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第3章 動乱

53話 皇帝へのお願い

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 俺達は城に戻って来ると、すぐさま報告の為に玉座の間に向かうことになった。といっても今回は皇族だけで、いつもの臣下の人達は呼ばれていない。それぞれが自身の仕事をこなしていたからだ。

「お願いはこの時にしていいのか?」
「皇帝陛下へのお願いですか?」
「ああ」

 一応ロネ姫に確認を取る。

 俺の就職先をロネ姫の所にしてくれという話を先にしておかないとな。どう使っていいのか迷っていたし、丁度いいと思う。

「貴方の願いであれば大丈夫でしょう」
「助かる」
「挨拶して直ぐにお願いしますか? わたくしは少し考えたいことがありますので」
「分かった」

 それから俺達は玉座の間に入った。

 俺達はロネを先頭にすぐ右後ろに俺、左後ろにウテナという並びで進む。俺達の後ろにはオリーブやメイドが続いている。

 ロネが途中で止まり、ひざまずく。それに合わせて俺達も同様の行動を取った。

「陛下。公務無事に終わりましてございます」
「うむ。此度の一件ご苦労であった」
「ありがたく。そしてセレットより話があると」
「ふむ? よい。申してみよ」
「はは!」

 俺は頭をあげて皇帝の方を見る。

 皇帝は興味深そうに俺を見つめている。彼の右横にはさっき俺達を抜いていったオルドアが座っているし、他の兄弟たちも並んでいた。

「以前頂いた出来うる限りの願いを聞き届けること、果たして頂こうかと」
「ほう。して何を願う」
「私セレットがロネスティリア姫の親衛隊に入ることをお許し頂きたく」
「ほう」
「そんなバカな!」
「セレット……それをここで使いますか……」

 それぞれの反応は3様だ。

 皇帝は面白そうに俺とオルドアを見比べていて、オルドアは驚きの余り立ち上がっている。ロネ姫は思わず振り返って俺の顔を凝視していた。

 あれ? 何かまずかったかな。

 一人不安になっていると、皇帝が声を発する。

「よい。認めよう。今日今この時より龍騎士セレットをロネスティリアの親衛隊の所属とする。ロネ。異論はあるか?」
「……ありません」
「ではここに決した。異論のある者は前に出よ」
「あるに決まっている!」

 そう声をあげるのはオルドアだった。彼は俺を見つめていて、その顔は怒りの為か赤くなっている。

「オルドア。何の問題がある」
「余がこれまで一体何をやってきたか、知らない陛下ではないでしょう! それにロネ! お前いつの間にそんなことをしていやがった!」

 彼の矛先がロネにも向かう。ロネはオルドアの気迫にかなり引き気味だ。

 俺が前に出ようかという所で、皇帝がオルドアをたしなめる。

「オルドア。貴様がやってきたことと、この皇帝である吾輩が決めたこと。どちらが優先されるか、分からない程愚かであったか」
「……それは」
「それは?」
「何でもありません」

 オルドアはそう言って席につく。その顔は悔し気だけど、皇帝には逆らえない。そういった感情だった。

 皇帝は再びこちらを向き、声を発する。

「他に異論のある者は?」
「……」

 今のを見て反論をする人は誰もいなかった。

「それでは龍騎士セレットはロネスティリアの親衛隊に所属することを正式に決定する。セレットが望む職があれば指定してもいいが……」
「ロネスティリア姫様に従います」
「よかろう。貴様の話は以上か?」
「はい! お時間を割いて頂きありがとうございます!」
「よい。それではロネ。残りの話だ」
「はっ!」

 それからはロネと皇帝でいくつかのやり取りの後、謁見は終わった。ただ、出ていく時にオルドアからの視線が背中に刺さっていたような気がする。


 謁見が終わり、俺達は黙って控室に向かう。

 そして、俺とウテナ、ロネ、オリーブにメイドの2人が入った所で扉が閉められる。

 俺は一息ついた所で、ロネが詰め寄ってくる。

「セレット! どうしてあんな事をしたのですか!」
「ええ? どうしてって。俺は姫様の騎士になるって誓ったのですから。そうするのが当然なのでは? 欲しい褒美もありませんし、役職が勝手に決められるよりは先にやってしまいたいなと思ったので」
「んん~! そうかもしれませんけど~!」

 ロネは何か言いたいのかものすごく悶えている。大丈夫だろうか。

「大丈夫か?」
「大丈夫です! ですけど……ですけど……」
「もしかして怒っていたオルドア様のことか?」

 俺が願いを言った時に尋常ではない怒り方をしていた。もしかすると何かあったのかもしれないと今になって思う。

 そして、どうやらその考えは正解だったらしい。

「お兄さまはセレットさんを自身の部下にしようと最も精力的に動いていた方ですわ。他にも色々と公爵や兄弟たちも動いていたのですが、どうやらわたくし達が公務で出掛けている時に駆け引きがあったのでしょう。そして、お兄様がセレットさんの身柄を引き受けようとしていたはずですのに……それをわたくしが奪ってしまったと……」

 ロネは一人でプルプルと震えている。

「す、すまん。そこまで考えていなかった」
「いえ、わたくしも言っていなかったので……。もう少し時間があるかと思っていましたが、ここまで迅速に決まるとは、兄さまも相当強引に動いたのでしょう」
「だが、それならどうするべきだったんだ? 黙ってオルドア様の部下になって時々こっちに来ておくべきだったのか?」
「そういう訳ではありませんが……」
「なら、あれで良かったんだよ。もし何かあっても俺が切り開くから。親衛隊に入れてくれたんだろう?」
「そうですね……。あの時におっしゃられたのに。申し訳ありません」
「俺も相談するべきだった。一回オルドア様に会いに行って話をつけてくるか」

 ここでこそこそしていても解決はしないだろう。なら、直接会って話すのが一番いい。

「お待ちください」
「?」

 俺が足を外に向けたのを、ロネが止めてくる。

「お兄様との交渉はわたくしに任せて頂けませんか?」
「いいのか?」
「ええ、というよりもお兄様はそういう交渉事も巧みですので、セレット様がいかれるとどうなるか……」
「確かにそういった交渉は苦手だけど……」
「ですので、わたくしに任せて頂けませんか? 少しお兄様の仕事のお手伝いをすることになったり難題を押し付けられるかもしれませんが……」
「それくらいなら問題ない。姫様に行けと言われればどんな龍や魔物でも狩って来るよ」
「……ありがとうございます」

 ロネはそう言って机の方に向かっていき、何かを書いて俺に差し出す。

「なんだ?」

 俺はそれを受け取ると、そこにはAランクやSランクの魔物の名前と部位、場所が書いてあった。

「これからその内のどれでもいいので狩ってきてください。あ、その部位は出来るだけ傷つけないようにしてください。使いますので」
「どうしてまた? 折角ロネの騎士になったのに」
「この城にいればそうそう問題は起きません。それにウテナもいます」
「そうだけど……狩ってくる理由を知りたいんだが……」
「もうすぐ皇帝陛下の誕生日があるんです。その献上品にする為と、今の現状でセレットさんに他の人が接触するのを防ぐ為です」
「……?」

 どうして接触してはいけないのだろうか。

「もし今のままであれば、恐らくセレットさんに接触して、自身の部下にしようと強引に動く方が出てくるかもしれません。ですので、今の間にセレットさんには遠くに行ってもらって、わたくしはこちらの勢力を片付けます。その過程でお兄様に貴方の身柄を貸し出すことになるかもしれませんけど……」
「なるほどな。そういうことなら分かった。今から出発しよう」

 善は急げ。幸いにそこまで疲れている訳ではないし、ちょっとアイシャとかに挨拶をするだけでも良いだろう。

「すごいですね……帰ってきたと思ったらあの『狂犬』と一騎打ち。その日の内に次に出掛けるとは……」
「『狂犬』?」
「ジャグレッド様の2つ名です」
「……そんな恐ろしい人には見えなかったけど」

 ちゃんとした常識人の様に見えたけど、違ったのだろうか。

 彼の説明はウテナがしてくれた。

「あの方は剣闘士からのたたき上げでな。盗賊が出たと聞けば真っ先に血祭りに、戦争と聞けば一番多く首をあげて帰ってくる。そんな事ばかりしていたからついた2つ名だそうだ。今でこそ落ち着いているが、相当な方だぞ」
「そうだったのか……」
「だからあの人と一騎打ちは昔は処刑の代名詞だった程だ」
「俺はそんなのを了承したのか? というかそこまでやばい人だったのか」

 流石にこの国の4騎士の名前は勉強して知っていたが、最近の話ばかりだった為かそこまでは知らなかった。

 危ない。本当に危なかった。

「セレットなら大丈夫だ」
「実際あの方と互角は見たことありませんでしたからね……」
「本気じゃなかったのかもしれないしな」
「……」
「……」
「な、なんだ?」

 そこにいる人達がうさんくさそうに見て居た。

「セレットさん。寝言は寝て言いましょうね?」
「何でだ!?」
「セレット、何時か自分の力を理解してくれる日が来てくれると信じているぞ?」
「視線が優しすぎないか?」

 ロネからはいい加減にしろといったような感じで、ウテナからはまるで子供をあやすような視線だった。どうしてこんなことに……。

「今すぐに行きますか?」

 オリーブが話を戻してくれる。

「そうだな。アイシャ達とパルマとフランツに挨拶だけして直ぐに行くよ」
「よろしくお願いします」
「頼んだ」
「はい」

 俺はアイシャ達の部屋を目指す。
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