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22話 ジャイアントサモンシープ

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「あたしが頑張っちゃう感じー?」
「ううん。そうじゃなくって、モコモコに当たらないくらいのギリギリを通って、子羊を一匹だけ倒して離脱するっていうのをしようかと思って」
「んー。それって危険じゃないー? もし何かあれば直ぐに捕まっちゃうんじゃないー?」
「それはあるかもだけど……。アキの魔法にばっかり頼るのもね」
「そう言ってくれるのはありがたいけどー。流石に厳しくないー?」
「うーん」

 確かにそうなんだけど……。

「それで行きましょう」

 ナツキが私に賛成してくれる。

「ナツキ!」
「でもどうするのー? ああ見えて意外と動きが速かったし。もし何かあったらまた最初からだよー?」
「今度は私のシールドを一枚でモコモコの方に向けて展開しておくわ」
「そうすると子羊の水魔法はどうするのー?」
「気合で躱して、ダメなら耐えて」
「これまた直球だねー」
「まっかせて! これでもステップには自信があるんだから!」

 いつもであれば自身の胸をドンと叩いているところだ。今は走っているので出来ない。

「んー。危ないと思うけどなー」
「このままアキに任せている方が危険かもしれないわ。アイツらを倒すのに時間をかけるのはいい気がしない。さっきの中ボスはそうだったでしょ?」
「そうかもしれないけどー」
「めええええええええええ!!!」

バシャバシャバシャバシャ!!!!!

 子羊達の攻撃で私の周囲がびしょ濡れになる。それこそ、以前戦ったエレクトリカルナマズの時の沼地の様に。

 しかも、水魔法の威力まで上がっているようだった。

「このままだとやっぱり長期戦は不利かー。分かったよー。倒しに行こうー」

 子羊たちの攻撃を見てアキも考えが変わったらしい。

「それじゃあ無理のない範囲で削って行くわよ。アキもどうしても危なかったら魔法を撃って頂戴」
「任せてー」
「いっくよー!」

 私はモコモコの周囲にいる子羊一匹目掛けて駆け出す。その瞬間。

「どうどう! ハル! ちょっと待って!」
「ええ!? どうして!?」
「突っ込むのはもう少し待ってからにして頂戴! 今はまだあのモコモコがしっかりとカバー出来る範囲に子羊達を囲ってる。今はアキの魔法で削って守り切れないくらい増やしてからにするべきよ!」
「なるほど! 分かった!」

 私はアキが魔法を撃ちやすいようにモコモコの周囲を走り回る。

「めええええええええええ!!!」

 バシャバシャバシャバシャ!!!

 私の走る場所が濡れて行くが、それでも沼地で取ったスキルが役に立って居てお陰で走るのに支障はない。

「『ウインドストライク』×4!」

 モコモコの綿が何個も落ちていき、それが子羊になる。そして、十分に溜まった所で、私は突撃を敢行する。

「ナツキ!  援護して!」
「任せなさい!」

 私はナツキの援護で突撃する。狙いはモコモコから一番遠い所にいる一匹。子羊は10匹以上いるけど、狙えるのはそいつ一匹だけだ。

「めええええええええ!!!???」
「よし!」
「いい調子ね! このまま行くわよ!」

 一匹を消し飛ばし、そのまま逃げるように駆け抜ける。

「べええええええええええ!!!」

 後ろでは私たちを捕まえようとしていたモコモコが怒っているが、流石に遠くにいた子羊のカバーは出来なかった様だ。

「この調子でいけるわね!」
「うん! アキはモコモコを頼んだよ!」
「任せてー」

 モコモコは結構ボロボロになり始めている。この調子で削って行けば問題は無くなるだろう。

「べええええええええええええ!!!」
「何!?」
「分かんない! ちょっと離れよう!」
「たいひたいひー」

 モコモコが唐突に叫び出したので私は距離を取る。少し離れると、モコモコが私たちの前にのしのしと出て来た。

 しかも、その背には子羊達を守るようにしている。

「いいわね! これで攻撃し放題よ!」
「アキ! 今のうちにやっちゃってー!」
「こういうボーナスタイムって必要だよねー! 『ウインドストライク』×4!」
「べえええええええええええ!!!」

 アキの魔法で子羊がドンドンと生まれてくるけど、生まれてすぐにモコモコの後ろに隠れてしまう。そのおかげという訳ではないけど、モコモコの前面部分はかなり削れていてほとんど地肌になっている。

 モコモコの地肌は茶色い体で、かなり筋肉が盛り上がっていて正直怖いという印象になる。さっきまでのモコモコを返して欲しい。

「もう突撃しちゃってもいいんじゃない!?」
「確かに。私はいいと思うわ」
「さんせー。そろそろ疲れてきたよー」
「それじゃあいっくよー!」

 私がモコモコに向けて足を向けた途端。それは起きた。

「ごるああああああああああ!!!!!!」

 今までの羊のような声ではない。腹の底から響いてくるような獣の唸り声だ。

「何々!? 一回突っ込もう!」
「この状況で行くのかしら!?」
「頑張ってー」

 私はこの声に負けずに進む。確かに怖い声だけど、今は前に進む時!

 私は正面のモコモコを見つめてただただ真っすぐに進む。横に回避したり、視線を逸らすことさえしない。

 私の敵は目の前にいる大きなモコモコただ一つ。止まっている暇すら必要ない!

「なにあれー!?」
「危ない! 『胞子シールド』!」

 ガァァァァァァァァン! パキン

 音でナツキのシールドが何かの攻撃から守ってくれたのが分かった。

 ナツキなら守ってくれる。私は彼女ならやってくれるっていうことを知っているから!

「『疾走』! 『突進』!」

 スキルを2つ使ってただ前にいるモコモコだけを狙う。

「ごるああああああああああ!!!!!!」
「っく! 私のシールドは持たない! アキ!」
「『フレイムジャベリン』! 更に『ウインドストライク』×4!」
「ごるああああああああああ!!!???」
「やった! 下がったわ!」
「どんなもんよー!」

 2人の声を聞きながら後少し、後少しでモコモコに届く。

「べええええええええええ!!!」

 その瞬間モコモコが突撃してきた。私は驚きで目を見開く。

「突っ込んで!」
「! 分かった!」

 驚きで止まる所を、ナツキの声で進む。

「かましなさい!」
「やっちゃえハルー!」
「うおおおおおおおおお!!!!!! 『ぶちかまし』!」

 ドオオオオオオオオオオン!!!

「きゃあああああああああ!!!」
「いやあああああああああ!!!」
「慣れてくるとたのしいい!!!」

 私はモコモコと正面衝突をして、弾き飛ばされる。

 そして、地面を二転三転して止まった。

「起きなくちゃ! 大丈夫!?」

 私は体を起こし、2人が乗っているのを確認する。

「大丈夫よ……。なれたと思ったころに飛ぶ距離が伸びてくから、なかなか慣れなくてね……」
「飛ぶよりも楽に移動できるからいいよねー」
「まだ敵はいるかもしれないよ!?」
「あの威力だったら……」
「いけそうな気もするけどー」

 2人はそういうけど分からない。それに、さっきの大声だってどうなるか……。

『ハル はレベルアップしました。Lv26→Lv30になりました。ステータスが上昇しました。スキルポイントを80取得しました』

 おお、、レベルが上がった。

「ごるああああぁぁぁっぁぁぁ……」

 モコモコがいた奥の方では、茶色い巨体。それも3mはあろうかという筋肉質な羊がゆっくりと倒れていく所だった。

「さっきの攻撃はアイツ?」
「ええ、かなりの速度と力だったわ」
「あのまま戦ってたら結構大変だったかもねー」

『ハル はジャイアントサモンシープを倒しました。称号眠りへの誘いを取得しました』

 そんな名前のモンスターだったのか。

「名前極楽ベッドとかって名前じゃないんだねー」
「あのモコモコでベッドが欲しいわ。いくらでも出すから」
「扱いが……」

『ハル はジャイアントサモンシープを倒した際、ヒュージシープを召喚させてから倒しました。称号毛刈りキングを取得しました』

「毛刈りキング……」
「なんか、ちょっとこっちの称号はいつもあれなのよね……」
「やったー。嬉しいー」
「え?」
「貴方正気!?」

 私とナツキはアキの方を向いた。

「えー? どうしてー? こっちの称号って結構レアじゃないー? だからいいなって思ってたんだー」
「レアなの? いっつも取ってるから分かんなかった」
「そうね。ボスとの戦闘が終わったらいつも貰ってるから……」
「一体どんな戦闘を繰り返してたのかなー?」

 そんなこと言われても。

「まぁいいじゃない。一回街に戻ろう! 依頼とかも報告したいし!」
「そうね。ここにいてもやることなさそうだから」
「あー、ちょっと待っててー」

 バサバサバサバサ

 アキは出会って以降一回も使っていなかった翼をはためかせて、ジャイアントサモンシープの所に向かった。

「どうしたのかしら?」
「さぁ? でも私たちも行こうか」

 私もそちらに足を向ける。

 アキはゆっくりと飛び、そのままジャイアントサモンシープのモコモコに飛び込んだ。

「ふぅ……幸せー」
「……」
「……」

 アキは目を細めて幸せそうにモコモコに包まれている。

「……」
「……」

 気が付いた時には、私とナツキもモコモコに包まれていた。
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