。

「大丈夫だ! 何かあったら俺がエミリオを病院まで運んでやる!」
「……そういうことにしておきます」

 サシャはそれだけ言うと、2歩ほど下がって口を閉じる。
 彼女は僕とロベルト兄さんの2人キリにしてくれるということなのだろう。
 優しいメイドだと思う。
 ……ちょっと兄さんにはきつい気がするけれど。

 僕と兄さんは一緒に歩き、本屋を目指す。
 久しぶりの兄さんとの会話は楽しく、バルトラン家にいる時の事を思い出す。
 そして、それは兄さんも一緒だったらしい。

「何だか……懐かしいな」
「うん。本当に……こうしているのがすっごく……僕も懐かしくて好きだよ」
「ああ、だが、俺は想像もしていなかったけどな」
「何が?」
「お前が自分でこんなに歩けるようになるっていうことに……だよ。小さい頃から……ずっと動けなかっただろう?」
「そうだけど……もう……その話はいいじゃない」
「まぁな。ついこういう風に子供扱いしたくなってしまう」
「僕のことは大丈夫だから、他の子供にしてあげて」
「ほかの子供を助けろということか? そんな機会そうそうないと思うが……」

 そんな事を話していると、僕達は本屋に到着する。

「ここか」
「中々……雰囲気があるね」

 僕達の前にある本屋は、木造の1階建て真っ黒に近いような色をしていて、一見すると木造とは分かりにくい。
 そして、所々に傷があったりして、なんだか不安にさせられる。

「と、とりあえず行くぞ。ここがいいと国王陛下も言っておられたんだ」

 同じように不安に思っていたらしい兄さんが、そう言っては先に入っていく。
 僕もその後に続いた。

 キィ。

 音が鳴る扉を開けて中に入ると、そこにはこれでもかという程にたくさんの本があった。
 棚にはこれでもかと詰められていて、その棚の上にも天井に届くほど本が積まれている。

「すごいね……」
「ああ、エミリオ、ゆっくりと見て回っていいぞ。俺も……たまには本を読んで見たいからな」
「ほんと!? じゃあ僕が色々とおススメするね!」

 兄さんは基本的に本にはあんまり興味がない。
 体を動かす事が好きだからだ。
 なので、そんな事を言ってくれて個人的にすごく嬉しい。

「あのねあのね!?」
「お、おう」
「こっちの本は……とってもかっこよくって、こっちの本はもう……本当に泣けてそれでねそれでね?」
「あ、ああ」

 僕はそうやって聞いてくれる兄さんに自分のおススメをしまくった。
 その中の1冊でも読んでくれると嬉しい。

「え、エミリオ。ちょっと待ってくれ」
「? どうしたの?」
「エミリオ。一気におススメされたのでは流石に頭がこんがらがる。それに、お前も色々と見てみたい本があるんじゃないのか? この街は貴族が来る街だ。魔導書なんかもある」
「あ、そっか。でも、兄さんが本を読んでくれるのなら……」
「大丈夫だ。これから色々と軽く読んでみようと思う。だから、気にしないでくれ」
「うん。わかったよ」

 僕はそれから兄さんと別れて自分が読んでみたい本を探す。
 今探しているのは魔導書だ。
 新しい魔法を覚えられるのであれば、折角なら覚えてみたい気持ちもある。

「どれがいいかな……サシャはどう思う?」
「私……ですか?」
「うん」

 僕はサシャに聞いてみる。
 色々な魔法があるので、どんなのがいいか戦闘のプロであるサシャに意見をもらおうと思ったのだ。

「そう……ですね。どれも悪くないと思いますが……。こちらの方が入門としてはいいのでは? 危険も少なそうですし」
「なるほど。確かにそうだよね。じゃあこれにする!」
「い、いいのですか? 私の意見で決めてしまっても」
「うん? 何が不味いの? サシャのことは信頼しているよ?」
「エミリオ様……」
「と、そろそろ行かないと。今日1日が終わっちゃうよ」
「はい」

 それから僕達は兄さんに声をかけて店を出る。

「ありがとう兄さん。とってもいい本が見つかったよ!」
「そうか? それは良かった。なら、次は俺が行きたい場所にいってもいいか?」
「勿論!」
「よし。じゃあ次に行く場所は……射的しゃてきだ!」
「射的?」

 兄さんの案内で到着した場所は射的場という場所だった。
 そこでは短弓を持ち、少し離れた先の丸いまとに矢を当てるという場所らしい。

 兄さんはここに来たかったらしく、すごく楽しそうに目を輝かせていた。

「よし! 俺はちょっと最高得点を取ってくる! 見ていろエミリオ!」
「うん! 兄さんならきっと出来るよ!」
「いい所を見せてやるからな!」

 そう言って兄さんはお金を払って的当てに集中し始める。

 僕はそれをすぐ後ろから見てサシャと話していた。

「サシャから見て兄さんはどう?」
「全然ダメかと」
「厳しい評価だね」
「当然です。的を見てください」
「うん」

 僕は兄さんが狙っている的をよく見ると、的にはかすりもしていない。
 的は中央が赤くなっていて、黒、白、という感じに色が変わっている。
 兄さんの放った矢は全て近くの土に突き刺さっていた。

「あれは……きっと最近勉強漬けだったり、社交界で色々と頑張っていたから仕方ないよ」
「エミリオ様はとても……お優しいですね」
「そんなことないよ。兄さんならすぐに感覚を取り戻すと思う」
「そうだといいのですが……」

 それから兄さんの射的を見続けたけれど、少しずつ当たるようになっていく。
 やっぱり兄さんはすごいや。

「そういえば、サシャはやらなくてもいいの?」
「私ですか?」
「うん。折角ならどうかなと思って」
「私は必要ありません。護衛ですし、弓は扱ったことがありませんので」
「そっか……サシャならできると思ったんだけどな……」
「エミリオ様。そう言って頂けるだけで私はとても嬉しいです」

 サシャはそう言って笑いかけてくれる。

「うん!」

 僕はそんなサシャに返事をして、ロベルト兄さんがちょっと息を切らせて帰って来るまでのんびりと見続けた。

「やはり最高得点は無理だったか」
「でも最後の方は上手くいってたんじゃない?」
「まぁ……そうだな」

 ロベルト兄さんはちょっと気恥ずかしそうに言う。

「最高得点の10分の1もありませんでしたが」
「……」
「サシャ……」

 サシャがぼそりと兄さんを刺した。

 兄さんはちょっと落ちこんでいるようだった。
 でも、そんな事を言われても兄さんはへこたれない。

「ま、次やった時には点数を倍以上にしてみせるさ。楽しみにしているといい!」
「うん! 兄さんならきっとできるよ!」
「任せておけ! 俺は……俺は、バルトラン次期子爵だからな!」

 そう言って胸をドンと叩き、力強く言ってくれる。

 こんな風に、いつも明るく振舞ってくれる兄さんには本当に助けられた。

「きゃー!」
「!?」
「!?」

 その時、中央通りから少し奥まった方で、子供の悲鳴の様な声が聞こえた。
 
 ロベルト兄さんはその声が聞こえた瞬間飛び出した。

「エミリオ! ちょっと待ってろ!」
「兄さん!?」

 僕は兄さんの後を追おうとして、サシャに止められる。

「サシャ!?」
「いけません! そっちは」
「ダメ! 兄さんを1人にはできない! サシャ!」
「っ……しかし」
「困っている子供がいるなら助けたい!」
「……」

 サシャが驚いて手を離した隙に僕も兄さんの後を追う。
 子供が何か困っているのであれば、助けがいるはずだ。

「こっちか!?」

 兄さんは声が聞こえたと思う方に走っていく。
 その足はとっても早く、僕だけでは追いつけない。

 そう思っていたら、サシャが抱き抱えてくれた。

「サシャ!」
「エミリオ様。私が危険だと判断したらすぐに下がりますよ。今……丁度交代するタイミングらしく他の者が……」
「他?」
「いえ、なんでもありません」

 それから僕達声がする方に急ぐ。
 ただ、裏道に入った瞬間から周囲は薄暗くなり、なんだか変な臭いもしてくる。

 かなりのゴミがそこら辺に捨てられていて、時にはガリガリにやせ細ってうずくまっている人ともすれ違う。

「大丈夫かな……」
「エミリオ様。いつでも魔法を張れるようにしておいて下さいね」
「うん。わかった」
「ロベルト様! 次の角を右です!」
「わかった!」

 サシャの案内ですぐに子供を見つける。
 それと同時に、子供に襲い掛かっているチンピラが3人もいた。

「おいおい。お前……あの孤児院のだろ? ちょっと……話を聞かせてくれや」
「むむー! むむむ!」

 子供は口を塞がれていて、大人たちはいやらしい笑みを浮かべている。

「お前達! そこで何をしている!」
「あん?」

 兄さんは彼らに声をかけて、止めようとする。

 しかし、彼らは僕達の姿を見ると変わらず笑っていた。

「なんだお前達? ガキが2人に女が1人か? ここはお前達が来るような場所じゃねぇよ。とっとと帰んな」
「その子を離せ」
「あん? お前達には関係ねぇだろ」
「関係ある。困っている子供は見過ごせん」

 もしかして……兄さんは僕が言った事をやってくれているのだろうか。
 やっぱり……優しい兄さんだと思う。

「はっ! めんどくせぇ。もういい黙らせろ」
「うす」
「了解っす」

 子供を抑えていない2人が兄さんの方に近付いてくる。

 兄さんはそれを見て、少し嬉しそうになって腰に手を伸ばす。

「全く。お前達のような悪は俺が直々に剣で鉄槌てっついを……あれ?」

 兄さんは腰に手を伸ばすけれど、剣を持ってきていないことに今更気付いたらしい。

 それを見た2人は笑う。

「楽しみなことを言ってくれるじゃねぇか……」
「鉄槌が……なんだって?」
「あ……その……。ハンマーとか貸してくれない?」
「貸す訳ねぇだろうが!」

 そう言って、チンピラ2人は兄さんに襲い掛かった。
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