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第1章 帝国へ

13話 騎士として

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 帝国の様々な龍脈を案内して貰った次の日、俺はウテナと一緒にいた。

「違う、そうじゃない。この時はこの角度だ」
「こうか?」
「うむ、いいぞ。流石セレット、覚えるのが早いな」
「ウテナの教え方がいいからだよ」

 俺はこの国の騎士として働くための訓練をウテナから受けていた。

 騎士の訓練を受ける時に一つ上の階級の騎士に指導してもらうことが普通になっているらしく、俺の上には4騎士しかいない。

 しかし、他の4騎士は国を回っていたり、国外に行っていたりする。彼らは忙しく、それぞれの仕事についているという理由でウテナになったのだ。

「それにしても覚えることが多くて大変だな。まさか礼儀だけでこんなにあるとは思わなかった」
「騎士になるにはそれだけ知識や格式が必要になってくる。ただ、それが出来れば一目おかれるようになるからな。それに、式典ではかっこよく見せたいだろう?」
「確かに……。多くの人に見られるんならある程度は出来ないといけないか」
「そういうことだ。という訳でもっとビシバシとやるからな!」
「お手柔らかに頼む」

 この訓練はかれこれ数時間続き、一度休憩ということになった。

 俺はイスの背もたれに寄りかかりつつ、ぐったりと体を休める。

「はぁ~。肩が凝りそうだ……」

 朝から敬語の座学や、礼儀の作法などを徹底的に叩き込まれている。

 今までは龍を狩ることしかしてこなかったからかなりしんどく感じた。

「ふふふ、セレットにも苦手な物があるのだな」

 ウテナがお盆を持って立っている。

 そのお盆の上には紅茶が湯気を立てていて、クッキー等も載っていた。

「というか苦手なものだらけだよ。って、言ってくれれば俺がやったのに」
「気にするな。紅茶を入れるのは趣味なんだ。この職についてから自分で入れることは少なくなってな。やらせてくれ」
「そういうことなら……」

 彼女俺の為に紅茶を入れてくれる。

 俺はそれを持ち、味わうように飲んだ。

「うん。美味しい」
「そうか、良かった」

 彼女は優しく笑っていて、いつもの凛とした感じは違った雰囲気になっているのが驚きだ。

 クッキーも食べてみるが、今まで食べたことが無いくらい美味しかった。

「すごいな。この国は」
「そうか?」
「ああ、こんなクッキー初めて食べた」
「そんなに至らなかっただろうか?」
「え?」
「これは……その……。私の手作りなのだ」

 彼女はそう言ってもじもじしつつ、顔を赤らめている。

 ちょっと恥じらっているようだが、恥じることなんて無いのに。

「すごく美味しいよ。ウテナは料理まで上手だったんだな。いい奥さんになれそうだ」
「!?」

 俺はそう言ってクッキーをもう一枚食べる。

「……」

 俺はクッキーを食べ終わり、ウテナの方を見ると、彼女は熱が出たかのように真っ赤になってじっとこちらを見ている。

 その口は少し開いていて、パクパクとさせていた。

 俺はもしかして、と思ってクッキーを1枚持ち上げ、彼女の口に入れる。

「ふぐ!?」
「どうだ? 美味いだろ?」
「ふ……ぐ、ふぐ」

 彼女はゆっくりと噛んで、食べている。

 そして、食べ終わったころには、彼女は少し赤い、くらいになっていた。

「ふう。確かに美味しいな。また他にも試したいお菓子があったりするんだ。作ったら食べてくれるか?」
「いいのか? これだけ美味しいなら是非とも食べたい。何時でも言ってくれ」
「ああ、任せておいてくれ」

 そういう彼女の顔はやはり少し赤かったような気がする。

「さて、休憩もしたし、訓練に戻るか」
「ああ、分かった」

 それからまた数時間訓練をする。

 時間がそろそろ昼食、といった時間になった。

 ウテナも気付いていたらしく、提案をして来る。

「そろそろ昼食の時間だな。ど、どうだ? 折角だし、一緒に食べないか?」
「勿論。美味しい物を教えてくれ」
「任せておけ」


 そうして食事をとり、昼からは模擬戦の訓練の為に訓練場に来た訳だが……。

「必要無いな」
「そうなのか?」
「ああ、セレット程強ければハッキリ言って私が教えることは何一つ無い」
「そうか……」

 正直残念だ。せめて体を動かしていたかった。

「私に戦い方教えてくれないか?」
「戦い方? 何のだ?」
「勿論龍とのだ」
「何でまた。自分で言うのもあれだが、龍狩りはあんまりおススメできることじゃないぞ?」

 龍は強いし、攻撃力もかなり高い。専用装備をつけていても被害が出るのだ。

 その為、毎年のようにチームのメンバーは変わるのが普通だ。

 そして、人目に活躍が行くわけでもない為、人気もあるとは言えない。

「ああ、それでも私に教えて欲しい。この4騎士という立場についてから、色々と仕事に追われて気付いていなかったが、やはり私はまだまだ弱い。もっと強くなりたいんだ」

 そういう彼女の目は真剣だった。

 俺はその彼女の思いに答えようと思った。どんな理由があるのかは分からないが、真剣な思いには真剣に答えるべきだ。

「俺が教えられることなら教えるが、厳しいぞ?」

 彼女はふっと笑いハッキリと答える。

「望むところだ」

 その為、昼からはウテナに龍との戦い方を教えることになった。

 と、言っても、今まで人に教えるような事をほとんどしてこなかった。だから、彼女には実践に近い形で教える。

「振りが大きすぎる! それなのにその武器では龍には致命傷は与えにくい! 小刻みにダメージを与えていけ!」
「分かった!」

 俺を龍に見立ててウテナに攻撃させる。小型の龍もかなりいるため、それを真似してのことだ。

 俺は攻撃をせずに回避に専念する。ということを繰り返し、行なう。

 これでウテナには何となく教えられるし、俺は回避する練習が出来る。

「よし! そろそろ休憩にしよう」
「はぁはぁはぁはぁ。分かった……」

 ウテナはかなり息が上がっていた。

「大丈夫か?」

 俺は水をとってきて彼女に差し出す。

「ありがとう……」

 彼女はごくごくと水を飲み、一息でコップを空にしてしまう。

「それにしても、龍脈衆というのは大変だな。この鎧もいつも使っている物より倍以上は重い」
「対龍用の装備はかなり重たくなるからな。仕方ない。そうでもしないと龍の攻撃から身を守れないんだ」
「そう言う割にはセレットの服は薄着じゃないか?」
「ああ、俺は基本的に攻撃を食らわない様にしているからな」
「なら他の者もそうすればいいのでは?」

 ウテナは額に汗をびっしょりとかきながら言ってくる。

「そういうのがいいっていう時代もあったみたいだけど、その頃は龍脈衆の被害が物凄く増えたらしいからな。多分止めたんだろう。龍の攻撃は強く、鋭い、回避できなければ終わりだからな」
「なるほど……」

 そんな話をしながら休んでいると、フランツが慌てた顔で走り込んで来る。

「セレット! 助けてくれ! 緊急事態だ!」
「なんだって!?」
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