上 下
23 / 54

23話 スキルポイントは何に振る?

しおりを挟む
 「ふぃ~寝る前にこんなに寝るなんて……」

 私はモコモコの残骸から起き上がり呟く。

 興味本位で入ってみたこのモコモコだけど、想像以上に幸せな気持ちになることが出来た。

 その証拠に、ナツキとアキは未だに幸せそうにモコモコに包まれている。

「2人とも。そろそろ行こう」
「えー。私の家にこのモコモコが届くまでは聞けないわー」
「あたしもー。もうここにいるだけで幸せー」
「もう……2人して……」

 私は何とか2人を起こせないか思案する。

「そうだ」

 私はまずナツキに近づき、口を大きく開ける。

「ナツキー。起きないと七輪であぶり焼きにしてバター醤油をたらして食べちゃうよー? いいのー? こんがり美味しい匂いが漂って来たよー?」

 私は目の前のナツキを見ながら言う。

 言ってて何となく昨日の夜食を思い出してしまう。いいなぁ。これが終わったらまた食べようかな……。ナツキの姿って私の頭の上に乗ってるからあんまり姿って見ないから……。いい艶……。

「近い近い近い近い近い! 近ーい!」
「あれ? 起きた?」
「たれてる! よだれがたれてるからやめて! 美味しいバター醤油で七輪でじっくりいい色になるまで焼くとかやめて! でも高級バターと高級な醤油ならもしかしたら!」

 ナツキはもだえる様な、嬉しそうな複雑な表情をしてもじもじしている。

「いいから起きて?」
「はっ! ここは……」
「ジャイアントサモンシープを倒した所だよ。そのモコモコに入っちゃって、気が付いたらもうこんな時間に……」

 私はメニューを開いて今の時刻を確認する。そろそろ寝ないと明日の5キロの朝のランニングに間に合わないかもしれない。

「! ほんとだ……。寝る前にこんなに寝た気持ちになるなんて。直ぐに帰って今のベッドを注文させておかないと」
「ないから」
「そんな」
「さ、起きてアキを起こすのを手伝って」

 私は頭を差し出して彼女が乗れるようにする。

「? そんなのいいからくわえて投げて頂戴?」
「いいの?」
「ええ。ちゃんと分かってるから」
「じゃあ」

 かぷ。ぽいっ。ふさぁ

 もう何度目かも分からない行動なのでなれたものだ。ナツキを定位置で受けとめる。

「さ、後はアキなんだけど……」
「う~ん。ここから動かす奴は火の七日間で焼き尽くしてやる……」
「なんか危ないこと言ってて触らない方がいいような気がするんだよねぇ」

 7日もかけて焼き尽くすとかどう考えても弱火過ぎる。最初の方は絶対に気が付かないだろう。

 それとも骨まで燃やすってことなのかな。

「確かにこれは普通に起こすとどうなるか分からないわねぇ。ちょっとアキの頭に寄せて」
「分かった」

 私はアキの頭に近寄る。そして、ナツキの声が届きやすいようにする。

「アキ、ここの睡眠も気持ちいいかもしれないけど、ここから進めばもっといい場所があるかもしれないわよ?」
「う~ん。でもあたしはここで十分ー……むにゃむにゃ」
「何言ってるの。ここはまだ2つ目のフィールドでしょう? もっと進んだらもっといい羊系統の最高の寝床があるかもしれないわよ?」
「う~ん。それは……いいかも……でも、もう一声ー……」

 これ寝てるんだよね?

「じゃあ、このモコモコを回収して、最高の場所まで運んであげるって言ったら?」
「行こうかー!」
「わ」

 アキが勢いよく起き上がり、翼を広げる。

 私はその様子を冷たい目で見つめた。

「アキ、もしかして起きてた?」
「そんなことないよー。夢の様な話が聞えたからつい起きちゃったんだよー」

 アキはそんなことを言っている間に、ナツキがモコモコを回収していた。そして、ナツキがアキに言う。

「そうなのね。でもそれは夢よ。さ、街に戻りましょう」
「そんなー! 超素敵な夢が見れると思ったから起きたのに! って! もうモコモコが最高のベッドがないー!」

 アキはナツキがしまったベッドの跡地を見て泣き叫ぶ。そこまでだったのか……。

「さ、早くハルの上に乗りなさい。もういい時間よ。ハルも寝ないといけないんだから」
「うー。分かったー……」

 3人で一緒に元の街まで戻る。


 街へ戻る途中のこと。小高い丘が続く草原で、アキが雑談ついでに話しかけて来た。

「結構レベル上がったねー。スキルとかは何に振るー?」
「私はどうしようかな。走る速度をあげるか……。『突進』を強化してもいいかなぁ」
「私も『胞子シールド』か『回復魔法』ね。でも折角だしシールドにしようかしら?」
「2人とも自分の道を進むのねー。何か理由でもあるのー?」
「イノシシは突進しないと」
「キノコは胞子を撒かないと」
「ちょっとおかしいかなぁー?」
「いいじゃない。ゲームは楽しむもの。好きにやれるのがこのゲームのいい所だよ!」
「そうよ。自分の好きな様に強くなる。それが出来てこそよ!」
「まー。あたしも人のこと言えないからねー」
「じゃあアキはもう振ったの?」
「うん。『火魔法』と『風魔法』をそれぞれⅤにしたよー」
「おー。いいね。私もそろそろ振らないと……。なんか敵が出まくって全然振れてないんだよね」
「私もよ」
「いくつくらい溜まってるのー?」
「300」
「260」
「溜め過ぎじゃないー!? っていうかそんなスキルない状態でさっきの敵と戦ってたのー? それだけあるならもっとスキル振ったら楽に倒せていたんじゃー」
「そうだったかもしれないけど」
「折角ならしっかりとスキルを選びたいじゃない」
「そうかもしれないけどー。流石にそれは敵を舐めすぎてるよー」

 アキの声が困った様な感じになってきている。

 ただ、彼女の言う通りであるため正直今から振ってもいいかもしれない。

「ステータス」

 私は自分のステータスを確認する。

名前:ハル
種族:イノシシ
レベル:30 
ステータス
HP:160/160 
MP:0/0
STR:148  
VIT:62   
INT:7   
DEX:9   
AGI:195   
スキルポイント:300

スキル:突進Ⅲ、ぶちかまし、疾走、嗅覚強化、悪路走行、バランス感覚、走行強化Ⅳ、水走
魔法:

 うーん。ステータスは伸びているけど、スキルが正直心もとない。他に何か突撃系統のスキルってないのかな。

 私は検索をかけて突撃するスキルを探す。

『突撃』『体当たり』『牙で突く』『牙で切り裂く』……等々結構な数のスキルが出て来た。

「これだ!」
「わ、ハル……どうしたの?」
「私! 牙生えたのすっかり忘れてたの! 『牙で突く』と『牙で切り裂く』なんていうスキルが覚えられるようになってた!」
「いいじゃない。『突進』と『ぶちかまし』だけだと確かに攻撃の攻め手が少なくなっちゃうのよね」
「うん! 早速取って……」

 私は『牙で突く』『牙で切り裂く』を取得する。

『ハルはスキルを取得しました』

 おお……。やった。これで私はイノシシらしく牙による攻撃を覚えられたのだ。いいじゃないか。

 でも、スキルポイントはまだ280もあるのだ。それぞれのレベルを……どうしようかな。あんまりポイントをばらけさせるのって良くないんだろうか。それともばらけさせて色んなスキルを習得した方がいいのか……。どっちだろう?

 ……。暫く一人で悩んだけど、後ろにいる2人に聞いてみよう。

「ねぇ」
「んー?」
「何ー?」
「スキルって色んなのをまんべんなく取った方がいいの? それとも1つに絞った方がいいの?」
「私は絞るわ。そういう戦い方にしたいし」
「私も絞るかなー。魔法を伸ばせば対応力は上がっていくからー。好きに振るのがいいと思うよー?」
「なるほど。ありがと」

 頼りになる仲間だ。そうと決まったら私が選ぶ選択肢は1つだ。

「『突進』のレベルをあげてっと」

 私は『突進』レベルをあげる。

『突進のスキルレベルがⅥになりました』

 よし。これでダメージもかなり伸ばせるだろう。良かった。イノシシなのに突進のレベルが低いなんて耐えられない。

 一応もう一回強化自体は出来るけど、いざという時の為に残しておかなければ、具体的に言うとトカゲサルが来た時の為だ。

「よし、私は取りあえずこれでいいかな。ナツキは何を取ったの?」
「ふふふ、私は気が付いてしまった」
「?」
「キノコは魔法適性が高いって言うことにね!」
「最初から言われて無かった? っていうか自分で言ってたじゃない」
「いいのよ! それなら魔法で私が使えるのはないのかな? って思って調べたら意外と出てくるのよ! それを取ったわ」
「へー。見せて見せて」
「いいわよ、わた……」

 ズン!

「しのステータス……」

 何かが直ぐ近くに落ちて来た。私はそれを見ると、いつぞやに飛んできていた物に似ている気がする。ハッキリ言って、トカゲサルの投げて来た岩に似ている気がする!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...