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5章
105話 回収?
しおりを挟む「そして……おれはこちらだと思うのだが……新しい毒を作っている場合だ」
「新しい毒を……作る?」
僕は衝撃のあまり、師匠にオウム返しをする。
師匠が何を言っているのか訳が分からない。
新しい毒を作るなんて……そんな……そんなこと……。
そう考え混乱する僕を安心させるように、師匠は考えをしっかりと教えてくれた。
「エミリオ。考えた事はないか? 人の体内に潜る事が出来る。それが出来れば、他の生き物に入ることが出来るのではないか……と」
「それは……確かに……」
「そして、他の生き物に入り、その毒を作る部分を作り変えることが出来るとしたら? 新しい毒を作り出せるかもしれないと思わないか?」
「作り変える……ですか?」
「ああ、例えば毒を持つ生き物の毒を作る箇所に、他の生き物の毒を作る箇所を掛け合わせる。そうやってうまく行けば、新たな毒を作ることが可能になる……かもしれない」
師匠の話は信じられない物だった。
でも、師匠が知らない毒があった、という事を考えたら納得せずにはいられない。
「そんな話は……聞いたこともないですが……」
それでも、信じられないと思う気持ちからそんな言葉が漏れる。
師匠は、当然だとでも言う様に頷く。
「当たり前だ。それが出来る者はごく限られているし、毒を作るのではなく、他のことに力を注いだりしていることがほとんどだ」
「他のこと……ですか?」
「ああ、目的の生物の色を変える。という事をしている者もいたり、さっきとは逆に毒を持つ生き物の毒を無毒化する。という事をしている者もいる。目的は様々だが、そういった事を行っている者はいるんだ。ただ……毒を作る者はいないはずだが」
「毒を作る者はいない……というのはなぜです? さっきはいると……」
「それは、法で規制されているからだ。国王や他の貴族もそんな事をされたらたまらないからな。だからこの法は基本的に守られている。だが……」
「だが?」
「全ての者が守っているとは限らない」
「そんな……」
「まぁ、あくまでおれが推測しているだけだ。実際には、遠方の毒を取り寄せている。という事があるかもしれないからな」
「そうですよね……」
「あくまでも可能性だ。それに、折角なんだ。そんな人と話してみたくないか?」
「そんな事が出来る方とお知り合いなのですか?」
「知り合いという訳ではないが……次の仕事が……」
師匠がそこまで言った時に、サシャが動く。
「うぅ……うぅん」
「サシャ!?」
僕はサシャの容体が気になって彼女を見ると、少し寝返りをうった程度だった。
師匠はそんな僕とサシャを見て、軽く笑う。
「すまんな。流石にこの話はまた今度にしよう。エミリオ。お前の治療も終わってからにした方がいいだろうからな」
「分かりました。よろしくお願いします。でもこんな状況で治療をしてもいいんですか?」
「構わんさ。護衛対象は出来るだけ固まっていた方が侯爵側もいいだろう」
「なるほど」
「だから今はゆっくり休め」
「はい」
そう言って師匠は出て行き、僕はサシャの隣に倒れ込み眠りにつく。
******
***ヴィクトリア視点***
私は水差しを持ち、エミリオの部屋へ急ぐ。
もう少しで部屋に着く。
そんな時に、エミリオの部屋からジェラルド卿が出て来た。
「ジェラルド卿?」
「ヴィクトリア嬢。エミリオは眠りについた。今はそっとしておいてやってくれ」
「そうですか……残念です」
寝顔も見て居たいと思って急いでいたのだけれど、彼に止められれば聞かない訳にはいかない。
時々忘れそうになるが、彼は特級回復術師なのだ。
そんな彼は私の気持ちを持ち上げてくれた。
「今は動けんが……安全が確保されたら一緒に観光でもして来るといい」
「え……そ、そうですか? でも、治療とか……色々とあるんじゃ……」
「治療は護衛で動けん間に終わるだろう。その後に、1日位遊んでも誰も文句は言わんさ。それに、エミリオには仕事以外もやらせてほしい。そういう約束で連れて来ているからな」
「そうなんですか?」
「ああ、過保護な人にな」
「どなたか分かりますね」
「子供のことになるとおれですら逆らえん」
「ふふ。気をつけないといけませんね」
「という訳だ。ではな」
「はい。私もこれで失礼させて頂きます」
私はそれだけ残すと、自分の部屋に戻る。
そしてベッドに入り、寝ようとした時、ふと思う。
「……あれ? 何か忘れているような……女狐……? いえ、気のせいですかね」
******
僕たちはそれから1週間、毎日僕の中に潜り続けた。
魔力が足りなくなったら、獄虫火草を使って魔力を増やしたりして強行軍を続けることもした。
まぁ、僕はかなり魔力が多いようで使う事はなかったけど。
そんな風にやっていき、毎日数体ずつユニコーン型の病を討伐していった。
奴らは単体で強かったけれど、回復術師が4人も集まれば何とかなる。
それに、何度もやっていればコツも掴んでくるからだ。
奴らの感覚もなんとなく分かるようになり、そして、もしかして……と思うことも生まれてきた。
でも、僕はそれから意識を遠のけ、治療に集中した。
そして、最後の数体を倒すときに、師匠にこう告げられる。
「エミリオ。最後の数体は回収したい。いいか?」
「回収……ですか?」
「そうだ。貴重なサンプルだからな。是非とも欲しいし、もし……お前以外の者がかかった時の参考になるかもしれない。だから回収したいんだ」
「いえ、そんな事はありません。僕の病に他の人もかかっているのであれば、やってください」
僕はそう師匠に言う。
僕はずっと辛かった。
母さんやロベルト兄さん、リーナや父さんにメイド達。
皆がいたから僕は耐えられたけど、それが出来ない人がいるかもしれない。
そんな人達を治療するのに、僕のそれが役に立つのであれば幾らでも回収して欲しいと思う。
「分かった。それでは回収させてもらう。だから、今回は敵を倒すのではなく、おびき寄せるぞ」
「おびき寄せる? というか、どうやって回収するのですか?」
「実際にみながらでいいだろう」
「わかりました」
「よし。入ってくれ」
師匠がそう言うと、元々準備されていたのか部屋の中にフルカさんとルゴーさんが入ってくる。
僕はちょっと不思議に思い、師匠に訪ねた。
「師匠……。元々回収するつもりでした?」
「ん? そうだぞ」
「否定されないんですね……」
「当然だ。もしもお前が断ったら、お前が寝ている時に勝手に回収するつもりだった。まぁ、杞憂に終わって良かったがな」
「まぁ……師匠ですし。それくらいは当然かもしれませんね……」
師匠は病のことになるとかなり色々とふっ切れる。
それはバルトランの屋敷で教えてもらっていた時に知ったので、最近なりをひそめていて不思議に思っていたくらいだ。
これぞ師匠だと思い出させてくれた。
「というわけだ。残り……全てを捕らえて行くぞ」
「はい!」
それから僕たちは、残りの病を全て捕らえて行く。
捕らえ方は簡単で、1人が外に待機し、注射器の準備をする。
残りの3人は普段通りに探し、見つけ次第どこにいるのかを外の者に伝え、中に戻る。
外の者は注射器を病がいる辺りに刺し、待機。
そして、僕たちは病をその注射器の中におびき出し、入ったらそれで終了。
という事らしい。
僕たちは病を捕らえ続ける。
「これで……最後! ……ですよね?」
僕は近くにいるルゴーさんに訪ねた。
ルゴーさんは目を閉じて、他にいないか感覚を探ってくれているみたいだ。
彼は目を開いて、話し始める。
「ああ、ワシがわかる範囲の物はおらんじゃろう」
「では!」
遂に……遂に治った……ということだろうか。
この1週間。
ずっと……ずっと待ちに……。
「まだ治っておらん」
「え……」
「エミリオ。ここ最近ずっとやっておったじゃろう? お主も感じられるようになったのではないか?」
「……まだ……いると思うのは分かります」
ここ最近、ルゴーさんや師匠と一緒にずっとやっていた。
だから、最初はわからなかった感覚も次第に分かるようになっていたのだ。
その僕も、ルゴーさんが言っている事が分かる。
「この1週間ずっと自分の体内に居続けて、なんとなく……分かってはいました。僕の病は……臓器以外にも……いるんですよね?」
僕はここ最近もしかして……と思っていたことを口に出した。
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