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4話 エリンギ

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 私はのそのそと歩いて来た道を戻る。

 走っても良かったけれど、折角来た森なのだ。少しくらいは森の中を歩いてもいいと思う。うり坊には森が似合うし。ただ、

「やっぱり何だか暗い気がするなー。ん? あれは……」

 私がのんびり歩いて戻っていると、道の端っこにキノコが生えているのが見つかる。

「嘘! キノコ!? イノシシと言ったらキノコだよね……。うふふ。イノシシの姿で食べるキノコは美味しいのかな」

 私は早速食べるべく近づく。

 そのキノコはエリンギの様な見た目をしていて、風に揺られているのか少し揺れているようだった。ただ、まだ小さいのか、食べ応えはあんまりなさそうだ。

「小さいけど、いっか。味が美味しければ関係ないよね! 頂きまーす!」

 私が口を広げて、キノコを食べようと近づくと……

 アーーーガイン!

「ん?」

 途中で口が止まる。

「ん、んん! んんんんんん!!!」

 コナクソ! 私は目の前のこのキノコが食べたいんじゃ! 一体何が邪魔をしているのか、ずっと迫ってもちっとも前に進めない。

 そうやって何とか進もうとしていると、どこからか声が聞こえてくる。

「やめてくださいぃぃぃぃぃぃぃ。私は食べても美味しくありませんよ~!」
「え?」
「それ以上来るとGMを呼びますよ~!」
「え、嘘。プレイヤー?」

 もしかして、いやまさか。そう思って少し下がると、そのエリンギがこちらを向いていた。なぜそれが分かるのか、そのエリンギに黒い海苔のような顔がついていたからだ。涙を流しながら、いや、胞子を飛ばしながらかもしれない。

 その証拠に、私と彼女? の間には緑色の盾の様なものが作られていて、それ以上彼女に近づくことが出来なかった。

「そうですよ! こんなに可愛いキノコがそんな簡単にそこらへんに生えている訳ないじゃないですか!」
「え? 可愛い?」
「そうですよ! こんなに可愛いのに……。食べようなんて酷いです!」
「美味しそうだとは思うけど……」
「そんな!」

 彼女? はショックだったのか私の顔を見つけたまま止まっている。

「おい……し……そう?」
「うん」
「私……綺麗?」
「艶はあると思う」
「そう、ならいいわ」

 いいんだと心の中で思ったことは黙っておこう。

「それで、どうしてこんなところにいたの?」

 これ以上傷を広げない内に聞いておこう。

「どうしてって、シルバーバックコングを倒さないといけないから移動してるのよ」
「それならすぐそこだよ。さっき倒してきたし」
「本当? 良かった。ここまで長かったから……」
「そう? ここに来て5分も走って無いと思うんだけど」

 第一このゲームを始めてまだ1時間くらいしか経ってないし。

「そりゃ貴方がうり坊だからでしょうよ! 私はキノコなのよ! エリンギなのよ! 移動が中々出来ないの!」
「そうなの?」
「キノコなんですもの。当たり前でしょうよ。ここまで来るのに3日かかったわ」
「ええー。それって普通に厳しくない?」

 マップ移動出来ないって普通に駄目なんじゃないだろうか。っていうかゲームとしてバランスはどうなっているのだろう。

「それでもキノコが良かったの! 私はこれでいいと思っていたから。それに、移動がしにくい代わりに魔法適性とかがかなり高いからね。仕方ないわ」
「おお、じゃあ魔法も使えるの?」
「使えないわ」
「え?」
「魔法はほとんど使えないわ」
「え……? じゃなにが出来るの?」
「これよ!」

 そう言って彼女の目の前には先ほど私がキノコを食べる時に邪魔をした、緑色に光る胞子みたいなのが展開されていた。

「これは……?」
「これは『胞子シールド』っていうスキルで、これを取って強化するために色々犠牲にしまくったわ!」
「何で……?」
「貴方に対抗する為よ!」
「どういうこと?」

 彼女とは今回が初対面だと思うんだけど。

「貴方の様な野蛮な生き物から、私のこの綺麗で素晴らしい体を守るために決まっているじゃない! 最初は魔法でもいいかなって思っていたのだけど、この足の遅さだと捕まって食べられるから……」
「なるほど」

 確かにさっき美味しそうと思って食べかけたから文句は言えない。

「でも……そのせいでキノコに必須って言われる『胞子移動』が出来ないのよね……」
「『胞子移動』?」
「そう、キノコはそのスキルがあれば移動をそれなりにこなせるようになるのよ。でも『胞子シールド』を取っちゃったから今はね……」

 そう言ってうなだれるエリンギ。その頭は艶があっておいしそ……じゃなかった。

「さっき食べようとしたのもあるし、乗ってく?」

 申し訳ないという気持ちもあるし、あのゴリラの糞の攻撃もこの『胞子シールド』とやらがあればきっと問題もないだろう。もう一回くらい倒してもいいような気がする。

「いいの……?」

 彼女はそう言って私の顔を見つめて来る。

 エリンギに海苔が載っているようで、今夜の夕飯はこれが……いや。その真摯な目に私は喜んで問題ないことを伝える。

「勿論。それに、私このゲーム始める時に一人で始めちゃったからさ。一緒にやってくれる人を探してたんだ」
「そうだったの……。私もそうだから、折角なら一緒に行きましょう」
「うん。私は ハル 。よろしくね」
「私は ナツキ よ。よろしく」
「このまま一緒にいけばいいの?」
「あ、パーティー申請するわね」
「よろしくー」

 彼女がちょこちょこと操作をすると、私の前に半透明のウインドが出てきた。そこには

『ナツキからのパーティー申請を受けますか?』

と書いてあった。

「はいっと」

『ナツキとパーティーを結成しました』

「これでいいのかな?」
「うん。これで経験値とかも一緒に入るし、エンカウントする敵とかも一緒になるわよ」
「やっと冒険らしくなってきた。それじゃあ乗れる?」
「ちょっと待ってね」

 ナツキはそう言ってゆっくり私の上に登ろうとして来る。ただ、その動きは物凄く遅い。本当に遅い。

 5分待っても私に近づいてすぐ目の前といった感じだった。

「遅いよ!」
「へ?」

 私は彼女を口で咥えて上に放り投げる。

「きゃあああああああ!!!」
「ほっと」

 私は彼女を頭で受け止めた。

「どう? この方が早いでしょ?」
「だからってそんな!」
「さ、シルバーなんたらを倒しに行くよ!」
「ちょっと! 危な! そんな急がないでー!」
「捕まって無いと振り落とすからねー!」

 私はナツキが背中に捕まっているのを確認すると、そのまま走り出した。
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