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第1章 帝国へ
10話 裁判(追放サイド)
しおりを挟む裁判所にトリアスが今回の事の責任者であるとして呼ばれていた。彼は当然のこととしてそれを否定する。
「わしは悪くない! わしはこの国の為を思ってやっていただけだ!」
「ふざけるな! 勝手に龍脈衆隊長セレットに罪を着せて追放しおって! どれ程の被害が出たか知らんとは言わせんぞ!」
吠えるのは現国王の弟でダイードという。彼はまともな人間と評判だった。
そして、セレットが追放される時には、仕事として地方に飛ばされていたのだ。
しかし、王都が危険な状態になったと聞いて、彼は急いで帰ってきて対処し始めた。
その結果何とか1週間で収まったと言える。彼が帰ってこなければより酷いことになっていただろう。といっても完全に病魔の龍脈が抑えられた訳ではない。
「知らん! わしのせいではない! セレットの代わりになった龍脈衆の隊長が対処に失敗しただけだ!」
「この場に呼ばれていてまだそんなことを言うか! ふざけるのもいい加減にしろ! この3流魔法使いが!」
「な! 誰が3流だ!」
「貴様に決まっている! 病魔の龍脈がどれ程恐ろしいのか知らんのか!」
「ふん。そんな龍の恐ろしさ等、龍脈衆が知っておればよい」
「貴様は! あそこの龍は人々に恐ろしい毒をバラまくのだ! その毒にかかった物は体中から緑や紫の液体を流すようになる。そして、それを他の者にも毒として押し付けるのだ! 毒を受けた者は治療出来ずに死んでいくしかない!」
「ふん。そんな危険な場所であれば、なぜセレットは毎回一人で小道にまで入って行っていたのだ。ふざけた事を言うと許さんぞ!」
「そんなことはセレットが優秀だったからに過ぎん! その程度も気付けないから3流と言っているのだ!」
彼はそこまでは怒鳴っていたが、すっと声を潜めて問いただす。
「しかし、誰が許さないのかな」
「勿論カスール陛下だ。わしはとても親しくさせてもらっている」
トリアスが覚悟しろ言ったような表情になる。
しかし、ダイードはそれを冷ややかな目で見ていた。
「はっ! 愚か者が、貴様は既に切り捨てられたのだ。知らんのか?」
「そんなはずは……」
「嘘だと思うか? 本当だ。そうでもなければ貴様がこの場に呼ばれるようなこと等あるまい?」
「それは……あ、兄上は! 兄上が何とかしてくれるはず!」
トリアスは縋るような気持ちで可能性をあげる。
「やつはすぐさまカイン帝国に謝罪に行くと手のひらを返した。無駄だ」
「そんな……」
「貴様には2つの道しか残されていない」
「2つ……?」
「ああ、2つだ。1つはこのまま私財や研究成果全てを国に没収されて死罪か」
「ごくり」
トリアスは恐ろしさのあまりのどを鳴らす。
「もう1つは帝国に渡ったセレットを何としてでも連れて帰って来るかだ。それが出来れば貴様のような小物は見逃してやってもいい。ある程度だがな」
「セレットが……帝国に?」
「知らんのか。情報にまで疎いとは貴様、本当に師団長を預かる者か? まぁ、貴様の無能さ等この際どうでもいい。それよりも今この国に『病魔の龍脈』を抑えることの出来る者がいないことが問題なのだ」
「何を言う。龍脈衆等他に幾らでもおるではないか!」
「ハッキリ言って使い物にならん。ゴミばかりだ。使えるのは2,3チームあるかどうか。それ以外のゴミは全てセレットに仕事を押し付けていた腑抜けた奴等ばかりだ。その癖金額は一人前に要求してくる者達。勿論この機会に処分するが、それにはお前も一緒だ」
「ふざけるな! わしがこれまでどれだけこの国の為に……」
「いい加減にしろ! カスールの為に毎晩下らない余興をしていたようだな? その余興で今までに何人が犠牲になったか! 今回の件が無ければもっと被害者は増えていたかもしれん!」
「ゴミ共が何人死のうが関係無いではないか!」
トリアスは本気でそう思っていた。つばを飛ばしながらハッキリと王の弟に向かって言う。
「はぁ、このような者がのさばっているとは……。言い訳は聞きたくない。もし貴様がセレットを帝国よりも連れ戻せない場合。覚悟しろよ?」
「くっ……」
王の弟は気迫の籠った視線をトリアスに向ける。
トリアスはいわば学者肌。戦場で戦ってきた王の弟の気迫を正面から見ることが出来るほどの男ではない。黙って俯くしかなかった。
王の弟はその様子を見て部下に指示を出す。
「連れていけ」
「はっ!」
そうしてトリアスは牢獄に連れていかれた。
そこは以前セレットが入っていたもっとも質に低い。牢獄と呼ぶのにすらお粗末な場所だった。
「なぜわしがこんなところに!」
「罪もないセレット様に同じような事をしたのだから同じようにしろとの仰せです」
「貴様、わしにこのような事をして後からどうなるか分かっているのか!」
今まで多くの人を黙らせてきた彼の高圧的な態度、これまでの兵士やメイド、他の貴族たちは渋々と従ってきた。
しかし、彼はダイードの部下として十分に訓練されていた。
「その様な事は私には関係ありません」
「貴様の家族もろとも処刑台に送って欲しいか?」
「今の発言はダイード様に報告させて頂きますがよろしいですか?」
「そんな……冗談ではないか。その様な事を申すな」
トリアスは脅しが通じないとなると下手に出始める。
「お主、何か困っているものは無いか? わしなら必要に応じて都合をつけてやることが出来るぞ。どうだ?」
トリアスは品定めをするように兵士に向かってそう言う。それで聞かなかった者はほとんどいない。
彼が宮廷魔法師団師団長の地位になれたのは、こういった事を日常的に行なってきたからだった。
しかし、ダイードの部下は当然聞くわけがない。
「それも報告させて頂きますね」
そう言って彼はその汚い牢屋から出ていく。
「ま、待ってくれ! 頼む!」
ガシャ!
兵士はトリアスに応じることなく淡々とその扉を閉める。
「た、頼む! こんな酷い臭いのする部屋は許してくれ!」
「それでは失礼します」
兵士はさっさと部屋を出ていく。そして、彼が扉を閉めると、トリアスのいる場所は暗闇に包まれた。
「く、暗い。誰か! 誰か来てくれ! 暗い、暗いんじゃ!」
トリアスはそう叫んでも誰か人が来ることはなかった。
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