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2章

21話 甘い香り

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 俺とリュミエールは並んで森の中を進む。

「こっちの方で合っているんですか?」
「恐らくな。こちらの方から不審な気配がする」
「すごい……そういう事も分かるんですね」
「最強だからな」

 そんな事を話しながら進んでいると、なんだか甘い香りが鼻をくすぐってくる。

「これは……なんだ?」
「分かりません……ですが、花の香りのようです。エルフの里で嗅いだ香りに似ている気がします」
「なるほど、これを嗅ぐと寝てしまうんだったか?」
「どうでしょう……そうかもしれません……ね!」
「おっと」

 俺は後頭部を狙ってきたリュミエールの杖を片手で止める。

「一体なんのつもりだ? リュミエール」
「何のつもり……これから先に入ってはいけませんよ?」

 彼女の瞳はいつの間にかぼんやりとしており、彼女の意識があるようには見えない。

「でもこの奥にいるやつを討伐しなければならないだろう?」
「そんな必要はありません。彼らはやるべきことをやるためにいるのですから」
「やるべきこと?」
「それは……あれ……何でしょうか。でも、まぁ、貴方には関係ありません」
「そうか」

 こうやっていれば何か情報を出せるかと思ったが、所詮操られているだけらしい。

治癒魔法メディック
「は! 私は今何を?」

 状態異常であることは『看破かんぱ』を使っていたので分かっていた。
 だから回復すると、いつもの彼女に戻る。

「大丈夫か?」
「あの……私……今……何を……」
「敵の状態異常にかかっていたらしいな。防げるか?」
「は、はい! 【光の巫女】のスキルで防ぎます! 【光の幕よライトベール】」

 彼女の周囲が光り、体を包む。

「それで問題ないのか?」
「はい。これで1日は問題ないかと。シュタルさんもやっておきますか?」
「必要ない。俺にこの程度の状態異常は効かん」
「そうですか……」

 それから俺達は進んで行くと、違和感を感じる。

「リュミエール。乗れ」
「へ? ちょっと!?」

 俺はリュミエールを肩に乗せた。

「あ、あの。一体どうしてでしょう?」
「こういう事だ」

 俺はそのまま地面を踏むと、大きな丸太が俺に向かって降ってくる。

 パシッ

 片手で止めた瞬間、ぼふっ。
 と近くにあった花のつぼみから紫色の花粉が放たれた。

「なんだこれは」
「分かりません」
「『看破かんぱ』」

 俺がそれを調べると、それは浴びた者に猛毒を食らわせるものだった。

「吸い込むなよ。毒で死ぬかもしれん」
「【光の幕よライトベール】を張っていなかったら死んでいました……」
「その時は蘇生そせいしてやる」
「気軽に死にたくありませんよ……」

 そんな軽口を叩きながら進んでいると、今度は突然地面がなくなった。

「きゃー!」

 リュミエールは浮遊感からか叫ぶ。

 俺は空中を蹴って、地面のある所まで飛ぶ。

「よっと」
「え……あの……今、何をしました?」
「何って空中を蹴っただけだが?」
「魔法とかではなく?」
「それくらい出来るだろ?」
「普通に出来ません」
「出来るようになると今の罠を踏んでも安心だぞ」
「そんな同じ罠にかかることなんてそうそうないですよ……」

 俺達は話しながらこれ以降も現れる罠を正面から突破していく。
 大きな籠が落ちてきて閉じ込めようとして来たり、植物に食べられそうになったり、蔦でぐるぐる巻きにされそうになった。

 俺はそれら全てを突破する。
 籠は拳で打ち返し、植物は手刀で真っ二つ、蔦は巻きつかれる以上の速さで逆回転して抜け出した。

「中々アトラクションみたいで面白いな」
「こんな死にそうなアトラクションは嫌ですけどね……」

 意外と楽しくなって来たので、次は何が来るのだろうと思って進む。
 すると、鎧を着た男が急に現れて、剣で斬りかかってきた。

「おっと。おい。お前はベルセルの町の者か?」
「がぁ……うぅ……」
 
 俺が問いただしても、奴は全く表情を変えない。
 無表情で斬りかかってきた。

「これは……前の時と同じか? 『看破かんぱ』」

 斬りかかってきた奴を見ると、予想通り操草そうそう状態と表示されていた。

「面倒だな」
「そうですね……あの時は本当に大変でしたからね……」
「仕方ない。動きを止めるか」
「止めるって……どうやってですか?」
「何、こいつらは植物と同じ状態。なら、こうするんだ」

 俺は開いている方の手で操られている人の肩に手を置く。

「あ……?」
「ふん」

 ズボォッ!

 俺はそのまま手を下ろし、操られている人を上半身だけ出すようにして埋め込んだ。

「あ……え……」
「どうだ。これで安全に動きを止められるだろう」
「いやいや!? それって大丈夫なんですか? このままだと何か魔物とかに襲われたら不味いんじゃないですか!?」
「もう襲われているから大丈夫だろう。それに、ここに来る途中に、一切他の魔物を見ていないだろう?」
「それは……そうですけど……」
「だろう? それにまだいるからな」
「え?」

 彼女が俺の言葉につられて周囲を見回すと、そこら中に操られた人がいた。

「これ……かなりヤバいんじゃ……」

 操られている為傷つける事は出来ない。
 そんな人に囲まれている。

 その状況の危うさにリュミエールは顔を青くしていた。
 けれど、それは大した問題ではない。

「この程度は、俺の敵ではない。眠りながらもでもやってやろう」
「本当に寝ないでくださいよ!? 私が乗っているんですからね!?」
「冗談だ」
「本気と冗談の違いが分からないですよぅ」

 俺はそれから周囲の者達を全員地面に埋めこんでいく。

 ズボズボズボ、ズボズボズボ、ズボズボズボズボズボズボズボ。

「遊んでません?」
「そんな事はないぞ?」

 とりあえず周囲にいる者達を全員埋め込み、俺達は先に進む。

 俺達が進んだ先は霧が深くなり、見えにくくなる。

「この先に何かいるな」
「え? そうなんですか?」 霧が濃すぎて何がなんだか……」
「すぐに出る」

 深い木々と霧を抜けて出た場所には世間では見られないような魔物がいた。

 リュミエールは絞り出すように口に出す。

「Sランクの魔物……ダークカーニバルトレント……」

 そこには、最高ランクであるSランクの魔物が俺達にらみつけていた。
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