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ウチの弟は天才

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「それじゃあサッサと買い物をしようぜ」

「あ、ああ。何でお前がカゴを持つんだ?」

「アニキが荷物を持てっていったからだろ?」

「あ、ああ・・・」

 やってしまった。まさかさっきのことがここに使われるとは。俺の中で弟に荷物を持たせたかったのは買い物が終わった後のことで、ここから家までの帰り道の事を指していたつもりだった。なのに彼の中では荷物持ちがここでのことも指していたと考えたのだ。そしてそのことを事前に言っておかなかった俺の落ち度でもある。だからさっきの罠だと思った時に追撃をかけてこなかったのか。そうすることによって俺が家の会話にでミスをしていることを、思い出させいようにしていたということだろう。

 クソ、これで密かに食べたい具材とかを入れられていても気づくことは出来無くなってしまった。もし会計の時に入っていてもこれ旨そうなんだよね。戻しに行くのもめんどいしって言われれば認めざるを得ない。流石に何千円もする高級なものは認められないが、数百円程度の物なら俺も断れない。こうなったら何としても奴の側にいて変な物を入れないか注意を払っておこう。

「何してるんだよアニキ、サッサと先に行けよ。俺はそれについていくから」

 こいつ、そこまで計算して俺に?弟の言葉に俺は戦慄してしまう。こうすることによって俺に先を行かせ、俺の隙をついて自分の好きな物をカゴにこっそりと入れるつもりに違いない。そうだ。そうに決まっている。やばい。ここまで全て奴のペースだ。何とかして挽回しなければ。

「それじゃあ俺が振り向くのがめんどいからな。並んで行くぞ」

 これで俺が勝手にカゴの中に物を入れることは出来ないが、それでも弟に好き勝手に入れられるよりはましだ。1人でいい思いを出来るとは限らないことだな!

「何でもいいから早くいこうぜ」

「ああ」

 それでもいいだと?何か策があるのか?いけない。弟がいつの間にか孔明ばりの策士になっている気がする。ここでも俺の言葉を受け入れるだなんて。俺なら2人並んで歩くのは他の人に迷惑になるとかなんとか理由を付けて断るはずだ。それを了承など有り得ない。しかしこうしてスーパーの入り口でただ突っ立っているだけなのはそれはそれで問題だと思う。というか邪魔だろう。この時間なら残業終わりのサラリーマンも来ることがあるはずだろうしな。

 ということで弟と一緒に並んでスーパーの中を探索する。

 今日の感じは何が良さそうかな・・・っと。

「げ、ほんとだ。キャベツが中々高いな」

「そうなのか?って一玉350円位か。俺達2人で食うのにこれくらいの量があった方がいいだろ?」

 全く弟は何も分かっていないな。

「馬鹿野郎。そこまで質のいい物ならそれでもいいが、このキャベツはせいぜい出せて150円がいい所だ。必要な物には出すがこれにはいらん。他の物で代用するとしよう。といっても白菜も高騰してんだよな・・・」

「ん?げ、800円!?嘘だろ?」

「今は色々と天候がおかしいらしいからな。これくらいの質のものでも半端なく高くなっちまうんだよ」

「まじかよ、信じらんねえ・・・」

「仕方ないさ。モヤシで代用するぞ。それと芽とひげをとるのは手伝えよな」

「いいよ。そうしないと時間かかるんだろ?」

「そういうこと。他には何かいいものあるかな~」

 野菜コーナーを周り俺は質の良さそうな物を見繕っていく。

「ピーマンもいいな。お、人参もこの感じは旨そうだ。キノコ・・・キノコもあいそうか、これは入れるしかない。他には何か入れたい物あるか?」

「特にないけど、良く見ただけで良し悪しが分かるな」

「流石に見ただけじゃ分からねえよ。こうやって触ったり重さを感じて決めてるんだよ」

「俺にはそれでもわかんねけどな」

「そうか?でもまあ、そうか、あんまりかあさんの買い物についてくる事が無かったんだから仕方ないか」

 弟は特にないとのことらしいので俺の好きに選んで良さそうだ。文句を言ってきたら後でこのことを言ってやろう。

 そんなことを考えつつ俺達は海鮮エリアに来た。ここでは流石に朝から並んでいるためか少しぐったりした様子もみえるが、それでも十分に旨そうだ。いいものも残っている。これは買ってやりたい。ああ、海鮮塩焼きそばも作ってみたいな。しかしそう思っていたのは俺だけではなく、弟も同感だったらしい。

「海鮮焼きそばとかいいよな」

「まじ?海鮮いっちゃう?」

「いいのか?下処理とか結構大変なんじゃねえの?」

「旨いものを食うために使う労力はいいんだよ。んー海鮮で食うならソースと塩どっちがいい?でも俺、今日はソースで食いたいんだよな・・・」

 今日はソースの焼きそばが食べたくてここまで来たのだ。今更塩に乗り換えること等出来るはずがない。でもこの海鮮なら塩の方が良さそうなんだよな。悩ましい。しかしそれを解決する答えを弟は持っていた。

「なら両方作ればいいじゃん」

「両方・・・だと!?」

 両方、なるほど両方か。海鮮塩焼きそばと普通のソース焼きそば、その両方を作ってしまえばいいというのだ。この弟は天才か。うん、俺の弟は天才だったわ。

 ちょっと手間は増えるが両方食べるのなら美味しさ2倍お値段半分、困ることなど・・・一つあった。

「流石に高くなりすぎないか?」

 俺は高校生、自由に使えるお金が幾らでもあるわけではない。それをたった一回の夜食の為にそれなりの金を使ってもいいのか。悩ましい所である。俺はちらりと弟に視線を向ける。すると彼は俺の目を見て軽く言った。

「偶にはいいんじゃね?それに食いたいんだろ?両方」

「だな」

 俺の悩みは一瞬で解決された。弟も俺と同様に考えていたのなら迷うことはない。ただ真っすぐに進むのみだ。そしてこの時より、弟は俺の同士となった。

「何か入れたいものとかあるか?」

「海鮮ならエビは入れたいかな」

「エビは必須の物だから入るぞ。他に気になったのはないか?」

「ホタテだったりの貝もいいな」

「よし、それじゃあ俺が適当に選ぶぞ」

「任せた」

 弟は海鮮塩焼きそばなら何でもいいようで俺に選択肢を丸投げしていた。言っていたものも俺が選ぶ気満々だったものだしな。なら俺の好みで好きなようにしても構わないだろう。という訳で旨そうな物とそれにあいそうな物を選んでカゴに入れていく。といっても多少の金額の事を考えて多くなり過ぎないようには注意をしている。

 海鮮を選び終えたら次は肉だ。こちらは普通のソース焼きそばに使うためなので、味の良く絡みそうな薄い物を選択する。そして量が多い、これも又大事な要素だった。

 そして麺を選んでカゴに入れる。後は会計に行くだけだ。

「なぁ、野菜この量で足りるのか?」

「なんだと?」

「なんだとって、なんだよ。焼きそばをこれだけ作るんなら野菜増やさなくていいのかなと思って」

「確かに」

 そうか、野菜を選んだ時は確かにそこまで考えてなかったからな。必要かもしれん。という訳で俺達は少し戻って野菜を追加でカゴに入れる。

「こんなもんか。忘れ物はないよな?」

「焼きそばのソースとかって家にあったか?塩焼きそばとか母さんが作ってるのは見たことないけど」

「ああ、ソースとかは適当に作るからいいよ。調味料位は使っても母さんは怒らない」

「アニキってソース自作してたんだ」

「当然だろ?じゃないと自分好みの味に出来ない」

「アニキはそういうやつだったよな」

 全くこの弟は何を言っているのだか。ソースの作り方位小学校で習っただろうに、義務教育を受けていないのかと思ってしまったぞ。



 それからカゴの中身を確認して、レジへと直行する。そして計算してもらったらそれなりの金額になっていた。流石に懐は傷んだが、弟と折半にしたので致命傷は免れたと思う。

 家への帰り道で弟が荷物を重そうに持っている。

「アニキも少しは持ってくれよ」

「そこは最初に決めただろ?それにこの後は俺がずっと調理をするんだからよ」

「そうだけどさ。少しくらいはいいじゃねえか」

「俺がそれを持って包丁を握れなくなったらどうする?俺は力がない。それを分かってくれたまえ」

「何だよその口調は」

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