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第1章 帝国へ

19話 トリアスとの再会

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 扉から入って来たのはトリアスと、ワルター王国の人々だった。

 ただ、トリアス以外は俺が追放された時の人達ではない。彼らが先頭を歩き、一番後ろにトリアスが付き従っているようだった。

 トリアスは以前のようないやらしい顔ではなく、かなり落ち込んだ顔になっている。

(というか痩せたか……? 前は歳はとってたけど、年齢の割には肌艶が良かったし、そこそこ太ってたはずだ)

 それが今や見る影もない。全体的にほっそりしているのにお腹だけ出ていて、頭は何だか薄くなっている。いや、ハッキリと髪が無くなっている。彼自慢の髭だけは変わらない。

 俺がトリアスの事を見ていると、彼は俺の視線に気付いたのかこちらを向く。

「あ」
「む」

 トリアスと目が合った途端に、彼は目をクワ! っと大きく拡げて、こちらに向かって進んで来る。

 彼の鼻息は荒く、ちょっと怖い。

「何をしている!」
「ぐぅ」

 トリアスの行動に気付いた使者の兵士が、手に持っていたひもを引っ張る。

 すると、トリアスが引っ張られたかのように尻もちをつく。よく見ると、彼の首には何かが巻きついている。

「勝手な事をするなと教えたはずですよね?」
「ひぃ。す、すまんかった。少し英雄を見て……。その……な?」

 トリアスは以前では考えられないようなおどおどした態度で俺を指さす。

 もしかして、英雄って俺に向かっていったのか? ありえないだろ? あのトリアスだぞ? 

 アイシャから手柄を奪って自分の成果として上げていたアイツだぞ? 

 自分の手柄の為であればあらゆることをやる。と噂されていたあのトリアスだぞ?

 それが俺に向かって英雄だなんていうはずがないじゃないか。

 それを聞いた兵士は俺の方をちらりと見て頭を下げる。そして、トリアスに向かって言う。

「当たり前の事を言うんじゃない。彼はお前なんかが許可を得ずに見ていいような人ではない。わかったらサッサと進め」
「はい……。申し訳ありません……」
「……」

 俺は口をあんぐりと開けたまま何も言えなくなった。

 え? どういうこと? いくら何でもおかしくない? 俺の考えすぎ? どうなってるんだ。

 頭の中を??? が駆け巡るが、答えてくれる人はいなかった。

「セレット……貴方。一体何をしたの?」

 アイシャが小声で聞いてくるが、俺が聞きたい。

「何も……。アイツと別れたのは確かワルター王国の城だったし。そこで上から目線で色々と言われたのが最後な気がするんだけど……」
「うーん。私が最後にあった時もいつものトリアスって感じだったけど……。どうしたのかしら」
「分からん……」

 そんなことを話していると、トリアスや使者は皇帝の前でひざまずき、頭を下げる。

 そして、使者が口を開く。

「グルドルフ皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しく。本日お会いさせて頂いたことには感謝の念も耐えません。そして……」
「長い。手短にせよ。我らの時間を無駄に奪うでない」

 皇帝からそんな言葉が飛ぶ。言葉は冷たく、歓迎している様には全く見えない。

 使者は皇帝の圧力で汗をかいているのか、ハンカチで汗を拭いている。

 そして、一通り拭き終わった後で謝罪した。

「これは大変申し訳ありません。手短にお話をさせて頂きます。先日、こちらの国に亡命してきたセレット様にワルマー王国へ帰還していただけないかと思いお願いに参りました」
「断る」

 皇帝が間を置くこともなく断る。

 使者もその速度に納得出来なかったのか、何も言えていない。

「は……?」
「聞えなかったか? 断ると言ったのだ。セレットはここに来てほんの数日にも関わらずその圧倒的な実力でこの国の危機を救った。その様な者を亡命したからハイそうですかと返せると思うのか?」
「ですが……。このままでは我が国が……」
「居なくなっただけで国が傾くほどの者をさぞ素晴らしい扱いをしていたのだろうな?」
「それは……。その……」
「ん? 何とか言ったらどうだ? それだけの力を持つ者に必要な待遇を与えず、馬車馬のように使っていたお前達の様な国に、戻ることを認めると思っているのか? この国の英雄だぞ?」
「そこを……何とか……」
「断る。第一我々は敵国とまでいかないものの友好国という訳ではない。なぜそこまで便宜を図らねばならぬ」
「お願いいたします。どうか、どうか……」

 使者は床に頭を擦り付けながら皇帝に懇願している。

「貴様は一体何の為に来たのだ。これ以上無駄なことを話すと言うのなら追い出すぞ?」
「陛下! お願いします! 我が国の民を助けると思って! どうか! どうか!」
「では貴様の国で一体何が起こったというのか。申してみよ」
「それは……」

 使者はもごもごとして何も言わない。それほどまでに酷いことがあったのだろうか。

 そんな事を思っていると、トリアスが俺のすぐ近くに来ていた。

「?」
「貴様! さっさと我が国に戻らんか!」
「!?」

 俺は怒鳴り散らしてくるトリアスに何も言えなかった。この状況で俺に怒鳴りつけてくるなんて有り得ない。

 それも皇帝と使者が話しているのを遮ってまでだ。どう考えてもおかしい。

「わしの兄上があそこまで頭を下げているのだぞ!? お前が戻ると言えばすぐに済む話だろうが!」
「は?」

 トリアスの兄? だからなんだというのだ? なんで俺がこんな奴の言うことを聞かねばならない。

「なんだわしのいう言葉が分かるか!? サッサとついてこい。勝手に我が国を抜け出たことは許してやる。分かったか? ああ、貴様はわしが怖いのだろう? 黙っているだけで良い。ほれ、さっさと行くぞ」

 トリアスはそう言って勝手に玉座の間を抜けようとするが、俺は一歩も動かなかった。

 というか、あっけに取られて動けなかったという方が正しいか。

 そんな俺の様子に気付いたトリアスはもう一度俺の方に来る。

「何をしているのだ! わしの言っていることがわからん訳ではあるまい!? この国に来て言葉まで忘れてしまったのか!?」
「……何を言ってるんだ?」
「ん? やっと言葉を思い出したのか。わしの言っていることが分かったか?」
「分かった……いや、分かるが俺がそんな事を聞くと思うのか? あんな目に合わせておいて、それでお前に従うとでも思っているのか!?」
「あんな目? あれはお前が龍をもっと分かりやすいように倒さなかったのが悪いんだろう。違うか?」

 そのいいように俺も少し頭にきた。

「はぁ!? ちゃんと龍を倒していると俺は言った! もし本当に『病魔の龍脈』から龍が現れないということが分かっていれば、時間をかけて調べる方法もあっただろうが! それをせずにいきなり追放して、どうしてそんな国に帰りたいと思う!?」
「うるさい! 貴様はわしや陛下のいうことをただ聞いていればいいんだ! わかったら来い! お前が帰ってこねば国が大変なことになる!」
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