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第1章 帝国へ

4話 謁見

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 それから俺達は人目につかない様に移動し、国境まで辿り着く。

 そこで、バレるかとヒヤヒヤしていたが、指名手配されていることもなく通り抜けることに成功した。

 アイシャの宮廷魔法師団副師団長という名前は言っただけで、調べられることもなく通ることが出来た。

 そして、1週間かけて、カイン帝国の帝都カイガノスに到着した。

「ここが帝都か……。桁違いだな」
「国土、人口、軍事力その他諸々、全てが王国とは出来が違うわ」

 俺達は長い行列を待って帝都の中に入る。

 帝都の中は至る所が大きく、美しく、洗練されていた。

 それは、城についても同様だった。

「でかいな……」
「これは……ちょっと躊躇っちゃうわね」

 見上げてもより高く、大きな美しい城。城の周囲で観光客が沢山いるのも理解できる。

 そして、俺達は中に入っていく。といっても門番にアイシャを勧誘した人を呼んでもらってだったので、多少待たされるらしい。

 しかし、この近辺を観光しているだけでも楽しかったので良かった。

「こうやって街を一緒に見て回るのは何時ぶりだろうな」
「そうね……。貴方がもっと不真面目だったら出来ていたんでしょうね」
「真面目だったつもりはないんだけどなぁ」
「ずっと色んな人の仕事を代わったり手伝って上げてたりしたくせに」
「そうだけどさ……。アイツらがどうしてもって」
「もう、だから全然会えないんじゃない」
「ごめんごめん」
「ま、こうやって来てくれたからいいのよ。貴方ならこの国の4騎士にだって負けないんだから」
「4騎士?」

 初めて聞く名前だ。そんなに有名な騎士がいるんだろうか?

「セレット……情報に疎いとは思っていたけど、4騎士を知らないのはまずいわよ?」
「そうなのか?」

 彼女のジトっとした、本気? というような目を向けてくる。

「まぁ、知らなくてもいいっちゃいいんだけど、ちびっこ達からは憧れの的なのよ?」
「ほう、そんなに凄いやつらがいるんだな」
「ええ、ま。セレットなら大丈夫でしょう」
「流石に俺はそこまで強くないって。龍脈衆は龍退治専門なんだぞ?」
「だからってその強さはちゃんと備わってるのよ」

 そんな話をしていると、魔法使いのローブを着た初老の男性ががこちらに向かって歩いてくる。

 アイシャは彼に向かって手を振った。

「お久しぶりです! セルダース様!」
「ほっほっほ。久しぶりじゃのう。アイシャ嬢よ。まさか本当に来てくれるとは思っておらんかったぞ」

 セルダースという人はほっそりとした目をしている老人で頭は禿げあがっていた。

 そして、アイシャを見る目は孫を見るかの様な優しさだ。

「それには色々と理由がありまして……」
「ふむ、その理由はそちらの彼と何か関係があるのかな?」
「ええ、まぁ」
「ふむ……」

 そう言って彼は俺の事を見透かすかのように見つめてくる。

「ほう、中々に鍛えられておるのう……」
「ど、どうも」

 なんと返していいか分からずに取りあえず挨拶をしておく。

「ふむ。お主もこの国で働く気があるのかの?」
「勿論です」
「良かろう。これからアイシャの仕官を祝って謁見をするんじゃが、一緒に出るか?」
「ええ! そこまでしてくれるんですか!?」
「当然じゃ。儂の推薦じゃぞ? 王国の倍以上の待遇を保証しよう。勿論成果があればそれ以上の報酬も約束する」
「わぁ、ホントですか? ありがとうございます」
「わざわざ来てくれたのじゃ。それくらい当然。但し、何年も成果をあげられねば待遇は悪くなるがの?」

 軽々と言い放つ彼にはそれだけこの宮廷で地位を保ってきた人としての重みがあった。

 アイシャはその言葉に何かを感じたらしく、静かに頷いている。

「それでは行くかの? 王を余り待たせる訳にも行かぬ」
「よろしくお願いします」
「頼む」

 俺達は彼の案内で城の中を進む。

 城の中もすさまじいの一言に尽きる。

 床の大理石は鏡の様に磨かれ、カーペットにはチリ一つ落ちていない。これだけ大きいのに手入れが隅々まで行き届いている。

 道中も高級そうな物が置かれていて、目を飽きさせない。

 すれ違う兵士やメイドもきちんと訓練されていて非のつけどころがなかった。

 そんな道中を終え、俺達は謁見の間に到着する。

「ここじゃ。ついてくるがいい」

 兵士が開けた先には俺達のいた王国とは比べ物にならない場所が存在していた。

 奥にはこの国の皇帝だろうか、皇帝とその妃、横には皇子や皇女が何人も並んで座っている。

 そして、俺達のいるところから玉座に向けて左右に多くの人が並んでいた。どの人物もオーラが違うというか、優秀さがにじみ出ている。

 そんな人達の前を、セルダースさんに続いて歩いていく。

 皇帝から10m位の所で止まり、膝をついた。

「して、セルダースよ。今回はどのような要件だ?」
「はっ! 今回はワルマー王国魔法副師団長のアイシャが亡命したいと言うことで来ております」

 セルダースがそう言うと、周囲が少しざわついた。

「あの魔道具師の天才と呼ばれるアイシャが?」
「『創製』と呼ばれるあのワルマー王国3英傑の一人か?」
「そんな人材を手放すと?」
「有り得ない。それほどにワルマー王国は愚かなのか?」
「静まれ」
「「「「「……」」」」」

 凄い。皇帝が少し注意しただけで静まり返った。それだけ、皇帝がしっかりとこの国を統治しているということなのだろう。彼はアイシャへ話しかける。

「そなたがアイシャか?」
「はっ! 陛下に拝謁させて頂き、感動の余り声も出せません」
「そんな言葉は良い。この国で働きたい。そう捉えてよいのか?」
「構いません!」
「うむ。そなたの活躍を期待している」
「必ずや期待に応えて見せます!」
「そして、そちらはどなただったかな?」
「私はセレットと申します。ワルマー王国で宮廷龍脈衆隊長をしておりました」
「……」

 あれ、何で皇帝が黙るんだ? 

「宮廷龍脈衆の隊長? その程度の肩書きで来たと言うのか?」
「はい。そうですが……」
「その程度の肩書きを持つものはわが国で100人はいるぞ?」
「……」

 やっぱりその程度の肩書きだとダメなんだろうか。8年も龍脈衆にいたのにこの程度の評価しか貰えない。

 そう思って、どこに旅に出ようか考えそうになるが、皇帝は格が違った。

「そんな肩書きを持つものは100人もいる。しかし、お前の実力を測ったこともないのに勝手にそれに当てはめるのは愚かな行為だ。お前が他国でどんな地位にいたのか。そんなものは些細なこと。例え奴隷だったとしても、ここでそのことを笑う者はいない」

 俺は思わず顔を上げて皇帝の顔を見る。

 すると、そこにはこちらを試すような笑みを浮かべていた。

 周囲の人も同様で、ワルマー王国にいた人たちとは違ってバカにしたような表情をしている人は誰もいなかった。

 皇帝は大声で叫ぶ。

「ウテナ!」
「はっ!」
「この者と戦い実力を測れ」
「畏まりました」

 凛とした声が聞こえる。

 皇帝は俺の方を見て、ニヤっと笑う。

「この者と戦い、力を示せ」
「分かりました!」

 俺は力を見せることになった。
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