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第2章 姫

22話 帝国での日常

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「ごあああああああああ!!!」

 大過の龍脈のファイアードラゴンが咆哮を上げ、ブレスを吐いてくる。

 俺は横に飛んで躱す。ただし、速度を落として、ぎりぎりになるように。

「ごおおおおあああああああああ!!!」

 ファイアードラゴンは何度も躱されている怒りからか、接近戦を仕掛けるために近づいてくる。

 真っ赤な体に龍としては普通の体格。しかし、羽を羽ばたかせ、近づいてくるその姿は迫力があった。

 ちらり。

 俺は後ろを見て、ファイアードラゴンの巨体を正面から受け止める。

「ぐううううううううう!!!」

 奴の鼻先を相棒で受け止め、後ずさりしながらも何とか奴を止めた。

「あっちに行け!」

 俺はファイアードラゴンの顎を蹴り上げ、頭を思い切りのけぞらせる。そして、がら空きになった腹に蹴りを入れて奴を龍脈の奥に押し込む。

 奴の後を追い、起き上がるのを近くで立って待つ。

「ごおおおおおおおおおあああああああああ!!!!!!!」

 本格的に怒り出したようだ。爬虫類の見た目である為、中々表情の変化というものは分かりにくい。ただ、奴の目には炎が宿っていた。

 俺は奴の周囲を回り、奴の視線が何処に行くかを確認する。

 奴は常に俺を見ているようで、他の場所を見るようなことはしていない。

(よし、これなら多少は大丈夫だろう)

 俺は龍脈の入り口の方で待機しているパルマに向けて合図を送る。

 パルマは頷くと、彼女の後ろにいた若者達を引き連れて前に出た。

「いいか、死にたくなければ物音を立てるなよ。返事もいらん」

 彼女たちはそろりそろりとファイアードラゴンに近い小部屋の中に入っていく。

 俺は奴の注意がそちらに行かない様にずっと注意を引いていた。

 それから1時間、ファイアードラゴンの攻撃を躱し続け、時には小部屋の方に蹴り飛ばしたりしていた。

「もう大丈夫だ! 倒してくれ!」
「分かった!」

 パルマか許可が降りたので相棒を鞘から引き抜き、ファイアードラゴンの首を切り落とした。

「ごああ……?」
「ふぅ」

 カキン

 と相棒を鞘に収めて汗を拭う。

 そこへ、パルマが近づいてくる。

「セレット、助かった。感謝する」
「気にするな。それにしても新兵はどうだ?」

 俺は彼らが入っていった小部屋を見る。

「ははは、ファイアードラゴンが蹴り飛ばされて来た時など何人かは悲鳴を上げてたぜ? だらしない。だが、これで少しはマシになるだろ」
「それは良かった。俺も龍を狩らずに残して置くなんて久しぶりだからな。途中ヒヤッとした」
「大丈夫だったか? セレットにしか頼めないとはいえ、危険な事を頼んじまったからな」
「これくらいなら大丈夫だよ。じゃ、もしまた必要になったら言ってくれ。新兵によろしくな」
「ああ、龍騎士様に新兵の訓練を見られて奴らも頑張るだろう」

 パルマは茶化すように言ってくる。

「やめてくれ。たいそうな称号で呼ばれるようなもんじゃないよ。と、そろそろ次の予定があるんだった」
「そうか。今回は助かった。またな、セレット」
「ああ、パルマも気をつけろよ」

 俺は彼女と別れて次の目的地に向かう。

 目的地であるウテナとの礼儀の訓練部屋につくと、知らない女性の騎士がいた。

「えっと……貴方は?」
「私はロネカ姫の親衛隊の一人でオリーブといいます、ウテナ様の代役として参りました」
「代役?」
「はい、本日ウテナ様は仕事がかなり押しておりまして、こちらには来れないとのことで……」
「分かりました。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。かの龍騎士様のご指導に預かれると聞いて、かなり緊張しています。ミスがあればご指導お願いいたします」
「俺が指導を受けるんだからそんなことはないよ。ていうか顔が赤いけど大丈夫か?」

 ウテナの所の労働環境はそんなに悪いんだろうか? 顔が赤くなるくらい体調が悪い人が多くなるのはまずいと思う。

「あ……。いえ、その……かの英雄とご一緒出来て感動しているというだけですので、お気になさらず……。ここに来る為の勝負もかなりの激戦でした……」
「そ、そう」

 俺の指導員ってそんなに人気なの? 教えてるだけだから楽にやれるとかか? それならありそうだな。

「はい、それでは早速指導に入らせていただきますね?」
「よろしく頼む」

 それからは彼女の指導で礼儀の訓練を続けた。

「今日はこれくらいですかね?」
「そうだな……。大体この時間に終わっていたはずだ」

 俺は伸びをして硬くなった体をほぐす。

 礼儀の指導は実際に動作を行なうこともあればそうでない時もある。この場合ではこうだけど、相手の爵位によってこういう風に変わったり等と覚えることが山のようにあるのだ。

 重要そうなもの等を優先して教えて貰っているが、全てを覚えきるまでに一体どれくらいかかるのか。正直考えたくない。

「それで、セレット様、これから食事とかはいかがなされるのですか?」
「この後か? アイシャと秘書と一緒に食事に行こうかって話になっている」
「なるほど……。でしたら何でもありません。失礼しました」

 彼女は心なしか凹んでいる様だったけど、食事に何かあったんだろうか。

「俺はこれで失礼する。ウテナによろしく言っておいてくれ」
「はい、畏まりました」

 俺は部屋を出て、アイシャと秘書がいる部屋に向かう。

 コンコン

「どうぞ~」
「入るぞ」

 俺が中に入ると、アイシャと秘書が机に向かって何かを書いていたり、装置を弄っていた。

 2人は俺の方に視線を向けると驚いた顔をする。

「え? もうそんな時間?」
「ホントです~。今日という日があっと言う間に終わってしまいました~」
「集中してたならまた今度にするか?」

 彼女たちが何かに熱中していたのなら、邪魔をするべきじゃないような気がする。

「うーん。大丈夫。というか、お昼をそうやって抜いちゃってるから、流石にお腹が減りすぎてヤバいわ」
「ですね~。これだけ研究に集中できるなんて、前の国ではなかったですから~」
「そうなのか?」
「ええ、トリアスがあれをやれこれをやれって自分の仕事を押し付けまくってきたのよね」
「そのせいで半日は毎回潰れてましたからね~。そう考えると今は最高の環境ですよ~」

 そんな事を話しながら食堂へ向かう。

 個室を用意してもいいと言われたけれど、何と言うかそこまで特別扱いになりたくないという思いもあってしていない。

 会話をしながら毎日が過ぎて行った。
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