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2章

29話 ミリアム

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***リュミエール視点***

「ミリアム……」
「ええ、それで、どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
「逃げてきた……から」

 私はどうやって時間を稼ごうか。
 そう考えて、適当に話を引き延ばそうと決める。

 なぜなら勝てないからだ。
 こうやって対面しただけで分かる。

 にこやかに笑うこのミリアム。
 魔法四天王の男には、今の私では逆立ちをしても決して勝てない。

「逃げて来た? あの奴隷商はそこまで無能だったのですか? 今まで使って来ましたが……そろそろ処分する時かもしれませんね」
「無能か……どうかは知らない。でも、私は逃げてきた」
「ふむ……。では貴方の後ろにあるそれは何ですか? 一度攻撃をしましたが……びくともしませんでした」
「あれは……私のスキルで作ったもの」
「ほう……」

 ミリアムが目をすっと細めて、じっとそれを見ている。
 しかし、すぐにため息をついた。

「はぁ……嘘はいけませんね」
「ぐぅ!」

 奴は私の首を掴み、宙づりにする。
 苦しい。

 ただ、奴は私を殺す気は無いのか、その状態を維持し続けた。

「さて、貴方はそれなりに賢い。私との実力差を理解したと思っていましたが……。次に嘘を吐いたら殺しますよ?」

 私は少しだけ動かせる首を縦に振り、奴に同意を示す。

 ドサ

「カハッ! はぁはぁ……」

 息が吸えるようになり、呼吸も荒く空気を吸い込もうと体が必死になる。

「それで、あれ何ですか?」

 ミリアムは、そんな私の様子なんてどうでも良さそうに聞いて来る。

 そんな奴に、答えてくれる人がやっと現れた。

「俺が作った」
「!?」

 ミリアムはシュタルさんの存在に気付いていなかったのか、急いで前に飛び慌てて彼から離れた。
 そして流れるように振り向き、シュタルをにらみつける。

「貴方……誰ですか?」
「俺か? 俺はシュタル。最強の魔剣士だ」
「最強……はは、なるほど、確かに、貴方は強そうだ。貴方がその光の巫女を救い、後ろのこれも作った。間違い無いですね?」
「そうだ」
「なるほど、確かにあなたほどの実力があると出来るのかもしれません。ですが……そんな貴方には死んで頂きます」

 ミリアムが手刀を作ってシュタルさんに飛びかかる。
 その速度は私の目にかすかに見えるかどうかといったレベルで、魔王四天王の名前も伊達ではない。

「遅いな」

 シュタルさんはそんな奴の攻撃をじっくりと観察するように避けながら観察している。

 私は、情報を伝える為に叫んだ。

「シュタルさん! そいつはミリアム! 魔王四天王の一人です! 倒して下さい!」
「ほう。お前があの」
「私の名前を知ってくださっているとは光栄ですね。ですが、あのおしゃべりの小娘は面倒ですが死んで頂きましょう。殺してもどこか他の者が光の巫女になるので連れ帰りたかったのですがね?」

 奴はそう言いながら私に向かって黄色い光を放つ。

 私はその速度について行くことが出来ず、それが私の体に着弾するのを見ることしか出来なかった。

 ドォン!

「……」

 でも、私の体は無事だ。
 目の前には頼れる人の背中。
 私の為に、あれを受けてくれたようだ。

「ふむ。中々の威力だな」
「貴方は……本当に何者ですか? あれを食らって無傷とは……。少々傷つくんですが」
「そうか? 世界には上がいることを知るといい」
「それを知るのは最強を名乗る貴方だと思いますが」
「では俺に是非とも教えてくれ。最強より強いものは何かを」

 シュタルさんがそう言って踏み込もうとした時、奴は先ほどの黄色い光を全方位に向けて放った。

「これは?」

 シュタルさんがそれを迎え撃ちながら剣で切り落としていく。

 奴はそんなシュタルさんの様子を見て、苦笑いを浮かべて答えた。

「なるほどなるほど。ここまでの実力者がいるとは……想定外もいい所です。ですが、貴方達の狙いは私の首ですか」
「そうだな。貴様が何かしでかそうとしているのも知っている」
「ええ、ええ。間違っていませんよ。私は王都でとあることをしようとしています。是非とも貴方も来て下さい。でなければ……。王都は火の海になりますよ」
「ならんよ」

 シュタルさんが最後の黄色い光を切り落とし、奴に向かっていく。

「後ろががら空きですよ?」

 ミリアムがそう言った時、シュタルさんはいつになく真剣な顔で私の方を振り向いた。

 そして、私の側を駆け抜けて何かを切り落とす。

 ドォン!

 私が何かあったのかと振り返った時には、シュタルさんは剣をしまっていた。

「シュタルさん?」
「なんだ」
「どうして剣をしまうんですか?」
「逃げられた」
「え!?」

 私は先ほどミリアムがいた場所を見ると、青白い魔法陣が消え去っていく所だった。

「今のは……」
「転移の魔法陣だな。後を追えないようにしっかりと対策までされている。魔王四天王か。確かに中々の奴だ」
「……すいません。私がいたばっかりに」
「何がだ?」
「私がいたから……シュタルさんは奴を倒し損ねてしまったんですよね……」

 そうだ。
 彼がもしも私を無視して、ミリアムに切りかかっていれば、きっと……この場で倒せていたはず。
 なのに私を助けるために……。

 でも、シュタルさんはそんな事かという様に笑った。

「別にあのまま切りかかっても倒せたかどうかは分からん。奴はスキルを使っていないようだったからな。追い詰めた時の、最期の一撃で手酷い事をされる事もある。それに、奴が王都で何かしている事が分かっただけでも十分だ」
「でも……あれは……誘っています……よね?」
「ああ、そうだろうな」
「そんな場所に……行くんでしょうか。シュタルさん。私は……魔王を倒す為に旅立ちました。死ぬことも覚悟しています。でも、シュタルさんは最強になる旅の途中のはず。敵に正体を知られてしまいましたし……ここで無茶をしなくても……」

 シュタルさんは優しいし強い。
 だからこそ、今回の敵との戦闘でそれがバレてしまった。
 しかも、シュタルさんが強い事を前提で王都に誘っていた。
 ということは……きっと、王都ではシュタルさんを殺せるような必殺の罠が張られているはずだ。

「シュタルさん。今なら引き返せます。他の場所に向かっても……」
「俺は王都に行くぞ。リュミエール」
「シュタルさん……」

 シュタルさんはじっと王都の方を見つめていた。
 その表情からは何を考えているのか分からない。

「王都が火の海になる。そう言われたのに行かない理由等ない。それに、あの商人達はどうする」
「それは……」
「いいか、リュミエール。俺は最強だ。俺を殺すような罠が張られていたとしても、それを正面から食い破る。それが最強たる所以だ。だから安心しろ。王都を火の海になんてさせない。俺がそんなこと……させると思うか?」
「……はい。わかりました。シュタルさんなら。きっと出来ると思います」
「だろう? 安心していろ」

 シュタルさんの笑顔に、私は……不可能なんてないと思わされた。
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