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第1章 帝国へ

5話 力を示せ

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「他の者は下がれ、セルダース。結界を張れ」
「畏まりました」

 皇帝の言葉にセルダースさんが頷き立ちがる。

 そして、横に並んでいた列は一人を残し10歩ほど後ろに下がった。

 そうするとかなりの空間が出来る。

 残っていたのがウテナさんだろうか。彼女は真っ赤な髪をポニーテールにした美しい女性で、目はキリリと吊り上がり、気の強さを感じさせる。目の横には泣きボクロがあるのも目立つ。体には白銀の鎧をまとい、窓から入る太陽光が反射して煌めいている。腰に装備しているのはレイピア、速度を重視するようなタイプの戦い方か。

 彼女はその凛とした表情のままこちらに向かってくる。歩く姿もピンと伸びた背筋がとても美しい。

 彼女は俺から10歩ほど離れた所で止まる。そして、俺を正面から見据えて来た。

「セレット……」
「ん?」

 アイシャが俺を後ろから引っ張る。

 振り向くと、彼女は俺の相棒をその手に持っていた。

「没収されたんじゃなかったのか?」
「ちょっと改造したくて持ってただけよ。でも、ほとんどの機能は使えないわ。ごめんなさい」
「大丈夫だ。相棒がいるだけでありがたい」

 俺はアイシャに礼を言って相棒を受け取る。

 彼女に作ってもらった剣の見た目をしたこれは長年使っている最高の相棒だ。

 俺はウテナさんの方を見ると待ってくれていた。流石騎士。

「ロネカ姫の第一騎士。ウテナと言う。全力で来るがいい」
「ウテナさんですね。セレットと言います。お手柔らかに」

 俺達が向かい合うと周囲の騒めきが聞こえてくる。

「あの4騎士のウテナ殿か……」
「どれほど持つのか楽しみですな」
「1分持てば十分なのでは?」
「いやいや、『閃光』の2つ名は伊達ではありませんぞ? 10秒持てば十分」
「それにしても美しい、我が子の嫁に是非……」
「それは難しいでしょう。自分よりも強い男としか結婚しないと公言していましたからな」

 彼女に関する情報が集まってくるのはとても助かる。

 それにしても『閃光』とは凄い2つ名を持っているものだ。俺も何かあれば良かったのかもしれないけど……。

「それでは両者良いかな?」

 セルダースさんが言ってくる。

「構いません」
「大丈夫です」
「うむ、囲え、ドーム」

 セルダースさんがそう言うと俺とウテナさんを中心にして10m位の円が出来る。その円は薄紫色で反対側が透けてみることが出来た。

「それでは、始め!」
「はぁ!」
「うお!」

 セルダースさんの合図とともにシュパ! っとウテナさんがレイピアを抜き放ち突っ込んで来る。

 俺はそれを左に回避してせめてもの反撃に足を出した。

「な! うわ!」

 ウテナさんはそのまま俺の足に引っかかり、転がってドームにぶつかり止まる。

「「「……」」」

 シンとその場が静まり返る。

 あれ? なんだか変な空気になっているような……。

 そして、ウテナさんがゆっくりと立ち上がった。

「貴様、もう一度名を聞いておこうか」
「ん? セレットという」
「そうかセレット。死んでしまったらすまん。本気で行かせてもらう」
「え?」

 彼女からは魔力がほとばしり、視覚化出来るほど溢れ出ている。

 それだけ本気だということなのだろう。しかし、なぜそこまで怒っているのだろうか。

 彼女が構え、何かを溜めている。

 俺は死んでしまうと言われて受ける訳にはいかない。魔力を全身に回し、神経を集中させて彼女を待ち受けた。

「――」

 シュオ! っと目の前に彼女が現れた。その速度に、一瞬彼女の姿を見失ってしまう。

 しかし、体は反射的に動いていて、彼女の攻撃を躱すことが出来た。

 今度は俺も反撃とばかりに通り過ぎて行く彼女の腕を掴み、そのまま地面に叩きつける。

「かはっ!」

 彼女は攻撃されると思っていなかったのか受け身もとれていない。

 俺は、そんな隙だらけの彼女の首筋に鞘に入ったままの剣を突きつけた。

「………………」
「はぁはぁはぁはぁ」
「まだ決着じゃないのか?」
「! それまで!」

 セルダースさんがそう宣言して、薄紫色のドームが消え去った。

 良かった。これで力を示せただろうか。

 そう思って安堵していたが、周囲の人の空気は重い、というか信じられない。そんな顔をしている。

「勝者……セレット……」

 セルダースさんがそう言うと周囲は騒然となった。

「あの『閃光』の一撃を躱した?」
「しかも2撃目は魔力を使った一撃でしょう……。あれを躱すとは……」
「有り得ない。帝国最強の4騎士ですぞ? 今まで無敗を誇っていたはず」
「それにあの者、武器すら使わなかった。最後の為だけとは……」
「ウテナ殿の父になる予定が……」
「それはもっと前から諦めておきなさい」

 色々と聞こえるがそれよりもウテナさんの心配か。

「大丈夫ですか?」

 俺は地面に横たわって動かない彼女に手を差し伸べる。

「……あ、ああ」

 彼女は心ここにあらずといった感じで俺の手を握る。

 俺はそのまま彼女を引っ張り起こす。

「む、鎧をつけてその重さは軽すぎる。もっとしっかりと食べないとやっていけないぞ」
「あ、ああ」

 彼女はよろよろと元の場所へと戻って行った。

「大丈夫か?」

 俺は思わず声をかけてしまう。地面に叩きつける時もある程度気をつけたはずだが、どこか打ち所が悪かったのかもしれない。

「! だ、大丈夫だ 今は来るな!」
「す、すまん」

 彼女は真っ赤な顔になって叫ぶ。

 俺は彼女を怒らせてしまったらしい。謝って元の場所に戻る。

「私に勝つのが……」
「ん?」

 戻る途中に彼女が何か言ったような気がしたけど、小さすぎて聞こえなかった。

 それに、彼女はそのまま行ってしまったので止めることもできない。

 仕方なく元の場所に戻ってきた。

 皇帝は言葉を発する。

「セレットよ。そなたの力を見させてもらった。最低でも上級騎士以上の地位を約束しよう。その規格外の力、存分に使って貰う」
「ありがとうございます!」

 俺は取りあえず受けてしまった。

 しかし、上級騎士、名前的には悪く無いのではないだろうか。

 元々は龍脈衆として戦っていた俺ではあるが、他の仕事をやれと言われればやっていた。だから、軽い気持ちで受けてしまったのだが、どうやら軽いものではないというのが周りの反応から分かってしまった。

「上級騎士……!」
「あれだけの若さでなるのはウテナ殿以来か? かなりの有望株ですな」
「ウテナ殿はもっと前になっていた。彼の年齢に追いつけばウテナ殿が勝ってくれるはずだ」
「それより上は4騎士しか階級がありませんからな。誰かと入れ替わりですか? しかし、どれ程の力を秘めているのやら」
「孫娘の名前も考えてあったのに……」
「いい加減元に戻りなさい」

 聞いている限りかなり位は高いようだ。俺は不安になり皇帝に尋ねてしまう。

「あの! よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「その、私は今日この城に来たばかりなのですが、本当にそれほどの地位を頂いても良いのでしょうか?」
「当然だとも。この国では実力が全て。ハッキリ言って、貴殿は強すぎるとさえ感じる。実力は底が見えん。上級騎士も今のところはということだ。貴殿の今後の活躍や、信用に足る人物だとわかれば、より良い待遇を約束しよう」
「ありがとうございます!」
「それではこれにて解散する。後のことはセルダース、貴様に一任する」
「畏まりました」

 そうして皇帝と皇族は去っていった。その際に、皇女の誰かが俺のことを見ていた気がするんだけど、気のせいだろうか。
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