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4章

70話 バルトラン家の秘密

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 ドクン

 私の心臓が大きく高鳴る音が聞こえた。
 それも悪い方向に。

 どこから漏れた?

 コンラート達やその兵はすべて捕らえたから漏れることもない。
 他に何か見落としている何かがある?

 やはり……ロベルトが何かをやらかしていた?

 いや、そんなはずはない。
 奴は屋敷でどこにもいけないようにしていたはずだ。

「どうした? ヴィクトリア嬢。顔色が悪いぞ?」
「……」

 白々しい。
 このハゲタヌキが。

 こいつは一体どこまで知っているのか。
 いや、それともただカマをかけているだけだろうか?

 こいつならやりかねない。

「陛下、大変申し訳ありません。少々傷が痛みまして」
「そうか。それは失礼をしたな」
「いえ、それよりもバルトラン男爵家に援軍を送って頂きたいのですが?」
「それについてはもう言っただろう」

 何度も同じ話をするな。
 彼はそう言うけれど、私は先ほどの話を忘れる為にも新たな情報を出す。

「しかし、バルトラン男爵領にはレイア様も居られるのですよ?」
「は……?」
「え……?」

 国王夫妻はどうして?
 と揃って呆けている。

 いつもレイアは自由気ままに勝手に色んな所に行くけれど、今回の様にスタンピードの真っただ中であろう所に行った事はない。
 せいぜいが危険な魔物が出没すると言われている所に先に行っていたこと位だ。

「それもどうやって……知ったのだ?」

 国王は辛うじて絞り出すように聞いてくる。

「ジェラルド様からのお手紙に書いてありました。楽しそうな気配がするから来た……と」
「それは……いや、レイアならありえる……」
「そうですね。あの子の直感は桁違いに凄かったですからね」

 王妃も国王に同意している。

 国王は王冠の隙間から見えるキラリと光る頭を見せながらうなった。

「そうは言ってもな……。今すぐにいけるような戦力は……」
「当然王家だけに任せる事はいたしません。ゴルーニ侯爵家からも戦力を出します」
「しかし、今日中にいける戦力など……」

 そう話していると、扉の外が騒がしくなる。

「一体誰だ」

 国王は悩んでいる時にまた厄介ごとかと扉を睨みつけた。

 退けて来いと言う意味だと察した親衛隊の騎士が、扉を開けて外を黙らせようとした。

「貴様ら一体なにふがっ!」
「!?」

 扉の外を覗こうとした騎士の体が吹き飛んだ。

「誰だ!」
「国王陛下! 失礼いたします!」
「貴様は……」

 そう言って入って来たのは以前、ロベルト達と相談していた時に入って来たレイアの親衛隊の女騎士だ。
 彼女は既にフル装備で戦にすらいけそうな格好をしている。

「レイア第2王女親衛隊隊長のアメリであります。既に出撃の用意は完了しております! ご命令を受け取りに参りました!」
「は? もう出来ている? いや、それにしても早過ぎるだろう」
「そうでしょうか? レイア様が既にスタンピードの為に前ノリしていると聞いて、我々も遅れる訳にはいかないと急いで準備を整えたのですが」
「そうか……ヴィクトリア嬢。これは貴方の仕業かな?」
「さぁ? どうでしょうか」

 私は白々しくとぼける。

 ここに来る前に家の騎士に渡した手紙の効果は最高のタイミングで発揮される。
 家の騎士がレイアの所の親衛隊と付き合っているのは知っていた。

 そして、彼女達はレイアの影響が強いせいかかなり好戦的だ。

 さっきも騎士を蹴り飛ばしたのも、早くスタンピードに向かいたいからだろう。
 彼女には時間も伝えていたので完璧だ。
 こういう時の仕事の早さには脱帽する。

 そんな戦闘狂の親衛隊隊長は国王が相手でも詰め寄らんばかりにまくし立てた。

「国王陛下! 早くしてください! 我々の取り分がなくなってしまいます!」
「し、しかし……」
「陛下! レイア様を見捨てられるのですか! ありえません! いくら国王陛下と言えどそれはありえません!」
「貴様一介の騎士がこの余に……」
「その前にレイア様の父ではないのですか! 娘が危険な所にいるかも知れないのです! 今すぐに我々に出撃許可を!」
「だかそこにレイアがいるとは……」
「いますよ」
「!?」

 私は困っている国王の邪魔をするようにそう口を挟む。

 女騎士は嬉しそうに私を見て笑顔を浮かべた後に国王に更に詰め寄る。

「レイア様と仲の良いヴィクトリア様がああ言っておられるのです! さぁ早く!」

 別にレイアとの仲はそこまでよくはない。
 というかあんな戦闘狂と一緒にしないで欲しい。

「く……わ、分かった。許可しよう。ただし「分かりました! 我々レイア第2王女親衛隊総勢50名直ちに出撃します! あ、ついでに城の騎士も速度を出せる騎士100名程お借りしていきます! それでは!」

 彼女は全てのことを置き去りにするようにして部屋から出ていってしまう。

「ただし……城の騎士は一切かまう……な……」

 国王の言葉は……彼女の耳に届くことは決して無かった。

「陛下。元気を出してください。貴方に覇気がないことは皆知っています」

 王妃が陛下をなぐさめているようでなぐさめていない。

 私は陛下に頭を下げる。

「陛下、兵を出してくださり感謝いたします」
「ああ……もう……色々と良い。要件はそれだけか?」
「はい。以上でございます」
「そうか。下がってよいぞ」
「それでは」

 私と父上は席を立ち、扉に向かっていく。

 背中に国王から声をかけられた。

「そういえば、ヴィクトリア嬢」
「何でしょうか?」

 私は振り向き、国王を見る。

「ロベルトは元気か?」
「!?」

 私は思わず心臓が跳ねた。
 ロベルト……やはり何かやらかしていた?
 それも国王に目をつけられる程の何かをしていたのかしら……。

 いや、ここで動揺していては国王の思う壺。
 取りつくろわなければ。

「ええ、元気ですが」
「そうか。そういえば、ロベルトの兄妹もいるのだな?」
「……はい。エミリオとエカチェリーナという2人がおりますが」
「そうか……息災でな?」
「その為に兵を派遣したまでです」

 エミリオの名前を出した時にはしっかりと取り繕えたと思う。
 しかし、やはりハゲタヌキ。
 油断ならない。

「そうか。無事を祈っている。行って良いぞ」
「それでは」

 危なかった。
 もう少しで気付かれていたかもしれない。
 それに、あちら・・・の方の動きはまだ掴んでいないみたいだ。
 隠れみのがあるとは言え、国王にも知られると面倒だから出来るだけ隠しておきたい。

 更に当初の目的である兵を派遣してもらう事は出来た。
 これで、何かあってもきっと問題ないと思う。

 私の方でも兵を派遣させた。
 これで……エミリオは乗り切ってくれるといいのだけれど……。

******

 ヴィクトリア達が部屋から出て行った後、部屋の中には国王と王妃だけになっていた。

 親衛隊の騎士達も下げられた状態だ。

「ふむ……中々にあの小娘もやるではないか」
「そうですね。あの年であれだけの事が出来れば、将来は末恐ろしいです」
「ああ、だが……流石にまだ子供だな」
「そうなのですか?」
「奴らの行動をみれば明らかだ」
「それは?」

 国王はじっとどこかを見つめながら話す。
 それは多くの敵を落とし入れたり、弱点を看破する時の彼の癖だ。

 しかも、それはかなりの高精度で推測を的中させる物だった。

「まずは数か月前、突然ゴルーニはバルトランの所へ行った。そして、悩ませていた暗殺ギルドの【消炭けしずみ】を捕らえ、奴隷にしてる」
「そうですね」
「しかもその後、父親と長男を連れてこちらに来た。間違いないな?」
「はい。その通りです」
「その後だ。クラレッツ公爵の馬鹿どもが事件を起こした。あれは、バルトランの家族を人質に取るためだったのではないかと思う」
「それは……なんの為に?」
「ゴルーニが大事にしている何かをそのバカ共は掴んでしまったからだ。そして、【奇跡】にしてもそうだ。本来【奇跡】は学院で引きこもっているはずなのに、わざわざあんな田舎まで行く。ありえるか?」
「確かに……おかしいと思います」
「だろう? そこまでしても魅力的な何かが、バルトラン男爵家には……ある。【奇跡】がわざわざ田舎に……恐らく、次男の病を治療する為だろう」
「はい」
「そして、そこから導き出される答えは……」
「答えは……?」
「バルトラン男爵家には我々の常識外の力を持つ者がいる。そして、ゴルーニ侯爵家は、その事を知っていて、隠しているに違いない」
「なんと……それは……誰なのでしょう?」
「さっきのヴィクトリアの反応からも、ここまで来れば決まっている」

 彼は視線をすっと降ろし、自慢の細長い髭を構いながら王妃に向き直る。

「ロベルトだ」

 国王は全てを分かっている。
 彼の表情が全てを物語っていた。

「ロベルト……?」
「ああ、一度舞踏会に呼んだのは彼をゴルーニ侯爵家の一員として紹介するつもりも込めて」
「それであれば、今出てきていないのは?」
「一度ゴルーニの者だと印象つければ後は必要ない。しかも余程大切だと伺える。ロベルトが屋敷の外に出ることは全くないそうだ。奪われないように警戒しているに違いない」
「なるほど」
「今回、ゴルーニがここまで大げさに動いてバルトランの領土を助けるために動いたのはロベルトが懇願したからだろう。それほどに、奴は凄い物を持っている。何の力とまでは言い切れないが、何かあるのは間違いない」
「流石陛下です」
「これくらいは当然だ。そして、それを見越して、こちらもやることがある」
「なんでしょうか?」
「当然、ロベルトの篭絡ろうらくだ。幸いにも、来年からやつは学院に入るらしい。丁度いい。レイアも学院に入れるぞ」
「本人が断った場合には?」
「適当に理由でもつけてバルトランを子爵にあげる。そうしたら貴族は全員漏れなく学院に行くことが義務付けられる」
「なるほど。流石です」
「それで今の内からロベルトの動向には目を向けておけ。どんな力を持っているのか確定させておきたい。それを知っているかどうかも今後の対応に変わってくる」
「畏まりました。それで、他の弟妹達は見なくてもいいのですか?」
「病に伏せっている子供と……まだ小さな少女だ。そこまでしなくても問題ない」
「畏まりました。しかし、よろしいのですか? 流行り病の対応等普通はもっとやっても良かったかと」
「バルトラン領はゴルーニが目をかけている。多少どっちつかずで話した後に、ギリギリで力になった方が助けた感じも出るだろう。まぁ、あ奴らなら分かっているだろうがな」
「では派兵の取り消しはしなくてもよろしいですね?」
「当然だ。まぁ……雪で間に合うかは少し怪しいがな。それは奴らが何とかするだろう」
「畏まりました」

 そうして、彼らは満足そうにするとそれぞれの仕事に向かっていく。
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