「サボってるだろう?」と追い出された最強の龍脈衆~救ってくれた幼馴染と一緒に実力主義の帝国へ行き、実力が認められて龍騎士に~

土偶の友

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第3章 動乱

46話 大忙し

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 俺達が馬に乗ったまま門をくぐると、多くの人々に出迎えられる。

 右を見ても左を見ても多くの人がロネ姫の馬車を見て歓声をあげていた。

「すごいな」
「この国の皇族は皆人気が高いですからね。それに、ただの通りがかるだけでなく、この街を目的に来ているのです。その喜びも高いでしょう」

 オリーブさんがそう話してくれる。

「皇族がそんなに言われるとはな」
「ワルマー王国では違うのですか?」
「そうだな……。悪く言われるということはないけど、国王の話になると眉を寄せる奴はいたかな」
「こちらでもそういう方は居ますよ」
「なんだ。いるのか」
「はい。そこまで数は居ませんし、本当にいい感情を持っていない人は数日前の様に実際に行動に移して来ますからね」
「そんなことをされるなら眉を寄せられるくらいで済んだ方がいいかもしれない」
「確かに」

 オリーブも苦笑していた。


 それからの数日は多忙を極めていた。

 ロネ姫は人々の前で演説をしたり、領主と会食をしたり、この街の有力な商会や貴族の人達との話し合いなど休む暇がないほどだった。

 どれくらい忙しかったかと言うと……。

「セレット! この後の姫様の護衛も頼めるか!」
「任せろ!」
「頼んだ! 私はこの後の調整をして来る! 30分後には領主と会食だ! それが終わった後にはそれからこの街の周辺の者達からの嘆願書を受け取ったりする! 誰が怪しいか分からない! だから最大限注意してくれ!」

 ウテナはそう言って走り去っていく。この宿から出て他の場所に行くのかもしれない。

 俺達はそんなずっと忙しい状態のまま進む。俺の仕事はほとんど護衛として、ロネ姫からつかず離れずにいることだった。

 夜も更けたころにオリーブが来る。

「セレット様。体力的に問題はないですか? もうそろそろで連続で30時間位やられていますけど……」
「ん? 小道にいる時は十分に休めないことなんて幾らでもあったからな。この程度なら全く問題ない」
「すごいですね……。私や他の者達はかなり限界が近いと言うのに」
「あんなことがあったんだ。少し位は任せて休むといい。中途半端に休んでいざという時に役に立たないということになって欲しくないからな」
「しかし次の仕事があるのでそういう訳には行きません……」
「なら俺がやろうか? これでも体力には自信があるんだ」
「いいのですか……?」

 オリーブは目も虚ろで、すぐにでも倒れてしまいそうだ。

 それもこれも前の襲撃で人手が減っているのが原因だ。彼らは先日ウォータードラゴンに襲われて危険な目にあったばかり。死人こそ出なかったが、かなりの重傷を負った者もいたのだ。

 それからこの護衛や姫の世話である。いつも以上に警戒して人数も増えているから、大変さも当然増えている。

「一度しっかり休んでくれ」
「かたじけない……では少し休ませて頂きます」
「ああ。一度ゆっくり休むといい」
「はい。姫様をよろしくお願いします」

 そう言ってオリーブは自室に帰っていった。

 俺は彼女の姿を見送って、ロネ姫の部屋に行く。

 コンコン

「どうぞ」
「失礼します」

 中に入ると、大分顔色の悪いメイドが2人と疲労など感じさせないような顔でイスに座る姫様がいた。

「セレットさん。どうかしましたか?」
「姫様。俺は貴方の騎士になったんですから、さんなんて要りませんよ」
「そうですね……。ではセレットどうしました?」
「オリーブが体力の限界だったからその代わりに来ました」
「セレットさん……が護衛ですか?」

 メイドの一人がそう言ってくる。

「ああ、次は領主の館か? それともここの一室で誰かを迎えるのか?」

 どうするんだ? と視線を向けると3人とも何とも言えない様な表情を浮かべている。

「その……セレットさん……」
「セレット。その言葉は本当ですね?」
「姫様!?」
「ん? 仕事ならしっかりとやる気だが」

 何だろう。メイドの人が焦ったような顔をしている気がする。

「ですがこの後の仕事は……」
「そうですよ。うら若き乙女と……。いえ、乙女じゃないならいいという訳ではないんですが」
「なんだ?」
「……」
「……」
「セレット。今が何時か分かっていますか?」
「時間? 夜の1時だな」
「この時間になれば流石にわたくしに会おうとする者等居ませんよ」
「あ」
「小道だと龍は時間など関係なく出てくるかもしれませんけど、相手は人ですから、それくらいのことは考えてくれます」
「そうか……。すまん」
「いいのです。ずっと働かせているわたくしのせいでもありますからね……。お兄様に少し頼んだ方がいいかもしれません」
「皇子にか?」
「ええ、ちょっとお力を貸して頂く方がいいかもしれないと思いまして。それもこれも帰ってからになりますが」
「姫様。それよりもこの後のことについてです」
「といってもいいのではないですか? ここまですればいっそのこと、お父様も認めてくれるかもしれませんし」
「しかし……」
「待ってくれ。どういうことだ? というか何の話なんだ?」

 彼女たちが何について話しているのか分からずに聞く。こういう時に分からないまま進ませていいことなんてない。

 答えてくれたのはロネ姫だ。

「今夜わたしくしと一緒に寝てくださるのでしょう? 護衛の仕事としてですので、しっかりとお願いしますわね?」
「え……」
「他に適任の者もいないようですし。セレットなら酷いことはしないでしょう?」
「それは……勿論だが……」
「ならいいではないですか。ね?」

 流石にそれは……。

 結婚前の、いや、結婚した後でもダメだけど、護衛の為とは言え一緒の部屋に泊るのは不味い。どう考えても首が落とされるに決まっている。

「不味いだろ」
「そんな事ありません。異性を親衛隊に入れた時点で、いつかは起きることなのですから」
「いやいや」
「2人もかなり疲労しているのです。今日だけでもお願い出来ませんか?」

 俺は彼女の後ろにいる2人を見る。ロネの前で気丈には振舞っているけど、その目の下には隈が出来ているし疲れで背筋も少し曲がっている。

 迷ってしまうけど、彼女たちを休めるにはロネの言うことを聞くしかないのだろうか?

「他に出来そうな奴はいないのか?」
「ここ数日で全員ボロボロなのです。ウテナも今夜護衛をすれば倒れてしまうでしょう。お願いできませんか?」
「……分かった。だが、俺は部屋の外で守る。いいだろう?」

 流石に中には入れない。

「それではいざという時に守れないと思いませんか? わたくしは気にしませんので」
「……」

 俺は助けを求めて2人のメイドを見る。

「姫様。セレット様を困らせては……」
「そうです。部屋の前で守って貰うだけではいいではないですか」

 良かった。これで大丈夫だろうと思っていたら、甘かった。

「セレット。私は不安なのです。以前のように何時どこから、何に襲われるか分かりません。ですから。側でお願いできませんか?」

 恐ろしさを我慢するように話すロネに、俺は迷った末に覚悟を決める。

「……分かった。但し、この部屋の入り口でだ。それ以上は譲れない」
「それではお願いしますね。2人とも。寝る準備を」

 これで大丈夫か。

「じゃあ寝る準備が終わったら呼んでくれ。すぐ外にいる」
「はい」

 俺は外に出たが、今回の選択は間違っていたかもしれない。
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