不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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4章

53話 体力をつけたい

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「エミリオ!」
「あ……う……」
「エミリオ! 無事!?」
「母……さん……?」

 僕はゆっくりと目を開けると、そこには涙を溢しながら僕に抱きつく母の姿があった。

「エミリオ……心配させて……」
「ごめん……なさい……」

 僕は何があったのか思いだそうして、師匠と一緒にコクラの人形の中で勉強していたことを思い出す。

「師匠……は……?」
「ここにいる」

 師匠は母から少し離れるようにしてじっと僕の事を見ていた。

 少し目つきの険しい師匠はどんな事を思っているのだろうか。

 母さんはそんな師匠に、きっと鋭い視線を向ける。

「貴方……師匠と呼ばせているのにエミリオの体調の事も考えられないのですか?」
「済まなかったと思っている。だが、あの程度の体力で倒れられる様では自身の治療など夢のまた夢。おれはその目的の為に手伝ってやっているだけに過ぎない。おれが邪魔だというのなら帰ってもいい。奥方。それを望むか?」
「それは……。それとは別です! 師匠を名乗るならエミリオの体調のことも考えて……」

 母さんは師匠の視線におくすること無く噛み付いて行く。

 でも、それは……僕が……止めなけらばならない事だ。

「待って……母さん」
「エミリオ……まだ目が覚めたばかりなんだから。無理はしないで……」
「大丈夫……僕は……大丈夫……だから……」

 僕はゆっくりと体を起こす。
 体が重たいけれど、今にも倒れたくなるけれど、僕は……僕は起きなければならない。

 師匠は悪くない。
 僕が……僕がいけなかったんだ。

 もっと体力をつける為にトレーニングをする必要があった。
 魔法の練習とかよりも、体力をつける為にもっと時間を注ぐべきだったのかもしれない。

「エミリオ!」
「大丈夫。母さん。僕は……僕は自分で自分の体を治したい。師匠は……その為に僕に全力で教えてくれている。それは分かるから」
「……」
「だから……気絶をしてしまった僕が悪いんだ。僕が、もっと体力をつけないといけなかったのに」
「でも……それはコンラートの成金カスが……」
「言い訳はしたくないよ。それに、コンラートが居なくても、僕は……きっとどこかで体力がなくなっていたと思う」
「エミリオ……」
「だから、すいませんでした師匠。どれくらい時間がかかるか分かりませんが、きっと体力もつけてみせます。だから、僕にこれからも教えてください!」

 僕は師匠に頭を下げる。

 師匠は落胆していないのか。
 そんな事を思ってしまう。
 師匠の教え方は上手で、頭の中にするすると知識が入ってくる。
 それだけ実力のある師匠が僕の為だけに時間を使ってくれているのだ。

「頭をあげなさい」
「……はい」

 頭をあげると、師匠は僕の目の前にいた。

「わ」
「エミリオ。おれは別に落胆等していない」
「!?」
「おれはただ、多くの人を救いたい。そう思っている。才能ある君に教えれば、きっと将来多くの人を救ってくれるだろう。その思いがあるからだ。だから君の体力がないからといって中央に帰るなんてことはしない。というか体内で気絶するなんて最初の頃は誰でもある」
「師匠……」
「そんな泣きそうな顔をするな。体内で気絶したばかりで……辛いだろうに、よく起き上がれるものだ。今日はしっかり休み、明日から指導を続ける。分かったな」
「はい!」

 良かった……僕は……まだ師匠の指導を受けられるんだ。

 師匠はそれだけ言って、部屋から出ていった。

「母さん。ありがとう。でも、僕は大丈夫だから」
「……そうね。貴方は……強くなったのね」
「うん。これも母さんのお陰だよ」
「そうだと嬉しいわ。それじゃあ一緒に寝ましょうか」
「え……もういいんじゃ「行きましょうか」
「……うん。分かったよ」

 僕はベッドから降りて、母さんと一緒に、リーナが寝ている両親の寝室で寝た。

******

 翌日。
 僕は、いつもの自分のベッドに座っていた。

 師匠は昨日と同じように指導をしてくれた。
 午前中はコクラの人形の中に入り、もっと詳しい基礎……というか、体の中にあるものについて詳しく教えてもらう。

 そして、今は昼食を取った後だ。

「それじゃあ外に行くぞ」
「え? 続きじゃないんですか?」

 僕はてっきりまたコクラの人形の中に入るのかと思っていたので、ちょっと驚いた。

 しかし、師匠は当然といったように話す。

「今日また続けても体力不足で気を失う。それをする時間があれば、体力をつける為に外に行くべきだ」
「分かりました」

 僕はベッドから出てそのまま部屋から出ようとして師匠に止められる。

「ちゃんと外に行けるような格好にしろ。庭を散歩するのとは訳が違う」
「はい!」

 僕は魔法で体力を増やし、外行きの服に着替えてマントを羽織る。
 折角外に行くのであれば、これを着ておきたい。

「よし。行くぞ」
「はい!」

 外に行くと言われると、未だにテンションが高くなる。

 僕は師匠と一緒に玄関をくぐり、門の所まで来た。
 そのまま森の中に入って行こうとすると、思わぬ人達と出会う。

「エミリオ様!」
「あれ? 【宿命の鐘フェイトベル】の皆さん」

 何度となく助けてもらっている人たちが今まさに屋敷に入ろうとしている所だ。
 彼らは戦闘をしてきた後なのか、あちこちに怪我を負っている。

「エミリオ様。これからどこへ?」
「どこって……森に運動に行くつもりだよ」
「……それはおススメしません。最近、魔物の数が増加していますし、狂暴化している個体も確認されています」
「そんな……何か……あったのですか?」
「分かりません。急いで冒険者ギルドに報告をあげていますが、どうなるか……」
「師匠……」

 僕不安で師匠の方を見る。

 こんなこと、今まで一度もなかった。
 僕が言っていいことではないかもしれないけれど、他の事をしなければならないのかもしれない。

 でも、師匠の考えは変わらなかった。
 というか、師匠には何か考えがあるのだろうか。

「問題ない。おれは……というかある程度の実力を持つ回復術師は基本、皆強い。多少の魔物であれば簡単に蹴散けちらしてみせよう」
「そうですか……ですが、エミリオ様にしっかりと守りの魔法を使って頂いた方がいいと思いますが……」

 【宿命の鐘フェイトベル】の人たちが何とかそう言ってくれる。

「それもそうだな。防御魔法くらいなら出来るか?」
「はい。出来ます」
「よし。ではそれを展開させて、奥に行くぞ」
「分かりました! それでは、僕達は失礼します」
「ええ……あ、はい。お気をつけて」

 ちょっとポカンとした顔をしているけれど、僕も……これでも暗殺者の人たちの攻撃を防ぎ切った魔法がある。
 ちょっとやそこらの攻撃では問題ない。
 そう自信を持てるくらいにはいけると思っていた。

 それから氷の板の魔法を展開して、自身の周囲5面を囲むようにして作り上げる。
 氷の板は透明度は出来る限り上げて見やすいことと、固いということに気を付けた仕様だ。

 師匠は森の中をぐいぐい進み、時折僕の方を振り返ってくれた。
 僕のことを心配してくれているのだと思う。

「森はどうだ?」
「はぁ……はぁ……中々……楽しい……です……」

 息が上がってしまうけれど、 周囲を見ながら森の奥に進んでいくのは何だか楽しい。

「うわっと!」

 僕はからまった草に足を取られながらも、何とか進む。
 下には氷の板を張っていないから完全に忘れていた。
 でも、下に張ってしまったら歩くことは出来ないし、せっかく森を歩いている意味がない。

「そんなことではこれ以上進めないぞ? そろそろ帰るか?」
「いえ……まだ……行けます!」

 僕は師匠に答え、何とか立ち上がる。

「そうか。出てくるぞ」
「え?」

 師匠の言葉を理解しようとすると、しげみからゴブリンが飛び出して来た。

「ゲギャギャギャ!!!」
「射出し敵を穿て『石の礫よロックバレット』」
「ゲギョ!!??」

 師匠は瞬時に魔法を唱えると、石をゴブリンに向けて数個放った。

 それを受けたゴブリンは体に風穴を開けて二度と動かなくなる。

「す、すごい……」
「エミリオ。体力をつけるには実戦が一番だ。実戦を経験する中で生きようという気持ちがより強くなり、体の力を限界まで引き出す。もっと奥に向かうぞ」
「わ、わかりました!」
「(まぁ……それだけではないんだが……。この感じ……どう考えても……)」
「師匠?」

 奥に向かうということまでは聞こえたけれど、それ以降は聞こえなかった。
 なんと言ったのだろうか?

「なんでもない。エミリオ、最初は生き残るだけでいい。怪我をしてもおれが治して助けてやる。まずはついて来るんだ」
「はい。分かりました」

 それから師匠に続いてドンドンと森の中に入っていく。
 今まで来たこともない場所まで来ても、師匠は気にせずにぐいぐいと進んでいくのでためらいがない。

 道中に何体も現れるゴブリンを魔法でほふっている。
 魔法もマーティンの様に体の周囲にただよわせ、いつでも放つ準備も出来ていた。

「……だいぶ……来ましたね」
「そうだな。流石に厳しいか?」
「いえ……まだ……何とか……」

 正直心臓が張り裂けそうだ。
 師匠について行くだけでもきついのに、森の中の不安定な道を歩き続けた。
 更にいつゴブリンが襲ってくるかも分からない状況だったのも精神的にきつい。

「ふむ……初日だ。これくらいでいいか」
「わかり……ました……」

 ギィン!!!

 師匠はそう言って屋敷に向かおうとした時に、鋭い剣戟けんげきの音が森の奥から聞こえた。

「これは……」
「悪いがエミリオ。見に行くぞ」
「はい」

 僕達は森の奥に向かう。

 少し先には開けた場所が拡がっていて、その中央では膝裏に届くような長く綺麗な紫髪を伸ばした女性が戦っていた。
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