不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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4章

78話 出立

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 スタンピードから1か月。
 僕は師匠の手伝えと言われる言葉に従ってずっと治療を続けてきた。

 別に必要もないのに『治癒魔法キュア』を使わされたりしたけれど、それはきっと師匠にとって何か大事な事があったんだと思う。

 そして、僕は何とか母さんを説得して美食の街、レストラリアに向けて行くところだった。

 僕と師匠の他に後2人がいるだけで、あくまで少人数だ。

 今からリーナとお別れをする。

「お兄ちゃん! 気を付けて行ってきてね!」
「うん。リーナも母さんとチェルシーの言うことをしっかりと聞くんだよ」
「うん! 大丈夫! リーナも最強の騎士になるから!」
「ハハハ……レイア。リーナに何を教えたの?」

 僕はリーナに笑いかけ、レイラに問いかけるような視線を向ける。

「アタシの剣技を見せただけだ。彼女はアタシの様な戦士になりたいらしいな。小さいながらに立派な志だ」

 うんうんと1人でレイアは1人で納得している。
 でも、流石にリーナに彼女を目指してもらうのは……。

「リーナ。一度しっかり母さんと話し合おう?」
「何を?」
「リーナの将来について。レイアをかっこいいと思うのはいいけれど、決めてしまうのは早いと思うんだ」
「だって……ロベルトお兄ちゃんもしっかりと見てあげないといけないし……エミリオお兄ちゃんも支えてあげないと……だから……だから……」
「リーナ……ありがとう。でも、僕もロベルト兄さんもそれはきっと大丈夫。だから、そんなに心配してくてもいいんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから心配しないで」
「分かった! じゃあリーナが最強になる!」

 リーナはとっても明るい素敵な笑顔でそう話してくれる。

 どこで教え方を間違ってしまったのだろうか。
 話のつながりで最強なんてどこにも出なかったとは思うけど……。

「リーナ。本当に……本当ーーーーーーにそれでいいの?」
「うん! レイアおねぇちゃんかっこいい!」
「そっか……じゃあレイアみたいに強くなれるといいね」
「うん! リーナ頑張る!」
「うん。それじゃあ気を付けて」
「うん! バイバイ!」

 そう言ってリーナは庭を走りに行ってしまう。

「エミリオ。強い敵がいたら連れて来い。アタシが可愛がってやろう」
「レイア……」

 そう言って話しかけて来たのはレイアだ。
 いつものようにニカリと笑い、とてもいい笑顔で笑う。

 未だに王女という事が信じられない位だ。

「連れてくることは出来ないけど、リーナを……よろしくね」
「……驚いた。彼女が強くなることに反対すると思っていたが?」
「……そうしたい気持ちもあるよ。でも、僕が回復魔法を習えたのだって、父さんに反対されていてた。でも、それを母さんが説得してくれた。だから……リーナが本当にやりたい。って言うのなら、応援してあげたいんだ」
「そうか……なるほどな。いいだろう。それはそれで面白い。できるだけアタシも教えてやろう」
「うん。よろしく頼むよ」
「ああ、気を付けていけ」

 そう言ってレイラはリーナが走って行った方に追いかけていく。
 彼女も何だかんだで優しい。

 僕はそんな彼女の背中を見つめていると、次に現れたのは母さんだった。

「母さん……」
「エミリオ」

 母さんはそれ以上何も言わずに抱き締めてくれる。

 最初、僕がレストラリアに行きたい。
 そう行った時にもっとも強く反対したのが母さんだった。
 理由は僕の体調のことを本当に心配してくれたから。

 でも、師匠も手伝ってくれて何とか説得は出来た。
 だから、これ以上言葉は要らない。

「気を付けて」
「うん。母さんも」

 母さんはそう言って僕に背中を見せて屋敷の中に戻っていく。
 母さんは一度も振り返ることはなかったけれど、肩がふるえていた。

 次に来てくれたのはフィーネさんだ。

「それではエミリオ様。お気をつけて」
「あ、フィーネさん。ありがとうございます。フィーネさんもお気をつけて」
「ええ、魔物も大分減ってきているとはいえ、油断は出来ませんから」
「手伝わせてしまって……申し訳ないです」
「何を言うのですか。今回の事、スタンピードを少数の貴族だけで乗り切った。という事で家の評判も上がっています。むしろプラスになっていますから。心配しないで」
「……はい。ありがとうございます」

 僕は慰めてくれるフィーネさんに礼を言う。

 そんな彼女は、逆に不安そうに聞いてくる。

「それよりも……この雪の中、一体どうやって馬車で行くのですか? しかも1台だけで……」
「ああ、それは問題ありません。事前に師匠とも相談して、行けるという事も確かめましたから」
「?」

 頭に? を浮かべている。

 そこに、師匠が来る。

「エミリオ。もう行けるか?」
「あ、はい! フィーネさん今から見せますね! 氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 僕は魔力を注ぎ込み、馬車が乗れるほどの大きな氷の板を作り出す。

「こんな物……でしょうか?」
「……」

 フィーネさんはぽかんと口を開けてそれを見ていた。
 でも、突然我に返った様に頭を振る。

「ま、まぁ……そうですよね。屋敷を要塞ようさいの様に出来たのですし、これくらいは出来ますよね」
「うん。あ、でも、もしも魔力が足りなくなりそうになったら師匠と交代。っていう事で考えているから大丈夫だと思う」

 それにもしも魔力が足りなくなっても、回復の為に止まって一晩過ごす。
 という選択肢もとれる。

 もちろん、あんまりやりたいことではないけれど、それはそれでちょっと楽しみなのは秘密だ。

「そうですか……それではお気をつけて」
「うん。ありがとう皆」
「お気をつけて」

 僕と師匠は馬車に乗り込む。

 今回行くメンバーは他にはメイドが1人と御者兼執事が1人だ。
 と言っても、氷の板に乗せて進む予定なので、ウマは連れていかないけど。

 後、メイドの1人は……。

「エミリオ様! よろしくお願いしますね!」
「うん。よろしくね。サシャ」

 家事スキルが物凄く低いサシャだった。

 これは、最初は誰もそんな世話係は要らないと師匠が言い張ったのだけれど、母さんがどうしても連れて行けと口をっぱくして言って来るのでしょうがなく折れたのだ。
 基本的にはこの4人で行くことになっている。

「それじゃあ行くか」
「はい! 皆! 僕……行って来るから! ちゃんと帰って来るからね!」
「行ってらっしゃいませ」
「うん! またね!」

 こうして、僕は皆に見送られながら初めての旅に出た。

 屋敷の窓からは母さんが優しく微笑んでいる。
 ただ、その目の下には何かキラリと光る物があった。

*****************************

これにて4章は終わりです!
長い間お付き合いいただきありがとうございます!

5章は今絶賛執筆中になります。
ちゃんと面白いように描いていきたいので、次から3日に1回更新になってしまうと思います。
大変申し訳ございません。
ただ、それに見合っただけの面白さを出していくので、今後も読んで頂けると幸いです。

これからもよろしくお願いします。
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