不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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5章

92話 料理ギルド

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 僕が普通に起き上がれるようになって数日。
 ヴィーがある提案をしてきてくれた。

「エミリオ。一緒に私はこれから料理ギルドに行きますが、貴方も一緒に来ますか?」
「料理ギルドに?」
「ええ、ここで休んでいるだけでは暇でしょうし、料理ギルドも凄い場所です。商談が主目的ではありますが、フルカ様の事で聞きたい事があるのなら丁度いいかと思いまして」

 ヴィーがそう言って誘ってくれている。

 そして、僕としてもそれは聞きたかったので頷く。

「ありがとうヴィー。是非とも行きたい」
「分かりました。では準備が整い次第行きましょうか」
「うん」

 それから僕達は準備を行ない、料理ギルドに向かう。
 馬車は3台。
 僕達が乗る馬車と、その護衛が2台だ。

 馬車に乗り、僕達は料理ギルドを目指す。
 時間にして15分程、到着したそこには侯爵家くらい大きな建物が存在した。

「すごい……」

 僕達の人数は僕やヴィー、シオンさん等の護衛を入れて10人。
 そんな僕達を軽々と飲み込んでしまうほどの建物だった。

「ここが料理ギルドです。入りますよ」
「うん」

 そうやって僕達が中に入ると、そこには多くの人が慌ただしく仕事をしていた。
 コックの服装をした人や、事務員らしき人、後はなぜか冒険者と言われても納得しそうな、かなり鍛え上げられた体をした人も見かける。

「凄い人だねぇ」
「ええ、ここがこの街の中心。そう言われています」

 僕の言葉に答えてくれたのは、隣に並んでいるヴィーだ。

 彼女は最初に会った時の様に顔を包帯でぐるぐる巻きにしていた。

「中心?」
「今やこの街の料理ギルドは力を持ち、病にせったスケルトン侯爵様よりも力を持っている。と噂する者すらいます」
「そんなこと……」
「あるのですよ。それに……時折屈強な方が通るでしょう?」
「そういえば……」
「彼らは料理ギルドが抱えている食材調達部隊。オークを狩ることに特化していますが、その気になれば他の魔物も狩ってきます。この辺りはかなり治安がいいのですが、彼らが食材調達をしつつ治安維持も担っている。かなり優秀な人達なのですよ」
「そんな凄い組織なんだ」
「それほどに彼らは力を持っていますからね。侯爵が動けない今、この街の大半の決定権は彼らが持っています。と、着きましたね。最初は私が話しますから、それが終わり次第エミリオが話を聞く。という事でよろしいですか?」
「うん。ありがとうヴィー」

 コンコン

「入れ」

 中からは少し老齢な男性の声がして、僕達は中に入った。

「ようこそいらっしゃった。ゴルーニ侯爵家の方々」
「こちらこそ、よい商談になることをお願いさせて頂きたいですわ」

 部屋の奥にいたのは黒髪に白髪が混じった老齢の男性だった。
 彼は机の上の書類仕事を止めて僕達の方を見ている。
 その表情はとても柔らかく、彼がこの料理ギルドのトップとはどうも思えない。

 僕はヴィーの後に続き、部屋の中に入る。
 部屋の中にはオークの剥製があったり、料理のレシピ本等が壁にぎっしりと詰められていた。

「それではこちらへどうぞ」

 僕が視線を部屋に彷徨さまよわせている間に、ソファに先ほどの男性が座っていた。

 ヴィーはその向かいに座り、僕やシオンさんは後ろに並ぶ。
 彼女は男性に軽く頭を下げる。

「今回はお時間を作って頂きありがとうございます。エデッセ子爵」
「構いませんよ。貴方の様な方と取引を出来るとは願ってもいませんから」
「そう言っていただけて光栄です」

 それから2人でじっくりと話していた。

 ちなみに、エデッセ子爵の本名はセルド・エデッセ。
 この街の料理ギルドのトップに君臨してもう20年になるベテランらしい。

 彼とヴィーの話を聞いていて、思った事は2つ。
 利益や利権は出来る限り取りに行く、たとえそれが格上の貴族でも関係ない。
 もう一つは、上で挙げた事をうまいこと隠すようにして話すその話術だろうか。
 彼はとても優しい雰囲気だけれど、商談の話になるとかなり人が変わる。

 事前にヴィーに彼はこう言う人だと思う。
 ということを聞いていなければ、確かに分からなかった気がするほどに隠していた。

 そのことに1度話しただけで感じ取れるヴィーも凄いとは思うのだけれど。

「それでは大枠はこれくらいでよろしいでしょうか?」
「はい。私の方もこれで話を進めて行きたいと思っております。それと失礼する前に、1人だけ紹介させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「紹介ですか……? もちろん、ヴィクトリア殿の紹介であれば何を断ることがありましょうか」
「感謝いたします。エミリオ」
「はい」

 僕は呼ばれたので、ヴィーの隣に立つ。

「初めまして、セルド・エデッセ子爵様。僕はエミリオ。バルトラン子爵家の次男になります」
「おお、あの爵位が上がったと噂のバルトラン子爵の方ですか。領地では……さぞや凄い回復魔法が使われたと聞きますが?」
「使ったのは僕ではありませんので」

 このことは聞かれてもいいようにしっかりと事前に考えてあるので問題ない。

 エデッセ子爵は笑みを深めて口を開く。

「これこれは御謙遜けんそんを。して、その様な方を紹介して頂けるとは。私に何を望んでおられるのですかな? と、お座り下さい」

 彼の目元は優しそうに話すけれど、僕を値踏みしているのが分かった。

 僕はヴィーの隣に座り、礼を失さないように考えながら話す。

「フルカ様のことについてお聞きしたいと思いまして」
「フルカ……様のことですか?」
「はい。彼女はよくこちらに来られていると聞きましたので、どの様な人物か教えて頂けないかと」
「ほう……それはどうしてまた?」

 彼は先ほどよりも体を前に出し、僕の言葉を一切見逃さない。そう言ってるようにも見える。
 しかも、その視線は鋭い。

「先日、フルカ様やスケルトン侯爵様とお会いする機会があったのですが」
「!?」
「どうかされましたか?」
「……いや、何でもない。続けてくれ」

 僕の言葉でかなり驚いているエデッセ子爵だったけれど、僕が聞くとすぐに顔色を戻して続きをうながした。

「スケルトン侯爵の健康状態が良くない。という事はご存じだと思います」
「ああ、知っている」
「そこで、彼の専属回復術師のフルカ様に、どうして食事を変えないのか。ということを聞いたのですが、答えては頂けませんでした」
「……」
ちまたではフルカ様がスケルトン侯爵家の乗っ取りを考えている。という事も言われています」
「聞いている」
「でも、僕は彼女がその様な事をする方には思えないのです。ルゴー様とも話す機会を頂きましたが、彼も彼女はそんな事をする様な人ではない……と」
「ふむ……」
「なので、フルカ様とよく話すエデッセ子爵様にもお話を聞きたいと思って来ました」
「……」

 僕はここに来た目的を伝えると、彼はじっくりと時間を使って考えている。
 それから、考えがまとまったのか、僕の目を見て話し始めた。

「私は長らくこの料理ギルドのトップをやらせてもらっている。その事は知っているね?」
「はい」
「あくまで……私がそう思った。ということでしかない。それでもいいかな?」
「はい。よろしくお願いします」
「よかろう。私は彼女と……この街のことについて話す事が多いのだが、彼女はとてもこの街の事を想っているいるよ」
「……はい」
「しかし、私の親友と言っても良いスケルトン侯爵に対してどうかと言うと……街に対する程の情熱は無いように思う」
「……はい」

 これは……フルカさんはこの街を欲している。
 そう……エデッセさんは言いたいのだろうか。

 でも、それはまだ決まった訳じゃない。
 もう少し聞いてみなければ。

「それではフルカ様とはどのような事を話すのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「勘弁して欲しい。この街の運営に関する事がほとんどだから。だが……そうだな。少し話せるとしたら、この街をより発展できるような料理を……という様に頼まれている」
「この街がより発展出来る料理……ですか?」
「そうだ。そんな料理を……彼女からは求められているね。料理ギルドとして、侯爵の代理の者の要求は聞かなければならない。私としても……残念に思っているよ」

 ということは……彼女がオーク肉を使った料理を望んでいる。
 エデッセ子爵はそう思っているのだろうか。

 そして、フルカさんの指示に応えるために、料理ギルドはディッシュさんにオーク肉の料理ばかりを出しているのかもしれない。
 もう一つ、気になっていた事を聞く。

「そう言えば、野菜や魚に高い税をかけていると聞きました。それは本当ですか?」
「税を決めるのはこの領地の領主の仕事だと思っているが? そして、今のその代理は誰かな?」
「……」

 ということは、野菜等にも税をかけているのはやっぱりフルカさん?

 エデッセ子爵の話を聞けば聞くほど、フルカさんが怪しく感じてしまう。

 僕が迷っていると、彼は口を開いた。

「それではこれくらいでいいかな? この街が発展しているからやることが多くて忙しい」
「あ、すいません。貴重なお話ありがとうございます」
「これくらい何でもないとも」

 ヴィーもさっきの話でやることは終わっていたらしく、この後は特に何もないまま宿に戻る。

 その途中、ヴィーと話す。

「ヴィー。やっぱり……フルカさんがディッシュさんを……その……そうなることを望んでいるのかな?」
「分かりません。ですが……エデッセ子爵の言う事を信じるのであれば、そうかもしれません」
「やっぱり……」
「ただエミリオ、貴族は本当のことを言っていても、必ずしもそうであるように言う人ばかりではありません」
「どういうこと?」
「私もはっきりとこうだ。ということは言えません。ですが、先ほどの話、彼は全部言い逃れできるように、曖昧あいまいに話していたのが私は気になりました」
「……」

 ヴィーの意見を聞き、僕はどうするべきなのか。
 考えながら宿で休む。

 そうして何度も考えるのだけれど、答えは出てこない。
 しかも、直感で思った事と、考えが真正面からぶつかるのだ。

 直感ではフルカさんはそんな……ディッシュさんを殺そうとはしない。
 けれど、先ほどの話を聞いたり今の現状を考えると、フルカさんはディッシュさんを殺そうとしている。

 2つの考えがずっとぶつかり合うのだ。
 僕は夕食の時間も考え続けていて、ヴィーの言葉にも生返事だったと思う。

 それから自分の部屋で休んでいても、どうにも落ち着かない。

「どうなんだろう……」

 ずっと考え続けて、流石に疲れて眠りそうになった時、

 バン!

 窓が叩き壊されて、僕は現実に意識を引き戻される。

 僕は体を起こして音がした方を向く。

 そこには全身黒ずくめの人が2人立っていて口を開いた。

「フルカ様の為に死ね」
「え……」
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