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第3章 動乱

51話 ジャグレッド

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「じい。ずるいぞ。余も戦いたい」
「少しくらいは我慢しなさい。もう少し経てば叶うでしょう。今はどれ程か力を測る必要があるかと」
「仕方ない。今回は譲ろう」
「感謝致します」

 俺とオルドアは5m程距離を開けて向かい合う。

 周囲ではオルドアの部下と思われる人達が周囲の警戒をしてくれているので、戦いに集中できそうだ。

「審判はウテナ殿。お願いしてもよろしいですかな?」
「ジャグレッド様に言われたのなら当然です」

 ウテナが進み出て、俺とジャグレットの間に立つ。

「両者用意は?」
「構いません」
「いいぞ」
「用意、始め!」
「はあ!!!」

 俺は剣抜き、オルドアに切りかかる。

 ギィン!

 彼は当然のように俺の剣を受け止めた。流石に一撃では終わらなかったか。

「はっはっは。中々にやりますなぁ」
「流石4騎士だ。話しか聞いていなかったけど、ウテナ以外も流石の実力者だ」
「当然ですな!」
「よっと!」

 俺は彼が俺を押し込むのに対応して後方にバックステップで下がる。

 彼は俺に蛇の様に這う程の姿勢で接近してきた。

「これはどうですかな!」
「くっ!」

 ガィン!

 彼の切り上げを俺は押さえるように受け止める。ただ、彼の方が勢いが乗っていた分押される。俺の剣は弾かれ、後ろに逸らされた。

「隙だらけ……おっと。これは誘いですかな」
「流石にバレるか」

 剣を弾かれた振りをし、踏み込んで来たところを狙うつもりだったけど気付かれた。

 それからお互いに切り結び、弾かれ後退したり押したりを繰り返す。

 彼は痺れを切らしたのか少し魔力を体から出していた。

「本気を少し見せましょうかね」

 彼の体からは魔力がほんの少しだけ漏れ出ている。剣士でありながらこの精度は素晴らしい。かなりの鍛錬を積んで来たのだろう。

「貴方は魔力を使わ無くてもいいのですかな?」
「俺か? もう使ってるぞ?」
「そんなはず……っく!」

 俺は剣を叩きつけ、アスカロードの重さを最大限に利用する。魔力で体も強化したかなりの一撃だ。

 ズウウウウウン!

 彼は俺の一撃を受け止めるが、衝撃で地面が割れている。それでも、踏ん張り態勢を崩さないのは流石だ。

「ぐぅ! なんのこれしき!」
「おお!?」

 彼は俺の剣を受け止めた状態で留め、おろそかになる腹に蹴りを入れようとしてくる。

 俺は最小限の一歩、横に動いて躱す。

「何!」
「足ががら空きだぞ!」

 俺は彼にけたぐりを繰り出し、支えになっている方の足を狙った。

「何の!」

 バシィ!

「嘘だろ!?」

 威力が乗っていなかったとはいえ、俺の蹴りが受け止められた。筋肉を硬直させ、完璧に受けきられた形だ。

「離れてもらうぞ!」
「っく!」

 俺は驚いている隙をつかれて距離を開けざるを得ない。その間に、彼は腰に剣を戻し、背中の大剣を引き抜いていた。

「この老いぼれにこれを抜かせるとは……。まだまだ楽しみが残っているようで嬉しい限りだ」

 彼の魔力がほんの少しずつ漏れているが、彼の持つ大剣に注がれていくのが分かった。剣は彼の魔力を吸い、徐々に輝きを増していく。

 俺は相手が準備するのを待つ。全力で戦えるかもしれない。そう思ったからだ。

「待ってくれるとは、今どきの若者にしては忍耐力があるようですな」
「そうでもないよ。ただ、アンタともっと戦いたいだけだ」
「しっかりと受け止めろよ?」

 暫しの静寂。そして、彼の行動と俺の行動が同時に起きる。

「はああああああああ!!!」
「うおおおおおおおお!!!」

 アスカロードと彼の大剣が正面からぶつかり合う。その瞬間。

 ドガアアアアアアアン!!!!!

 周囲を巻き込んだ大爆発が起きた。

 いや、実際には爆発等起きておらず、剣と大剣がぶつかった衝撃波がそうなったように見えただけ。

 それでも、少しでも気を抜けばそのまま吹き飛ばされかねない一撃だった。

「まだまだああああああ!!!!」
「もっと行くぞおおおおお!!!」

 ドガアン! バガアアン!! ズドオオオン!!!

 剣と大剣がぶつかり合う度に轟音が起き、激しい衝撃波を生む。このままでは埒が開かない。俺は一度下がり、力を溜める。

 その選択は彼も同じだったようだ。次の一撃で勝負は決まるかもしれない。

 俺達は目と目が合った瞬間飛び出し、剣を振りかぶった所で、

「そこまで!」

 ピタッ!

 お互いの武器がぶつかるまで後ほんの少し、そのタイミングでウテナによって止められる。

 後ほんの数センチ、それだけ進めば勝負が決まったかもしれない。しかし、止められた以上は従わなければならない。

「ウテナ。どうしたんだ? いい所だったのに」
「全く。楽しい時間はあっと言う間に終わってしまう」

 俺と彼は軽口を叩きながらウテナを見ると、その顔は怖いくらい無表情だった。

「う、ウテナ?」
「ど、どうしてそんな怖い顔をしている? 綺麗な顔が台無しだぞ?」
「まずは周囲の状況を見てからでいいのでは?」

 ウテナがチラリと周囲を見回すので、俺達も釣られて周囲に視線を向ける。

「うわあ」
「これは……」

 酷い有様だった。周囲で見守っていた人々は皆一様に地面に伏せたり、腰を抜かして座り込んでいる。立っているのはウテナ、オルドア、オリーブと彼女に守られたロネしか居なかった。

 被害はそれだけの留まらず、周囲の畑への被害も甚大だった。攻撃の余波で地面が捲れ上がり、農作物を地面ごとえぐりとってしまっていた。

「何か言うことは?」

 ウテナは冷たい視線を俺とジャグレットに向けてくる。

「その……」
「なんていうか……」
「「申し訳ありません」」

 俺と彼は謝るしか無かった。
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