上 下
60 / 137
3章

60話 初戦

しおりを挟む
***おとり視点***

「隊長……この作戦……本当に大丈夫なんですかね……」

 Cランクの冒険者は不安を隠そうともせずに、隊長に問う。

 その隊長はBランク冒険者で、シュタルの実力を知っているからか不安はない。

「心配するな。今回指揮を取っているのはあのシュタルだ。俺達の勝利は決まっている」
「そんな……だからって俺達1隻を囮にするんですよ? 流石にもうちょっとやり方があるんじゃないですか?」
「馬鹿いえ、俺達は仮にもそれなりの兵力があるんだ。奴らを巣から引きずり出すためには必要なんだよ」
「でも……この湖はそんな兵を隠す場所なんてないですよ……」

 Cランク冒険者はそう言って周囲を見回す。
 見渡す限りの湖が拡がっていて、前方には水賊であろう連中がこちらに向かっているのが分かる。

「それは……きっとシュタルなら考えがあるはずだ。いいから行くぞ」
「……はい」



 それから少し経って、水賊達が明らかにこちらを狙っているのが見える。

 それを確認した隊長は大声で声をかけた。

「よーし! 逃げるぞ! 真っすぐ来た道を戻る!」

 旋回せんかいは出来るくらいの距離をたもち、いずれ追いつける奴らに思わせなければならない。
 それに、自分たちが囮だともバレてはいけない。
 中々に難しい仕事だ。

 しかし、隊長はその仕事をやり切った。
 シュタルが施して魔法の防御のお陰もあるが、彼の腕も確かだったのだろう。

 水賊達は彼らを追い、守り神の巣から出てくる。
 それも、50隻にはなろうかという程の量でだ。

 そんなすぐ後ろには危険が迫っていたが、Cランク冒険者は不思議そうに周囲を見ていた。

「あの……隊長」
「なんだ」
「ここ……きりなんてこんな出ましたっけ?」
「しらん。恐らくシュタルが何かしたのだろう」
「……そんなことが?」
「ああ、というかそろそろだな。合図を送れ!」

 隊長の命令で火の魔法が空に打ち上げられる。
 すると、その霧の中から水賊に向かって船団が現れた。

******

「全軍突撃! 1人も生きて帰すな!」

 俺は他の冒険者達にそうやって激を飛ばし、慌てている水賊を狩りに向かわせる。

 そうしていると、後ろから俺にこの街で唯一のAランク冒険者が話しかけてきた。

「流石シュタル様。こんな事も出来るとは」
「獲物を狙っている時が狙い目だからな」
「敵は慌てふためいて中々迎撃がうまく行っていませんね。しかもこの霧が上手く働いていて、こちらの連携を邪魔しないようにしかも敵だけを的確に邪魔しています」
「そうなるように操作しているからな」
「は……この規模……1㎞は囲っていると思うのですが……それを操作されている……と?」
「そうだ。俺ならばそれくらいは出来る」
「……桁違いのお力を持っているのですね」
「いいからお前も向かってこい。俺はここで巣にいる奴らが援軍に来ないか見張っておく」
「しかし……手柄は良いのですか?」
「俺は要らんよ。それよりもお前達が自分たちの手でこの場を取り戻したという気持ちの方が大切だ」
「……シュタル様。そこまで考えて下さっているとは……。ありがとうございます」
「いい。速くしないと敵の増援が来るぞ」
「は。すぐに行って参ります」

 そう言って彼は水賊達を狩りに行く。
 彼の手際はかなり素晴らしく、剣の1振りで数人を切り裂いていた。

 彼の力のお陰もあり、水賊達が逃げる時間も隙も与えずに50隻全てを拿捕だほすることに成功する。
 最後らへんは諦めて投降する水賊もいたので、戦いとしては楽勝だった。

 俺はその中にいた水賊の中で一番偉いやつに話を聞く。

「お前、後水賊はどれくらい残っている?」
「そいつぁ……高くつくぜ?」

 そう言って俺を挑発するように見てくる。
 捕まったとしてもこの態度、自分たちの立場を理解していないらしい。

 俺は剣を抜き放ち、奴の首筋に当てる。

「別に言いたくないならいい。ただ、言えばお前の命は助かるかもしれないな?」
「ひぃ! は、ハッタリだ。俺を殺したら情報はあがっ!」

 俺はそいつの首をきり飛ばし、次の瞬間に蘇生そせいさせる。

「さて、後何回死にたい?」
「え? は? なん……ごばっ!?」

 俺は再び首を切り飛ばして蘇生する。

「いいか? 何回でもお前は死ねるんだ。その事を理解したか? それでも、まだ言いたくないと抜かすか?」
「言います! 言いますから!」
「サッサとしろ」
「はい!」

 それからそいつが言うには、守り神の巣にはまだ多くの水賊がいて、船にして100隻はいるという。
 守り神から攻撃されない理由は船に張られた魔法陣のお陰らしい。
 なので、俺達も拿捕した船に乗り換えて行くことが決定した。

 それと、更に詳しい情報を絞り取ると、奴らの中には守り神に指示を出せる巫女の一族が1人……捕らえられて言うことを聞かされているらしい。

「では……そいつらも助けないといけないな」
「それは……出来るでしょうか……」
「やるんだよ。さぁ……行くぞ。まだまだ戦いはこれからだ」

 俺達は今度は水賊達が集まる場所に向かって行く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】スライム5兆匹と戦う男

毛虫グレート
ファンタジー
スライムくらいしか狩れない雑魚魔法使いレンジはまたパーティを追放された! もう28歳だよ。二十歳そこそこの連中に老害扱いされはじめてんのに、一向にレベルも上がらない。彼女もいない。なにやってんの。それでいいの人生? 田舎町で鬱々とした日々を送るそんなレンジの前に、ある日女性ばかりの騎士団が現れた。依頼はなんとスライムを倒すこと。 おいおい。俺を誰だと思ってんだ。お嬢ちゃんたち。これでも『雷を呼ぶ者』と呼ばれた偉大な魔法使い、オートーの孫なんだぜ俺は! スライムなんていくらでも倒してやるYO! 20匹でも30匹でも持って来やがれ! あと、結婚してください。お願いします。 ............ある日突然、スライム5兆匹と戦うことになってしまった男の、絶望と灼熱の日々が今はじまる!! ※表紙画像はイラスト自動作成のhttps://www.midjourney.com/ にてAIが描いてくれました。

処理中です...