不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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4章

63話 再決意とロベルトの教育

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「僕を治せるのは……僕……自身……?」
「そうだ。おれの見立てでは……だがな」
「……僕は……何をしたらいいのでしょうか」
「言っただろう? 今まで通りのことをやればいい」
「今まで通りの事?」
「そうだ。町に行き、多くの人をる。これは自分以外の体や、今の流行り病だけでなく他の病はどういうものか、それを知ることになる」
「はい」
「そして午後の体力をつけること。今回も途中で意識がなくなったな? まだまだ足りん。『体力増強ライフブースト』をかけて丸1日は動き回れる様になることも必要になってくる」
「そこまで……」
「そうだ。そして夜の講義も、基本を大事にする為だ。理解したか?」
「……はい!」
「では明日からまた始める。今日はもう遅い。ゆっくり休め」

 師匠はそう言ってイスから立ち上がった。

「ありがとうございます。師匠。そして、これからもよろしくお願いします!」
「ああ。お休み」

 パタン

 師匠はそれだけ言うと部屋から出て行ってしまう。

「ここまで読んでいたのかな……」

 師匠はすごい。
 僕が……ダメだと思ったことを全て出来るように話してくれた。
 そうだ……僕は……出来るんだ。

 これからやることも師匠が教えてくれた。
 まずは基本を大事にする。

 マスラン先生に教えてもらっていたはずの事なのに……。
 僕はちょっと出来るからって急ぎ過ぎていたようだ。

 これからはしっかりと基本を学んでいく。

 僕は明かりを消してベッドに潜る。
 明日からの基本……もっとしっかりとやらないと。

「やるべきことが見えたのは……とっても嬉しいな」

 次の日から、僕は基本に立ち返って過ごすことを決めた。

******

***ロベルト視点***

 俺はゴルーニ侯爵家で教育を受けていた。

 朝の6時に起きて、教育、朝食、教育、教育、教育、教育、昼食、教育、教育、教育、教育、教育、教育、教育、夕食、教育、教育、教育、教育、そして夜の12時に寝るというかなりのハードスケジュールを送っていた。

 今も夕食を食べたばかりで、貴族の振舞いについて教育を受けている。

 教師はゴルーニ侯爵家の女性。
 とんがったメガネをくいくいと何回もあげながら話し続ける人だ。

「貴族の言葉には特別な意味合いを含むことがあります。例えば、夕食の後、女性の方から『こちらでお話しませんか?』という様なニュアンスの話をされた場合。それは断れば失礼に当たります。なぜか? それは女性から貴方に気がありますよ。どうですか? という事になるのですから。もしそれを拒否したくても、一応はお受けしてください。そして、行った先で少し話して用事があると言って帰ればよろしいのです」

 なんだそれは、と思うような事もあるけれど、大事なのかもしれない。
 しっかりと勉強しないと。

 なので、俺は質問をした。

「あの、何か大事な用事がある時はどうしたらいいのでしょうか?」
「いい質問ですね。その際には、既に他の方とお約束があります。と言ってしまえばよろしい。もちろん、あまり勧められることではありませんが」
「なるほど……」

 なんでそんな面倒な……という言葉は飲み込んだ。

 俺は田舎でそう言った事はほとんど関係ないと思っていたけれど、以前のこともある。
 しっかりと……中央でも完璧にやって行けるようにしなければならないのだ。

 だから完璧に貴族として振舞えるようにならなければ。

 教師はさらに口を開こうとした時に、部屋がノックされた。

 コンコン

「どうぞ」
「失礼します」

 そう言って入ってきたのは顔に包帯を巻いたヴィクトリア様だ。
 わざわざ彼女から来るなんてどうしたんだろうか。

「ロベルト。今はお暇ですか?」
「え? いえ、今は貴族の振舞いの教育を受けていた所ですが……」
「なるほど、では問題ありませんね。こちらに来て下さい。大切なお話があります」
「!」

 俺はここでビビッと来た。
 具体的に何がと言うと、丁度さっき習ったばかりの所だからだ。

 しかしまさかこんなことになるとは。

 彼女はエミリオの事を好いていると思っていたのだが、まさか違ったとは……。

 でも、そんな事があるのかもしれない。
 ここ最近、俺は真面目に教育を受けていた。
 そんな真面目に教育を受けている俺の姿を見て気持ちが変わった。
 なんていう事があるのかもしれない。

 俺はなんて罪作りな男なんだろうか。

 でも仕方ない。
 彼女がそのつもりなら聞かない訳にはいかないだろう。
 別に何かする訳じゃない。
 断ることは勧められないと教師も言っていたではないか。

「もちろん。喜んで行かせていただきます」
「………………ええ。こちらです」

 なんだろう。
 すごく……すごく……イラついた視線を向けられた気がするのだけれど……。

 うん。
 気のせいだな。

「失礼します。先生」
「お借りします」
「構いません」

 俺とヴィクトリア様は教師にそう告げると、部屋から出た。

 俺はヴィクトリア様に続いて歩く。

 でも、俺は変わったのだ。
 こういう時には男の俺から話かけるべきだろう。

「ヴィクトリア様」
「何でしょう?」
「今日もとてもお綺麗ですね」
「………………頭をどこかにぶつけられましたか?」
「そんな訳ないでしょう。ヴィクトリア様を見ていて、いつも思っています」
「…………………………。ロベルト、申し訳ありません。確かに少々教育をさせ過ぎました。今度から少し教育の時間を減らしますね」

 ヴィクトリア様からは本気で俺の事をあわれんでいる様な雰囲気を感じるけど、きっと気のせいだ。

「大丈夫です。ヴィクトリア様の為でしたらもっと厳しくても問題ありません」
「そうですか。ではもう2時間追加しておきますね(ふざけた事を言えなくなるように)」
「いや……流石に許して欲しいのですが……」
「今仰ったではありませんか」
「ですが……」

 流石に4時間睡眠は辛い。

 そんな事を話していると、とある部屋に着く。

 部屋はどこかの大部屋で、中からは大声での話合いが聞こえてくる。

 ヴィクトリア様は部屋をノックしながら俺に声をかけてきた。

「そんなことよりもこれからは重要な事です。しっかりと気を引き締めなさい」
「重要なこと……」

 もしかして……俺とヴィクトリア様との間での話だろうか。

「入れ!」

 部屋の中からは大声が返って来て驚いてしまう。

 俺達のこれからをこんな所で話すのだろうか?

 ヴィクトリア様は躊躇ためらいもなく部屋を開けると、中にはかなりの数の人がいた。
 騎士だったり、回復術師の服装をしている人だったり、その中には父も少しやつれた様子で立っている。

 彼らは1つの大きな机を囲んでいた。
 その机には地図が拡げられている。

 その中の一番偉そうな1人が声をあげた。

「これはヴィクトリア様!」
「いいです。続けなさい」
「はっ! それで急いで派遣するには……」
「いや、それだと間に合わないんじゃないのか!?」
「そんなことは……」
「カヴァレの所が動いてくれているのだろう?」
「だがあそこは基本病には強くない。いても数はそんなに動かせないだろう……」
「怪我であれば強いのだが……」

 などと机を挟んでかなりの激論を交わしていた。

「あの……ヴィクトリア様。これは何の話合いで? 俺に気があるのでは?」
「はぁ?」
「……」

 怖かった。
 いや、正直に言う。
 物凄く怖かった。

 部屋の中の雰囲気も一瞬真冬になった時のような気温だったのだ。

 ああ、そろそろバルトラン領も雪かな……等と考えていると、ヴィクトリア様に現実に引き戻される。

「ロベルト。貴方一体何を考えているの?」
「実は……」

 俺はさっき教師に習った事を包み隠さず話した。

 さっきまで激論を交わしていた人たちがチラチラとこっちを見ているのが恥ずかしい。

 全てを説明し終わると、納得してくれたのか少し優しくなったヴィクトリア様が口を開く。

「あぁ……そういう……それは夕食を一緒に取った後に口にされた時の話です。一度どこかに離れたのであれば別に他意はありません。分かりましたか?」
「はい。申し訳ありません」
「それはいいです。そんな事を話している時間はありませんから」
「では一体何のお話ですか?」

 大切な話と聞いていたけれど、一体なんだろうか。
 たった今やらかしたこと以外には思い当たるふしはないのだが……。

「それも説明しますね。今、バルトラン男爵領に流行り病が起きています」
「!?」
「なので、そこに緊急で回復術師を派遣する。ということになっているのですが、この時期にそこに派遣するのは危険ではないのか。という事で王宮の会議が続いています」
「それは……どうしてでしょうか?」

 送るのに反対する事などありえない。
 流行り病は出来る限り迅速に止める。

 そうしないと他にも拡がってしまうからだ。
 なのになぜ……?

「この時期、バルトラン男爵領は雪が降るでしょう? もしも回復術師達がそれに阻まれて帰ることが出来なくなって、他の場所で流行り病が起きたら。という事です」
「そんな……町を見捨てるんですか?」

 そんな……これまでこの国の為にずっと……ずっと頑張って来たのに。
 こんな仕打ちは……あんまりだ。

 ヴィクトリア様は他の情報も教えてくれる。

「父もそんな理由ではありえない、と言って反対してくださっていますが……。クラレッツ公爵の派閥も回復術師団の派遣に反対していますから……忌々いまいましい」
「クラレッツ公爵家が……」
「ええ、私達の派閥であるバルトラン男爵領が打撃を受ければ自分たちが盛り返すチャンスになる。とでも思っているのでしょう。全く……」

 ギリリと歯を噛み締めるヴィクトリア様を余所に、俺は彼女に聞く。

「他の人もクラレッツ公爵に賛成なのですか?」
「ある程度は。とはいえ、バルトラン男爵領が落ちて欲しい、ではなく、ジェラルド様がそこにいらっしゃるという事が大きいのです。彼がいることで、男爵領の町程度であれば問題ないのではないか。という方々もいるんです」

 そこまでの人だったのか……。

「それで、これからどうしたら……」
「一応、少数でも派遣できないかといったことや、他にいい案がないかを話し合っています。それで、貴方にはバルトラン男爵領での情報等、出来るだけ話して頂きたいのです」
「それで呼ばれたのですか」
「ええ、今までの失態を取り返すチャンスです。頭を限界まで働かせない」
「はい!」

 俺は、ヴィクトリア様から離れて、話し合っている中に割り込んでいく。

 エミリオだけではない。
 母さんやリーナを守る為に、俺が出来ることは今ここにあるのだから。

 でも、ちょっとだけ……バルトラン男爵領が恋しくなってしまう。

******

 バルトラン男爵領の森の中。
 魔物がほとんど動けない狩人をもてあそんでいた。

「シュロロロロロロロ」
「た……助けて……」
「シュロっ!」

 バシッ!

「ぐ……」

 弾き飛ばされて転がるけれど、狩人は動けない。

「なんで……体が……」

 数日前から少し体調は悪いと思っていたけれど、こんなことになるなんて。

 いや、もしかしたら、こいつに近付いたから?

 彼は体が思うように動かせず、思考することしか出来ない。

「シュロロ」
「あ……」

 グシャ

 魔物は飽きたのか狩人に止めを刺してそれを食べ始める。
 食べ終わった魔物はある方角を向く。

 その方角は、アップトペルがある方角だった。
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